「さァて。どうしてくれようかしら」
真っ赤な舌で下唇をなぞる様はさながら毒蛇のようだった。
女の艶やかな黒髪は暗い室内に溶け込み、
それとは真逆に異様に蒼白い肌がくっきりと浮かび上がっていた。
窓から僅かに差し込む街灯が女を照らし、豊満な身体のラインに陰影を施していた。
女の湿りを帯びた唇の端が吊り上がり、瞳が弓形にエドを覗き込む。
獲物を弄ばんとする嗜虐的な獣の瞳だ。自らの圧倒的不利を本能で感じ取りながら、
それでもエドは妖艶な笑みを浮べる女を睨みつけた。
エドの両腕は女の片腕で軽々と捻じ伏せられ、頭上で押さえ込まれていた。
いや、正確に言えば片腕ですらない。女の二本の指は異様な形に伸び、それは鋼のように堅牢だった。
それらがエドの両腕の袖裾をしっかりと壁に縫い付けている。力任せに足掻いてみるがビクともしない。
それどころか、余裕綽々と女はエドがジタバタと足掻くのを楽しそうに眺めていた。
その人を小馬鹿にしたような態度が更にエドを苛立たせる。
「このババぁ!さっさと放しやがれ!」
隙を付いて渾身の一撃を喰らわせてやろうと右足振り上げたが、
その僅かな間に女はエドの間合いを割り、がら空きになった真正面に身体を滑らせた。
攻撃の対象を失ったエドの右足は大きく空振る。
すぐにでも次の攻撃の手を撃つべく思考を巡らせたが、足元から血の引くような感覚にエドは身震いして動きを止めた。
柔らかな肉体の感触と咽るほどの香水の香りがエドを包み、
エドの両足の間に割入った太腿が密着してエドの下半身を焦らすように擦り上げる。
「女をババぁ呼ばわりするなんていけない子ね、鋼の坊や」
太腿でエドの中心を煽りながら、女がエドの耳に囁きかける。
耳の奥まで擽る湿り気を帯びた生暖かい空気にエドは顔を左右に振ると、再び女を睨み上げた。
「きッ…気色悪ぃ事してんじゃねぇーよ!オバハン!!」
今にも噛み付きそうな勢いで叫び、エドは再び身動ぎする。
しかし壁に背を押し当てられ、正面には女の体が隙間無く密着し、最早足を振り上げる事すらままならなかった。
頼みの錬金術も両腕を完全に封じられていては使いようも無い。
女は自らの完全な優位を確信しており、そしてそれは事実であった。
「ホント、口の減らない坊やね」と呟くと、女は騒ぎ立てるエドの口を自らの唇で覆った。
エドは驚き、少しでもそこから離れようとしたが、元々身動ぎすら出来ぬこの状況では逃れる術も無い。
女の舌は息継ぎすら許さず、エドの少年らしい硬い外唇を執拗に弄り、
これ以上の侵入を拒もうと硬く閉じた場所を抉じ開けて強引にエドの舌と絡み合わせた。
舌が絡み合うザラリとした感触に得体の知れぬ恐怖を感じ、
頭を左右に振ってもがくと僅かに唇が離れ、その瞬間エドは女の唇に力一杯噛み付いた。
「かはっ、けほっ…はぁ…ケッ…ザマミロ」
息を浅く吐きながら一矢報いてやったとばかりに毒吐きながらエドは顔を上げた。
もちろん些細な抵抗でしかない事は判っていたが、これ以上この馬鹿げた戯れが終わるのではないかという期待はあった。
見ると女の下唇は切れ、闇夜にもはっきりと判るほどに赤い鮮血がぷっくりと膨らんでいた。
しかしエドの満足げな笑みが絶望の表情へと変わったのはほんの僅かな間。
パリッ、という聞き覚えのある音と小さな青白い光が暗闇を走った。
女が溢れた血を舌舐め擦りで拭うと、噛み付いたはずのその場所からは傷痕が綺麗に消え去っていた。
「錬成反応?!」
「ひどいわぁ。女に恥かかせるなんて」
女は冷たい笑みを浮かべると続け様に空いた左手でエドの腹部を殴りつけた。
衝撃で呼吸が詰まり、収縮した胃から酸が逆流する。堪えきれず込み上げてきた物を吐き出した。
女は嘔吐で咽るエドの頭髪を掴み、強引に女の方へ顔を向けさせた。
絡み合った爬虫類のような冷たい視線に寒気を覚え、逃げ出したいほどの恐怖を感じながら、
それでもエドは歯を食いしばりめいっぱいの虚勢を張る。
「殺るならさっさと殺れよ」
「殺る?まさか」
女は不意でも付かれたかのように目を丸くし、それから暫くしてニヤリと笑い、エドを見下ろした。
「でも…そうね。礼儀を知らない坊やにはお仕置きをしなくちゃ」
意味ありげな言葉に眉をしかめたエドだったが、女の左手が下半身を弄り始めた時、ようやくその意味を悟った。
女は手のひらでエドの足の付け根にある膨らみを包み込み、ゆっくりと揉みしだいていく。
服越しにでもはっきりと伝わる指の動きに血液が滾る思いがした。
自分の意志とは無関係に勃ち上がっていくそれに気が付き、慌ててエドは声を荒げる。
「勝手に触るんじゃねェ!放せよ!」
「素直じゃないわね」
女はエドの強情っぷりに苛立ったのか、むっと眉間にシワを寄せて、
エドの腰に巻かれたベルトを強引に外し、ファスナーを下ろした。
女によって引っ張り出されたエド自身はすでに硬く締まり、
亀頭の先端の裂け目からは透明な液が滲み出していた。本人の意思はどうであれ、刺激と異様な状況に体が興奮していた。
苦々しく顔を背けたエドに女は鼻で笑うと、女は裂け目を指先でゆっくりと擦った。
擽るような刺激にジワリと粘液が溢れ、込み上げてくる熱にエドは大きく息を吐いた。
「身体は正直よ、鋼の坊や」
女は勝ち誇った笑みを浮かべ、ぺろりとエドの耳介を舐めた。耳の奥に生々しい唾液の音が響き、エドは身悶えする。
「うあ…止め…ろッ」
「あらぁ、意外と感じやすいのね」
エドの耳朶を甘噛みしながら、女はゆっくりと指をスライドさせ始めた。
痛みを感じぬ程度に手のひらで包み込んで、先走りですっかりと濡れそぼった先端から
血流が増して大きく脈打つ根元までを歯噛みしたくなるほどの緩慢さで扱く。
耳元を濡らす唾液の音と性感帯を直接弄られ込み上げてくる今まで味わった事の無い感覚に
気が狂いそうになり、エドはきつく瞳を閉じた。
しかし、堪えれば堪えるほど身体中に熱が回り息遣いが荒くなってくる。
そんなエドにますます女の嗜虐心が刺激された。