そこは、深い闇だった。  
 
「男」のいる場所は、真っ暗でほとんどなにも見えない。  
ただ、大きく細長い窓のようなモノから少しだけ外の景色が伺い知れる。  
そこには、図鑑でも見た事のない魚が蠢いていた。  
いや、これが魚と言えるのだろうか? 中世の人々はこれを海の魔物と言っていたのだろうか。  
「男」は、朝の食事を終えた直後に、二人のマスクを被った男に、あっという間に連れ去られてしまった。その二人の男は今も脇にいる。見ると、男達の顔はマスクなのではなく、元々こういう顔…化け物なの 
だと言う事を思い知らされた。  
そして、「男」の目の前には人影が見える。しかも、7つ。  
「………そうですか。ご協力に感謝致します。ドクター『フレスキナー』」  
真ん中の影が、話し掛ける。  
「フレスキナー」と呼ばれた男は、この「7人」の願いを聞いて愕然とした。まさしく、悪魔の行為だ 
とも思った。だが、何も知らない家族や友人を巻き込まない為に、協力せざるを得なかった。  
「……ドクター『ロックベル』も…貴方のようにご理解頂けたら幸いだったのですが………」  
たちまち、彼の顔が青くなる。  
「……!! そんな……まさか! ロックベル夫妻は……お前達が!!」  
そのとき、真ん中の影の顔がニタリと笑ったように見えた。  
「残念です」  
「なんて……事を……!!」  
「貴方にはやってもらいたい事が山積しています。また後ほど…。」  
 
 
『約束の虚空(そら)』 後編  
 
 
「ただいまー…」  
夕方になり、看板を下ろしたばかりのガーフィールの元に、アルフォンス、ウィンリィ、パニーニャの 
3人だけが帰ってきた。  
「なんやねん3人とも! 泥だらけやん!」  
「えへへ……まぁ」  
「まーったく。ほら、二人ともおフロ入り。沸かしとったから」  
「「はぁーい……」」  
ガーフィールにどやられ、いそいそと風呂場に向かうウィンリィとパニーニャ。  
「ったくしゃーないな」  
そんな二人にため息をつきながら、テーブルの上の箱から新しい葉巻きを取り出し、先端を歯で千切る。  
「あっ!」  
そして、アルフォンスの鎧にマッチを擦り付けて火を灯した。  
「もう、ガーフィールさん! ボクはマッチ箱じゃないですよー」  
「ごめんなアル坊ー。あ、エドちゃんはどないしたん?」  
ようやくここでガーフィールはエドワードがいない事に気付いた。  
「あ、ああ……兄さんなら……」  
「…うす」  
アルフォンスが言いかけた直後、エドワードが帰ってきた。その手には、買い物袋をぶら下げて。  
「あっ兄さん!」  
「エドちゃんお帰りー。ちょーどアンタの話しとったんやで。これって牛の知らせってヤツやねんなー」  
「「牛?」」  
 
エドワードとアルフォンスの脳裏に、一瞬牛がンモーっと鳴く。直ぐさま二人とも、ブルブルと首を振る。  
「ガーフィールさーん。それを言うなら『虫』の知らせって言うんじゃあ…」  
「なーに考えてんすか…」  
「あーっはは。ごめんなー」  
しょうもないボケをかますガーフィールに対し、二人は大きくため息をする。  
「さて…と。夕食の買い物してきましたから。整備のお礼っす。」  
「あ、おおきになー。」  
「ここに置いておきますね」  
そう言ってエドワードはテーブルの上に重たそうな買い物袋をどさりと置く。  
「アル! そろそろおいとましようか」  
「あ、うん」  
「ちょい待ちーな」  
エドワード達が立ち去ろうとすると、ガーフィールが呼び止める。  
「なんや二人とも。この時間じゃ宿泊所入れてくれへんよ。泊まっていき。ちょうど部屋も2、3空いておるし」  
「えっ…いいですよー。夜露が凌げればそれでいいんだし…」  
「遠慮しなさんな。それに…」  
ガーフィールはカサカサとエドワードに近寄り、そっと耳打ちする。  
「(夜ばいのチャンスやで?)」  
忽ちエドワードの顔が真っ赤になる。  
「……するか!!」  
「兄さん、顔真っ赤ー」  
「あっはは。顔は正直やでー」  
「?????…」  
結局、二人とも一泊決定する事になった。  
「んじゃあ、風呂借りていいっすか?」  
風呂場に行こうとするエドワードに、ガーフィールがニタリと笑いながら、一言。  
「エドちゃーん。ちなみにおフロは今使用中やでー。覗いたらあかんよーv」  
その言葉にアゼンとするエドワード。一瞬ウィンリィの入浴シーンを想像し…  
「…………はっ!! の、覗くかぁ???っ////!!」  
それを必死で否定しながら、さっきよりも赤くなるエドワードであった。  
 
 
「ごちそーさまでしたー」  
2時間後、テーブルの上には、少しだけ野菜のドレッシングやスープが数滴だけこびりついたお皿が残る。  
「おいしかったー。アタシまでごちそうになっちゃって…」  
パニーニャも結局、今日は家に帰らずに泊まる事になった。  
「ええねん。いつもはウィンリィちゃんだけやし…  
従業員に使うてるおっちゃんも定時には帰ってまうしな」  
「…さて。あたし後片付けしますね」  
ウィンリィがそう言って立ち上がる。  
「あ、いつもありがとな」  
「…じゃ、オレ部屋に戻らせて頂きます……」  
「あ、ボクも…どうもごちそうさまでした」  
エドワードが椅子から上がった後、アルフォンスも慌てて立ち上がり、ぺコリと頭を下げた後エドワー 
ドの後を追う。  
エドワードは、帰ってきて以来、ウィンリィと顔を合わせようとしない。  
そのウィンリィ自身も、気丈にふるまってはいるが、なにかに怯えている感じがした。  
 
「(…ひょっとしたら……)」  
ガーフィールには、一つだけ思い当たる節があった。  
それは、約8年前。  
東部である大きな戦争があったときの事。  
自分の運命を大きく変えた「あの時」の事。  
そして、「あの人」からの、預かりもの。  
「(黙っててもラチがあかん…  
エドちゃんにだけは話しておくべきかもしれへん…)」  
そう思いながら、ガーフィールは椅子から立ち上がる。  
「あっ…ガーフィールさん?」  
パニーニャは、只戸惑うばかりであった。  
自室に戻ると、机の引き出しからある一通の手紙を取り出した。  
封筒の裏には、「Rockbell」の文字が書いてある。  
「遂にこの時が、来てもうたのかもしれへんな…」  
そして足早にエドワードがいるであろう部屋に向かった。  
 
「オレって… 今までなにやっていたんだ……」  
エドワードは、ベッドにあぐらをして座りながら、脇の窓から夜空を眺めていた。  
空には沢山の星と、真ん丸い月が瞬いている。機械鎧の聖地というからには、空気も多少リゼルブール 
よりも悪いのだろうが、窓から覗く光は、妙に眩しい。  
満月は人を狂わせると言うが、今まさにその通りなのかもしれない。  
「…くそっ」  
エドワードは、ウィンリィに対する自責の念で溢れていた。  
…とうとう、巻き込んではならない人を巻き込んでしまった。  
しかも、今日戦った異形の怪物が最後に言い放った言葉。  
『私は敗れたが、お前達の元には次々と刺客が来るぞ。  
邪魔者と認識されたから・・・な・・・!  
守り・・・・きれるかな!? 』  
奴は、確かにお前「達」と言った。  
つまり、自分とアルフォンスだけではなくウィンリィも、確実に狙われると言う事である。  
ウィンリィをこのままガーフィールさんの元に預けておくべきか?  
答えはNO。奴等はここの場所をもう知っている。  
それでは、リゼルブールに帰すべきか?  
これも答えはNO。それでは、ウィンリィだけでなくピナコのばっちゃんまでもが危険に晒されるし、 
万一の事があってもすぐには行ける距離じゃない。  
「ちきしょう…! どうしたらいいんだよっ……!!」  
 
頭をバリバリと掻くエドワードの耳に、コンコンとドアを叩く音が聞こえた。  
「…はい」  
「ガーフィールや。休んでるとこ悪いけど、入ってもええか?」  
「あ、はい。どうぞ…」  
エドワードが返事をすると、ガーフィールは妙に神妙な顔をしながら入って来た。  
「なんすか?」  
「…エドちゃん。アンタに渡しておかなあかんものがあるねん」  
そう言ってガーフィールは上着のポケットから、一枚の封筒を取り出すと、エドワードに差し出した。 
宛先は書いていない。  
「何ですか…これ」  
エドワードは不思議に思いながらも、封筒を裏返してみた。  
「……!! ガーフィールさん、この名前っ…!!」  
その裏には、万年筆でハッキリと「Rockbell」の文字が書かれている。  
「なんでアンタがこんなものを…!?」  
「…8年ぐらい前、ウチもおったんや。  
イシュヴァールとかいうとこの戦争に…従軍看護婦としてな。  
先生とその奥さんとは、そこで知り合ったんや」  
ガーフィールは、切々と語りだした。  
「ええ人たちやった。  
右も左も解らんイモ娘やったウチを、凄く優しくしてもろうた…」  
ガーフィールの瞳に、あの頃の思い出が少しだけ蘇る。  
「でも…二人は死んでしもうた…。殺されたんや。  
亡くなる前日に…先生がウチをこれに渡してくれた。  
『私の娘は、いつか必ず君の元に来る事になるだろう。  
その時が来たら、これを彼女か、エルリックと言う名字の兄弟のどちらかに渡してくれ』って…」  
「………」エドワードは、何も質疑が言えなかった。  
 
「ウチはあの子がドミニクのおっさんの紹介でここに来た時程…運命を感じた事はなかった。 
その先生の名前は……  
『エイジ・ロックベル』と『ユィリィ・ロックベル』…あの子のパパとママや」  
「…拝見してもいいですか」  
「……ええよ」  
ガーフィールの許可を得た後、エドワードは封筒の封を破り、中の手紙を取り出した。  
長い長い、何枚にも及ぶ直筆の文字の列。  
それを目で読んでいるうちに、エドワードは自分の手がブルブルと震えるのを感じた。恐怖でも、怒り 
からでもない。言葉にはしがたい複雑な気持ちだった。  
 
『…ウィンリィ。  
お前がこれを読んでいると言う事は、私が死んだと言う事になる。  
そして、お前が母さんと、私と同じ道を歩んだ事にもなる。  
お前がこれを読んでいる頃…世界は、奴等の手によって死の荒野に変えられてしまったのであろうか?  
それとも…… ・・・』  
 
「……おじさん」  
内容を全て読み終えたエドワードの瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。何故なのかは、エドワードにも解 
らない。ただ、自然と出ていた。  
「これの事、ウィンリィは知ってるんですか…?」  
ガーフィールは静かに首を横に振る。  
「アンタが、自分の口で伝えてやって…  
ウチの口からよりもその方がええ…」  
エドワードも、無言でコクリと頷く。  
それを確認した後、ガーフィールはそっとエドワードの部屋から出ていった。  
 
「…ウィンリィ」  
正直、エドワードはどうすればいいのか解らなかった。第一、どんな顔をしてあいつに会えばいい。 
ここに書いてある恐るべき事を、本当に彼女に話すべきなのか。 
いっそこのまま、知らせない方がいいのではないか?  
…だが、もう十分彼女を巻き込んでしまっている。ここに書いてある事だけは、知らせておくべきなの 
かもしれない。たとえそれがどんな結論に至るとしても。  
エドワードはベッドから降りて、隣のウィンリィの部屋に向かった。  
不安で胸を一杯にしながら。そして、小さく咳き込むと、目の前のドアを2度、軽く叩く。  
『…だれ?』  
すぐに声が帰って来た。その声は普段からは想像も付かないぐらい、か細い。  
「…オレ。ちょっとだけ話があるんだ。……入ってもいいか?」  
『え、あ、…うん。いいよ』  
ウィンリィの肯定の返事の後、エドワードはゆっくりとドアを開けて入る。  
「ごめんな。いきなり」  
「別にいいよ。あたしもなんか、今日はいろんな事があったから…」  
当のウィンリィは、既に寝巻き姿になっており、ベッドの脇にちょこんと座っている。寝巻きはピンク 
色で水玉模様の入った可愛らしいものだ。  
エドワードは小さい頃以来初めて見る幼馴染みの寝巻き姿に、妙な気持ちを持ちながらも、その隣に座る。  
「…それで? 話って……?」  
「…あ、うん……これ。迷ったんだけど、お前にも見せた方がいいと思ってさ…」  
そう言って、先程ガーフィールから渡された手紙をウィンリィに見せる。  
「こ、これって…お父さんの筆跡!? エド…これ、どうして?」  
「…ガーフィールさんがオレに渡してくれた。あの人、お前の親父さんと面識があったみたいでさ…」  
「し、知らなかった……」  
ウィンリィは愕然としながらも、封筒から中身を取り出して読む。  
 
 
 
『・・ 私達は、愚かだった。  
当初我々は、沢山の人々を救いたいが為に、究極の万能薬「エリクシール」を作る為に、従軍医師とし 
て治療をする傍、「賢者の石」を研究し続けて来た。  
…だが、全ては失敗だった。  
沢山の人間が精製の過程で死亡し、完成したかと思えば得体の知れない化け物を生み出してしまった。 
そしてそれは全て、治療に使われる事なく戦争の道具となり、数々の人を殺してしまった…!  
このイシュヴァールの戦線は、奴等の巨大な実験場だったのだ。  
私は…人の命を救う医者でありながら…全く逆の事をしてしまった。  
ウィンリィ。騙されていたとは言え、こんな馬鹿な事をしてしまった父親を、どうか許してほしい…!』  
 
「お父…さん……!!」  
ウィンリィがわなわなと震えながら、その手紙を胸元に抱き締める。  
そして、その頬を涙がつたう。  
「ウィンリィ…」  
無言で涙を流す彼女の姿に、エドワードは胸を締め付けられた。  
そして左手でウィンリィの肩を掴み、自分の胸にそっと抱き寄せた。  
「え、エド…?」  
「ごめん、ウィンリィ。他に方法が…思い浮かばなくってさ。」  
ウィンリィは少し驚いたが、すぐにエドワードの胸の中でコクンと頷く。  
彼女を抱き締めていたエドワードは、さっきまでの悩みの答えを、たった一つだけ思い浮かんだ。 
今考えられる、最善の方法が。  
「ウィンリィ。…一緒に行かないか?」  
「……え!?」  
 
思わず顔を上げるウィンリィ。その顔には涙の跡が残り、目は少し充血している。  
その顔に、エドワードの胸が痛む。  
「オレ達と…、一緒にいないか? これから…一緒に旅しないか?  
お前だけは、絶対守ってやるから。何があっても、お前だけは…」  
確かに、彼女も標的に入っている以上下手な場所に預けるよりも自分達の目の届く場所に置く方が遥か 
に安全である。彼女がいれば常にメンテナンスがしてもらえるし、万が一戦うときでも、いつも最高の 
状態で戦える。お金は困らないし、デメリットは全くない。  
「……エド? どうして……どうして急に…」  
エドワードは、しどろもどろとしながらも、意を決して言い放った。  
「守りたいんだ。  
お、お前…が…、お前が好きだから……!」  
「…………!!」  
突然のエドワードの言葉に、声を失うウィンリィ。  
「エド…、それって……」  
「…あ…はは………、ごめんなウィンリィ。呆れちまっただろ?  
少し前まで『二度と会わない』って言ってたヤツが今度は『一緒に行こう』なんて…。しかもこんなマ 
ヌケな告白するなんてさ……!  
カッコ悪いよな。オレ…………」  
エドワードは空笑いをしながら不安げにウィンリィの顔を見る。  
ウィンリィは顔を横に振ると、身体を乗り上げてエドワードに抱き着いた。  
体制が崩れ、そのままエドワードがウィンリィに押し倒される形になる。  
 
「お、おいウィン…」  
「……ホントに…ほんとに、付いて行っていいの?」  
自分の顔の真横から声が聞こえる。か細い声。  
「あたし、エド達の足引っ張っちゃうよ…?」  
その言葉に、エドワードを抱き締める力が強くなる。服越しに、互いの肌と肌が密着しあっているのが 
理解できる。  
エドワードは左手を背中から離し、彼女の頭を軽く撫でる。  
羽毛のように、柔らかい感触がする。  
「引っ張ってるものか……!  
十分、役に立っているさ。オレは、ずっとお前と一緒に戦って来たんだ。  
あのバケモン達と戦っていた時、やっと気付けた。  
ごめん。気付くのが遅くて……」  
ウィンリィが、コクリと頷く。  
顔は見えないが彼女の流してる涙が、自分の頬にも伝わっている。  
優しく、暖かい。  
「…また、泣いてるのか?」  
「……ううん。これ…嬉し涙だよ………」  
エドワードの胸中に、今まで幾度となく込み上げてきた感情が蘇る。  
この幼馴染みの少女にこの感情を持ち始めたのは、もう何時の事だったろうか。  
両手でウィンリィの肩を掴み、横に倒す。  
「きゃ…!?」  
今度は逆に、エドワードが上になる。  
ウィンリィの綺麗な髪が一瞬宙を舞い、はらりと落ちる。  
 
「エ、エド…」  
ウィンリィは目を見開いて彼を見る。  
星と月の光りに照らされるエドワードの顔は、普段の彼とは似ても似つかない、とても大人びた表情に見えた。  
二人の視線が、ピタリと重なる。  
それを合図に、エドワードの顔がそっと近付いて来る。  
ウィンリィも、目を閉じてそれを受け入れる。  
そして、二人の唇が重なった。  
「…ん……」  
「………」  
互いのファーストキス。時間にして数秒の、ほんの短いものだったが、二人にとってはどうしようもな 
く長く感じた。  
唇を離すと、慌ててエドワードが弁解の言葉を言う。  
「あ、ごめ、ウィンリィ…」  
「…なんで謝るの?」  
「いや、お前の返事も聞いてないのに、あんな事しちまって…」  
「…返事、聞きたい?」  
ウィンリィがわざとらしい口調で聞く。いつもならムキーっと大声出して怒る所だろうが、今はそんな 
気になれない。エドワードは一回だけ首を楯に振る。  
そんな彼を可愛い、と思いながら、ウィンリィは自分の寝巻きのボタンを外していった。すぐに彼女の 
柔肌がエドワードの目に飛び込む。  
白いうなじの色。隙間から覗く胸の谷間。  
エドワードは自分の中の獣を刺激され、思わず生唾を飲む。  
「ウィ、ウィンリィ!?」  
エドワードは彼女の大胆な行動に、思わず夢を見ているかのような錯覚に陥ってしまう。ウィンリィは 
3つ程ボタンを外して、その手を止める。  
 
「いきなり脱ぎますか?」  
「…ん。この方がいいかなって……嫌…だった?」  
「めっそうもない。…官能的な事で」  
「………/// 余計なお世話です」  
こんなやり取りで、やっといつもの自分達に戻れたような気がした。二人の顔にようやく、笑顔が戻る。  
「ほんとに…オレでいいのか?」  
「あ、あたしがエド以外にこんな事するとでも?」  
「いや。…スパナ投げないよな?」  
「うん」  
「後で怒んないよな?」  
「…うん」  
「……そっか。ありがとうな。」  
そう言った後、エドワードは再び彼女の可憐な唇に自分のそれを押し当てた。  
「………んっ……ん」  
何度も、何度も重ねるうちに、それは次第に濃厚なものに変わっていった。  
今まで想い描いて来た気持ちを、感情を。欲望をぶつけ合うかのように。  
互いの舌が、まるで別の生き物のように熱い。そこから流れゆく唾液が、例え様もなく甘く感じる。  
お互いに相手の頭を腕で包み、深く、深く舌を差しいれる。  
次第に、心臓と脳が熱くなっていくのを感じる。二人とも暫くの間、口付けだけに時間を費やした。  
暫く後、息継ぎの為に二人の唇が離れると白くか細い糸ができる。  
エドワードは沸き立つ欲望を必死に抑えながら、慣れない手付きでウィンリィの寝巻きの残りのボタン 
と、ズボンに手をかける。  
 
「…ん」  
機械鎧の右手の指がウィンリィの脚を微かに擦り、彼女の身体が一瞬反応する。  
エドワードに寝巻きを取り払われたことをようやく実感したウィンリィの顔が、瞬時に桜色に染まる。  
「……恥ずかしいよぅ」  
(何を今さら。)エドワードはそう思いながらも、改めてこの少女を愛しく感じた。  
その肢体はいつも思い描いていた通り。極め細かく綺麗な肌も、細く折れてしまいそうな腰も。スラリ 
と伸びた脚も。白で統一されたブラジャーとショーツも、よく似合っていて愛らしい。  
背中にゾクゾクとした感覚が通り、エドワードの獣の部分を刺激する。  
エドワードは両手を伸ばして、下着の上からウィンリィの胸を拙い動きながらも優しく揉みしだく。  
「んっ、ん…」  
ウィンリィに、機械鎧の冷たい感触と生身の暖かい感触が襲う。  
十分に男を満足させる大きさのそれは、エドワードの指の動きにピタリと合わさって、形を変える。 
同時にウィンリィの口から、喘ぎ声とも聞き取れるようなため息を漏らす。  
エドワードは頬から首筋、胸元へと夢中でキスの雨を降らせる。  
ブラジャーの下から手を入れ、それをまくし上げて胸を露にさせると、そのピンク色をした先端に軽く 
キスをすると、それを優しく口に含む。  
「……んっ! あっ…あんっ」  
ウィンリィは顔を左右に大きく振りながら、生まれて初めての快感とエドワードの愛撫に小刻みに反応する。  
乳首を時に舌で転がし、時には軽く甘噛みしながら。顔を左右に移動させてウィンリィの反応を楽しんだ。 
次第に、溜め息も確かな喘ぎに変わってゆく。  
 
顔を上げて、ウィンリィの目を見る。その瞳は潤んでいて、ひどく色っぽく感じた。  
「…気持ち、いいか?」  
「……ん。わかん…ない」  
意地悪、と思いながらもウィンリィは素直に答える。  
そんな彼女を可愛いと思いながら、エドワードは左手を彼女の身体に滑らせる。胸からお臍を経由し、ショーツの上から禁断のスリットを撫でる。  
そこは既に濡れそばり、エドワードの左手にニチャリとした感触が伝わって来る。  
「!! やっ…あっ!! 擦っちゃ、ダメぇ…!」  
ウィンリィの背中が仰け反り、身体を小刻みに震わせる。否定の言葉を口にするが、両腕はしっかりと 
エドワードの背中に巻き付いて来る。  
「ん、エドっ…、やだっ……」  
エドワードは背筋にむず痒さを感じながら、右手でショーツをずりおろし、ウィンリィを産まれたまま 
の姿にする。  
口では拒絶の言葉を出しながらも、ちゃんと脚を曲げてショーツを脱ぎ易くしてくれたウィンリィの従 
順さに、改めて愛らしく思う。  
そして、露になった薄めの茂みに、改めて指をつたう。ヘアをかき分け、彼女の秘唇を人差し指と中指 
を使って拙い動きで弄る。  
「ひっ! だ、だめぇ! エド、ふぁ、あん!」  
エドワードは真っ赤に染まった彼女の耳を甘噛みしながら、そっと囁く。  
「…どんな感じ? そんなに嫌か?」  
「あ、っ頭の中が、痺れて…へ、変に、変になっちゃいそうなのぉ…  
やっ、だめ、息吹き掛けないでぇ!」  
息をとぎらせながら、彼女はエドワードの拙い愛撫に敏感に反応してくれる。  
「へ…変だよあたしっ…何でこんな……ふあ!」  
(変になってるのはオレの方だ)エドワードは心の中でそっと呟く。  
入り口を擦るだけだった指を、そっと沈めてみる。その瞬間にウィンリィの背中が弓のように反り返り、 
エドワードの背中に服越しながらも複数の痛みが走る。  
 
「いやっ! やだ! エド、こわいよぅ!」  
今までとは、明らかに声の調子が違う。  
慌てて動きを止め、彼女の顔を見ると、今にも泣き出しそうな顔をしていた。  
エドワードの胸に罪悪感がよぎる。  
「エド……意地悪すぎるよぅ…」  
「ご、御免な… でも…でもオレ……」  
上体を起こし、上着とシャツを脱ぎ捨てるエドワード。年齢と背の割りに程よく絞まった筋肉と、痛々 
しい機械鎧の手術跡、生々しい傷跡がウィンリィの目の前に現れる。  
「オレ…もう止まれないよ。」  
そのままウィンリィの手を引っ張って、彼女の身体を起こす。  
「エ、エド………」  
「…ウィンリィ」  
そして、彼女と目を合わせ、できる限り優しく名前を呼ぶ。  
「愛してる。小さい頃からずっと…」  
普段ならこんな言葉、死んでも言えないだろう。だが、今だけは素直になれる気がした。本当の自分を 
曝け出せる気がした。  
そのまま、長いキスをする。舌は入れずに、互いの体温だけを感じ取る。  
唇が離れると、二人の顔からどちらともなく笑みが溢れた。  
ほんのりと、桜色に染まっているウィンリィの顔。多分自分もいま、彼女と同じ顔をしているのだろう。  
エドワードは唇と舌で身体をなぞりながら、ウィンリィの腰の部分に移動する。  
ゆっくりと脚を開かせ、やがて彼女の魅惑の花弁に辿り着く。  
花弁は愛液でしっとりと濡れ、甘く濃密な匂いを放つ。  
エドワードは自分が華に誘われる蝶や蜂のようになった気分がした。  
彼はその魅惑の香りを胸一杯に味わう。  
 
「やぁ…におい嗅がないで…… 恥ずかしいよぉ…」  
「恥ずかしがる事ねぇよ…」  
そう言いながら、エドワードはその愛液の源に舌を這わせる。  
大陰唇を指で広げて、小さな突起物を中心に舐めとる。  
「ひっ! な、舐めちゃ…だめぇ! 汚い…よぉ! はひ、あぁ、はぁぁっ!」  
ウィンリィは初めての快感に、恐怖を覚えながらエドワードの頭を掴む。  
綺麗な金色の髪を振り乱し、否定の言葉を口にするも、腰は勝手に動いてしまっていた。頭を掴まれて 
いるうちにエドワードの三つ編みがほどけ、彼の長髪がふわりと落ちる。  
「汚くなんかねぇ。お前のここだもの」  
エドワードは舌の動きを増す。丹念に、隅々まで舐め回す。  
「ああ! ん! エド、あっ、だめぇ! ふぁぁん!」  
彼女を攻めているうちに、自分自身にもそろそろ限界が訪れようとしていた。彼の逸物はズボンの中で 
もうはち切れそうになっている。  
舌の動きを止め、ズボンのベルトを外し、下着ごと降ろしてベッドの下に落とす。  
そして、息もままならないウィンリィの脚の間に身体を割って入らせる。  
いきり立つエドワードの逸物が、彼女の陰唇に少し当たる。  
「…!! え、エドっ…」  
その感触に、ウィンリィの顔に微かに怯えが走る。恐る恐るエドワードの顔を見ると、髪がほどかれた 
せいかエドワードの顔がひどく色気のある顔に彼女には見えた。  
「ごめんな、ウィンリィ。オレ、お前の中に…」  
「……エド」  
「挿れ、たい……!」  
顔を真っ赤に染めながら、静かな口調で囁くエドワード。  
ウィンリィは唇を震わせながらも、ゆっくりと頸を縦に振った。  
 
「痛かったら……言えよ」  
「……ん」  
ウィンリィは静かに瞳を閉じて、エドワードの荒い息遣いと体重を感じながらも、身体を楽にする。  
エドワードの腰が、ゆっくりと少しずつ彼女の中に沈んでいく。  
「っくぅっ! あ」  
ウィンリィの小さな悲鳴が聞こえる。顔を歪めながら右手でエドワードの肩を掴み、左手でシーツを 
ギュッとつかむ。  
その顔に、エドワードの中の獣の部分がゾクゾクと刺激された。  
今、自分の中で不可分の喜びと独占欲が胸を支配していく。  
ずっと想い続けていた幼馴染を、自分だけのモノにしようとしているのだ。  
自分の中で鎖に繋がれた獣が、その鎖をどんどん引き千切っているような気がした。  
「ウィン…リィ」  
エドワードは自分の方を掴んでいるウィンリィの右手をそっと外させると、代わりに自分の左手を指を 
絡ませて握りしめる。  
ウィンリィもそっと握り返し、彼の顔を見て瞳を潤ませながらも微笑んだ。  
(大丈夫だよ)とでも言うかのように。  
(ありがとう)エドワードは心の中でそう囁きながら、彼女の唇にキスをした。  
そして、更に深く、一気に根元まで捻り込んだ。  
「くぁっ!! あぁあ!」  
なにかが、裂けるような音がしたように聞こえたが、ウィンリィの悲鳴と重なり、それはエドワードの 
耳には聞き取れなかった。  
初めて男を受け入れたウィンリィのそこからは鮮血と愛液が流れ、シーツを紅く染めていく。  
 
「はぁ……はぁ……エドとあたし…今、繋がっちゃってる……」  
苦痛に必死に耐えながら笑みを浮かべようとするウィンリィの顔が、彼には只々愛しく見えた。流れ落 
ちた涙を舐めとると、右腕で彼女の身体を抱く。  
「うん。繋がっちゃってる…」  
そう言って、暫く彼女の鼓動が落ち着くのを待つ。  
痛みが和らいだタイミングを見計らうと、少しずつではあるが腰を動かしはじめる。  
「ぅん? あっ、はぁっ! あっ、あっ、あっ………」  
痛みに耐える彼女の顔にカタマリを覚えつつも、腰の動きは自然と速くなっていく。  
処女の膣は、ギチギチとエドワードの逸物を締め付けていくが、血と愛液が混じった分泌物が、挿入を 
スムーズにしている。腰の動きも、自然と速くなっていった。  
「あ、は、はぁ! んあ、へ、変! あたし、変だよっ、  
はっ、初めて…あたし、初めてっ、なのにぃっ! あぁっ!」  
ウィンリィの口から漏れる声が、明らかに苦痛以外のものに変わっていく。  
「い、痛いだけっ……だと、思ってたのにっ……! あ、はぁぁん!」  
「変じゃねぇ…よ。っ!」  
声色にハッキリと快感を覚えるウィンリィを、エドワードは激しく突き上げる。  
エドワードの中で、鎖の千切れる音がした。内にいた獣が、解放される。  
獣のように腰を突く度に、ベッドが軋み、エドワードの下で細い裸身があられもない嬌声を上げて悶える。  
一突きする度に悶え方や感じ方を変えるウィンリィが、只々愛しい。  
 
守りたい。  
彼女と生きたい。  
生きたい……  
 
やがてウィンリィが手を握る力を強くし始めた。限界が近い証拠なのだろうか。  
「くぅ、ああ! エド、エドぉ! くるっ! なにか、なにかきちゃうよぉ!!」  
突き上げているエドワードも、やがて頭の中が真っ白になっていく。  
「くぁっ!! オ、オレもっ…! いいか? このままっ……!!」  
「ひぁ、ああ、あ、ふぅあ! い、いい、いいよ、エドの、ならっ!  
このまま、あたしの膣でいいっ! あっ、く、くるぅ!!」  
その瞬間、膣内がビクビクと痙攣し、最高の締め付けがエドワードの逸物を襲った。  
「ウィンリィっ…! ウィンリィ! くぅっ………!!」  
「ああっ、ああん、エド、エドぉ!! あぁあああぁぁぁぁぁぁ!!」  
ウィンリィが初めての絶頂に達したと同時に、エドワードも彼女の膣内にありったけの精子を放った。  
 
お互いに身体を荒い息づかいで上下させながら、強く抱き締めあって行為の余韻に浸った。  
密着した肌は微かに蒸気を放ち、お互いの熱が感じ取れた。  
二人は再び濃厚なキスをしあい、手を握って抱き締めあった。  
 
 
 
そして、その行為を見ていた人物が二人いた……  
「……す、凄かったね………」  
「ぶったまげた…2時間ぐらいぶっ通しだもん。ホントに初めて同志だったのかなぁ…」  
アルフォンスとパニーニャだった。  
二人とも行為が半ば頃からずっと目が離せずしゃがんで見ていた。  
パニーニャは、ただ呆然として一緒に自慰をする気にもなれなかった。  
アルフォンスも、兄と幼馴染の信じられない光景に、唖然とする。  
「で、でもさぁ。アルが生身だったら…アタシアルに抱かれてたかもね。  
あんなの見せつけられちゃったら…」  
その言葉にドキリとしつつも、シュンとなる。  
「…パニーニャ。  
ごめん。ボクの身体がないばっかりに」  
パニーニャも触れてはならない事に触れてしまったと気付き、後悔しながら謝る。  
「あ……ごめん。そんなつもりじゃ…」  
「…ん。いいんだ。ああして、兄さんとウィンリィが恋人になれたんだから」  
「…………アル」  
パニーニャは立ち上がると、しゃがんだままのアルフォンスの青銅でできた兜の頬当てに、そっとキスをした。  
「パ、パニ…」  
「ごめんねアル。今回はこれだけ。…おやすみ」  
頬を紅く染めた後、パニーニャは足早に音を立てずに部屋の方に行ってしまった。  
アルフォンスは何も感じられないはずの自分の鎧の身体が、何故か熱くなっていくのを感じた。  
「…もしかして……」  
ガシャリとその場にへたり込み、キスされた部分をそっと撫でる。  
「十分…です」  
そして、扉の奥の二人は何も知らず、そのまま裸にブランケットを掛けただけの状態で眠りに落ちていた。  
 
 
 
『エドワード・エルリック君。アルフォンス・エルリック君。  
君達は、無事に君達のお父さんのような錬金術師になれたのだろうか。  
もしそうなのなら…  
これをウィンリィ。  
お前が読んでいるこの時に、あの計画が実行されていないのなら…  
まだ…  
 
人間にも… 未来にも…   
 
希望はある……』  
 
 
 
 
次の日の朝。空は雲ひとつない突き抜けるような青空であった。  
「……………」  
「……………」  
「……………」  
「なんですかこれ」  
朝食でテーブルに座った4人は、目を丸くして目の前にあるブツをジッと見ていた。  
「なにやっとんねん。3人ともはよ食べなさい」  
おかずは、サラダとコーンスープ、ベーコンの乗った目玉焼き。それと牛乳。  
そこまでは普通なのだが…  
珍しく、パンがない。その代わりにライスがある。そのライスが、また異様であった。赤いのだ。 
こんな米、見た事がない。それに加えて茶色と黒の中間のような豆が混じっている。  
 
「ガーフィールさん。なんなんすかこの赤いライスはっ…!?」  
「た、食べれるんですか…?」  
エドワードも、ウィンリィも。パニーニャでさえもこの見た事のない食べ物にビビっている。  
朝食を作った当のガーフィールは目玉焼きを食べながら、キョトンとしていた。  
「ん? お赤飯。」  
「「「「なにそれ?」」」」  
4人の声が見事にハモる。  
「ウチのお母ちゃんの故郷の、東の方の国で作っとるおコメ。お祝いごとの時に食べるんやと。 
遠く離れたここじゃあ滅多に手に入らんのやで。ありがったーく食べなっさい!」  
呆然とするエドワードとアルフォンスだけに対し、ウィンリィとパニーニャはちょっとだけ納得できた。 
彼女のフルネームはセリカ・ガーフィール。話から推測すると母親が東国(日本)の出身だと言う事になる。 
ウィンリィの祖母のピナコも、似たような語呂の名前。聞いた事はないがもしかしたら祖母も東国の出 
身か、血を引いているのかもしれない。  
「はぁ… 東国でねぇ」  
「でもなんでまたいきなり?」  
「今日って…平日だったよね兄さん?」  
その言葉に、ガーフィールがニンマリと笑みを浮かべる。  
「とぼけなさんな。昨日の夜は4人して特別な日やったろ!?」  
「「「「ギクリ!!」」」」  
4人とも、肩をビクリと震わせる。そして3人は即座に真っ赤になり、アルフォンスも肩を垂らしてうなだれる。  
「な、ななななんでアンタがそれヲ!!」大声を上げて焦るエドワード。  
「知ってたんですね…」兄を宥める役目を忘れ、顔を背けるアルフォンス。  
「が、ガーフィールさぁん…」熱を帯びた顔を両手で包むウィンリィ。  
「ううっ…(見、見られてた…?)」うつむいて、モジモジとするパニーニャ。  
「…安心してや。ウチは覗きなんてシュミはあらへんから」  
 
「「「「(このおばはんっ…全部聞いてたのだな!?)」」」」  
 
エドワード達は心の中で叫びながらも、目の前の赤飯を口に入れた。  
初めて食べる外国のお米はちょっぴり固かったが、味はなかなか美味しく思えた。  
 
『私は、「賢者の石」の…そして奴等の犠牲になった人々に、  
償いをしなくてはならない。  
エドワード君。アルフォンス君。もしも私の意志を継いでくれると言うのなら…  
人の為に錬金術を使ってくれると言うのなら……  
君達にウィンリィと共に、ある場所に行ってほしい。  
地図は、3枚目の紙に書いておいた。  
そこには、私が今まで研究してきた全てを記録してある「もの」を置いて来た。  
奴等に見つかる前に、それを回収してほしい。  
今度こそ…今度こそ、それを…人の為に使ってほしい。  
未来は君達の為に、あるのだから……!!  
 
最後に、我が娘のウィンリィよ。  
幸せになってくれ。 それだけが、私の願いだ…  
 
Eiji Rocebell』  
 
 
「…ああ、そうか。了解した。では、これで失礼する」  
ガシャリと音を立てて、ロイが受話器を置く。  
「大佐。ウィンリィ・ロックベルちゃんの保護の要請は済んだのですか?」  
ホークアイが今朝の会議の書類を手にしながら、ロイに話しかける。  
そんなホークアイを見て、ロイはクスリと苦笑いをした。  
「…大佐?」  
「いゃ、失敬。連絡した事はしたのだが……」  
「?」  
ホークアイは首をかしげる。  
「どうやら、とんだおせっかいだったようだよ。」  
「は?」  
「あの娘には、もう最高のボディガードが付いているようだよ」  
ホークアイは少しの間ポカンと口を開けたが、すぐにあの生意気な少年の顔が浮かんだ。  
「あ、なるほど…」  
「…さて、中尉。今日は確か護衛の任務があったのではなかったかな?」  
椅子に掛けておいた黒いコートを手に取り、袖を通すロイ。  
「あ、はい。今日はここセントラルで国立医学会が開かれる予定です。  
各国の著名な医者ばかりが集まって来ますから…」  
「誰かが狙われる危険もあるという事だな。行くぞ、ホークアイ中尉。」  
珍しく自分から率先して歩き出すロイ。  
「…はい、マスタング大佐」  
ホークアイの目には、その背中がなんとも頼もし気に見えた。  
 
 
汽笛の鳴る音。機関車の煙の匂いが少し匂う。  
エドワード達は朝食の後、すぐにラッシュバレーを発った。  
エドワードの隣には、ウィンリィが座っている。  
真ん前には、アルフォンス。それと、もう一人…パニーニャまでいる。  
「なんでお前までいるんだよ…」  
「えへへ。ガーフィールさんから話は聞いたよ。  
アタシがそんな『お宝』を逃すとでも?」  
これは嘘。エドワードは直感した。朝食でガーフィールさんにからかわれた際、自分達はおろかアルと彼女の様子が変だったのを、エドワードは見逃さなかった。  
「へっ、勝手にしな。その代わり旅費はお前で払えよ」  
エドワードは苦笑いをしながら言う。  
「えへへ。んじゃあ今後とも宜しく」  
 
青空と草原が平行に走る中、汽車は行く。  
目的地は、手紙に示してあった「場所」。そこに、自分達の求めていたものがあるのかもしれない。 
万が一人体錬成を行っていなかったとしても、自分とアルが名指しで指名されたのだ。行かない訳にはいかない。  
「…ねぇエド」  
「ん? 何だウィンリィ」  
エドワードの隣に座る、愛しい彼女が囁く。  
「…あのとき南方司令部の人から受けた電話。なんで断っちゃったの?」  
「……ああ。あれな。お前を保護するって言っていたけど、あの人たちじゃあお前を守りきれないさ」  
エドワードは、左手でウィンリィの肩を背中から掴み、自分の方へグイッと引き寄せる。  
 
「お前が世界で一番安全な場所は…  
オレのそばだ」  
「………!!」  
即座に顔を真っ赤にするウィンリィ。対するエドワードも、彼女と負けないぐらいに顔を赤くしている。  
「ばっ、バカ…! こんな所で、そんな事…」  
「う、うるせー。オレだって恥ずかしいんだよっ」  
前に座っていたアルフォンスとパニーニャが、即座にからかい始める。  
「ひゅーひゅー。ヨッ、このバカップル!」  
「兄さん、やっと素直になれたんだね。ボクは嬉しいよ!!」  
「「ふーふ! ふーふ!!」」  
次第に、周りの席からもクスクスとした笑い声や、「がんばれよ」と言うからかう声まで聞こえて来た。  
「やだやだ! 二人ともっ…!」  
「だぁっ!! そこで煽るなっ!! 余計恥ずかしいじゃねーか!!」  
 
…そう。  
例え、どうにもならなくなっても。  
カミサマが何をしようとも。  
 
自分達は、総てを取り戻す。  
この手の中にいる、愛しい存在をこの手で守り続ける。  
 
この虚空(そら)に誓って………!  
 
 
END  
 

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