東方司令部の施設は質素な青灰色1色で構成されており、どこもかしこも似たような扉と廊下が続く。
ブリッグズ司令部ほどの大きさは無いにしろ、侵入者の混乱を招くためだというその造りは、どこまで行っても視界が変わった気がしない。
私は半ば辟易しながら、合同訓練中に姿を消した上官を探して、東方司令部を彷徨っていた。
果たして新しい場所を探せているのかどうかもはっきりとせぬまま何十個目かの角を曲がる。
途端にサングラスを打った金糸の色と香りに、探し人とすれ違ったことを知った。
「少将!」
そのまま肩越しを足早に進む背中に、慌てて声を掛ける。
私だと気付かなかったのだろうか?
ゆっくりと振り返り、ようやく私を認めた少将が、マイルズか、と呟く。
だが、どこか様子がおかしい。
「少将?」
白皙の頬はうっすらと上気して、厚い唇は半開きだ。瞳は少し血走っている。何より、視線がわずかに合っていない。
「どうかなさいました…っ」
問いかけを言い終えぬうちに、少将は私の肩を廊下の壁に押し付けた。
力の加減のないままコンクリートに打ち付けられた衝撃が、丸のまま左肩に響く。
「少しょ」
艶かしい唇が呼吸を奪った。少将の香りが鼻腔を満たす。
肩越しに見える中庭の緑が、揺れる。
唾液に濡れた上下の唇が、舐めるように私の唇を何度も啄ばみ、荒く熱い息と滑らかな薄い舌が侵入してきた。
何をしているのだ、この方は!
くちゅくちゅと口腔を侵されながら、衝撃からなんとか思考を取り戻す。
白昼堂々もいいところ、しかもここは出張先の東方司令部だ。
いつ、誰がこの場所を通りかかるかも知れない。今どこで誰が見ているかも知れない。
明らかな意図をもって私の下腹部に押し付けられる柔らかな腹の感触に興奮しそうになるのを理性で抑えて、少将の体を無理やり引き離した。
疲れたからでも、まして歩いたからでもなく息の上がっている少将の視点が自分に合わせられるのを待つ。
「どうかなさいましたか、少将」
未だに興奮が収まっていない様子の少将が、息をつきながら答えた。
「いい蝶を見つけた…あれは…欲しいな」
視線は、私の顔を素通りしている。私を通り抜けて何かをみていた。艶やかな唇がうっすらと笑みの形を作る。
言い終えるや否や、また私の両肩に手が伸びた。
爪先立ちで唇を掠められ、身を引きながら軽く溜め息をつく。
これでは埒が明かない。
「少将、とにかく控え室へ戻りましょう」
普段は恐ろしいほどに自制の利いている彼女(それこそ拷問でさえも、治安のためなら顔色一つ変えずに行なえるのだ)が、状況判断も出来ぬほどに興奮している。
この方のこの姿を、他の者に見られるわけにはいかない。
迷路のような廊下を、必死に記憶を辿りながら最短の道で、用意された控え室まで先導した。
***
扉を閉め、念のため後ろ手に鍵をかけて、ようやく一息つく。
途中で何人か東方の下士官とすれ違ったが、彼らの視線を見た限り、私たちに何か問題があるようには見えなかっただろう。
少将は、黒革張りの巨大なソファの背に腰をかけていた。
興奮した面持ちはそのままで、部屋の奥の窓に焦点の合っていない目を遣っている。
「水をお持ちします。少し、―――!」
腰を屈めた姿勢のまま、黒革の背越しにソファに引き倒された。サングラスが飛ぶ。
「っ、少将!」
「いい蝶を見つけたと言っただろう…収まらんのだ。少し付き合え、マイルズ」
馬乗りされながら、まるで正気の声で囁かれ、反射的に抵抗を止めてしまう。もう何年も、この人の側近として動いてきた軍人としての性だ。
肩を押し返していた手をぱっと離す。
これは命令なのだからと、己の中で言い訳しながら。
妻への罪悪感を持たないわけではもちろん無い。
しかしもう何年も重ねてきたこの関係を、今更断てる自信もない。
私の手が止まった隙に、バチバチッと音を立てて、彼女が私の前身ごろを乱暴に開いた。
Tシャツも荒々しく巻き上げられる。
「蝶とは…何のことですか」
荒い呼吸を繰り返しながら一心に私を脱がせている彼女に問う。
そうだ、何が少将をここまで興奮させたのだ。一体、何があって。
慣れた手つきでバックルを外されたベルトが、ビッ、と抜かれる。
「リザ…ホークアイ、というのだそうだ。…良い目をしていた…」
「…っ」
ボタンを外されたズボンが、膝の辺りまで蹴ってたぐり落とされる。
下着の上から白く柔らかな指が、私の一物を柔らかく何度も摩る。
「今日は振られたがな。焔の大佐がいいそうだ。…でも、いずれあれは手に入れたい」
下着の隙間から少将の手が入り込み、ゆるく立ち上がりかけたそれを根本からしごく。
揺れる少将の髪から、濃厚な良い香りが漂い、充満する。
柔らかな指に導かれて、貧血になりそうなほどの勢いで雄が充血していくのがわかる。
一糸乱れぬ態の少将に弄ばれている状況に、私はひどく興奮していた。
「な…るほど…っ」
リザ・ホークアイ。
名前だけは聞いたことがあり、今日の訓練で初めて顔も確認できた。
名前に負けじと鋭い眼光を持った女で、頭の回転は早い。銃撃の腕は的確だ。
確かに、少将が欲しがりそうな人材だった。
学校卒のぺーぺーだったにも拘らず、ホークアイのイシュヴァールでの功績は名高い。
なぜ卒後何年も経ちながら、未だに出世コースの中央研修に赴かないのかが疑問視されている人物だ。
東方のマスタングと離れ離れとなるのが耐えられないから、などという下世話な推測も聞くが、あながち噂だけでもないということか。
白昼夢を見ているような顔つきで、顔を上気させた少将が呟く。
「美しい顔立ちをしていた。あの肌には血が映える」
「…殴ったのですか」
彼女が軍服の上着を脱ぐのを手伝いながら、不安になって尋ねてみるが、返答は無かった。
…後で確認しなければなるまい。
堪えきれないように吸い付いてきた唇の狭間で、脱がせろ、という言葉を捕らえる。
少将のハイネックシャツの背中に手を潜り込ませ、ブラジャーのホックを外す。
シャツの中で、豊かな胸がふるんっと解放されるのがわかった。
激しく舌を絡ませながら、手探りで彼女のズボンと軍靴を脱がす。
その間も、白い指は私の一物をさすり続けていた。時折、シャツ越しの柔らかな胸に、肉棒の先端が触れる。無意識に腰がゆらいだ。
うっすらと汗をまとった白い尻に張り付いた下着を辿る。狭間の部分に指を滑らせると、そこは既にじっとりと濡れていた。
「ン…」
少将が小さく肩を揺らす。
我慢が出来ず、彼女の下着を脱がしながら指を一本挿入する。脱がせろとだけ言われた命令への踰越ではあったが、少将は何もいわず、微かに腰を振るわせた。
軽く出し入れさせると、中からとろとろと熱いぬめりが指を伝う。
「はぁっはぁっ…」
少将の息がさらに上がり、私の雄をさすっていた指がぐっと根本を押さえた。
「少将」
胸に押し付けられる乳房を直に感じたくなり、急かされるようにもう片方の手で少将のシャツを胸の上までたぐり上げた。
少将の手が、私の手を自らの乳房に押し付ける。
さわれ、という命令だ。
人差し指で淡い色の乳首を転がしながら、たぷたぷと乳房を揉む。
彼女の乳房は静脈がはっきりと透けるほどに、真っ白で柔らかい。
私の手の中で形を変えるたびに、香水ではない彼女の匂いがのぼり立つ。
白い手が自らの乳房を持ち上げ、私の口元に添えた。舐めろ、と青い目が言う。
ぷくりと膨らんだ大きな乳輪ごと口に含んで、立ち上がっている乳首を舌で転がす。
「ん…ふぅ……っく…」
白い両腕が私の頭を抱く。細く柔らかな髪の毛が、揺れながら私の顔に掛かる。
彼女を犯す指を増やしながら、もう片方の手で自分の一物をしごく。
孔から溢れる愛液と先走りの液とで両手は既にグチャグチャだった。
「マイルズ、もう、入れたい……」
欲情しきった真っ赤な顔で、彼女が熱い息をつきながら耳元で囁く。
上気した頬が、催促するように私の首筋に押し付けられ、ねだられる。
命令一つで成り立っているこの関係を、それでも断てないだろうと強く思うのはこんな時だ。
「了解しました、少将」
片手を彼女の腰に、もう片手を自分の一物に添えると、膝立ちになった彼女が腰を落とす。ピタリと入り口にあてがわれた瞬間に、根本が一瞬熱くなった。
そのまま、飲み込まれていく様子を眺める。淡いサーモンピンクのぬかるみに、
浅黒い肉棒がゆっくりと喰われていく。
鍛え上げられた白い腹筋の下でも未だ失われない、根本的な女性の柔らかさが、
私の一物を根本まで全て咥え込む。
膣の中は奥にいくほど熱く、ヌルヌルと汁が溢れていた。
「あ…っあぅ…っ…ん…っく…!」
息を震わせながら飲み込んでいった彼女は、全てを納めると大きく全身で痙攣した。狭い膣の中で肉襞がギュ、ギュッ、と断続的に締まる。軽い絶頂に達したらしい。
どうせなら深くイって欲しいので、結合部分に指を潜らせて肉芽をまさぐった。
小さなその突起を手探りで見つけ、コリコリと可愛がってやる。
「ひっ!!あ、あ、あ、」
ビクリと目を見開いた彼女が、反射的に私の腹に爪を立てる。
「マイル、ズ、だめだ、…いっ!イク!!あ、あああぁぁーーーー!!!」
背を大きくのけぞらせて絶頂に達した。乳房が大きく揺れる。
どっと増えた愛液で膣が滑る。抜けてしまわないように彼女の腰を掴んで自分に押し付けていると、肉棒の根本から先までを絞り上げるように膣が蠢くのがわかった。
「…ぐ…っ」
つられて激しい射精感に襲われるが、まだだ。
「はっ、はっ、はっ……」
倒れこんできた上体を抱きとめる。白い柔肌に浅黒い腕を巻きつけると、
「氷で出来ている」とも揶揄される彼女の心臓が激しく拍動しているのを感じた。
彼女が呼吸をするたびに、硬くしこった乳首が私の胸板を刺激する。
熱くしめった吐息が肩口から首筋を暖め、さらに劣情が煽られる。
「大丈夫ですか」
食べてしまっている長い髪の毛を払ってやりながら尋ねると、
「誰に聞いている」
落ち着いてきた呼吸の下から、挑発的な笑みと共に少将らしい言葉が返ってきた。
私の身を起こさせてソファの背に凭れさせると、少将は跨ったまま私の肩に手をかける。
「犯させてもらうぞ、マイルズ」
言い終えぬうちに、腰をグラインドさせ始めた。主導権が再び奪われる。
熱い襞がうねり、肉棒を激しく摩擦する。
「う…っく、は……っ!」
「これくらいで声を上げるか、軟弱者め」
「は、申し訳ありま、せん…っ」
口先では謝りながらも、激しい快感をやり過ごすだけで精一杯だった。
十分に濡れた内部はよく滑り、無数の襞が腰の動きに合わせて絡みつく。
いやらしい腰の動きは止まることが無い。ときどき見え隠れする結合部はてらてらと光る。金色の薄い陰毛と私の濃いそれが、濡れて絡み合っている。
興奮に上気した顔で私を眺め下ろす少将は、まさに私を「犯している」に相応しい様子だった。
「うぁ…ああっ…」
「…っ、はぁっ、全く、私の補佐ともあろう者が…!これはどうだ」
「うあああっ!」
回された手が、陰嚢をギュウっと握りこむ。
腰から寒気を伴った快感が駆け上がり、思わず情けない声を上げてしまう。
「ああ…いい顔だ、マイルズ。…そういう顔を、させてみたいな…」
腰の動きを緩めながら、彼女がうっとりと囁く。
後半は、私に向けられた言葉ではないのだろう。今彼女を昂ぶらせているのは、私だけではないのだ。
リザ・ホークアイ。マスタングの部下、たった1日でこの上官を虜にした、あの女性軍人。
腹の底から、何ともいえない激情がこみ上げてくる。
「……っ」
跨っていた彼女の背に腕を回し口付ける。
舌で唇を割ると、向こうから侵入してきた。そのまま粘着質の音を立てながら、激しくむさぼりあう。
彼女の腰の動きが激しくなる。打ちつけられる太股が音を立て、
結合部から溢れる液体が陰嚢を伝ってソファに落ちるのを感じる。
耐え切れずに彼女の動きに合わせて腰を突き上げる。射精の瞬間が近い。
「うっ…ぐ、少将、少将…っ」
「あっ…あっ…っ」
両手の指に彼女の手が絡ませられ、ソファに縫いとめられる。
まずい、と咄嗟に思った。このままでは中に射精してしまう。
「あっマイルズ、あ、あ、あああああーーーーーーーーーーーっ!!!」
「少将!は」
なれて下さい、と続けられるはずの言葉は、ギュウと抱きついてきた彼女の金糸に阻まれた。
太股で下腹を、肉襞で器官を、急激に締め付けられる。
何もかもが思考から白く消え去った。
柔らかい肉体を思い切り抱き締めながら、射精口を子宮口に密着させたまま、全てを吐き出した。
久々に味わう直線的な射精に、我を忘れて酔った。
***
後始末を終えた後、少将は私の左肩を枕にひどく満足げな表情でまどろみ始めた。
極度の興奮を発散し、疲れたのだろう。
彼女のこんなに激しい昂ぶり方を見るのは久し振りだった。
少なくとも、今まで彼女をここまで興奮させられるのは自分だけだったのだ。
冷静沈着な氷の女王を、理性を削り取るほどに燃え上がらせたあの女性。
欲しいと、呟かせた。私さえも視界から消すほどの熱心さで。
いずれ、私たちの、少将と私の関係を、引いてはブリッグズ秩序を揺るがす可能性があるかもしれない人間。
潰すか、摘み取るか、懐柔するか。いずれ選択の時が来るのは、もしかすると遠い日のことではないのかもしれない。
「リザ・ホークアイか…」
「ホークアイが、どうかしたか」
ぽつりと小さく呟いただけの言葉に、少将は途端に目を覚ました。
貴女の中で今、あの女性の大きさは如何ばかりか。
「いえ、何も」
小さく苦笑して、彼女の顔に掛かる金糸を梳いた。