その時、オリヴィエは、肩にかかる位に伸びたリザの髪を掴んで耳元に息を吐いた。  
マスタングの呼び出しに向かう途中、廊下ですれ違った女性仕官に敬礼をし終え、  
立ち去ろうと背中を返したばかりの出来事だったのだ。  
強引に掴まれた後ろ髪に、短かかった頃よりは幾分だけ伸びてしまった落ち度に、今更気づく。  
「いい髪をしている。私好みのブロンドだ…  
あの男よりも私の傍でいれば、軍人としてより緊迫した状況で楽しめるぞ。  
鷹の目としての腕前とその体、私の下で生かしてはどうだ?」  
リザは、自身の髪束を勝手につまむ彼女の手を払いのけ、横目で冷静な瞳を返した。  
「私には、すでに背中をまかされた上司がおります。貴女のご要望にはお答えできません」  
「ふ…この私に、お前自身にも興味があるとまで言わせたいのか?」  
「他をあたってください。申し訳ありませんが、貴女の駒としての私は存在しておりません」  
厚く熟れた唇のこの女性…どこから自分の所在を聞きつけたのだろうか、とリザは訝しむ。  
あまり見知った顔の上官ではなかったので、およそマスタングを  
叩き潰そうとする一派の軍人の一人かと思っていた彼女は、緊張感と張り詰めた空気を持ちあわせてしまう。  
向こうは、色目で値踏みするように睨み付ける程の鋭い眼光を放ってくる。  
交し合う視線の中、少しでも逸らそうとすれば、容易く圧されてしまうとすら思わせる。  
油断できない女――  
一体、この人は…  
気を抜けば、無名の部下の一人であるリザ自身でも、何か危害を加えられるのではとまで予測させられる。  
彼女の腕は、威嚇程度に銃に手をかけるほどの気迫に満ちてしまった。  
しかし、一対一に加え、夕闇も深く、誰一人として気配のない廊下であった場所が災いした。  
「あっ!」  
銃身へ手をかけようとした腕に、鞘のついたままオリヴィエの持つ剣の根元が打ち付けられ、リザはその衝撃と激痛によろめく。  
右腕に、痺れ渡る程の電気が走り、リザが顔をしかめた先…  
反対側の手を組み取られ、  
「何を……っ!」  
壁に押し付けられた。  
そして、そのまま会ったばかりの大柄で、艶めいた瞳を持つ謎の女に口付けられた。  
「離し、て…っ!」  
ねじ伏せるような手首を掴む力、同性とは思えない力の強さ…そして、痺れのせいで抗えない右腕……  
壁に背中の骨を打った痛みと、唇に加わる重みで体が制圧されてしまう。  
「ん…っ…」  
唇の中に入り込んでくる舌の、いやらしく生々しい存在に、彼女は震撼する。  
マスタング以外と交わしたことのない接吻に挑まれ、玩具のように蹂躙されてしまう。  
濃厚なキスの味わいを、相手は愉しむように押し付けてくる。  
「くっ!」  
噛み付こうとして歯を動かそうとするが、咄嗟に、顎ごと掴まれたままの状態になり、  
力強い指を突っ込まれて噛みあわせの動きが封じられた。  
噛みあわせようとする動作を封じたまま、口を強引に隙間ほどにも開けられて、  
歯の中に蠢いたオリヴィエの舌が進入してきたのだ。  
「あ、はぁっ…ぐっ…」  
身体の痺れと唇への封印、加えて相手の片手はリザの豊満な胸までもを確かめるように触れてくる。  
 
オリヴィエのその大きな乳房と押し合うように熱い体を擦り付けられてしまう。  
開かれた両足の中、無遠慮に太ももをこすり合わせるように割り込んでくる相手の脚が密着してきた。  
意も交わしたくないこの行為で、唇からようやく開放されたリザは、後ろの壁に張り付くようにして圧し掛かっている上官を睨みつけた。  
顔は紅潮し、息も上がり、抗議の声もまだまともに発せられはしない。  
そんなリザの姿を見て、オリヴィエは再度、彼女の顎を掴み顔を近づけるが、  
震える手でリザはそれを阻止して抗議の瞳と拒絶の表情を炊きつけてくる。  
くっと歯を見せ、長髪を揺らした熟い唇を持つその女は、自身をオリヴィエだと名乗り、  
よく覚えておけと自分をせせら哂っていた。  
「一体、…一体、何をするんですか、上官といえどもこのような行為は!」  
「そう、喚くな…この私に銃など向けようとした貴様が馬鹿なのだ」  
嘲るように唇を指で押しなぞられたリザは、びくびくとしながらその手を再び、阻もうとする。  
しかし、伸び始めた短い髪を急に引っ張られ、もう片方の手で痺れの抜けない腕を掴まれ痛みに顔を歪ませてしまう。  
「可愛い顔が台無しだな、だが、この髪は封印しろ。狩られたくなければな」  
「言われる筋合いありませんね。もっとも、言われなくともそうするつもりです!」  
触られることに反応してしまう自分を、嘲笑うような目つきで見られ、リザは屈辱的な思いを抱く。  
「しかしまあ、惜しいものだ」  
「………?」  
感慨めいた呟きを漏らしたオリヴィエの、自分を掴んでいた腕の力が抜けた一瞬、リザは姿勢を正そうとするチャンスだと思った。  
しかしながら、その瞬間に  
「きゃっ…!」  
突然の平手打ちを受けてしまう。左の頬が赤く腫れる。  
一体、何を考えてこのオリヴィエと名乗る女はこうも自分に関わってくるのか計り知れなかった。  
「白い肌に浮き上がる赤だ、美しいな。むさくるしい軍に、こんな蝶が迷い込んでいたとは」  
続いて、狂気の沙汰ともいえる行動が続けられた。  
颯爽と剣を取り出して、刃先を近づける仕草で腫れた頬の横の壁が砕かれたのだ。  
幾筋か散り落ちたリザの髪を見据え、不気味な笑みをたたえた女はこちらを更に睨み付けてきた。  
従わぬ者は許さないという意味と、服従しなければこの美しい顔から切り刻んでやるぞと  
いった気迫に、リザの心臓はどくんどくんと湧き上がっていく。  
「あ……やっ…」  
殺されるかもしれない  
心に決めていた男の名前を考えながら、彼女は今の状況に心身が凍り付いていった。  
だが、爪が食い込むほど強く握りしめた手を取り戻し、瞳だけは視線を外しはしなかった。  
体が打ち付けられたかのように凍っていても、前だけは見続けていた。  
切るなら切ってみろといった意気込みを表したのだ。  
―――負けるものか…こんな所で倒れてどうする  
イシュバールで私は誓ったのだ  
この国への命運と、あの人へ託したものの全てを!  
オリヴィエの視線を直視し、獣のように自分を狩ろうとする相手に負けはすまいと…  
眼光だけは、焔を灯すことをリザはやめなかった。  
 
ぎっと睨み返す獲物の瞳に、オリヴィエがふと感想を漏らす。  
体は震えているというのに、なんとまあいきのいい顔つきをしていると  
「青いな、やはりまだまだだ。あんな男にやるにはもったいない」  
口の端を吊り上げたオリヴィエは、リザを凝視しながら吐き捨てるように冷笑していた。  
「小娘、気が変わったら私に跪づくがいい」  
「何ですって!」  
「あんな男よりも、もっと激しくお前を抱いてやれるのだ。その名誉をいつか味あわせてやる」  
オリヴィエは、最後に淫猥な瞳で値踏みするような目を注いだ。  
そして、リザの若々しいが、震えを伴っている体を見て、嘲笑していた。  
やがて、リザを支配していた殺気の全てを解いて、剣を鞘に収めて型崩れのしたリザの軍服を軽く直してやる。  
「北にいる。縁があればまた会いたいものだ」  
「誰が、貴女なんかと…」  
「楽しみにしているぞ、お前の体が啼くのをな」  
こちらの言いようなどまるで無視をしているかのような女豹は、そう言い残して立ち去っていった。  
リザは、もたれた壁に佇んだまま…オリヴィエの後姿が消えていくのを見送る。  
無機質に残るあの女の足音が、消えていくまで自身を保とうとした。  
残されたその場所で、未だ身震いは収まらなかったが  
「震えてる場合じゃないわね」  
そうだ、この軍部という魔窟にはまだまだ得体の知れないものが多く潜んでいるのだ。  
このような所でくたばってたまるものかと、改めて気を引き締めていった。  
「ええ、感謝するわ」  
この機会を持ったことで、よりいっそう、魔物達と対峙する覚悟に改めて目覚めることができた幸運を  
そう思い、襟を正して背を伸ばし、彼女は前を向く。  
そして、いつもの冷静な眼差しでこれからの道を歩き始めたのだった。  
最後にひとつ、噛み締めるようにして…自身を一時でも支配した相手のことを脳裏に焼き付け、心の中にしまっていきながら  
覚えておくわ、オリヴィエという名前をね  
 
 
「でさあ、俺の同僚ですっげえ犬嫌いな奴がいてんスよね。レスキューで救助した犬に舐められて、  
逆に腰ぬかしてタンカで運ばれてやがんの。そいつ、ほんとバッカみてえ」  
べらべらと良く喋る奴だ。頭も悪そうだし、運も悪そうなカスだな。  
「って、姉さん、聞いてる?」  
「ああ、知らん」  
裸でごろごろとベッドの上を寝転がりながら、オリヴィエの観察する視界のもとにハボックが進み出た。  
寝癖のついた前髪を揺らしながら、歯を浮かせて彼は問う。  
「そろそろ教えて下さいよ。どこの部隊の人なんスか?」  
階級章を外してあるために、カーペットに脱ぎ捨てた制服からは彼女の身分が判明できなかった。  
ハボックは、妖艶な唇を持つ年上の女に誘われて、のこのこと閨までついてきたのだ。  
相手が遊び半分でこちらをつまんでいるというのも情事前の態度から判明していたし、  
それなら、お互いあとくされもなく楽しめると思い、匿名の貴婦人の戯れ事に応じていた。  
合同訓練を終えたオリヴィエの一行は、未明、北に戻る予定である。  
だが、出立前に一度、何かの情報を得たいと思い鼠をひっかけていたのであった。  
「姉さん、さっきから何見てんスか?」  
「蝶……」  
「へ?」  
情事後の彼女は、全裸のまま寝転がり、申し訳程度に毛布をかぶり頬杖をつきながら資料を見ていた。  
この施設に取り寄せたホークアイに関する資料だ。  
身分、階級、特殊技能、戦績や出身地等の表面的な紹介しかそこには書かれていなかったが、  
彼女はそれら文面の端に添付されたホークアイの写真を見つめる。  
戯れた後でも、この貴婦人が正体をなかなか明かしてはくれないのにやきもきしながら、ハボックは近づく。  
どこかの部隊の女であろうことは制服から予測したが、今回の合同訓練が初めての  
参加であった彼は、北の要塞司令官の顔を拝む機会を持ってはいなかったのだ。  
よもやここにいる婦人が「ブリッグズの北壁」と称されることになるであろう女とは到底、思いもつかなかったのだろう。  
背中を向ける彼女のうなじや肩甲骨に愛撫する仕草を行いながら、彼は犬のようにまとわりついた。  
だが、横倒しに向こうへ傾く彼女の目視先にハボックは口を零す。  
「あれ、それホークアイ少尉。あ、いや、もうすぐ中尉だったっけ」  
「お前、この蝶について知ってることを話せ」  
「え……」  
「貴様はこの娘と同じ所属なのだろう」  
その瞬間、大振りの胸を果実のように揺らしながら、ハボックの上にオリヴィエは重なった。  
美しいボディを大胆に動かして、ハボックの胸板に跨るようにして乗りかかったのだ。  
そして、彼の首と顎に胸を押し付け、顔をゆるめてそれを掴もうとする男の手を、彼女ははたいた。  
「痛いッスよ、姉さん!」  
「誰が触れていいと言った、クソガキ」  
「さっきやらせてくれたじゃん」  
「お前の想像にあわせた淫欲な貴婦人像には失笑するわ、馬鹿か貴様は」  
次の動作にハボックは目を見張らせる。  
「ちょっ、どっからそんな刀持ち出したんだスか?振り回したら、危なっ…!」  
ぎょっとするような凶器をベッドの隙間から取り出していたオリヴィエは、  
適当に持ちやすいように手首を動かした後、ハボックの喉元に這わせていた。  
皮膚に浅い線が走り、ハボックが降参しながら手をあげた。  
しかし、彼の瞳は巨乳の揺さぶりに釘付けではあった。  
「ねえ、姉さん。喉、喉、なんか切れてるッスよ!」  
「さあな、だがお前のバカ息子は元気そうだな」  
「あ、いや、それは、その…そんなお見事なボインがあったら話は別で」  
後ろ手にオリヴィエは、ハボックの元気になっている下半身を軽く弾いた。  
「う、あ、ちょっと、刃物でレイプごっこっていうのもいいけどなんか、もちょっとソフトにいきましょうよ」  
目の前にある豊かな彼女の胸の揺れに彼は、鼻の下を伸ばしっぱなしでいた。  
どうしても、もう一回あの胸元に顔を埋めてしゃぶりついてみたいという欲望が手放せないのだ。  
「なんだ、この状況でも勃つのか、貴様」  
「のっかかられた熟女とメロン並みの球体と首を斬られる恐怖の三重苦、たまらんス」  
「この犬め」  
「イエス、マム…お願い、やらせて」  
「鷹の目のことを教えろ、貴様の知ってる限りのことだ」  
 
弱点や彼女の事細かな情報について、書類以上のことまでもを望んでいるという意味を、オリヴィエは暗に含ませていた。  
それら要点を告げて、オリヴィエはハボックの唇を舌でなぞる。  
そして、軽めの接吻に移り、ハボックの顔を髪ごとわし掴んで、濃厚な口付けを行っていった。  
だが、当のハボックは、そのオリヴィエとのキスを舌で絡ませあいながら合わせていったが、  
長い口付けの後に彼女の瞳に向かって息をきらしながら答えた。  
「それって答えなきゃ続けてくんないスか?」  
「あたりまえだ」  
「俺、ダシに使われてる?」  
「それ以上の価値などお前にはない」  
「本命、あっちなわけだ」  
「バカのくせに気づいたのか?」  
生意気な犬だという、凍土のように冷酷な目を向けられたハボックは、  
オリヴィエのことを、スパイか何かなのかとおそるおそる尋ねる。  
マスタング一派の内情を探る密偵なのかという問いかけにオリヴィエは大声で笑い出した。  
「何がおかしいんスか?」  
「脳みそが軽すぎる。は、あいつの軍部はこんなバカがいて成り立つのか」  
「姉さん、マスタング大佐の知り合いか何かッスか?」  
「あんなどうでもいい男のどこがいいんだか」  
「尚更、教えられないなあ」  
「なに……?」  
「どうでもいい男ってのは同感だけど、その大事な蝶々のこと教えるのなんか絶対やだね」  
瞬間、オリヴィエの目つきが変わり、見下ろすハボックへの冷徹な凝視に変貌した。  
頚動脈に刀先を当てられて、いつでも刺し殺せるという姿勢を強いられているくせに、  
刃向かうとはたいした愚か者だという氷ついた視線だった。  
「俺、拷問でもなんでも、こんなボインの美人にされるんなら切り刻まれても  
構わないけど鷹の目のことだけは吐かないよ」  
なんだ、こいつも同類か…  
そう思った瞬間、オリヴィエは珍しく、むっとしてしまった。  
こんな男と同じ目線で、鷹の目のことで頭を募らせてしまう事態を  
共有するようになるとは自分も終わりだと気に入らなかったのだ。  
「俺にもあんたにも飛んでいかない蝶々だよ、何やっても無理無理」  
「自信たっぷりに言うではないか」  
「だって俺も本命だもん、ライバル増やしてどうすんのさ」  
見下ろし、鋭い目を向けてくる婦人の垂れた髪を指で遊びながら、ハボックは苦笑ぎみに推理を的中させた。  
この女性のまとう甘い香りが、昨日、帰りがけに嗅いだリザに染み付いた別種の香りと確信したらしい。  
「っていうか、あんただったんだ、昨日のあれ」  
「何?」  
「鷹の目の顔、殴ったのあんただろ?唇切れて血が滲んでたぜ。おかげで火トカゲの上司は、  
誰にやられたんだって問い詰めても何も言わないし、動転して必死に心配してやがんの」  
ほお、こいつまんざら馬鹿ではないらしいな  
「あの小娘、言わなかったのか?」  
「覚悟は深いってことさ。自分よりも焔の錬金術師の出世支えるのが優先事項、  
逆に前だけ見てろって大佐が怒鳴られてたぜ。そのへんの公私混同は使い分けているんだよ」  
ちっとオリヴィエがそこで舌打ちをした。  
あの小娘にとっては、自分の存在に関する記憶などたいしたゆさぶりにもならなかったということだ。  
マスタングを惹きつけるだけの、更なる餌になっただけではないかとも思えてしまう。  
「ちょっかいだしたら、余計にあいつらの絆深まるの目に見えてるから、  
俺も手ださないことにしてたんだけどねえ。姉さんに倣って方針変えてみようかな」  
「貴様、変態だな」  
「泣かしたくないんだ、一応俺、大佐の部下なわけだし。鷹の目のファンだから  
鷹の目の好きなことさせて満足させてあげたいわけよ」  
オリヴィエはハボックの戯言を耳にしながら、ため息をついて脱力していった。  
そして、横の枕に仰向けに寝転がり、被さってくる犬を呆れて見ていた。  
 
「大佐が敵なのはお互いなんだから、同じ境遇同士、同盟結びましょうよ」  
「馬鹿犬を飼い込むほど私は暇ではない」  
「あと一回だけ、お願い」  
いつのまにかオリヴィエの胸元に顔を埋めて、その感触に喜んでいたハボックは耳たぶをつままれて悲鳴をあげる。  
だが、その顔は嬉しそうだった。  
手にしていた剣をベッドから放り出し、ゆっくりとオリヴィエは起き上がった。  
そして、ハボックを一発拳で殴り、体勢を変えて押し倒すように跨いでやった。  
鼻血を押さえて顔の腫れに手をやるハボックは、さすがにその痛みに嘆いた。  
「痛ってぇ、もう、鼻血プレイかよ、姉さん」  
「貴様の息子を去勢してやらねばならんな。こんな粗雑なものをあれに  
突っ込ませる事態になどなったら私はお前を拷問するだけでは気がすまなくなる」  
「いや、だからそういうのは大佐に蝶々が飛んでいかなくなったらありうるわけであって、今はそんなことしないって」  
「方針は変えるな。手をだすなよ、あの羽をもぎ取るのは奴が失脚して消滅した後の私だ」  
「何だよ、結局、一緒じゃん」  
もう一発殴り飛ばしてやろうかという仕草のオリヴィエを見て、  
ハボックは涙目で構えたが、オリヴィエが歯を浮かせて哂っているのを見てから、  
「虫がつかないように見張っとくからさあ、勘弁してよっ!」  
「では虫除けになれ、それくらいの役もこなせぬ者など、私の権限で軍から追放してやる」  
「んじゃ、成立ってことでもう一回」  
わさわさとオリヴィエの太ももを触りながら、彼女を片手で引き寄せて嬉しそうに  
さっそく交配の第二ラウンドに勤しむハボックに……オリヴィエが冷静な感想を漏らした。  
「鼻血をたらした犬ほど不細工なものはないな」  
キスを拒絶したオリヴィエが、ハボックの顔を枕で押し付けた。  
だが、いつの間にか進入してきた彼の指先が、濡れ湿っている膣の入り口で蠢いているのを感じ始める。  
「んっ…っ」  
「枕とシーツで鼻血と顔ふきました、姉さんのおっぱいに顔をうずめていいでしょうか?」  
「垂らすなよ、このクソガキ」  
両手で、自分に馬乗りになって屈む彼女の蜜所をいじりながら、ハボックは鮮やかに  
起ちあがる乳房の突起部分に噛み付き、柔らかさを顔で満悦した。  
「あっ、う…!」  
濡れて愛液に緩んだ部分が、器用なハボックの増え続ける指に反応し、オリヴィエは吐息を漏らす。  
一度は交えたものの、そのすぼまりは感度が更に上昇している。  
「クソッ、もう喰わせろ!」  
「姉さん、すっげえ濡れてるよ」  
「やかましいわ、無駄口叩くな」  
ハボックのすでに張り詰めていた肉棒に腰を落とし、オリヴィエは自ら咥えこんでいった。  
膣の中に挿入し、ゆっくりと腰を落として、彼自身を貫かせていった。  
「う、あ、あぁ!動け、さっさと動けぇ…っ」  
「は、はい、姉さんっ…」  
交雑しながら馬乗りになった体位のオリヴィエは、ハボックの腕を爪が食い込むほどに  
鷲づかみにし、自ら喘ぎながら動いていった。  
ハボックにのろいと叱責しながら、最も感じ入ることのできる部分を自身で攻め立て  
彼女は感点をぐりぐりと痺れさせていく。  
「あ、はぁ、あぁっ!」  
内襞の締め付けがぎゅうっと痺れ渡り、ハボックが肉棒と同調している激しい摩擦にうめきながら汗を零す。  
眼前に映る金髪の美女の汗と香りと淫らな姿…そして、はちきれんばかりの二つの果実に彼は至福の瞬間を迎えていく。  
彼女の臀部を持って、奥深い部分を突くと、  
「はあぁん!」  
髪を乱しながら、オリヴィエは嬌声をあげ、濡れた唇がぱくぱくと痺れに耐えるような仕草を醸し出す。  
「はあ、あぁ…っ…!」  
「あ、すげえ、鷹の目好きでよかったっ…!」  
「ふざけるなぁ、虫除けっ…貴様など虫けら以下のクソ犬だ!」  
罵られると感極まったのか、ハボックはぐっと彼女を無意識に突き上げた。  
ぶるぶると戦慄きながら振れる巨乳に彼は、精のすべてを搾り取られるかのようにしゃぶりつく。  
「う、あ、ねえ、もっと罵って!」  
「あぅ、アァ!この馬鹿者がぁ、もっとゆっくり動かんか!」  
「ねえ、名前教えてよぉ、…っもうイクっての」  
頂点に近づいた彼らはよどんだ空気の中で、汗だくになりながら楔を打ち付けあった。  
 
「あん、あぁ、……エだ!この阿呆がぁ!」  
「は、い…?痛ってぇっ…!」  
ハボックに名乗りあげながら、聞き取り損ねていた彼を再びはたいたオリヴィエは絶頂を感じ、  
内奥に咥えた肉塊を締め付け到達していった。  
同時に達し始めた彼も、オリヴィエを抱きしめながら息を切らし、鷹の目が自分の体で  
悶える姿を妄想しながら目の前の熟女に欲望を吐き出した。  
「あ、すっげ不毛…でもやばい、これ、はまりそうっ…」  
「くそ、貴様と同じこと考えてやるとは何たる不覚か!」  
「だから姉さんも同類なんだって!」  
「オリヴィエだと名乗ったのが分からんのか大馬鹿者め!」  
いつまで抱いている、汚い手を離せと叫び、ハボックを再び殴りあげた彼女は結合部分を呻きながら離す。  
どろりとした粘液が打ち込んだ膣の入り口から染み出、青い精を吐き出した相手を見て、  
ベッドで立ち上がって自身の股座が丸見えなのも構わず…ハボックの胸板を、蹴り飛ばした。  
「暴力、反対だって…姉さ、オリヴィエ、様っ…」  
げほげほと息を抑えながら、もう一発みぞおちに食らった彼は屈みこみながら彼女を見上げ…だらしなく涎をたらした。  
濡れた秘所からは蜜が滴り、自分を蹴ったままの姿勢でいるブロンドの髪と巨乳の保持者が  
冷酷にこちらを見下すようにしていた。  
「やべえ、何これ…鷹の目にもやってもらいてえ」  
「どこまで不埒な男なんだ。ともかく、命ずるぞ、分かったな!」  
「はあ、何?」  
拝命してやってるのがわからんのか貴様、と怒号をあげながら、  
けだるげに紅潮した頬と吐息の彼女はもう一回、思い切りよく足蹴りを行った。  
「虫除けと弾除けくらいにはなるだろうが!」  
「あ、ああ、勿論ッスよ」  
「マイルズ!帰るぞ、支度をしろ」  
ベッドで仁王立ちしていたオリヴィエは、いつも付き従う男の名を呼んだ。  
閉めてあった扉の向こうから、呼び声にさっそく反応するかのような段取りで、さっさと彼は入ってくる。  
―――へ、何この男…なんでいきなりこのタイミングで入ってくるんだよ  
佐官級の制服を纏った男が、オリヴィエの体を拭いた後にかいがいしく服を着せ始めていた。  
「閣下ともあろう方が、このような下賎な者と…」  
ちらりとサングラス越しに、ハボックを見やるその男は、見下すような視線を放っていた。  
あの浅黒い男…今、閣下って言わなかったか  
マイルズの発した台詞にハボックは咥えようとしていた煙草をぽろりと落とす。  
この女、将官クラスの軍人か…?  
って待てよ、上官に、しかも女の将軍と猥褻行為した俺、やばくないか!  
「少将、ご出立のお時間は予定通りでよろしいですか?」  
「もうこんな時間か、未明の出立予定に変更はない。食事を取った後にでる」  
「は!」  
時計を見やり、すっかり制服を着込んだオリヴィエが、髪を梳きながらホークアイの  
資料を補佐官に渡して仕舞わせる。  
荷物を持って、出て行こうとする長い後ろ髪に向かって、ハボックはようやく声を張り上げた。  
ぽかんとして疑問だったものの蓄積を、全てまとめて吐き出すように  
「ってちょっと、姉さん、そいつずっと扉の前にいたわけ?  
音、丸聞こえじゃないスか!しかも、あんた、ほんとにどこの部隊の人なんだよ」  
「貴様、少将になんという口の聞き方をする!」  
私怨までもがこもったようなサングラスを纏う佐官クラスの男に銃を突きつけられ、  
ハボックはとっさに両手を上げた。  
その醜態をオリヴィエは押しとどめる。  
「そいつは害虫駆除剤だ。北から遠隔操作する手間の省ける貴重な虫除けだ。生殺与奪は私に権限がある」  
「少将、昨日から貴女もどうかなさってます!」  
「何を言う、貴重な資源を欲する私の、蝶の羽をもぎ取るための算段ではないか」  
「優秀な狙撃手なら、要塞にも幾人かいるでしょうに…」  
「それ以上の腕があると私は睨んでいる。まあ、羽をむしる愉しみもあるものだ。別の意味でな」  
ふっと微笑するオリヴィエを見ながら、マイルズは銃を収め、  
彼女のコートのポケットから零れ落ちたリップスティックを拾って手渡そうとした。  
オリヴィエは、それを見ながらつけるのを忘れていたと零し、キャップを彼に開けさせて唇にルージュをひかせる。  
 
その様子を見ていたハボックは、氷の女王に付き従う男の姿が、先刻までの自分の姿に重なり、苦笑してしまったが  
「おい、貴様!」  
「ジャン・ハボックですって…俺の名前を覚えてください、閣下」  
「奴がくたばるまではいい虫除けと弾除けになっておけ」  
「それで、あんたは、いったい何者ッスか…?」  
「オリヴィエ・ミラ・アームストロングだ。後は自分で検索しろ」  
ばたんと乱暴に扉を閉めて、踵を返していった女王はハボックを残して去っていった。  
髪をかきあげながら、廊下を進むオリヴィエは、ひとつだけため息を吐く。  
先刻の交配についての体力消耗に関する憂いではなく、別の思考を思い浮かべながらのものだった。  
いつか手に入れてやる  
それまで北の要塞を、私は全力で死守しよう  
そして、より誇れるほどの弱肉強食の世界の保持者として君臨してやる  
奴が失脚すればそれもまた良し、私に跪かせる機会を見計らうのもまた良し  
だが、まだ時期が悪い。今は、まだ私も北の守りで手いっぱいだ  
それに、あの蝶の近くにいるだけで、全てが支配できるとは限らんのだ  
より強力な力をもっと得て、それからまた考えよう  
蜘蛛の巣を張り巡らせるのは時間がかかるのだ  
蝶を手に入れるのは、それからでもいい  
こちらに飛んでは来ない羽をもつ蝶だ、手ごわいのは百も承知  
それに、飛んでいる間の美しさに囚われて堕落していく愚か者に私は成り下がりたくはない  
「少将、今後このようなお戯れはどうか…」  
並んで歩くマイルズに向かって、凍土の瞳を返した氷の地の女王は、皆まで言うなと手をはらった。  
「わかっている。今はまだその時期ではない」  
「ですが…」  
「北の死守が私の誇りだ。そして私のやるべき使命だ。お前にも、期待している」  
「は!」  
不敵な微笑をたたえ、長い髪をなびかせながら、オリヴィエは背中を任せるとマイルズに呟いた。  
そして、ここで持ちえた感情への割り切りをつけるように、最後の思考を脳裏の隅へと追いやった。  
そうだ、まずは北の要塞の要となり、そこで静かに機会を待とう  
私もあの娘に言った  
縁があればまた会いたいものだと  
ならば、時の縁をも味方につけてやる程の力を手に入れてやる  
いつかあの羽がこちらへ飛んでくる機会を、奪い取ることのできる日を待ちながら  
蜘蛛の巣を張り巡らせる位までにな  
「まるで詩人だな」  
車の窓で、自身の金髪をいじり、風になびかせながら自嘲したオリヴィエを見て  
不思議そうに振り返ったマイルズに、彼女は何でもないと零していた。  
そして、北への行軍の中、彼女は厳かな使命に心を向けて旅立っていった。  
極寒の厳しさまでをも味方につけ、雪の中を堂々と歩み行く氷の女神のように  
 おわり  
 

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