私にはご褒美がある。
あの人が上に向かって進むというなら私もそれに従いどこまでもついて行く。
同じように全幅の信頼を置いた部下が何名かいるけれど
同じようにあの人からご褒美があるかどうはわからない。
暗くなった部屋にあの人は机に肘をついて俯いていた。
黒い髪が少し乱れてそれが疲労を表してるように見える。
「今日はご苦労だった、よくやったな」
誰も居ない暗い部屋、座ったまま伸ばされた腕が私の首の後ろを捉えた。
そして重なる温かでやわらかい唇。
口付けはいつも突然に始まる。
けれどそれは恐ろしいものじゃない。
流石に浮名を流しただけあって余裕があって、唇が触れると硬くこわばってしまう私の体が
ゆっくりと解けるように幾度も唇を重ねては離れて、軽く唇を咬まれたかと思うと
深く舌を絡ませては私のうちから力を吸い取ってしまう。
そうして気がつくと私はいつもあの人の胸に抱き寄せられている。
上から覗き込む黒い瞳はこの時ばかりは優しい。
「・・・今日は離し難いな」とあの人は立ち上がり私の目の前に立つ。
目を細めて覗き込むいつもよりも柔らかい表情。
「この髪をもっと乱れさせたいのだがね」と髪を上げむき出しになった首筋に指が触れる。
いつもはもっと対等に話をするのに、こんな時ばかりは言葉が出てこない。
そういう私をこの人は面白がっては微笑んで唇を重ねてくる。
今日のキスは少しいつもと違った。
もっと私に応えろと私を誘う。
どうして私にこんなことをするの?遊びなら他所へ行けばいいのに。
私の手はどうしてよいかわからないまま、私の胸と大佐の胸の間で立ち往生してる。
恋人じゃない、どこまでもついていくと決めた人、腕を回してよいのかわからない微妙な関係。
唇を重ねながら大佐の腕が私の腕を彼の首に回す。
そしてまわされたあの人は腕はきつく私を抱きしめる。
装備が邪魔に思えるけれど、それよりもこうして力強く抱きしめられるのが嬉しい。
いいのですか?本当に?
あの人の首に回した私の腕にも力がこもる。
私の名を呼ぶ声がある、「リザ」と・・・。
この腕が、このキスがあるから私は頑張れるのだと思う。
ただの上官と部下になってしまったら?
それを考えるのは嫌。
この人をずっと守って追いかけて側にいたい。
「ん・・・あ・・・」知らないうちに声が漏れていて、それは私の声ではないように艶っぽかった。
「この先は?ここでは無粋だ」
その声に私も頷いてしまいそうになる。
私をその気にさせるなんてこの人には容易いのに、私に確認するのだ。
「・・・目標を達成したら考えておきます」
その答えにあの人は苦笑する、でも黒い目には自信の強い光が見える。
「もうじきだ、それまでキスで我慢するとしよう」
私は自分からあの人を抱き寄せて唇を重ねる。
秘密は当分続くのだろう。