彼は自分の事を“大佐”と呼ばれるのを嫌う。  
今は慣れたけれど、最初の頃はつい呼んでしまいそうになっていた。  
「ロイ…」  
彼は優しい瞳で私の方に振り向く。  
 ――― 先日までの野心に満ちた瞳の欠片もない ―――  
部屋に一つだけあるベッドの側へ行き腰かけると私はロイにキスをする。  
彼の身体に腕を絡め何回も何回も唇を重ね長いキスをする。  
私は体重をかけ、ゆっくりとロイをベッドに押し倒す。  
そうするとやっと私の身体に手を回してくれるから…。  
私はロイの頭をくしゃくしゃにしながら撫でる。  
ロイは私の背中を弄った後服の下から手を入れてくる…。  
 
 
━━私と彼は大総統の一件以来、私の部屋で暮らしている。  
ヒューズ准将の復讐を果たした彼は大総統宅の玄関先で彼のご子息と倒れていた。  
大佐は大怪我をしていたのだ。  
彼を一目見た時、死んだのかと思い彼にすがり泣いてしまったが、彼に脈があるのを感じた。  
私はアーチャー大佐が乗ってきた車に大佐を乗せると遠くの病院へと向かった。  
一刻を争う事なのは分かっていた。でも、近くの病院に連れて行く事は出来なかったから…。  
 ――― “マスタング准将”は大総統の命を狙った反逆者だ! ―――  
近くの病院だと早く見つかってしまい軍に連行されてしまう。  
重罪が下ることは確実だったからだ。  
かといって遠くに行くと車では日数がかかってしまうし…。  
私はあまり離れていない、軍に縁の無い田舎の大きな病院へ連れて行った。  
診療中、看護婦が尋ねてきた。  
「この方のお名前を教えてください」  
私は躊躇した。  
「ロ…ロイ……ホークアイ…です…」  
咄嗟に出た名前だけど彼の名前を言う訳にはいかなかった。  
私の名前を出してしまった事を後悔したけど、彼の本当の名前よりはマシだろう。  
私も犯罪に加担していると思われている。  
でも彼の体を治す為に少しでも時間が欲しかった。  
薬を貰うと私は自宅へ走らせた。  
 
薬袋が…目に入る。  
“ロイ・ホークアイ殿”  
「ん…」  
ロイはブラのホックを外しブラウスのボタンも外していく。  
私の上半身から布を取り上げると両手で乳房を揉みしだく。  
胸に顔を埋めると片方の乳房を掴み口に含んでいく。  
私の長い金髪が…ロイの黒髪にかかっている…。  
 
 
━━私は彼を自宅に匿うとハボック少尉に連絡を取り彼の身の回りの物を揃えてもらい、  
仕事以外は外出をしないように心掛けた。  
彼は数日眠り続けていたが、ある夜ハヤテ号がワンワンと吠えていたので  
「こらっ!ハヤテ号。大佐が…」  
彼の方を見ると目を覚ましていた。私は近寄り  
「大佐ぁ!」  
と抱きしめると涙が溢れ出た。  
「ここは…?中尉の家なのか…?君が助けてくれたのか…」  
私はコクンと頷いた。  
「大佐…良かった…私、大佐が死んでしまったら…」  
「…中尉、私はもう大佐ではないよ」  
「え…?」  
「私は大総統の命を狙った反逆者だ…もう軍には居れないだろう。だから…  
 私を守らなくてもいいんだ」  
「ですが…大…ぃぇ…そんなお体ではどうしようもありません…ですから…  
 体が治るまで…傍に居させてください…」  
「君は本当に優しい女性だな。こんな私でも守ってくれるのか」  
私は彼の前で泣きじゃくってたのかもしれない。  
「ヒューズが私を追い返したのかもしれないな」  
彼は私の頭を撫でながら言った。  
 
そして私達はこの日初めて結ばれた…。  
 
「ぁ…んぅ…んっ」  
ロイは口に含んだ私の乳房の突起を舌で転がしている。  
まるで飴玉のように舐めたり噛んだりする。  
充分に堪能するとチュバッと音をたてて放し、もう片方の乳房に移る。  
そして自分の唾液で濡れた乳首をコリコリと摘む。  
「んぅんっ…ぁあっ…」  
私の身体が火照り始める。  
 
 
━━私は自分の事を『大佐ではない』と言う彼を何て呼べばいいのか困惑した。  
「あの…大…いえ…マスタングた…さん」  
と言う私を、ふふっと笑いながら  
「“ロイ”でいいよ」  
と言った。  
今まで上司だった人を直ぐ名前で呼べるなんて順応早いわけがない。  
けれど彼は“大佐”と呼ばれたくないらしいので恥ずかしいけどそう呼ぶ事にした。  
「ロイ…」  
「なに?」  
「今日は東方司令部の方が来るのですが、何か聞いて参りましょうか?」  
「私に敬語は不要だよ。私は君…いや、リザの上司でも何でもないからね」  
“リザ”と言われて顔が紅潮しているのが分かる。  
「そうか…それなら…エドとアルはどうなったんだろうな…彼も目的を果たせたのだろうか?」  
「そう…(です)ね、では…ぃぇっ…エドワード君とアルフォンス君の件、それとなく聞いてきます」  
彼は優しい笑みを浮かべながら私を見ている。  
「じゃあ…ロイ…行ってきます」  
「いってらっしゃい、リザ」  
「ハヤテ号。大…ロイをしっかりお守りしててね」  
部屋を出た私は「ロイ」「リザ」と呼び合う仲に嬉しさを感じていた。  
 ――― これが恋人同士なのかしら? ―――  
その反面、彼の優しい顔と口調が辛かった。  
何だか「大佐」「中尉」と呼び合っていた頃の方が気持ちが繋がっていたような気がした。  
 
 
私がロイの愛撫に溺れていると彼の手はベッドに腰掛けていた私の足を少し開かせて  
スカートの中に進入し、下着の上から花びらをなぞる。  
何回か摩擦されると私の足も少しだけ開く。  
「あ…ぁ…んん…」  
ロイは下着の足の付け根から指を滑り込ませると花びらの中心へ潜り込ませ  
違う指でつぼみを擦る。  
「ぁはあ…んうっ」  
そこを強く擦られると私の身体に電流が走る。  
ロイは力の出なくなった私の下半身を自分の体の上に移動させると指を抜き差しする。  
気が変になりそうなくらい気持ちがいい。  
 
 
━━数日間、東方の情報を探ったが噂しか聞こえなかった。  
私がそれを正直に伝えると  
「そうか…」  
と一言だけ呟いた。  
彼は私のベッドを半分占領して生活している。  
怪我をしている彼だが、傍に居られるのは単純に嬉しい。  
動けない彼の代わりに何でもしてあげたかったのだが、彼の傍に少しでも多く居たかったのだ。  
夜になると私は彼の横に潜り込む。  
暗黙の了解で毎晩のように肌を合わせていたのが、ここ数日彼は私にあまり触れなくなった。  
彼から私を求めてこなくなった。  
私が彼に寄り手を回すと彼も私の体に手を回してくる。  
それ以上の事はしないけれど…。  
それでも私からキスをしたり、彼の服を脱がしたりすると私を優しく包んでくれる。  
私は“セックス”という快楽に溺れたい訳じゃない。  
ただ好きな人と肌を合わせてたいだけ…。  
そうじゃないと不安になる。  
彼は私を抱いた後も  
「鋼の…いや、エドはどこに行ったのだろうな…」  
彼の瞳は私を見ていない気がした。  
 
 
ロイの指の動きに私は淫らな声をあげてしまう。  
「ああんんっ…ぃぃ…」  
下着とスカートを脱がされ、ひっくり返される。  
一糸纏わぬ姿になった私をロイは上から見下ろす。  
「はっ…あああ…」  
冷酷な顔で愛液で潤った私の泉をぐちゃぐちゃに掻き回している。  
ロイは私の足を広げると、そこに顔を埋め、溢れ出ている液体を舌ですくい舐めている。  
 
 
━━彼が動けるようななってからは休日の度に二人で出掛けた。  
ある日、私はセントラル市街でウィンリィちゃんに会った。  
彼と私の事はシェスカさんから聞いているらしく彼女は私に慰めの言葉をかけてくれた。  
彼女からエドワード君が消えたというのは噂ではない事を知った。  
そしてアルフォンス君がエドワード君を捜す旅に出たことも…。  
別れ間際  
「私…リザさんに、前聞きましたよね?『守るべき人に守る価値がなかったら?』って…」  
「ええ」  
「でもリザさんは『価値があるかどうかは自分で決めるもの』と言った」  
「そうよ」  
「シェスカから聞いても軍の事はよく分からないけど、マスタングさんは…もう上の地位には  
 立てないかも…って言ってた」  
「・・・・・。」  
「でもリザさんは、その人を守ってる。…それは…マスタングさん自身が好きだからなんですか?」  
「さあ…どうかしらね?彼自身を尊敬している事は確かよ。だから地位なんてどうでもいい。  
 私は彼を御守りするだけ」  
ウィンリィと別れると  
 ――― 私は彼が“大佐”だから守りたいんじゃない ―――  
家に着くとハボック少尉が立っていた。  
「今、アームストロング少佐が大佐に話があるって来てるんスよ」  
中で話し声が聞こえた。  
 
 
舌先を遣ってつぼみを刺激されると電流が一気に頭の芯まで走る。  
「はっあ――…っんんっ」  
泉が溢れ出る。足がガクガク震えている。  
 ――― いやぁ…まだ、イキたくない ―――  
「ロ…っロイィ…んぅっ」  
ロイの肌に触りたい、身体にキスしたい。  
私は天を仰ぐように両手を広げた。  
 
 
━━少佐も大総統暗殺の加担者だと思われていたが、少佐は代々軍に仕える家系として  
今回の件は見送られていた。  
私も一緒である。祖父のグラマンのお陰でお咎めなしだった。  
でも大佐は違う…後ろ盾が無い。しかも首謀者で実行犯だ。  
運よく軍に残れたとしても自主退役させられるか、下士官からだろう。  
少佐は加担したと認め軍から去っていった。  
その少佐が大佐に何の用だろう?  
私は中に入るのを躊躇った。何故か嫌な予感がして…。  
『――と、言う訳で今後事業を始めるにあたって大佐と仕事がしたく参った次第であります』  
『アームストロング殿、申し出は有難いのですが…あなたは私を買被り過ぎてるよ…。  
 私は軍の指揮以外何も出来ない…』  
『そんな事はありませんぞ!大佐には錬金術が…――』  
『私は…もう“これ”は使わない事にした。何も…出来ないんだ…だから、申し訳ないが…』  
『・・・。』  
少佐は“お手上げ”といった感じで部屋を後にした。  
「大佐…らしくないっスね…」  
ハボック少尉を見送り部屋に入ると彼は考え事をしているようだった。  
横に座り抱き寄せると  
「そんなに悩まなくても大丈夫。私が傍にいるから」  
「リザ…本当に済まない、私は君に頼ってばかりだ。君と居る資格ないな」  
「そんな事無い!私はロイと居るだけで幸せだもの…資格がないとか言わないで…」  
私の零れ落ちる涙を彼は拭い  
「私はずっと泣かしてばかりだね」  
フッと笑うと  
「ありがとう、リザ。私も君と居ると幸せだ」  
久しぶりに彼から抱きしめられキスを貰った。  
「夕飯、作ってきます。今日はロイの好きなもの沢山作るわね」  
私って本当に現金なんだと思う。  
夕飯を作っていると昼間のことを思い出した。  
「あっ、そうだ。今日ね、ウィンリィちゃんに会ったのよ。エド君とアル君の事聞いたけど  
 噂は本当だったわ。それと、アル君はエド君を捜す旅に出たって聞いたわ」  
彼は「そうか」と言ってニコリと笑った。  
 
 
身体中が気持ち良くて息があがる、息継ぎが難しくなる。  
声か息か分からない声が出る。  
「ぁあっ…はぁっ…」  
ロイは自分のズボンを下げ私の腰を持ち上げると、自分の物を一気に私の中に挿入してきた。  
ぐにぐにと腰を動かし、ゆっくり抜き差しすると私の中で、くちゅっ、くぷっ、と音がする。  
「あぁんっ…ロっ…ィ…んぅっ」  
 ――― お願い…貴方に触りたいの ―――  
息で言いたい事が途切れてしまう。  
抱かれてるのに寂しくて涙で霞んでロイが見えない…。  
ロイは前のめりになると私の両腕を掴んだ。  
 ――― だめ…その手を放して ―――  
腰の動きが早くなり私の絶頂が頂点に達した時、ロイが一瞬だけ止まる。  
私の中に彼の分身を大量に送り込むと、ロイはゆっくりと自身を抜き、大きく2回息をついて  
ベッドに腰をかけると着衣を整え  
「明日は軍に行き、申し開きを受ける」  
それだけ言うとロイは私の部屋から出て行った。  
 
翌日、久しぶりに部隊の顔が揃う。  
私は大佐と共に上層部の部屋に到着すると敬礼をして大佐を見送った。  
長い時間に思えたが本当は数十分だったかもしれない。  
部屋のドアが開くと大佐は  
「ありがとうございました。誠心誠意尽くします!」  
深々と一礼をし、敬礼すると私に見向きせずそこから立ち去った。  
私は訳分からず立ち尽くしているとハクロ将軍が目の前を横切った。  
どういう事か尋ねると  
  大総統反逆で本来なら重罪だが今までの功績を考慮して准曹の地位まで落とす旨を  
  伝えたら“下士官で一からやり直したい”と申し出をした。だがそれではあんまりとの事で  
  “伍長”からでやっと納得したそうだ。  
「マスタングは今から雪国の偏狭の地に行くらしいが…君は付いて行かなくてもいいのかね?」  
ハクロ将軍は高々と笑いながら向こうへ行った。  
 
私が部隊の部屋に入ると大佐は荷造りをしていた。  
「大佐…あの…」  
「ホークアイ中尉、私はもう本当に大佐ではなくなったよ」  
「私、あなたに付いて行きます!」  
彼は笑みを浮かべ  
「だめだ、私は君を守る術も地位もない。だからここで私の部隊を守ってくれ。私の最後の命令だ」  
私は涙をこらえ敬礼し、見送った。  
 
夜になり自室に戻ると、今まで一緒に使っていたベッドの上の薬袋が目に入った。  
 “ロイ・ホークアイ殿”  
リザの瞳から涙が止め処なく流れ出た。  
 
 
                    おわり  
 
 

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