夜の帳に包まれた部屋の寝台のうえで、一組の男女が睦みあっていた  
女はシーツに金の髪を散らしながら、唇から漏れそうな声を出すまいと懸命に堪え  
そんな女の様子を男は愛おしそうに眺めつつ、しっかりした掌で衣服をはだけさせた彼女の躯に這わせていく  
 
男にとって、目の前の女は大切な存在だった  
手を出してはならないと常に己に言い聞かせたまま、7年もの月日を共に過ごしてきた良き部下だった  
しかし長らくの均衡を崩したのは紛れもなく男自身で、その理由も馬鹿馬鹿しいほどの劣情に流されてのことだ  
 
自然と女のスカートのスリットに行き着いた男の左手は、無遠慮にもぐりこみすらりとした太股をまさぐった  
 
「た、大佐…! 駄目です!」  
男の行為を妨げるように女は声をあげて躯をよじるが、男にとってはささやかな抵抗にも感じられない  
ニヤリと意地悪く笑って、今度は空いていた右手で女の豊かな胸を揉みしだく  
「や……っあ」  
思わずといった声とわずかに揺らめいた肢体に、男の体の奥で燃える焔がさらに熱を帯びた  
 
誰が想像できようか  
普段は冷たい表情に徹し、歯にものを着せることなく言いたい放題の女が  
これほどの色気を纏って身悶える姿というものを  
 
更に奥へと手を滑り込ませると、男は女の秘所を薄布のうえから撫であげる  
びくりと反応した女は、脚を閉じようとして男の手を挟みこんでしまった  
それを良いことに、男の指はそのまま湿り気を増してきた部分を攻め続けた  
 
 
リザ・ホークアイは信じたくなかった  
己の躰をいいように弄ぶ目の前の男が  
これまで信頼してきた上司と同じだとは思いたくなかった  
 
『焔の錬金術師』  
 
その名を冠する以上、男が自分を女として観るはずがないと考えていたのだ  
人間兵器と呼ばれるに至ったきっかけを恨みこそすれ、ましてや抱こうだなど粋狂も甚だしい  
彼女は今更こんな扱いをする男が信じられなく、また信じたくなかった  
 
目を閉じて全てを否定したいのに、部屋に響く水音と体内にうごめく指が否が応にも男の存在を肯定する  
纏っていた衣服は知らぬ間に脱がされ、もはや身を守るすべはなにもない  
女の下半身を攻める指の動きは激しく、同時にひどく優しい  
「あ…んっ、やっ…!」  
知らず漏れてしまう声が自分のものと考えるだけで悲しくなる  
こんな声は、男が他の女から聞けば良いだけだ  
 
「…リザ」  
不意に普段とは違う、低く甘い囁きが耳元に落とされた  
二人の躰と躰は密着していたが、体内にまで響くような声だった  
その声に、簡単に身を委ねられる女ならどんなに楽だったことか  
「リザ」  
やめてほしい、と思う  
名前を呼ぶことも、この行為も彼女は嫌だ  
「力を抜け、余計なことは考えるな」  
 
言うが早いか、男はそのままリザに接吻けた。閉じようとした唇を割り裂き、逃げようとする舌を絡めとる  
捕えた獲物をなぶるように、また喰らい尽くすかのように口腔を貪られ、呼吸すらままならない  
細やかに角度を変えては攻めたてる男の舌は、温かく柔らかな女の口内を思うさま蹂躙し支配していく  
ようやく男が顔を離したときには、女の意識は飛びそうになっていた  
 
二人の口元を繋いでいた唾液の糸が、自重で途切れ落ちリザの白い肌のうえに跡を残す  
潤んだ目すら隠せず朦朧としている女とは逆に、男はゆったりと舐めまわすように組み敷いた躰を観察する  
 
女性とはいえ、軍人であるリザの躰は一般人と比べて筋肉質だ  
それでもやはり男よりは柔らかくまた、なだらかな曲線を描いている  
豊かな双丘の淡い頂きは固く尖り、引き締まった腰のくびれが美しいラインを魅せ  
脚のつけねに目を遣れば、金の茂みが覆うその奥、色香を放つリザの秘所が濡れて誘っている  
 
まごうことなき女の躰だった  
 
初めてロイが彼女の肌を視たとき、リザはまだ少女でしかなかった  
焔の錬成陣を背中に負う、小さな体躯の女の子  
父を亡くし、その父親の錬金術の結晶をロイに託すと決め背を晒したリザを、複雑な気持ちで見つめたのを憶えている  
あの時は青臭さが何よりも勝っていたが、それでも誘惑に負けそうになることもしばしばだった  
思い止まれたのは、師の遺した錬成陣への研究心と、大衆のためにという責任感、そして何よりロイを信じて刺青を見せた彼女への敬意からである  
 
ただ、衝動がなかったはずもない  
独りの夜に、白い肌を思い出して慰みにしたこともある  
あれから既に十数年の月日が流れ、少女は女として成長し、再会を果たしたのだ  
 
 
不意に、組み敷いていたリザの躰が反転した  
しばしの間に意識を取り戻したのだろう  
逃げ出すつもりなのか、力の入らない躰でもがくその背中  
刺青と火傷の痕が目に飛び込んだ瞬間、自分にも理由の解らない嗜虐心を煽った  
 
逃がさぬように上からのしかかり、耳を舐めるかの如く囁く  
「なんだ、君は後ろから攻められるのが好きなのか。自分からねだるとは意外だな」  
「違……、やっ!」  
びくりと跳ねた躰の、臀から腿にかけてのラインを指先でなぞる  
それだけで反応する彼女が可愛らしい  
 
「リザ、腰をあげるんだ」  
「嫌です大佐、もう、こんな…!」  
否定の声すら艶めいて聴こえる自分の耳はおかしいのだろうか  
顔を枕に埋め、躰をまるめようとする女の腰を無理矢理引き上げて膝を立たせればリザの秘所が晒し出される  
既にロイに暴かれた部分は十分なほどに潤っていた  
「綺麗だな」  
まじまじと見つめたあと、思わずこぼれ落ちた言葉に感嘆の響きがこもる  
初めて視た彼女の秘裂に感動すら覚える、それはさながら新しい錬成陣や、素晴らしい構築式を見つけたときの喜びに似ていた  
「誰とも寝てない訳じゃないだろうが、ここまで綺麗なものとは思わなかった」  
 
「……」  
もはや否定の声すらあげられないほどの羞恥にさいなまれ、リザは動くことも出来なかった  
背中越しのロイの声は、ことごとく自分を打ちのめしていく  
「リザ」  
今の状況すべてが夢であれば良い  
それならば悪夢だったと忘れるだけなのだ  
躰を這いまわる掌の感触も、太股に押し付けられた男の高ぶりも、ただの夢であればと強く願った  
 
しかしその願いも虚しく、激痛がリザを貫いた  
ロイが一気に挿入した為に呼吸が一瞬止まる  
「────っ!」  
叫びたくても、声が出ない  
息が詰まり、痛みだけが鮮明に感じられ、涙があふれて仕方なかった  
「く、きついか…。もう少し力を抜け、リザ」  
後ろから聴こえる声は耳に入ってくるが、理解は出来ない  
「リザ、力を抜くんだ。息を詰めるな、そのほうが辛い」  
 
リザがロイの形に慣れるまではしばらくの時間を要した  
やがて詰めた呼吸を少しずつ吐き出し、締め付けていた力はゆっくりほどかれてゆく  
性急に過ぎたか、とやや反省したロイも今度は緩やかに動いてみる  
「う、ん」  
くぐもった声だが、痛みからではないと判断し行為を続けた  
気持ち良い、と素直に思う  
しばらく女性を抱いていないとは言え、経験の少なくないロイにとってもリザのなかは格別だった  
ひたすら敏感にこちらに反応し、抜き差しの動きだけですら体を震わせる  
ぐるりと円を描くように付いてやれば、大きく叫んできつく締め付ける  
もっと深く繋がりたくて、男は強制的に女を反転させた  
向かい合わせになると、リザの豊満な肉体を抱きしめる  
「起こすぞ」  
そして一気に持ち上げると、ロイ自身に落とした  
「……あっ!」  
男の狙い通り更に深く繋がると、女は痛みにも恍惚にもとれる表情を覗かせた  
 
たわわな双丘が揺れ動くのを目の前にし、思わず朱に染まった胸の頂を口に含む  
「は……っ」  
舌で転がすように舐め尽せば、腕のなかから逃げ出すよう身悶える  
逃がさぬとばかりに強く腰を押さえ、更に深く秘所をえぐれば大きくのけぞり啼き声をあげる  
それでもロイ自身に絡み付く媚肉は緩やかに、時には強くうごめいて、更に煽るかのように奥へと誘い込んでいく  
「あ……っ、あ、ん…」  
恐らくリザ自身も意識してはいないだろうが、薄く開いた唇からは常に高く甘い声が洩れ出していた  
その声に欲望を刺激され、ロイはますます動きを激しくしていく  
水音がぐちゃぐちゃと部屋中に響き渡るころには、二人にも限界が近づいていた  
 
「た、いさ、…っ」  
不意にリザに強く抱きしめられ、ロイは瞬間驚いた  
次に、どうしようもない程の愛おしさがこみあげてくるのを抑えきれなかった  
劣情から衝動的に抱いてしまった女が、こうして自分を呼び、求めてくれる  
今や大切な部下以上に、己に必要なこの女性を力の限り抱きしめ返す  
言葉を必要とすることもなく、二人は互いに快楽を享受し、果てた  
 
 
男が心地よいけだるさを感じながら腕の中を仰げば、女は静かに泣いている  
それが何の感情からくるものか、もはやリザにすら判断出来ない  
ロイにはすでに後悔などなく、リザの髪を一房すくい取ると口付けた  
 
 

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