ぬちゃ、という淫靡な水音と、狂おしい圧迫感。  
リザは男が自分の中に入ってきたことを悟った。  
「あ、あっ……んっ、ゃんっ」  
突き上げられる度に、薄く開いた唇からは高い声が漏れる。  
「あぁ…っ!」  
ロイが中で思い切り放ったのとリザが体を仰け反らせたのはほぼ同時だった。  
 
二人は暫し事後の余韻に浸っていた。リザはロイの腕の中で、徐々に緩やかになっていく  
自分と彼の心臓の鼓動をぼんやりと聞いていた。ロイとのセックスで  
リザが満足しなかったことは殆どなかったと言っていい。しかし、それはあくまで体だけのことだ。  
どんなに快楽に溺れても、リザの心にはいつまでも空洞が広がり、満たされることはなかった。  
「何を考えてる?」  
どこか虚ろな気持ちでぼんやりと部屋の天井を見るでもなく眺めていると、ロイが少し掠れた声で訊ねてきた。  
「別に…何も」  
「最近よくそういう顔してるね」  
そう言ってロイはリザの体を優しく愛撫する。リザにはロイの心がわからない。自分と彼は  
あくまで体だけの関係のはずなのに、時折彼はその前提を覆しかねない素振りを見せることがあった。  
今もそうだ。こんな労わるような手つきで自分に触れてくる。彼の真意を量りかね、結局リザは  
そういった行為の一切をどんな女性に対しても使う常套手段のようなものだと考えることにした。そこに  
自分に対する愛情とか慈しみとか、そんな感情はないのだと。  
そう決め付けることで、自分が傷つかないための防壁を築いた。  
「何か不満でも?」  
リザの腰の辺りを撫でながら、ロイはなおも問うてくる。リザは逆に質問を返した。  
「私たちがこういう関係になって……どれくらいになるんでしょうね」  
「何だ急に」  
と言いつつ、ロイは真面目に考え始めた。  
「イシュヴァールの時からだから……五年くらいか」  
「そんなになりますか」  
「まさか忘れたんじゃないだろうな」  
「いいえ。ただ、結構経つんだなと思って。…ねえ、大佐」  
「何?」  
「大佐は、飽きないんですか?」  
 
ロイは顔を歪めて苦笑する。  
「君は飽きたって?」  
「そうは言ってません。大佐はどうなんですか」  
「…飽きないね」  
「どうしてですか」  
「どうしてって……そんなに飽きっぽく見えるのかね私は」  
「女性関係での大佐のご名声は私も伺ってますから」  
「おや、それはもしかして嫉妬してくれてるのかな?」  
「ご冗談を」  
その後長い沈黙が降りて、答えるつもりはないのだろうとリザが思いかけた時、  
「……君は飽きない」  
静かな深い声でロイが呟いた。  
「飽きてたら抱いたりしない」  
そう言って、一層強くリザを抱き締めた。今なら、彼の本心を聞けるかも知れない。  
リザはそう思ったが、なぜだか不意に涙が出てきてそれは出来なかった。  
 
ロイと初めて肌を重ねたのは、イシュヴァール殲滅戦もそろそろ終結しようかという頃だった。  
彼の護衛兼補佐役として派遣されてから幾月かが経っていた。それまで二人はあくまでも  
上司と部下として、そしてまた良き同胞として、生きるか死ぬかの戦場で運命を共にしていた。  
ロイのことを知るうちにリザは彼を軍人としてよりも一人の人間として尊敬し、護りたいと  
思うようになっていった。大総統になってこの世界を変えるという彼の決意を知ってからは、尚更だった。  
だがリザは、自分がロイのことを一個人としてだけでなく、男として意識し求めていることになかなか  
気付かなかった。今にして思えば、たぶん出会った時から自分は彼に惹かれていたのだろうと思う。  
しかし戦場で彼に初めて女として求められた時、リザは激しく抵抗した。どちらかといえばむしろ  
兄のように思っていた人が突然男の顔を見せたので、怖かったのだ。それにリザはその時まだ  
処女だった。嫌だったわけではないのだがとにかく不安で思わず涙を零したら、ロイは事後に  
「すまない」とだけ言った。その後も何度か彼と交わって、回を重ねていくうちにリザはいよいよ  
彼に溺れるようになっていった。二人は飢えた獣のように互いを貪りあった。しかしリザは心の奥で、  
いつも自分たちの関係の終わりを予期していた。恐らく終戦して元の日常に戻れば、  
ロイとの関係も終わるのだろう、と。そう思ったところで特に悲しいとも嬉しいとも思わなかった。  
その頃はとにかく戦争に疲れ、何もかもに疲れていたから。  
 
リザの予想どおり、戦争が終わると同時に、二人の関係は終わった。  
いや、終わったように見えた。だがある時、唐突にそれは再び始まった。  
暗い資料室で、後ろから抱き締められて。その時はもう抗おうとはしなかった。  
逆に自分から、貪婪なまでに彼を求めた。以来ずっと彼との行為は不規則に、  
しかし途切れることなく続いている。いつまでもロイはリザを求め続けたし、いつまでも  
リザはそれを受け入れ続けた。自分の思いに気付いた時には、既にリザは後戻りなど  
出来ないほどロイに夢中になっていたから。  
 
それなのに。  
 
「だめ…ゃ…っあ!」  
「すごい硬くなってる、中尉のここ」  
そう言って金髪の男は後ろからリザの乳房を揉みしだき、そそり立つ先端を摘んだ。  
「あんっ、あぁ……」  
「下も触って欲しいんでしょ?」  
リザはこくこくと頷く。ハボックは手を下に這わせていき、蜜に濡れたそこに指を挿しいれた。  
「あっ、…んぁあ…」  
熱を帯びたそこは人差し指についで中指も飲み込み、  
ハボックの指の動きに合わせて愛液を吐き出す。  
「熱いですね、中尉の中……」  
耳元で囁かれる声は、いつもの低い声ではなく。リザは奇妙な感覚に囚われたが、  
絶え間なく与えられる刺激によってそんな違和感はあっという間に拭い去られた。  
「しょう、い……」  
物欲しそうにリザが呟く。  
「欲しいんですか。…おねだりして下さいよ、いつも大佐にするみたいに」  
「おねが…も、ほし……っ」  
リザがあられもない表情で懇願する。彼女の横顔を見て、ハボックはごくりと  
生唾を飲んだ。これがあのホークアイ中尉か。普段の冷静沈着な彼女からは  
想像もつかない痴態を目の当たりにし、ハボックのそれはこれ以上ないほど怒張した。  
彼女の望みどおりそれを下の口に突きつけ、後ろから激しく貫いた。  
「やあっ!だめ、わたし……っ」  
どこか躊躇いがちな声音に、ハボックは僅かに眉を潜める。こんな時でもやはりまだあの  
上官のことを考えているのだろうか。そんな考えを振り払うように、更に激しく腰を動かす。  
「あっ、んぁ、ああぁっ……!」  
 
 
達した後、リザはそのまま眠ってしまった。その無防備な寝顔を見つめながら、ハボックは  
しばし至福の時を過ごす。ずっとこうしたかった。だが、まさか念願叶って彼女とこうして  
結ばれることが出来るなんて。正に夢のようだ。ここ最近、リザはずっと浮かない顔をしていた。  
その原因は分かっている。あの黒髪の上官だ。リザとロイの関係をハボックは知っていた。  
二人は隠しているつもりらしいが、様子を見ていれば誰だってすぐに分かる。ことに、気がつけばリザを  
目で追っているハボックはいち早くその事実に気付いた。執務室から聞こえてくる、  
必死で抑え付けたような甘い声を耳にしたことさえある。  
彼女を悲しませてあんな顔をさせる上官を、彼は恨めしく思った。自分だったら、彼女に  
あんな顔はさせない。あんな思いは。そこでハボックは、駄目もとでリザを飲みに誘った。  
すると、意外にも彼女は承諾してくれたのだ。酒が進むにつれ彼女は段々本心を漏らすようになり、  
後は成り行きに任せたといった方が正しい。  
 
幸福を噛み締めながら煙草をふかしていると、ふと小さな声が聞こえてきた。  
「ん……」  
リザが寝言を言っているのだと知り、ハボックは破顔して彼女の口元に耳を寄せた。  
「…大佐……」  
その声を聞いてハボックははっとした。彼女が夢の中で見ているだろうその男のことを、ハボックは  
憎らしく思った。たまらなくなってリザを抱き締め、  
「中尉、……リザ」  
その声が届かないことを知りつつも、耳元で初めて、彼女の名前を呼んだ。  
 
(夢じゃなかったのね……)  
目覚めて自分を抱き締める男の寝顔を見た時、リザが最初に思ったのはそれだった。  
ぼんやりと残っている記憶の断片、それらはみな現実だったのだ。しかし  
ゆうべのことを思い出そうとしても、頭に走る鈍い痛みで上手くいかない。そこで初めて、  
昨日ハボックと飲みに行ったことを思い出した。  
(飲みに行って……それから……)  
そうだ、ガラにもなく自棄酒をしてしまって、ハボックに泣きついて。そして今、  
自分はハボックの腕の中にいる。覚醒するにつれて、徐々に記憶が鮮明になっていく。  
(私……とんでもないことを)  
酒の勢いと言ってはなんだが、事実それは冷静な判断力を取り戻した今になって  
考えてみると明らかな暴挙だった。リザはごちゃごちゃになっている記憶を整理し分析する。  
 
「何かあったんスか?」  
薄暗いバーで、ハボックが軽く笑みながら言った。その笑顔には不思議と人を和ませる力があった。  
「え?」  
「いや、最近なんか元気なさそうだから」  
「…ちょっとね」  
「大佐、っスか」  
本心を見抜かれ、リザは平静を装ってグラスに口を付ける。  
「やだ、違うわよ。少尉」  
「ホントかなー。だって中尉たちって……」  
「やめて。ほんとに違うの」  
と言いつつ、酒が進むとリザは独り言のように愚痴をこぼし始めた。  
「嫌になるわよね、ホント……」  
「相談乗りますよ、俺」  
「ありがと。……だって…私のことどう思ってるのかしら、あの人」  
「大佐?」  
そう、とリザは頷く。  
「わかってるわ、あの人は最初から私のことなんかどうでもいいんだって。  
 どうせ私なんか、魅力ないし……」  
「そんなことないですよ。中尉は……魅力的だと思います。大佐の見る目がないんスよ」  
 
「…お世辞でも嬉しいわ、ありがとう」  
お世辞なんかじゃ、と否定した後、ハボックはたずねた。  
「中尉は、大佐のことどう思ってるんですか」  
「尊敬してるわ、護りたいと思う……それは変わらない。でも…何だかもう、辛くって……」  
そして、不覚にも泣いてしまった。鬱積した感情が一気に吹き出てしまったのだ。  
ハボックは優しく肩を抱いてくれた。  
「…俺じゃ駄目ですか」  
「えっ…?」  
言葉の意味が理解できずに問い返すと、  
「ちょっと出ましょうか」  
と言って彼は席を立った。勘定を終わらせ、リザの腕を引いて店を出る。  
それから少し歩き、路地裏に出た。ハボックは立ち止まり、リザの両肩を掴んで言った。  
「前から思ってたんです。大佐といると中尉はなんか悲しそうで……それなのに何で  
 ずっと一緒にいるのかなって」  
「それは……だって私たちは――」  
「俺じゃ駄目ですか」  
真っ直ぐにリザの瞳を見据え、いつにない神妙な面持ちでハボックが再び訊ねた。  
「俺なら、中尉に悲しい思いなんかさせない。あんな奴より、絶対幸せにしてみせる」  
「ハボックしょ……んっ」  
不意に唇を塞がれた。抵抗しようと思えば出来たが、不思議とそんな気持ちにはならなかった。  
それから二人でホテルに行って、今に至る。  
 
疲れていたのだ、と思った。ロイとの先の見えない、体だけの関係に疲れたのだと。  
またロイは他の女性との噂が耐えなかった。何人もの女性と同時に付き合い、  
飽きればすぐに捨てるというような交際の仕方を今でも続けているらしい。  
リザは一度、真相はどうなのかと聞いてみたが、案の定はぐらかされてしまった。  
そんな中で何年も一緒にいる自分が未だに彼に抱かれているという事実にリザは  
内心驚いていたが、他の何人もと同時進行しているおかげでそれが成り立っている  
のだと思うと愉快ではなかった。しかし彼を束縛することはリザには出来なかった。  
しようと思えば出来たかも知れない。だがそうすることでロイに飽きられて、あるいは  
愛想をつかされて捨てられるかも知れない、と思うとどうしても踏み切れなかった。  
体だけの関係と哂いながら、それに必死でしがみ付いている自分が悲しい。  
ただそれでも、やはりリザは彼に心底惚れていて、それはもう理屈でどうにかできる  
領域を超えていた。言ってみれば、人間が酸素を必要とするのと同じように、リザは  
ロイを必要としているのだから。だが同時にこんな関係をいつまでも続けていても仕方ない、  
と冷静に考える自分もいた。ロイに執着したって、どうせ振り回されて傷つくだけだ。  
それを考えると、ハボックの誘いに乗ったのもあながち間違いではなかったかも知れない。  
ハボックの寝顔を見ながら、リザはしばし思案に耽る。彼なら、きっと大事にしてくれる。  
身勝手な上官といるより、よほど幸福になれるだろう。それにもう既成事実が  
出来てしまっているのだ。後にも引けまい。リザはそう思うことにした。  
 
 
その日の朝、リザは一旦自宅に帰ってから東方司令部に向かった。仕事が  
終わったらハボックとのことをロイに話そうと思っていたのだが、廊下で彼の  
姿を見るとその決意が揺らぎそうになった。  
「おはようございます」  
「ああ、おはよう」  
ロイはいつもと同じ声の調子で挨拶を返してきた。ただ、その双眸が  
妙に鋭いのが少し気にかかった。だがこれはリザの気のせいだろう。自身の  
罪悪感でそう感じるだけだ、と自分に言い聞かせた。実際その後執務室で  
顔を合わせてもロイの様子はいつもと変わらず、やはり自分の考えすぎ  
だったのだとリザは納得した。  
 
しかし、それが気のせいではなかったことにリザは気付くことになる。  
定時になって同僚達が去ってから、リザは完成した書類を受け取るため  
執務室に向かった。  
「失礼します」  
中に入ると、ロイは立ったまま窓の外を眺めていた。リザに気付いて  
おもむろに振り返ると、その目は朝と同様、やはり鋭い光を放っていた。  
「私に何か言うことはないかね、中尉」  
「…と、おっしゃいますと」  
思わず白を切ってしまう。  
「昨日はどこに行ってた」  
リザはどきりとした。何故そんなことを聞くのだろう。まさか知っているのだろうか。  
ハボックにはリザが自分で話すまで何も言うなと言っておいたのだが、  
もしかしたら彼が漏らしたのかも知れない。だが彼は今日非番だし、わざわざ  
電話で言ったということも考えがたい。それにロイは朝から機嫌が悪かった。  
リザはロイの目を見ないようにしながら、デスクの上の書類を手に取った。  
 
「出かけていました。何故ご存知なのですか」  
「夜中に電話したんだ、君の家に」  
そうですか、と言ってリザは部屋から去ろうとする。が、腕をロイに掴まれた。  
「待ちたまえ、話はまだ終わってない。一人で出かけたのか」  
「いえ、ハボック少尉と。飲みに行っていました。それが何か?」  
「飲みに行った…?それだけか?」  
「質問の趣旨を図りかねますが」  
「あいつと寝たのか」  
リザはあからさまに溜め息をついた。  
「それしか興味がないんですか」  
「寝たのか?」  
ロイは珍しく詰問口調で訊ねた。リザは少し俯いて黙っていたが、  
意を決して口を開いた。  
「ええ」  
すると、ロイは声を上げて爆笑した。だがその笑い声は  
リザの耳にはどこか乾いて聞こえた。  
「はは、それは新手の冗談かね、中尉」  
「いえ、事実です」  
笑うのをやめて、ロイは真顔に戻った。  
「本当に?」  
「はい」  
「…そうか」  
怖いほど、静かな声だった。ロイは怒ったりするとかえって感情が読みにくくなる。  
だが長年の付き合いだ。彼が怒っていること、それも今まで見たことがないほど  
激怒していることがリザには分かった。しかし、リザは言わなければならなかった。  
 
「ですから、もう大佐との関係を続けるわけにはいきません」  
「何で」  
「何でとおっしゃられても。私には大佐のように色んな相手と同時に  
 関係を持つなんてこと出来ませんから」  
「上官命令でも?」  
茶化したように彼が言う。  
「……私は、あなたが上官だから体を許したわけじゃありません」  
一瞬、ほんの一瞬だけ、ロイが表情を歪めた。  
「手を」  
未だに自分の手首を掴んでいるロイの手から放れようと手を引くと、  
逆に強い力で引っ張られ、気がつけば壁に押し付けられていた。  
「何を……離して、離して下さい!」  
抵抗しようともがくが、両手を壁に縫いとめられ、自由が利かない。  
ロイは無言でリザの唇を塞ぎ、拒絶の言葉ごと奪おうとする。  
「大佐…ンっ……いや…ぁ」  
リザは何とかキスから逃れようとするが、ロイは彼女の顔を両手で挟んで  
固定し、それを許さない。追い詰められて銃を取り出そうとすると、ロイは  
恐らく読んでいたのだろう、あっさりとリザの手から銃を奪い取ってしまう。  
一旦唇を離すと、  
「上官に銃を向けるのかね?軍法会議ものだな」  
そう言って無情に銃を投げ捨てた。リザは男の力に屈するしかなかった。  
それをいいことにロイは先ほどよりも更に深く口付ける。無理矢理唇を  
割ると、舌を絡めて歯列をなぞり、彼女の口内を隅から隅まで侵していく。  
ロイが唇を動かすたびに響く湿った音、彼の唾液が口の中に入ってくる  
感触、舌の付け根までも侵されるような舌の動き。それらの刺激が  
折り重なって、リザは気が遠くなるのを感じ、抵抗する気力も  
なくしてしまった。  
 
ロイがやっとリザの唇を開放した時には、彼女はすっかり息を荒くし、  
ぼんやりとした頭で目の前の男に浴びせる罵倒の言葉を考えていた。  
だが彼女の口からは、ただただ熱い吐息が漏れるばかりだった。  
ロイはそんなリザを見て嘲るような笑みを浮かべ、軽々と彼女を  
抱き上げて傍のソファーに下ろした。  
「やっ……!」  
リザの上に覆いかぶさり、動きを封じる。軍服を脱いでシャツとズボンという格好に  
なると、今度はあっという間にリザの上の軍服を脱がせ、白い首筋に顔をうずめた。  
「大佐……こんな、ことっ……」  
「ハボックにはどうやって抱かれたんだ?」  
言いながら黒のハイネックを捲り上げる。  
「あっ……だめ!」  
「あいつがしたのと同じようにやってやろうか」  
「おねがいです…私は…っあ」  
首筋を這っていた唇が胸元に移り、リザは身悶えした。  
「んんっ、んぅ……ぁ、ん」  
桜色の先端を舌で転がされ、リザは声を漏らすまいと強く  
唇を噛み締める。一方、その滑らかな肌に赤い痣が  
浮かんでいるのを見て、ロイは顔を顰めた。  
「そうやって君は……体まで私から離れていくわけだ」  
苛立ちとはまた別の激しい感情が、その低い声には滲み出ていた。  
それきりロイは何も言わず、ひたすらリザの体をまさぐり続けた。  
 
執拗に胸を愛撫され、リザが耐え切れずにすすり泣くような声を上げる。  
「ゃ…あぁ、んっ……ぅん」  
本当は下に触れて欲しいのに、ロイはズボンには手を掛けようともしない。  
こんな状況でもやはり彼を求めてしまう自分に気付き、リザはどうしようも  
なくなってとうとう涙を流した。その涙を見、ロイは自責の念に駆られた。  
リザがただ焦燥感から泣いているわけではないことは分かっていたが、  
この怒りはやはり静まりそうにない。だから敢えて知らないふりをすることにした。  
どこまでも非道な上官を貫き通すことに。  
「それはちょっと虫が良すぎるんじゃないかね、中尉」  
リザの泣き顔を見下ろして呟く。  
「泣けばそれで済むと思ってるのか?」  
顔を逸らそうとする彼女の顎を掴み、無理矢理自分の方を向かせた。  
「っ……わたし、は……」  
「自分で慰めたまえ」  
「え…っ…」  
「自分でしろと言ったんだ。じゃなきゃ割に合わないだろう?」  
「そんなこと……!」  
「やれ。ほら、脱ぐんだ」  
リザは仕方なく、言われるままにズボンを脱いだ。  
「下着もだ。分かるだろう」  
「いや、です……」  
「…仕方ないな」  
そう言ってロイはリザを膝の上にのせ、後ろからリザの手をとって下着の  
中へと導いた。そこは既に熱く、濡れている。濡れすぎているほどだった。  
「いつもより濡れてるんじゃないか?まったく……どうしようもないな」  
リザの細い指を、蜜をたたえた秘裂に触れさせる。  
「出来ないのか?ホークアイ中尉」  
いつもなら情事の時は名前で呼ぶのに、今日はあくまでも階級で彼女を呼んだ。  
それが一層リザの羞恥心を煽る。恐る恐る指を動かすと、ロイに触られる時とは  
少し違う刺激が彼女を襲った。一度味わうと、もうやめられない。どんどん指の  
動きは激しくなっていき、水音が秘所から漏れ始める。  
 
気がつけばロイに促されるまでもなく、リザは自分からそこを弄っていた。  
「んっ、ぁ…ふ……っ」  
「やれば出来るじゃないか」  
後ろから乳房を愛撫しながら、ロイが耳元で囁く。  
「これならもう私の助けはいらないな?一人でイクかね」  
「いやっ…やだ、たいさ……ぁ」  
ロイはリザの下着をずらし、濡れそぼった蜜壷に指を入れる。  
既にロイを受け入れる準備の出来ているそこは、何の軋みもなく彼の指を  
飲み込んだ。二本、三本と本数を増やし、ロイは不規則に指を動かして  
熱い肉壁を擦った。その動きに合わせてリザが悩ましい声を上げる。  
「あんっ、ぅん……やぁ、っ……は」  
溢れ出る愛液を抉り出すように激しく指を動かすと、蜜はリザの腿を伝って  
膝の方にまで流れ落ちた。ロイは勢いよく指を引き抜いた。  
「あっ……」  
物悲しそうに、リザが声を上げる。懇願するような目でロイをじっと見つめた。  
ロイはそんなリザをソファに横たわらせ、股を大きく広げさせた。リザは  
身悶えこそしたが、もう脚を閉じようとも逃げようともしなかった。  
彼女はただただ、焦がれる思いでロイを待っている。  
ロイは目の前に露になった彼女の恥部に顔を近づけ、舌で蜜を舐め取り、  
吸い、既に膨らんでいるものを更に愛撫した。リザの体のことは彼女以上に  
よく知っているつもりだった。彼女の感じる箇所を余すところなく刺激してやる。  
あまりの刺激にリザが思わず股を閉じようとするが、ロイは両脚を強引に  
押さえつけて更に責め立てる。舌を巧みに動かし、くちゅ、と淫らな音を立てる。  
その音にリザはますます興奮するようだった。  
「んぁっ…ゃん、はあぁっ……やあっ!」  
白い肢体を弓反りにし、リザが達した。彼女が回復するまで待とうかとも  
思ったが、今のロイにはそんな余裕はなかった。自分のズボンを下着ごと  
下ろすと、リザの両脚を抱え上げ、いまだヒクついているそこに  
いきり立った自身を宛がう。蜜に濡れた陰唇がロイを奥へ誘うように蠢いた。  
 
飽くことなく何度も激しく突き上げると、リザが切なそうに咽び泣く。  
「ゃめ…っああ……んあぁ!あ、あっ」  
奥を突くと、リザの声が一際高くなる。少し引いて、今度はゆっくりと動かす。  
そしてリザの表情を見つめながら、再び貫いた。  
「ああっ――…!」  
きつく締め付けられ、ロイは怒張を彼女の中に思い切り放った。しかしそれでも  
まだ己の劣情の全てを吐き出すことは出来ず、腰を上下させ、無理矢理リザの  
膣を押し広げる。そのうち、彼女の腰も自然に動き出した。ロイは無意識のうちに  
リザと唇を重ねていた。貪るようなキスに、全身が火照るのを感じる。だが  
体は快楽を欲しそれに飲み込まれようとしているのに、心はどこか苦しくて痛い。  
リザの切なげな表情を見るに、多分彼女も同じなのだろうと思う。  
その痛みを忘れ去ろうと、ロイは肉棒を思い切り彼女の中に叩き付けた。  
「っ…!んぁ…――」  
リザの口から声にならない声が漏れる。二度目の射精の後、彼女は  
とうとう全身の力が抜けてぐったりとし、ロイも彼女の上に倒れ込んだ。  
二人の湿った吐息が重なり合い、執務室にこだまする。ロイは名残惜しむように、  
脱力したリザを抱き締めた。こうしている間は、彼女は自分だけのものだと  
感じることが出来た。誰にも渡したくないと切実に思う。彼女の体だけが欲しい  
わけでは決してない。だが彼女の心を自分が手に入れることは恐らく出来ないだろうと  
ロイは前から思っていた。だから、せめて体だけでもいいから繋ぎとめて  
おきたかった。だが彼女は自分から離れていこうとしている。もうこうして  
彼女と事後の余韻を楽しむこともないのだろうか。信じられなかった。  
ロイは何の根拠もなく、彼女が自分を捨てることはないだろうと思っていたのだ。  
 
少し落ち着いてから、ロイは自分とリザの乱れた着衣を直し始めた。  
リザは激しい情事の後でなかなか体を動かす気力が起きないらしく、  
ソファに寝そべったままロイの横顔を見つめていた。  
「大佐……どうして、私を抱くんですか」  
彼は答えず、逆にリザに質問を返した。  
「ハボックは君から誘ったのか」  
「……それは」  
「いや、いい。…今日のことは忘れたまえ」  
「大佐」  
「何だ?まだやり足りないのかね」  
そうやってわざと話を逸らそうとする。彼女の口から事実を聞きたくなかった。  
「どうして大佐は……いつもそんな風なんですか。私はあなたの気持ちが  
 知りたいのに、あなたはすぐ誤魔化そうとする」  
ロイは黙り込んだ。  
「あなたが分からない。あなたといると私はいつも振り回されっぱなしで……  
 
 どんどん自分が駄目になっていく気がするんです」  
「だから、あいつと寝たと?」  
リザは頷いた。ロイは彼女が本当に言わんとしていることに気付かなかった。  
それならば自分は身を引いた方がいいかも知れない、と半ば決意を固めていた。  
「…ま、よくよく考えてみれば、私も君の行動についてとやかく言う権利はないしな」  
場違いなほど明朗な口調で言った。  
「別れよう。もっとも、元々そんな大層な関係でもないがね。お互いのためにも  
 こうするのが一番いい。もうこれっきりだ。いいね?私も男だ、一度言ったことは守る」  
リザは呆然とロイの言葉を聞いていた。妙に現実感のない、不思議な気分だった。  
「私が、大佐を上官としてお慕いする気持ちは……変わっていません」  
「…分かっているよ」  
やはり、分からない。あんなに激しく自分を抱いておいて、こんなに穏やかな  
笑みを浮かべる彼の心が理解できなかった。自分が悲しいのか悔しいのかも  
分からないまま、リザは俯いて涙を流す。ロイはそれに気付きながらも、  
ただ見て見ぬふりをすることしか出来なかった。彼は一人執務室から出て行った。  
 
二人の擦れ違ったままの関係は、いつまでも終わらなかった。  
 
 

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