彼は目を放していると仕事をすぐサボる。  
暇ではないのに自分が暇だと軍の回線を使って女のところに電話をかける。  
仕事が終わると毎回違う女性とデートする。  
だが、頭は良く、かなりの切れ者。  
容姿もまあまあ。  
そして自信過剰で野心家でもある。  
 
ロイ・マスタング大佐  
━━━ 私はあの男が嫌いだ ━━━  
 
 
私は役職上、大佐の護衛も兼ね付いて行動するので二人きりになる事が多い。  
車の中、資料室、視察先の建物やホテル・・・。  
彼は、そういった状況になると私の腰に手を回し軍服の中に手を入れてくる。  
現に私は今、彼の執務机の上に組み敷かれていた。  
外から見えないようにカーテンを閉め、残務処理をしている私を後ろから抱きしめ上着のボタンを外す。  
「ダメですよ、大佐…。みんなすぐ戻ってきますから…んっ…」  
既に彼の手は私の胸を弄っている。  
「スリルがあっていいと思わないか?」  
耳元で囁くと私のピアスを舐める。  
手首を掴むとグイと引っ張り、執務机まで連れて行かれる。  
「君の机の上ではせっかく処理した書類がバラバラになってしまうからね」  
そう言い、首筋に唇を這わせながら私を仰向けに押し倒したのだ。  
彼は私のインナーをたくし上げると片手で両方の乳房を揉みしだく。  
突起を指でつまみ弄んでいる。  
「んっ…あぁん━━━」  
 
彼は沢山の女性を抱いている。  
女性をどう扱ったら感じるかも知り尽くしている。  
私も彼と肌を合わせる事で性感帯を開発してもらったようなものだ。  
私は大佐の事は好きではないが彼と“する”のは嫌いではない。  
どちらかと言うと『好き』なのだと思う。  
というよりは“私とセックスをしている彼”が好きなのだろう。  
彼の触れるところが熱くなり身体がとろけそうになる。  
私は職務中である事を忘れるほど女になってしまう。  
 
そして“彼の事が好きな女”を演じる。  
 
「んぅんっ…大佐…早く…」  
私は大佐の顔を両手で軽く覆うと自分から口付けをする。  
彼の空いている方の手は、私のズボンのボタンを外しジッパーを下げ下着の中へ潜り込む。  
繁みを這い花びらに到達すると指を中に入れ蜜を溢れ出させる。  
「ぁ…んぅ」  
甘い痺れが身体中を包み込む。  
「・・・・。中尉」  
「…っ、はい…」  
「君は…私の事を嫌っているのに何故抱かれるんだ?」  
 
私はギョッとした。  
 
彼は手の動きを止めずに言葉を続ける。  
「んんっ…ぅ…」  
「気付いてないと思っていたのか?何人も抱いてると相手が私の事をどう思っているのか分かるんだよ」  
私の蜜がたっぷりついた彼の指がつぼみへと移動し触れる。  
「ああぁんっ」  
身体がビクンと跳ね上がる。  
「まぁ…、そんな女性も好きだがね」  
乳房を舐め吸い付く。  
私は身体をひっくり返され、うつ伏せにされるとズボンを下ろされる。  
大佐は自身の物を私の入口にあてがい貫くと腰を動かす。  
「あっ!あんんっ…ぅんっ」  
彼の肉棒が私の膣壁を擦り上げる。  
片方の手で腰を押さえ、もう片方の手で小さく敏感なつぼみを擦りながら撃ち付ける。  
私を快楽の絶頂へと誘うと同時に私の中に彼の熱い液体が流れ込む。  
私達は余韻に浸ることも無い。  
お互いに身体を離し、大佐は「ふぅ━━━」と一息つくと私を見る。  
「君が私の事をどう思っていようが私の副官であることには変わりない」  
着衣を整えると彼は何事も無かったかのように  
室内に常備してあるコーヒーサーバーを手に取りコップに注いでいる。  
「中尉もいるかね?」  
「・・・。はい」  
 
 
  ━━━ 副官・・・。  
 
リザがロイと初めて関係を持ったのは彼の部下として配属されて間もない頃だった。  
祖父のグラマンは  
「マスタング君は若くして少佐になった優秀な男だ。いづれは大総統にもなれる器を持っとる。  
彼の傍にお前を預けていれば安心だからの〜」  
と、いつもリザに言っていた。  
配属され彼に初めて会った時にはビックリした。  
もっとゴツイ感じか、神経質そうな感じを想像していたが、  
その辺の街を歩いていそうな普通の男性だったからだ。  
「マスタング少佐、彼女が前々から話しをていた私の孫娘のリザだ。  
今日から君の副官として傍に置いてやってほしい」  
グラマンに紹介され、リザは  
「宜しくお願い致します!」  
と敬礼をしたが  
「流石、御自慢の孫娘さんはお美しい。将軍だけでなく御両親も心配される事でしょう」  
「そうだろ、そうだろ?だが頭が硬いのが難点なんだが、  
君のような男の傍に居させるのが一番いいんだよ」  
はっはっはっ、と二人は笑い彼女など眼中に無い様子だ。  
しかし、  
『“変わり者”と言われている祖父と気が合ってるようだし、“好青年”って感じかしら?』  
とリザはロイに対して好印象を抱いた。  
暫く二人は他愛も無い話をしていたが  
「それではリザをよろしく頼むよ」  
グラマンはそう言って退室をした。  
するとロイはリザの方を向き腕を組むと  
「ふぅ…む」  
と彼女を上から下まで舐めるように見る。  
「これは本当に美しいね」  
ニヤリと笑いながら言った。  
リザは“これ”ってどういう事よ!?と思いカチンときたが配属されたばかりでイザコザは避けたい。  
「リザ・ホークアイ准尉」  
「はい」  
「君は“副官”の本当の役割を知っているのかね?」  
「・・・?本当の…ですか?」  
「分からなければいい、いづれは知ることだ。  
君の仕事は机の上にある、分からない事は他の者に聞け」  
そう言うとコートを羽織り出掛ける準備をしている。  
 
「あっ…あの、少佐。どこに行かれるのですか?」  
ロイは立ち止まり  
「街の視察だよ。二時間で戻ってくる」  
無表情で答えると部屋の外に出て  
「おいっ、もう入っていいぞ。ホークアイ准尉の手伝いをしてやれ」  
歩きながら言うと彼は外出してしまった。  
『何よ!?あの男!感じ悪い。人の事バカにして!  
お祖父様の前と態度が大違いじゃないの!  
お祖父様は“彼は女性に優しい”って言ってたけど絶対に嘘よ!』  
リザはロイに憤慨した。  
 
翌日も翌々日も一週間経ってもリザはロイの良さがますます分からなくなってきた。  
仕事はサボる。  
仕事中に女へ電話する。  
「面倒くさい」と言って仕事を後回しにする。  
その所為で残業を強いられる私達を置いてデートに行く。  
『女性に優しいのではなくて女にだらしないだけね』  
リザのロイに対する嫌悪感は増していくだけだった。  
そんな時、二人は調査でセントラルへ行く事になった。  
中央司令部へあいさつに行き国立図書館へと向かう。  
特別室へ足を入れると鍵をかける。  
「“副官”の本当の役割を教えてやろう」  
ロイはリザが返事をする前に彼女の頭を掴み固定をして唇を奪った。  
「―――っ!!」  
もう片方の腕は身体に回し、お互いの身体を密着させる。  
リザはロイの身体を引き離そうと身をよじり抵抗していると足が縺れソファに倒れ込む。  
その瞬間ロイの唇が離れた。  
「いきなり何をなさるのですか!?」  
自分の唇を腕で覆い隠しながら言った。  
「聞こえなかったのか?副官の本当の役割を教えてやると言ったんだ。  
将軍から聞いてなかったみたいだからね」  
そう言いながらリザの上着を手早くぬがしていく。  
「いっ!いやあぁっ、嫌です、そんな事…!んんっ!」  
ロイはリザの口を押さえた。  
 
「静かにしたまえ。手荒なマネはしたくないから、おとなしくしていてほしいんだがね。  
“女性”が副官になるというのは、そういう事なんだよ。軍も黙認している、諦めたまえ」  
ロイはリザの抵抗しようとする意志を削ぐと、時間をたっぷりとかけて愛撫し、  
彼女の薄い膜を突き破り、自分の欲望を満たした。  
リザは初めての体験とその屈辱とで涙を抑える事が出来なかった。  
今までした事の無い体位に異物の挿入で身体中が痛くソファにぐったりと横たわっている。  
そんな彼女を横目で見ながら  
「君からすれば理不尽な事だろうが、これは君の仕事の一つだ。  
割り切って考えてもらいたい。」  
リザは返事をする気力もない。  
「それと…、まさか初めてだとは思わなかった。  
少し配慮が足りなかった事は詫びよう。申し訳ない」  
ロイは反対側のソファに腰をかけると資料をパラパラと捲っている。  
「少し休んで身体がいう事を利くようになったら手伝ってくれたまえ。  
次からは直ぐに元の体勢に戻れるようにしてもらうので、そのつもりで」  
彼の淡々とした口調に優しさなど微塵の欠片も感じられないが、  
とりあえず重い身体を休ませる為ゆっくりと目を閉じた。  
 
その日を境に二人きりになると、リザは職務として果たさなければならなかった。  
時には嫌がる彼女を手篭めにする事もあった。  
リザとしても仕事と割り切らなければならないと頭では分かっていても、  
すぐに割り切れる行為ではない。  
  “初めての人は好きな人と…”  
女性であれば誰でも普通に抱く感情である。  
しかし、それは『軍の職務』として上司に奪われてしまった。  
だが、回を重ねる毎に“苦痛”でしかなかった行為が“快感”へと変わっていく。  
不謹慎ではあるが辛い軍務の中の楽しみの一つとなっていた。  
ただロイはどうしても好きになれない。  
仕事をサボる事はまだ良いとして、毎夜違う相手を抱いていると思うだけで  
汚らわしいような気がするのだ。  
職務が忙しくてデートが出来ない日が続くと、その鬱憤を晴らすように  
抱いてくるのも腹立たしいのだが、嫌な態度をとると過剰に制服したがる傾向がある為、  
少しずつではあるが、彼に気がある振りをする事にした。  
ロイはリザの変化にご満悦のようだった。  
 
 
ある日、車での移動中  
「今日はホテルを予約した。一緒に食事でもどうかね?」  
ロイは業務を申し付けるように聞いてきた。  
とはいっても“Yes”としか答えてはいけないのだが。  
リザは『珍しい事もあるものね』と思いながら彼を見る。  
「今日は他の方とのお約束が無いのですか?」  
「何を言ってるんだ、君は?君を誘っているんじゃないか」  
いつもと変わらない無表情な横顔。  
どうせ友人と約束をしていても軍務優先の身。  
リザには断る理由は無い。  
「ありがとうございます」  
そう答えると運転に集中する事にした。  
夕刻になるとロイは「お先に」と一足先に出て行った。  
リザは仕事を手早く済ませ、私服に着替えてホテルへ向かう。  
ロビーに入ると彼はお酒を楽しんでいるようだった。  
「遅くなりまして申し訳ありません」  
軽く礼をして彼の傍へ寄る。  
ロイはジッとリザを見ると  
「うん。私服もいいもんだね。いつもみたいに纏めてる髪型も似合ってるが、  
下ろしてるのも似合ってるよ」  
歯の浮くセリフを微笑みながらサラリと言う。  
「ありがとうございます」  
リザもニコリと笑い御礼を言ったが  
『他の女性には通用するかもしれないけれど、  
そんな事言われて私が喜ぶと思ったら大間違いよ』  
と内心思っていた。  
食事を終えると部屋に案内される。  
リザは「わぁ…」と少し歓喜の声をあげ窓に近づく。  
「ここからの眺めはキレイだろう?」  
「ええ…とても。ステキ…」  
この景色もすぐにカーテンを閉められ見れなくなる。  
「この部屋は、ここの一番のスイートだからね」  
「私なんかに…。もったいないです」  
「そんな事はない。君は将軍の大切なお孫さんなのだから、それなりの扱いをさせて頂くよ」  
そう言いながらロイは後ろから手を回しリザを抱きしめる。  
「シャワー…浴びてきます」  
スルリと抜けるとシャワー室へと向かった。  
『少佐ってば本当に女をバカにしてるわ。もう少しで騙されるところだった』  
リザはどんなに腹を立てようが彼の前では顔に出さない。  
 
ロイはリザをベッドへ押し倒し、彼女をじっくりと味わう。  
快楽の頂に達すると二人は抱き合ったまま眠った。  
次の日、朝日がリザの顔に当たり目覚める。  
カーテンを開けていても景色など見ないのだ。  
「ん……少佐…?」  
気が付くとロイはリザを後ろから抱きすくね乳首をずっと弄っていた。  
『何だか子供みたい』  
 
その癖は今でも変わらない。  
朝まで一緒に過ごすと必ず同じ体勢で朝を迎える。  
今は慣れたが、最初の頃は気になって夜中に目が覚める事もあった。  
 
リザは起きると服を着て  
「お先に行きます」  
と耳打ちして部屋を出た。  
 
それから数年、彼の副官として仕えてきた。  
少佐は大佐に、私は准尉から中尉へと昇進した。  
彼への態度を自分なりに変えていたつもりだったのに、それを今になって衝かれるとは思わなかった。  
 
「どうした?ぼんやりとして」  
大佐はコーヒーを注ぎいれたコップを私の目の前に差し出していてくれていた。  
「あ…すみません」  
彼は席に着き、つい先程まで私が横たわっていた机に新聞を広げ見ている。  
「髪が乱れている、君らしくないね。最近疲れているんじゃないのか?」  
「大佐がサボらずに仕事をこなしてくだされば私の疲れも溜まりません」  
髪の毛を結い直しながら言う。  
「む…。」  
大佐はバツが悪いといった顔をしていた。  
 
私は席に戻るとペンを取り、書類の整理を始めたが  
「大佐…先程の質問の件ですが…」  
口を開いてしまった。  
「うん?」  
「大佐は私が貴方のことを嫌っているのを知っていて私を抱いている訳ですか?」  
「そういう事になるね」  
ペンの動きを止め彼を見るが、新聞を見ながらコーヒーを口にしている。  
「何故ですか?」  
「なんでだろうね?」  
間髪を入れない返事に詰まらない事を聞いたと思った。  
こんな事を聞いても仕方ないのは分かっているのに…。  
どうして聞いてしまったのだろうか?ペンを再び動かす。  
「…。君が大切だからかな」  
「…え?」  
「私はここ数年、君以外は抱いていないのだが…?」  
そう言われれば大佐は最近残業に付き合っている気がした。  
「それに、私が君の事を要らないと言ったら、君が他の中年大佐共や将軍に  
副官として取られるのは面白くないね」  
そうなのだ。彼は国家錬金術師の特権で若くして大佐の地位にいるが、  
本来なら50歳くらいの年齢なのだ。  
「それでは私ももう一度聞くが、君は嫌いな男に抱かれるのは平気なのか?」  
彼と目が合う。  
「私は…貴方の副官です。…命令に従うだけ…」  
「…そうか」  
大佐はそのまま新聞に目をやった。  
私の胸の鼓動が早くなるのが分かる。  
胸が締め付けられる。  
「なんて…ネ…」  
もしかしたら私は彼の事がずっと好きだったのかもしれない。  
自分の事など眼中に無いと思っていた彼が、私の心境の変化に気付いていた事が  
彼を“嫌い”から“好き”に変えてしまったのかもしれない。  
「大佐は…何も分かってらっしゃらない…」  
「ん?」  
 
 
ロイ・マスタング大佐  
━━━ 私はこの男性(ひと)をずっと守っていこうと思った ━━━  
 
 
 
                  おわり  
 
 
 

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