デートに誘われたが、休日をゆっくり休みたかったリザは断る理由を何度も考えた。  
だが結局、家の前に派手な花束と車をスタンバイさせて高揚してきた上司の誘いに応じてしまった。  
淡々としたため息でリザは肩をひく。  
「ランエボ…ですか…」  
「ほお、車に詳しいとはさすがだね、中尉…いや、オフだからな。リザと呼ぼう」  
「たまたま知ってたけです。大佐がこういうお車が好きとは意外でした」  
「こだわりと言ってくれたまえ、さあ乗った乗った」  
意外性で私に興味をひきつけるのも成功だな  
ふ、強引な男に女は弱いもの  
今日こそ絶対、私は君に乗ってやる  
つきあいはじめてそこそこ経ったが、未だ戦績はキスだけだとは私は自分が情けない  
しかも、あまつさえ映画館で居眠りこいた君に私が勝手にキスしただけだなどとは最悪だ  
この間の映画はうかつすぎた  
選択を誤ったんだ  
かなりいい線いってると評判のハードアクションでラブロマンス系列だったというのに…  
上映開始CM予告の狂犬映画宣伝ムービー90秒はらんらんと目を輝かせてリザは見ていただけだった  
それ以降は熟睡だとよ  
真面目に映画を見て、感動してた孤独な私だけが涙するとは最悪すぎる  
腹いせに熟睡中の君の額に私の唇を落としてやっただけという自分がしょぼすぎだ  
「ああ、まったくな!」  
「どうしたんですか?」  
いかん、運転中に何を思い出して奇妙なこと言ってるんだ、私は  
落ち着け、とにかく落ち着け。  
心拍数が、作戦中にこんなにあがっていては元も子もない  
「今日は、その、中尉が…リザが行きたい所へどこでも連れて行ってあげるよ」  
「はあ…」  
 
…なんだか、ノリ気じゃないみたいだな  
ドライブじゃなくて、犬の散歩とかのほうが良かったのだろうか  
いや、待て、犬はいらんだろ  
元来、中尉は地味なものが好きなほうじゃなかったか  
だとすればあまりきらびやかな、さわがしいところじゃなくていいはずだ  
静かな、落ち着ける所…  
そうだ、くつろげる所だよ  
あの、終着点だ  
「ホテル!」  
「大佐?」  
「寝よう!」  
「こんな午前中から寝ると夜眠れませんが」  
いや違うって…  
そういう意味じゃなくて、ある意味、そういう意味で取ってくれて助かったけどさ  
駄目だ、今日は、がっつきすぎて言葉すらうまくでてこん  
名詞、動詞  
ホテル、寝よう…アホか私は  
「…佐、大佐?」  
「あ、ああ、何だね」  
「止めてください!」  
止めてって…言われたよ…  
―――降りたよ、中尉!  
「こっちです」  
おもむろに車から出て、歩いていくリザは止めた場所先にある砂浜のほうへ歩いていった  
次いで、彼女の後をついていこうとロイも歩き出す。  
―――どこへ、行くんだ…こんな砂浜、何にもないところじゃないか  
 
今日の予定も用意した車にも、見向きもされないような感覚にロイはため息をつく  
だが、その時…呼び声が彼の鼓膜の中に染みこんで来た。  
「見てください、大佐」  
言われた先は、海だった。  
海を見たことがなかった彼女が、サンダルを脱いで素足で浅瀬の端に駆け込んでいったのだ。  
「お、おい…待ちたまえ、中尉!たかが海…にそんなはしゃぐ、など…」  
だが、そんな注進もロイの口から消えていく。  
彼に向かって振り向いたリザの嬉しそうな表情に目が奪われる。  
「すごいです。私、こういうところ、始めてきました」  
「あ、いや、まあ…」  
――たまたまとおりかかっただけの場所なんだがね  
「少し、まだ冷たいだろう。足が冷えるぞ」  
「いいえ、とても気持ち良いです!」  
濡れないようにスカートを膝上まで巻き上げて、ざぶざぶと水の中を跳ね回る彼女がとてもいとおしい。  
彼に振り向いたリザは、  
「大佐、ありがとうございます」  
無邪気に微笑みを向けてくれた。  
「いや…」  
「こんな素敵な所に連れてきてくれて、私、嬉しいです」  
跳ねる太陽に照らされ、水遊びを楽しむかのように、リザにロイは苦笑する。  
 
そうか、こんな簡単なことだったんだ  
かけひきだの、作戦だの、車だの…色々と募らせ逼迫していた心が安らぐ。  
金銭を込めたプレゼントや、手間のかかったデート構想だの、あれやこれやと考えあぐね  
ていたが、要は相手が喜んでくれたらよかっただけなのだと、彼は自然を受け入れる。  
「まあ、こういうのもありだな」  
そういえば、連れてきたことなかったな…  
海は、彼女にとっては始めての経験らしい  
やがて、リザの手に引かれて、半ば照れ臭いといった表情を浮かべながら  
足元までの水にロイも進んでいった。  
すると突然、海水を両手ですくって彼の顔に投げてじゃれた彼女はころころと笑い出す。  
「何を、冷たいじゃないか」  
「大佐がぼうっとしてるからです!」  
「この…」  
颯爽と、子供じみた水の掛け合いにロイも応戦していった。  
やがて半身、ずぶぬれになりながら砂にあがって転がりこんだ彼らは苦笑しながら笑いあった。  
砂まじりの浅いキスに及んだ時は、双方共にこうささやきあった  
「今度は、ハヤテ号でも連れてこようか」  
「はい、きっと喜びます」  
「今日の君みたいにな、飛んで跳ね回るだろう」  
「跳ねてなんか、そんなにおかしかったですか?」  
「ああ、まったく子供みたいだったよ」  
「大佐だって、水かけてた時は子供みたいでしたよ」  
見つめあった瞳の後、もう一度二人は唇を合わせた  
暖かい午後の光の中、その日のデートは彼らの記憶の中で、一番の記念になったという  
 
おわり  
 

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