「…大佐」  
眼を強く閉じて、机に肘をついて項垂れている男に、  
金色の髪を後ろに纏めた軍服の女性は、静かに声をかけた。  
寝ているかもしれない。普段なら起こすけれど、  
彼は最近サボりという言葉をつけるには不相応な働きぶりだ。  
この数日だけ、そうなるのだろうが。無理もないと思った。  
何かを振り切るように、どこか痛々しい。  
「すまない、ホークアイ中尉。少し休んでいた」  
薄く眼を開けて、優男風の顔に似合わない低い声でそう告げると、微笑みかける。  
「…無理はなさらないでください」  
いつもなら説教が飛ぶこの場面は、今日だけ回されるフィルムが違うのだろう。  
「大丈夫だ。…珈琲を入れてくるよ」  
席から立ち上がると、自分の横をすり抜けて行くロイを追い越さないように、  
ホークアイも足音を立てずに続いた。  
 
「―――君は、甘いほうがいいんだったか」  
ふと思いついたようにか、スティックシュガーを一本抜き取る。  
自分より幾つも階級が高い人間が自分に珈琲を入れている。ありえない光景だ。  
だが、彼は誰かに「こういうこと」をさせるのを嫌う。  
持ってきてくれるのはありがたいが、自分から「淹れてくれ」と言うことは一度もなかった。  
「…すいません」  
「私が飲みたいんだから、いいんだよ」  
夜の食堂はとても静かだ。  
カップがふたつ、ミルクと砂糖がひとつずつのったトレー。  
手袋に包まれた手でそれをかちゃりと音を立てながら運ぶ。  
 
「…今でも」  
資料を机の端によせてから、ブラックの珈琲の揺れるカップに手をかけた男は言った。  
「あの電話が鳴りそうな気がするんだ」  
湯気を眺めて僅かに顔を上げる男を、心地良い甘さと暖かさに眼を細めた女性は見つめる。  
深い声色は何かを思い出すようで、いつものように穏やかなまま紡がれていく。  
「…"よぉロイ!今日はエリシアちゃんが寝言で「パパ大好き」言ったんだ。もう可愛くてよ!"  
 と、職務中にも飽き足らず…大声で喋るどこかの誰かが」  
前髪をかきあげてため息をつく男は、くっと苦笑をする。  
口調がとても鮮明で、直ぐにも真似てしまえるのが、可笑しかったのだろう。  
 
"あの日"の前日。受話器を片手にすまなそうに"祝いに行けなくて悪いな"  
と告げていたロイの姿が、ホークアイの脳裏によぎる。  
いつも自慢話をうんざりとした面持ちで聞いているとはいえ、今までで幾度も苦楽をともにしてきた人間。 
―――当然の、状況なのだ。  
「電話を鳴らしてくるような、そんな気がしてね」  
「大佐」  
その声に気づいたか、視線を降ろしてじっと見つめてくる黒い瞳。  
「お疲れなら…休まれたほうがよろしいかと」  
淡々と述べるその言葉に裏の意味を含めている事を、ロイも悟った。  
―――こういう時こそ休むべきです  
強く真っ直ぐな目に、僅かに心配したような、おろおろとした色も混じっている。  
それを見て、ロイは軽くため息をついた。  
「すまない、私らしくないな」  
目を閉じて笑って立ち上がるロイを見て、ホークアイは"ですが―――"と言葉を遮ろうとした。  
「…何を必死になっているんだ? ホークアイ中尉」  
珈琲カップを手に持ったまま、見下ろす笑顔はとても優しい。  
この笑顔に何人の女性が心を奪われたのか。―――自分もまた例外ではないのかもしれない。  
だが、違う。ホークアイはもっと別のものを持っている。  
"守られたい"―――それは、女として。  
"守るべき人"―――それは、私として。  
だから。  
 
「…私は…」  
俯いて、すぐに顔をあげた。  
「あなたが揺らがぬよう、支えていたいのです」  
一瞬の沈黙と、次の瞬間に。ホークアイの身体ががくん、と傾く。  
「きゃ…!」  
目を開ければ青い服、肩のラインには星が三つ。  
―――ロイ・マスタング"大佐"。  
「た、大佐…」  
「大丈夫だよ、中尉」  
耳朶を打つ、落ち着いた声。  
直ぐそばにある吐息が、とても深い。  
「……私は大丈夫だ。ヒューズの仇は討つ。だが、私がそれで死んでは意味がないだろう」  
自分に言い聞かせるように、また、ホークアイを諭すようにも聞こえるその優しい声に、  
心地よさそうに目を細めた。  
「それより私は、君がそんなに必死になるのを見ているのが辛いよ」  
ぽむ、と背中を叩く、大きな手。  
「…私が、ですか?」  
ロイの肩にかかる言葉は、不思議そうに問うていた。  
「私は死なない。」  
答えにはならないけれど、強い言葉が落ちてくる。  
「…だからたまには、無能でも君の騎士にならせてはくれないか」  
顔を離して、じっと見つめて。その黒の瞳が語るは、切実な願い。  
自分の台詞のチープさに自嘲する。  
こんな状況で、この女性の前で、着飾るなど…無理だ。  
そしてこんな状況で、目を逸らすことも。  
だから、その顔も。呼吸も。はっきりと…  
 
「…何を笑っているのだ、中尉」  
「すみません」  
くつくつと肩を震わせて、必死にこぼれる笑いを堪える。  
もしかしたらはじめて見るかもしれないその表情に、がっくりと項垂れたロイは笑みを取り戻した。  
「いつまで根に持っている気ですか…」  
「君に言われた事だからな」  
ふー、と呼吸を整えるロイと目が合うと、ホークアイに再び笑いがこみ上げてくる。  
氷づけにされたものが、ゆっくりと溶けてゆくような暖かい"焔"。  
「ご安心ください。」  
頷くようなしぐさで、笑顔は強いものへと変わる。  
「願わくば、生きましょう。ずっと共に。  
 …私が居なければ、すぐサボりますし」  
いつも。そういつもあるべき姿に。  
心は段々ほどけてゆくのだ。  
「私も…君が職場に居なければやる気が出ないというものだ」  
「居ても普段からやる気がないじゃないですか」  
普段どおりの、押し問答。目の前の―――"中尉"。  
愛しい。  
すっと。発火布に包まれていない生身の手を、ホークアイの頬に添える。  
「たい…さ」  
呼ぶ前に唇が重なる。  
親指と人差し指で器用に顎を掬い、驚きの表情は見せるものの、すぐにホークアイも応じた。  
押し付けるだけだが、甘く少しだけ長い口付けが終る。  
やれやれ、といった感じに。次に口を開いたのはホークアイであった。  
「ムードを重んじろ…と。いつもおっしゃってるのは大佐ではないですか?」  
「それはすまない」  
はは、という苦笑とともにもう一度の口付けが落ちる。  
「…今回も、こういうところでですか」  
 
電気が落ちたその一室。ひとつの椅子の上に二人の人間。  
「んっ…」  
深く重ねられた唇。舌と舌とが絡み合い、女性の口端から一筋、伝う。  
ホークアイが足に乗っているため、僅かにホークアイのほうが位置が上になる。  
のにもかかわらず、その唇は容赦なくに愛撫を繰り返してくる。  
「ふ…ぅむ…」  
慣れた行為のはずなのに。身体は慣れたはずなのに。いつまでも精神が焼けた鋼のようなまま。  
頬を赤く染め、ぎゅっと目を閉じたまま唇を受け入れていると、  
段々その鋼は形を失ってくる。邪魔な言葉も。理屈も。そんなものを消して、  
ただ恥ずかしい。はしたない。嬉しい。心地よい。そういう感情を具体化した単純なものだけが残る。  
「た、い…さ」  
そうすがるように名前を呼ぶ自分は弱いと、ホークアイは改めて知る。  
守ることは出来る力を持っているはずだけれど。人間的な器は自分を抱いているこの男のほうがはるかに上だ。  
だけれど。  
銃を撃つことしか能がなかった自分を奮い立たせてくれたのは。  
焔の中から現れた、その強く、だが優しい瞳。  
ただの一般兵。落ちこぼれ、とも言われた自分を。必要されない存在だと思っていた自分を。  
自分の怪我も省みずに運んでくれたひと…。  
この人は死なせてはいけない。ちっぽけな自分の命を包んでくれた、焔。  
ホークアイに、焔をつけた人物。  
「大佐…ッ」  
名前を呼べないだけでとてつもなく遠く感じるけれど。  
唇を重ねて、互いにその愛を貪りあうことが出来る。  
十分すぎた。  
「…中尉」  
リザ。と呼んで慈しむ事は出来ないけれど。  
その生身の体躯で、唇で。貪ることは出来る。  
唇を擦るように軽く重ねながら、なれた手つきで軍服のボタンを指で外していく。  
制止するように手は重ねられるも、止めるというよりはロイの手をぎゅっと掴むだけだった。  
 
制服をはだけ、黒いインナーの上からふくよかなふくらみを撫でる。  
ホークアイはロイの背中に手を回し、段々と浮かんでくるくすぐったさに僅かに喉を鳴らした。  
スウェットであるとは言え、間に下着もあるから、直接の柔らかさとは程遠い。  
だが、その大きさを確かめるように、強弱をつけてふくらみを掴む。  
「……ん」  
少しの間それを続けていると、僅かな反応が生まれる。  
それをすぐに感知したのか、その手を下降させ、ベルトの金具を緩めると  
インナーの裾をズボンから引っ張りだした。掠れる音は少しだけ固い。  
その白い肌に、少しだけ傷が感じられる肌にゆっくりと。柔らかい感触に手を這わせていく。  
「ぁ…」  
鍛えているといっても女性の身体は柔らかい。甘い感触だ。  
大きく、筋肉質な手はそれと対極といっていい。が、その動きは蕩かすように艶かしい。  
指先に布があたったのを感じると、それを擦りながら布と肌の間に指を滑り込ませ、上に押し上げる。  
「…っ」  
唐突にきゅっと捕まれたふくらみ。生の肌と肌同士。  
びくんと身体が反応したのを見ると、手の力を緩め、力を込める。それを繰り返しはじめた。  
「はぁ…ぁ」  
邪魔にならないほど、だが、小さくはないその膨らみが解される度、ホークアイの呼吸は荒くなってくる。  
目の前の男は、僅かに口端を吊り上げ、怖いくらいに冷静だ。  
無論ロイも興奮はしているのだが、それは脳、そして下半身。  
呼吸の乱れを感じさせない、その包むように甘い、だがどことなく魔性の魅力のある笑みが、ホークア 
イの興奮を更に煽る。  
「んッ…!」  
突然指先が胸の突起を捉えて、ホークアイの顔がロイの肩に埋まる。  
「…ここが、良かったんだったか…?」  
 
ククッ。  
その笑みに、羞恥がこみ上げる。いつもいつも意地悪な行動。  
「ぁ…ぁん…っ」  
この人に、普段あるひとつの壁を取っ払った時は。自分は守られる側に回るから。  
少し敏感な突起を責め立てられるだけでまともな言葉は発せなくなる。  
「…中尉」  
優しく穏やかな声とは裏腹に、その指は追い詰めることをやめない。  
「ふ…ぅ、ぁっ…!」  
はしたなく漏れてしまう声を、からめとるかのようにして、唇が再び重ねられる。  
声よりも音がその部屋に響く。ぬるりとした舌、混ざり合うそれぞれの唾に、支配し合うような。  
下卑た快楽が、確かなものに遮られる。  
「んっ…ぅ…!」  
緩まったズボンの裾から、背中を支えていた手が滑り込む。  
最後の砦である薄布にまで侵入した指が、しとどに湿っているそこをぞろりと撫で上げた。  
「ふぅぅ…」  
甘く、鼻腔から漏れる息と、くぐもった声が重なった唇の辺りに響く。  
的確な場所を暗闇の中でも確実にとらえてくる指。  
容易く指が飲み込まれるのを確認すると、唇は糸を引いて離れた。  
「…もう、良いかね?中尉」  
その息はほんの少し乱れを見せたが、余裕の瞳は暗闇の中でも見て取れる。  
「…珍しいですね、聞くなんて…」  
そう皮肉めいた言葉に、ロイは笑みで返した。肯定の意味ととるのは間違いではない。  
抱きしめる手に力が篭り、するりと足からズボンを抜くと、ホークアイは再びロイに抱きつく。  
「いや、何か…初心に戻ったというやつかな」  
「…似合いませんよ、大佐」  
 
「…っはぁ」  
腰を下ろすとずるりと滑り込んでくる熱を持った棒は、呼吸を難しくするかわりに途方もない快感を生み出す。  
ぎちりときつい感触もあるが、内部はぬるつき柔らかく、侵入を拒む部位は殆ど無い。  
「んっ…ふ…ん…」  
重なった場所に擦り付けるように動いて、出来るだけ耐えられる動きを繰り返す。  
「ぁは…ぁっ」  
それを許すはずがなく、ぐんっと上につきあがった腰は快感を何倍にも増す。  
声と椅子が軋む音以外、時々服がかさりと擦れるだけの空間。  
絶え間なく愛していると囁くなんてことも今は必要がなく、当然の状況。  
「ふぁっ…ぁぅ、く…ぅ」  
不規則なペースで突かれ、息をつく暇が少なく、肩を掴んでいる手に力が篭った。  
 
生身の躯が今ここにある。  
 
体内からずりゅずりゅと音が聞こえそうなくらい、艶かしく蠢く内部を貫かれ、  
ホークアイの体は幾度となく仰け反り、震える。  
「……中尉…そろそろ」  
「は…ぁうっ、ぅ、あっ!」  
言葉が合図かひときわ強くなった動きに、がくんっとホークアイの体が傾く。  
その身をロイの体に預け、小刻みに震わせている。恐らく達したのだろう。  
少し鈍感になった体でも、流れ込んでくる液体の事は感知できたのか、  
重く粘着質な脱力感を感じて、ホークアイは少しだけ目を閉じた。  
 
ああ―――今ここに。  
ふたつ。ちゃんと鼓動がある。  
願わくばその事実だけは永劫に―――  
 
 
「―――大佐。逃げないでください  
 今日中に資料を片付けてもらわないと困るんです」  
「嫌だ!何でそんな山積みなものを女性との約束をすっぽかしてまで片付けないとならないのだね!?   
「サボるから溜まるんでしょう。仕事してください」  
「仕事したくない!」  
ラジオから聞こえてくる音楽やニュースなんて聞こえやしない。  
煙草の煙、そしていつもの喧騒が、東方支部のひとつの部署を包み込んでいた。  
「懲りないねぇ、うちの大佐は」  
「まともに仕事をしていたあの数日は何だったのでしょうか」  
やれやれと肩を竦めるファルマンに、ハボックは煙草を少し噛みつつ苦笑する。  
「ま、ちゃんと後になればすぐ片付けるもんだから、大したもんだよ」  
ホークアイとロイの様子を横目で見ながら立ち上がると、ファルマンは不思議そうに見上げた。  
「煙草を買いに行くのですか?」  
「いや、避難」  
あぁ、と何かを察知したファルマンも続いて立ち上がり、ともに部署を出る。  
そして、その数秒後に威嚇射撃の音と悲鳴が聞こえた。  
 
ああ、これが。  
事実で。  
鼓動が止まるならできるだけ同じ刻がいい。  
だから互いに、護るんだと。  
 
変わらずに。  
 

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