「最近、調子悪くないか?」  
 行軍中のジープの中だった。ヒューズ大尉は隣に座って、地図を見ている。  
調子が悪いという言葉が何を指しているのかわからない。私は簡単に動揺す  
る。副司令の暴挙のせいで余裕がなくなっているからだ。  
「そう見えますか?」  
「あぁ、見える。リザちゃん色白いから顔色わりいのよくわかるし、それに精  
度落ちてるだろ」  
 性奴?まさか。こんな時に出す話題じゃない。それに、知っているわけはな  
いだろう。だが、カマをかけているとすれば?大尉ならば気付くかもしれな  
い。わからない。  
 だが、これだけははっきりしている。気付かれていたとしたら、私は部隊か  
ら外される。少佐なら外せないかもしれないが、大尉はとても理性的だ。シビ  
アとも言える。私を外さなければ、少佐がいつか私のために動いてしまうかも  
しれないことをよくわかっている。  
 私もそれはよくわかっていた。このままいたら少佐にマイナスになる可能性  
が高い。けれど、まだ少佐と離れたくない。どうしても側にいたい。それに、  
できることならば副司令の手から抜け出したいという気持ちもある。少佐とい  
ればその可能性はあるが、私一人ではどれだけ多くの物と引き替えかわからな  
い。私はそれなりに裕福な生まれで、両親を大切に思っていた。  
 結局私は気付かない振りをして聞き返すことにする。  
「え?」  
「銃。鷹の目の照準がブレたのなんて初めてだ」  
 大尉は簡単に言う。予想とは内容が違っていた。だが、問題なことは変わら  
ない。私の実力が少佐の側にいるに値するものかと聞かれているのだ。返答次  
第で隊から外されてしまうかもしれない。  
「すこし調子が悪かったので…」  
 私は何を言うべきか悩みながら、常套句でお茶を濁す。  
「……。何か、理由があるかと思ったんだがな」  
 言い当てられた。私は目を伏せる。何も答えることができない。理由を話す  
という選択肢は私の中にはなかった。  
 
 少佐に聞かれたとしてもこれは同じだ。少佐に知られることがいやなだけで  
はない。それよりも、事実を知った少佐が私を見捨てないだろうことが怖い。  
私のせいで少佐が立場を危うくするかもしれない。だが、できるならば私は少  
佐に救ってほしかった。大尉でなく、少佐に一番に気付いてほしかった。私は  
本気でそう思っている。  
 危険だ。私は少佐にとってとても危険な存在だから大尉に外されるかもしれ  
ない。私は色んなことを混同していた。疲労が勝っていて物事を分けて考えら  
れなかった。  
 
 
 作戦はもちろん成功に終わった。少佐の力と大尉の作戦能力があれば、当然  
のことだ。しかも駐屯地に帰るまで二日もかかる。私は作戦後も副司令に会わ  
ずにすむため、いつもよりリラックスして毛布に包まった。  
 だが、そんなことはなかった。寝てからそう時間が経たないうちに、私は何  
か胸を圧迫されるような感じがして目を覚ました。上から誰かがのしかかって  
いる。誰かはわからない。だが、男だ。この部隊には男しかいない。  
 下半身がすぅすぅする。寒い。太股をじかに撫で回されている。手の汗や脂  
を塗り付けられているようだ。こういう触り方は気持ちが悪い。私は手を振り  
払う。叫び声を上げようとおおきく息を吸う。  
「−−誰か!」  
 人が起きた。確かに起きただろうと思う。一度にうるさくなる。私は手探り  
で服を見つけだし、逃げ出す。トラックの荷台から離れて外に出て、やっと安  
心する。  
 木にもたれかかって一度息を吐くと、乱暴な気持ちになってひたすら深呼吸  
を繰り返す。ただ何かを繰り返していたい気分だ。吸って吐く、を繰り返し続  
けていると、後ろから誰かに肩を掴まれた。私はびくっと震えてしまう。馬鹿  
みたいだと思うが、世界全部が私を傷つけようとしているような気分だったの  
だ。  
 
「いや、ああ、ええと、……すまない。驚かせるつもりはなかったんだ」  
「少佐…」  
 私は泣いていた。少佐は少しだけ困ったような顔をしている。ヒューズ大尉  
みたいに適切な態度をとれない方なのだ。  
「どうしたんですか?」  
 私は砂色の迷彩服で目を擦った。すると、少佐が袖をひいて邪魔をした。  
「それはよくないな。目が悪くなる」  
「狙撃手だからですか?」  
「部隊の一員だからだよ」  
 さりげなく言われて、私は首元が熱くなるのに気付く。少佐はこの手の言葉  
は得意だ。何も考えなくても口をつくのだろう。こういう儀礼的な優しさを分  
けられるたびに私が特別踏み込んだ部分に触れられないことがわかる。少佐に  
しっかりと線引きされている気がする。  
「……ヒューズに怒られてしまったんだ」  
「?」  
「『准尉の様子がおかしいのに、お前はまったく気付かないのか!』と言われ  
てしまったよ。情けないな」  
「そんなことはないですよ」  
 私は自分でも何に対してかわからないまま、フォローしようとする。  
「そうかな。だが、最近准尉はやつれたような気がする」  
「そんな…」  
「隊の者から、夜にいなくなることも多いと聞いた」  
「……」  
 少佐は私の方向に身を乗り出すと、距離を置いたような口調で言った。  
「最近の君はおかしい。いったい何があるんだ?」  
 
 私は口ごもる。ここで答えなければ、少佐との仲は致命的に損なわれてしま  
う、そんな感じがする。けれど、何を言えばいいのかわからない。少佐がとて  
も好きだ。だから知られたくない。けれど、答えずに少佐が必要としている物  
の中からなくなってしまうのは、とても悲しい。本当に、とても。  
 だが、結局私は何を言えばいいのかわからなかった。だから仕方がなく、何  
も言わないことにした。そう言うと少佐は失望というよりは軽蔑のような表情  
をした。あるいは、それほど意味があるわけではなくただ手駒としての私に興  
味を失っただけかもしれないが。  
 私は二日後に駐屯地に戻って日課通りに副司令の執務室に行った。私は副司  
令の部屋に行く時にはとても気が立っているので、その時周りに何があるかも  
気付かなかった。だから、副司令が私を上に乗せて何度となく少佐のことを聞  
いている時に、扉が開いているのにも全然気付かなかった。  
 
 副司令のセックスはしつこい。年齢から回数はそれほどないが、側にいる護  
衛兵達に私を犯させて、悦に入っていることも多い。私はその日も何人目かわ  
からない男の肉棒を口に入れて、舌を巻き付けるようにして刺激していた。  
「へへ…、こんなもの銜えても濡れてるんだから、准尉さんも好き者だよな  
ぁ」  
 口の中が埋め尽くされていて、からかわれても反論はできない。ただあえぐ  
ような声がその隙間から漏れるだけで、いやがっていることを示すのは涙ぐら  
いのものだ。だが、泣くたびに嘲笑われてひどくされるので、もう特に反応し  
なくなっていた。激しい嫌悪感だけが残っていて、なぜかいやだと強く感じる  
たびに腰が溶ける。  
 
 今も男の精がのどをくぐる度に、どんどん濡れてきているのがわかる。舐め  
させるだけでなくて、濡れたところをどうにかしてほしい。肉棒で中をかき回  
されて、何もわからなくなりたい。私は性器を男のすねに擦り付けるようにし  
て、自慰を始める。両手は後ろで結ばれていて、動きは限定されている。  
「おいおい、准尉さん。オナニーよりしなきゃいけないことがあるだろう?」  
 男が口の中でピストン運動をするように、腰を揺する。濡れた場所がすねか  
ら離れて、気持ちよくない。  
「やっ……んん…むむぅ」  
「ほら、舌を使えよ」  
 私は舌先を肉棒に擦り付けるようにしようとする。だが、動いているそれに  
対しては上手くできない。上手くできないとうずいている場所はいつまでも触  
って貰えない。そう思うとより濡れた場所が物足りない気がしてくる。私は何  
度も太ももをすりあわせて、上目遣いに男を見る。すると、男は興味を失った  
ように私から肉棒を引き抜き、次の男に替わった。  
 最近こういうことがよくある。このまま男達が興味を失ってくれるのではな  
いかと、私は密かに期待していた。  
「ったく、こんなにぐちょぐちょなおまんこ晒して、恥ずかしくないのかよ」  
 私は相手のバカさ加減にあきれて、口をつぐむ。最悪な状態で少しでも楽に  
なる方法を選ぶのは、ごく当然のことだ。自分のしていることの方がよほど恥  
ずかしいだろうに、それも麻痺しているのだろうか。  
「准尉さん、入れてほしかったらちゃんと足開けよー?」  
 私は素直に足を開いて、媚びた顔を計算して見つめる。頭の軽そうな男の肉  
棒が進入してきて、爛れた肉襞をくすぐられる。気持ちは、いい。とてもいい  
状態だ。だが、あまり悲しい気持ちにはならない。  
 大抵の女はこの状態なら自分の不幸に酔うことができるのだろうが、そこま  
でこの状態に乗ることができない。だから気持ちよさだけは感じるが、特に傷  
ついた気分にはならない。宙ぶらりんだ、そう思いながらも嫌悪感がわくたび  
に腰が溶ける。おかしな感じだった。それでも、扉が開くことがなければ、そ  
のままいつものように外周部に戻っていったのだろうと思う。  
 だが、扉は開かれたのだ。  
 

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