「アル、何するの! やめて!」  
 ベッドの上で、ウィンリィがボクを睨みつける。  
「好きなんだ、ウィンリィ!」  
「い…いやぁ!!」  
 ボクは夢中でウィンリィの腕を押さえつけ、膝で足を押さえ込む。  
 そして、キス……しようとして思い知らされた。  
 ボクには、唇が、ない。  
 兜の下顎をラストっていう人に破壊されて、今は布で作ったカバーで応急処置をしてる。  
 カバーは、ウィンリィが作ってくれた。  
 早く、兄さんが帰ってくればいいのにって言いながら。  
 このベッドに腰掛けて…そう、兄さんがウィンリィを抱いた、このベッドで。  
 小さい頃、ボクも兄さんもウィンリィが大好きだった。  
 どのくらいウィンリィが好きかって、喧嘩した事もある。  
 喧嘩で勝つのは、いつもボク。  
 なのに、ウィンリィが選んだのは、兄さんだ。  
 ボクは、思わずにいられない。  
 もし、ボクが生身なら、兄さんに後れをとることなんてなかった筈だと。  
 でも、わかってる。  
 ウィンリィは、小さいときから、ずっと兄さんの事が好きだった。  
 そして、兄さんが少佐に連れて行かれる前の夜、泣きじゃくるウィンリィを抱きしめる兄さんの姿を、あの扉の影から、ボクは見ていた。  
 その夜、ボクは、ひとりぼっちになった。  
 仕方のない事だと、ボクは自分に言い聞かせる。  
 ボクは望んで人体錬成をして、兄さんに生きる可能性を貰った。  
 でも、時々、たまらなく兄さんが羨ましくて仕方ない時がある。  
 もし、生身の体なら、こんなドロドロした気持ちにならずにすんだかもしれない。  
「…ごめん…なさい」  
 ボクは小さな声で、ウィンリィに謝った。  
「ごめんなさい…ごめんなさい…」  
 ボクは、大好きな女の子を抱きしめることさえできないんだ。  
「ごめんなさい…」  
 ボクはウィンリィの上からどくと、「もう、二度とこんなことはしないから」って言った。  
 ウィンリィが頷いて、許してくれたので、ボクは503号室を出ていった。  
 
おわり。  
 

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