私も現実を認めたくないと思っているなんて、淋しそうな眼をして異世界の住人である同居人を見つめる彼には云えなくて。
その複雑な色の混じった眼に私はただ溜息を落とした。
その時は信じていたの。私を望んでくれる世界があると云うこと。私を受け入れて笑いかけてくれる人がいると云うこと。
だけど、それが否定され、そして小さな小さな何かを失くした時、初めて気付いた。
私が求めていたものは、確かにここにあったのに。
「ん・・・」
小さく嬌声を上げて、ノーアは重たい腰を持ち上げた。微妙な刺激に咽喉が鳴る。
けれど、結局体重を支えきれず、目の前の細い身体に自分の身体を重ね、未だ薄い胸板に頬を押し当てた。
「・・・どう、して?」
声変わりもしていない幼いボーイソプラノがノーアを責めるような声音で訊ねる。
伏せていた瞼を上げると、深く澄んだ黄金がノーアを見つめていた。
その瞳にノーアは真っ赤に熟れた唇から溜息を落として、もう一度、瞼で瞳を覆った。視界が暗く霞んでゆく。
「どうして、かしらね」
私にもわからないわ、そう続けた言葉に少年は更に疑問を募らせて、ノーアを強く力に満ちた瞳で睨む。
向けられた敵意さえ感じる視線にノーアは眼を開けて、少年の瞳の色を確かめる様に見つめて、やわらかい頬に手を添える。
形だけは彼によく似ているのに、その色はやっぱり彼とは違う色をしていて。
やわらかい光を終始宿していた蒼色は何処にも無くて、そこにあるのは太陽の光に夜の闇を一滴垂らした様な透き通った飴色。
現実逃避だ、これは。
心の奥で呟く。彼が嫌っていたもの、彼の瞳にあんな風に淋しい色を浮かべさせたもの。
それを私はしてしまっている。こんなことをしていると彼が知ったら、彼はまたあの蒼にあんな色を浮かべるのだろうか。
だけど、私はまだこの彼の死という壁を乗り越えられない。
「まだ、抜け出せないのよ・・・」
淡い色をした唇に自分の唇を重ねる。瞳に映るのはやっぱり飴色。それなのに止められない。
「ノーアさ・・・っ」
「黙って」
柔い唇を割って、生温かい口内を蹂躙する。舌先で先ほど知った弱い場所をつつくとびくんと肩が揺れた。
その肩を両手で包み込んで、小さな身体を抱き込んで、少年の耳元で囁く。
「アル、フォンス」
ねえ、アルフォンス。何時までなら、こうやって夢幻に浸かっていられますか。
何時までなら、浸かっていても許してくれますか。