昼は暑く、夜は凍える程寒い砂漠地帯
━━━ イシュヴァール ━━━
彼はそこに居た。
「明日、か…」
重い腰を上げ気晴らしに外の空気を吸いにテントのカーテンに手をかけた時、
外から「あっ」と小さい声が聞こえた。
カーテンを捲り上げると外にはリザが立っていた。
「ホークアイ少尉」
「…あ。…マスタング少佐、少しお話がしたくて…」
ロイは彼女の気遣いが分かり微かに笑った。
「外でいいかな?…ここは、気が滅入る」
「…はい」
サク、サク、と音を立て二人は砂の上を無言で歩いていた。
外に出ても綺麗な夜景や場所が在る訳では無い。ゴツゴツと大きな岩と乾涸びたような草が有るだけだ。
何時敵と遭遇するか分からない戦場で部隊から離れた場所まで行ける訳でもない。
離れた場夜へ移動して変に勘繰られた場合、脱走の未遂で軍法会議にかけられ処罰されてしまう。
また、外の空気を吸うと言っても澄んだ空気を吸える訳が無い。
建物と人間が焼けた臭い、硝煙や火薬の臭いが漂っている。
それでもテントの中で一人塞込んでいるよりはまだましだった。
近くの岩場に二人は腰を下ろした。
ロイは毎日同じ事ばかり考えてテントの中の籠っていた。
その時が近付くにつれ口数も少なくなり、食事も喉を通らないようだった。
リザはそんな彼が気掛りで仕方無かったのだが、ロイにどう接すればいいのか分からなかった。
気が付けば彼のテントの前に佇んでいた。
“どうしよう、少佐に何の話をすればいいのか分からないわ…。私、何してるんだろう…”
気晴らしになればと思い、話し相手を買って出た筈なのに何も言葉が出ない…。
リザが困惑していると、ロイが口を開いた。
「夜は…冷えるな」
「そうですね…」
だが、それだけで暫く沈黙が続く。
冷たい風が時折二人の間を吹き抜ける。
お互いに薄っぺらな毛布を羽織って来ているが、それでも寒い。
リザが毛布を深く包むとロイが手を差し出してきた。
「手を…繋がないか?」
コクリと首肯きリザはそっと手を出した。二人の手は指を絡めながら繋がれた。
「何だか恥ずかしいね」
繋いだ手を見ながら微笑んでいるロイを見てリザは少し安堵の顔を浮かべる。
「でも…温かいです、少佐の手」
そう言って少し握り返しロイの方に顔を向ける。彼の顔が近付き唇がリザの唇に触れた。