昨晩の出来事に戦々恐々としながら、朝早くハボックは自らの仕事場を訪れた。
扉を少しばかり開いて、その隙間から中の様子を探る。
部屋には未だ上司はいない様でほっと胸を撫で下ろした。
今度はちゃんと開いて、足を一歩踏み出す。
が、その肩を何者かに叩かれ、ハボックはびくっと全身を大袈裟に震わせた。
がたがたと揺れる身体を何とか後ろに向ける。
既に怯えた色を浮かべた瞳に軽く頬を染めたリザが映った。
「ど、どうしたんすか、中尉」
「これを・・・ハボック少尉にと」
ぴしっと軍服を着こなしていて肌の露出もほとんど無いも関わらず、
ハボックは昨晩のあらぬ姿のリザを想像してしまい、ぼっと顔を真っ赤にしてしまう。
リザもまたハボックを見て、昨晩の出来事を思い出したのか、頬をますます赤く染めていった。
「何すか、これ?」
リザから差し出された小奇麗なノートにハボックは首を傾げた。
何時も、連絡用に使っている業務用とは明らかに違う、薄めの水色の表紙のノート。
受け取ってパラパラと捲ってみると、罫線もまた水色で端の方にまたも水色で小さなイラストが描かれている。
リザはノートに向けていた視線を逸らして、小さな声で今、ハボックが一番聞きたくない人間の名前を口にした。
「た、大佐から預かったものなの。以前の交換日記は大佐が燃やしてしまったから、お詫びにだそうよ」
「へえー」
大佐がこんなノートをねえ。
ロイがこのノートを手に取っているのを頭に思い描いて、ハボックは溜息を落とした。
朝早い時刻の所為か、柔い白に染まったそれが空気に溶け消える前に、瞳に映ったものにハボックは驚愕に眼を見開いた。
一番初めのページであるそこには、見覚えのある文体が丁寧に罫線に沿って並んでいる。
比較的読み易い文字であるそれを一行、読み取ってみて、今度は口をぱくぱくと開き、リザを見開いたままの眼で見つめた。
「な、何すか・・・これ・・・」
つい先ほど云った言葉をアクセント変えて、わなわなと唇から吐き出す。
「大佐がね、面白がって、三人で一緒にやろうなんて言い出したの。昨日の事がその、あれだったから、私も逆らえなくて・・・」
綺麗な深い色をした瞳を瞼で覆い隠して、リザは大きな溜息を吐いた。
そりゃ、彼女は逆らえないだろう。自分だってあの男に逆らえはしない。だが、これは一体・・・?
「次はハボック少尉の番だそうよ。書けたら、私に渡してね」
恥じらいながらも微笑って、リザはハボックに背中を向けて、立ち去っていった。
残されたのは、ノートの中身とリザの微笑みに固まってしまったハボック一人。
脳内にリピートされるリザの言葉とノートの一文。
結局、ハボックはしばらく後に来たブレダに肩を叩かれるまで、その場に立ち尽くしたまま、動けずにいたのだった。
ハボックは薄水色のノートを手に取り、すぐにそれを机上に放った。
―――あんなことしちまった後で何書けってんだよ・・・・
3人でしてしまったことを、後悔しているわけではなかった。
行為の直後は真っ白だった頭も今ではすっかり元通りで、
3人でやったことを反芻までしている。
一人の女を二人の男が抱くんだから、いっぺんに突っ込もうと考えれば
後ろの孔を使うしかないだろうが、やはり大佐が入れようとした時はちょっと焦った。
普段は秘められた其処を攻められて、中尉は眉間に皺を寄せてたけど、
でもそんな表情で揺れてる彼女は恐ろしく扇情的だった。
中尉がいつもあんな風に大佐に抱かれているのかと考えると、
なんとも言えぬ感情が胸に渦巻く。
「はぁ〜。やめやめっ! 先週編成した小隊の話でも書いとくか。」
ハボックはペンを執り、ノートを捲った。
「ハボック少尉、ちょっと来てくれる?」
マスタングに書類を届けたリザが、ハボックに呼び掛けた。
「え、はい・・・。」
リザの態度はあんなことの後でもいつもと変わらない。
あんだけ大佐と俺に弄られたのに、何もなかったかのように凛としている。
女ってのは、出産の激痛にも耐えられるように丈夫にできていると前に聞いたことはあるが、
彼女はそこらの女とは比べ物にならないくらい強い。と思う。
立ち上がり、歩み寄ったハボックにリザが小声で話しかけた。
「大佐が、私と二人で来るようにって。」
「二人で、ですか。」
嫌な予感がした。
二人で呼ばれることは少なくないが、あんなことの後だ。
なんの件についてかは大体予想できる。
「多分交換日記のことね。さっき渡したから。」
「・・・随分冷静ですね。“お咎めなし”の撤回かもしれないのに。」
「それはないわ。あの人、そういうことはしないもの。さ、行きましょ。」
「・・・うっス。」
マスタングを誰よりも理解している彼女の台詞は、ひどく頭に響いた気がした。
コンコン。
「失礼します。」
「失礼しまっす。」
執務室に入ると、マスタングは顔をあげて満面の笑みを湛えた。
「待ってたよ。やはりハボック少尉は満身創痍といった感じだな。」
ドアを閉めながらハボックは「性格悪りぃ・・・」と呟いた。
マスタングはペンを置くと、ぎっと音をたてて椅子から立ち上がり執務机の前に立った。
「君たちを呼んだのは、他でもない、交換日記のことでだ。」
腕を組み、前に並んだ二人の尉官を見つめる。
「リザの日記はいいとして、ハボックお前はやる気というものが微塵も感じられない。」
「は・・・やる気・・・?」
「そうだ。あぁ、お前はまだリザの日記を読んでないのか。ほら。」
マスタングは机の上にあったノートをハボックに手渡した。
ページを捲り、リザの文を読む。
「・・・こ、これは・・・。」
「最後まで読んでみたまえ。」
ハボックは自分の躰の中心が熱くなるのを感じた。
リザが書いた日記はいわゆる「レポート」だった。
先日3人で行った淫らな行為の報告書、である。
リザの綺麗な字で卑猥な言葉が書き連ねられているのを見て、ハボックはあの時の
自分たちの痴態を思い出さずにはいられなかった。
「あ、あの・・・中尉これは・・・」
「ホークアイ中尉は実に聡明だ。そうは思わんか、ハボック?」
「大佐、それどういう意味・・・」
「私は、大佐が交換日記を3人でやろうと仰った本当の意図を考えたまでです。」
「ちゅ、中尉・・・」
「さすがは、私が見込んだ女性だ。おいで。」
歩み寄るリザの手をとり、その腰を引き寄せる。
その先の行為を予想し、ハボックは視線を床に落とした。
「んっ・・・」
リザの甘い声と唾液の混ざり合う音が、耳に痛い。
「ハボック。ネタがないなら、やろうか?」
「え・・・」
「ホークアイ中尉、服を脱げ。下だけでいい。」
「Yes,sir」
リザは上官の命令通り、ベルトに手をかけテキパキとズボンを下ろす。
その様子を見つめながら、ハボックは思った。
―――俺さっきから喋らせてもらってねぇな・・・・
「あっ・・・ん・・」
執務机の上で脚を広げたリザが喘ぐ。
忠実な狗に随分と意地悪な上官も机の上にのぼり、
リザを後から抱え込んで敏感な其処に悪戯を加えていた。
リザはまだ下着をつけたままだった。
薄桃色の下着の上から、マスタングが楽しそうに中心をなぞる。
“目を逸らすなよ”と言われたので、じっと見つめた。
ハボックが見ていたのはマスタングの中指が愛でるリザの秘部、
ではなくて頬を染めて瞳を閉じているリザの表情だったが。
リザの耳朶を甘噛みしていたマスタングは、その視線に気づき言った。
「ハボック、お前が見ていいのはこっちだ。」
リザの足に手を掛け、更に広げる。
ハボックはゆっくりと視線を下ろした。
軍服の上からでも大きいと分かる胸の付近を彷徨って、白く眩しい腿に絡む。
それに満足したのか、マスタングは再びリザの首筋に唇を寄せた。
「あ・・あっ・・・大、佐・・・」
マスタングの指が上部の突起に触れると、リザは腰を浮かせた。
「そろそろ直に触って欲しい、か?」
リザは切なそうに瞳を潤ませる。
その瞼にキスを落とすと、下着の脇から指を差し込み、濡れた其処を探る。
くちゅっと卑猥な音が漏れ、冷静に見ていたつもりのハボックも思わず唾を飲み込んだ。
部下に見られているという多少の羞恥と上官に嬲られる快感に、
「有能な副官」の仮面が剥がれ落ちてしまった。
「あぁっ・・・あん・・そ、こ・・」
「ん。ここか?」
小さな敏感すぎる粒を掠めるように指を動かす。
思わず太腿を合わせようとした女をマスタングが窘める。
再びそろりと足を広げ、愛撫を受け入れる。
膣の入り口をなぞり、それからゆっくりと指を沈めた。
つい先日まで「マスタング専用」だった其処は、主の来訪に悦んでヒクついた。
ぐちゅぐちゅと内壁を抉るように出し入れすると、リザはひと際大きな声で喘いだ。
「ホークアイ中尉。ハボックのは好かったと日記にはあったが、私とどちらがいいかね?」
リザは自分を見つめる部下に一瞬目を遣り、少し戸惑いがちに口を開いた。
「マ・・マスタング、大・・佐・・・」
「そうか。嬉しいよ。お礼を差し上げたいが、受け取ってくれるかな。」
「謹んで、頂戴します・・」
リザを横たえると、マスタングは上着を脱ぎ捨て自身の猛りを取り出した。
そして濡れた下着を膝の辺りまで下ろし、腰を抱えて一気に貫いた。
「あぁぁっ・・・!」
「リザ、少し声を抑えて。」
慌てて口を両手で押さえたリザの中をぐちゃぐちゃに掻き回す。
「んっ・・んんっ・・んぅ・・・っ!」
一番奥を激しく突き上げられて、リザの表情が苦痛を露にする。
無心で上官たちのセックスを見ていたハボックは、
リザのその表情を見た途端胸が苦しくなった。
彼女を哀れに思ったわけじゃない。
ただ自分もリザにあんな表情をさせたいと思った。
「はっ・・・リザ・・やっぱり声、聞かせてくれ・・・」
「んゃっ・・・はっ、あんっ・・も・・ぅ・・っ」
激しく腰を打ちつける上官は、この間と違って必死に見えて、
だんだん自分の頭が冷めていくのを感じた。
絶頂を迎え、少し息を整えてから二人の体液に濡れた熱い棹を、
腰を揺らしながら抜き取る。リザはそんな些細な動きにも敏感に反応し、躰を震わせた。
余韻に浸るリザとねっとり熱い視線を絡ませてから、マスタングはハボックに声を掛けた。
「どうだ、少尉。面白い日記は書けそうかね。」
ハボックはリザを見つめながら答えた。
「はい。すごくイイのが書けそうッス。じゃ、俺戻りますね。」
ハボックは何事もなかったように踵を返し、さっさと執務室から退室した。
「・・・ハボックの奴、処理しなくて大丈夫なのか?」
問いかけると、リザは溜め息を吐いた。
「誰の体で処理させるおつもりですかっ。・・・大体貴方は子供ですか!
こんなことをして!少尉きっと傷つきましたよ!」
「はっきり言ったのは君じゃないか。俺はただ、あいつに分からせたかっただけだ。」
「何を、ですか?」
「ん?うん・・・」
「大佐・・・・?」
それ以上聞いてはいけないと悟り、リザも押し黙った。
ハボックはオフィスには戻らずに、暖かな日差しが差し込む中庭で交換ノートを開いていた。
リザの日記に繰り返し目を通し、頬を緩ませる。
自分とリザの悪戯を発見した時のマスタングの顔を思い出す。
―――あの時も多少は焦ってたのか・・・?
何にせよ、トドメを刺したのはリザの「報告書」に間違いない。
「飼い狗同士じゃれあっていればいい」とお茶を啜っていたマスタングを
あっという間に情けない男にしたのは、マスタングの一番お気に入りの綺麗な狗。
猫のように自立した見目麗しい狗は、飼い主の過保護な態度に・・・
と考えていたら、遠くから部下の声が聞こえた。
「ハボック少尉ー!ホークアイ中尉がお呼びです!至急お戻りください!」
ノートを閉じると、ハボックは意気揚々と立ち上がりオフィスへ向かって歩きだした。
おわり