「君は本当に、従順な子だ」  
男の吐息に髪が揺れる。  
椅子に座ったこの身体を押さえつけるように、褐色の手が肩をさすった。背後から覗き込んでくる  
にやけ顔に笑みを返す。これが、「抵抗はしません」という意思表示。  
肩に置かれていた手がほおへ這い、本能的に身体を強張らせた。側に置いたサーベルに伸ばしかけた  
手をぎゅっと握り、相手に気付かれぬよう息を漏らす。  
ぶつ斬りにしてしまえればどんなに楽なことか。しかしまだ駄目だ。まだ色々と聞き出さなければ  
ならないことがある。もう少し綿密に作戦を立て、斬り捨てるのはそれからでも遅くはない――。  
「……っ」  
物思いを邪魔するように、突然あごを引かれ唇を塞がれる。髭が肌に触れ、むず痒さに喉の奥で声を  
あげた。それを合図に歯を押し割り、強いタバコの味の舌が口内に侵入する。不快感に目を閉じると、  
絡み合う唾液の立てる水音がやけに脳内に響いた。  
急くように上着を肌蹴させ、アンダーと下着を同時に捲り上げた手が、乱暴に乳房をわしづかみにする。  
痛みに思わず顔を背けると、あぶれた唾液があごを伝う。行き場を失った舌を今度は耳に差し込み、  
右手で胸の頂を、左手でズボンのジッパーを下げようとする男に、忙しいものだと眉間にしわをよせた。  
「少し堅いな。久しぶりで緊張しているのか?」  
荒んできた男の息使いが耳に障る。腰を浮かし、ズボンと下着を取り去る手伝いをしながら答えた。  
「そうですね。こちらへ就任してから、このような機会はありませんでしたから、少し緊張している  
のかもしれません」  
甘ったるい声とは裏腹に、目は陰核をつまむ手を睨め付ける。当の男は赤子のように乳房にしゃぶり  
つくのに夢中になって気付いてなどいないが。  
おぞましい快感に背筋が跳ね、乳房が揺れ、男が悦ぶ。ああ、斬ってしまいたい。  
すっかり息が上がってしまっている老体を椅子の前に跪かせて、男は乳房から腹部にかけて、何度も  
何度もキスを落とした。  
愛する男に同じことをされるととろけるほど気持ちがいいのに、相手が違うというだけで、これほど  
までに厭わしい行為になるものなのか。  
背骨と皮膚の間を虫が這い上がるような感覚に、「ひっ」と呻き声をあげて顎を仰け反らした。  
ほんのりと湿ってきた陰部に太い指を挿し入れ、男は朱に染まり始めている肌にほおずりする。  
「いつまでも美しい身体だな」  
実はもう不老不死なのではないか?と冗談混じりに言う男に口角を吊上げ「まさか」と笑ってみせたが、  
再開された愛撫と呼ぶには背筋の凍る行為に、作り笑いさえ浮かべるのも億劫になった。  
目を閉じて考える。  
さて、前回の月のものはいつだったか?  
 
 
 
 
おわり  
 
 

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