眠りに陥りながら、ベッドに身を沈めると夢うつつな気配に鈍いものが感じられた。  
誰かが自分に催す鋭い空気、確実に一点の定まった激しい殺気だ。  
「……っ!」  
目を開いてすぐに飛び込んできたもの、自分にめがけて振り下ろされる刃物の  
先を寸でのところでロイ・マスタングはよけた。  
狙いはずされたそれが、ぶすりと枕にそれは刺さり、羽を散らす。  
ばっと起き上がり、覆面を催した黒い気配の正体とロイは眼前で相対する。  
2度目の攻撃に備え、枕下に潜めた銃を得ようと手を伸ばすが、間に合いそうにない。  
開いた片方の手で相手の振り下ろす刃をとりあげることにした。  
「くそっ!」  
――刺客か?  
単独の刺客にこれまで幾度か遭遇したことはある。  
敵対してしまった大総統一派からのものであることも判明しており、  
十中八九、今回もその類だ。  
振り回された刃…どうにか裁きを彼の片手は応じ防げたが、  
犯人はもう片方の手で銃を用意している。  
発砲にむけてそれは今にも発射されそうだ。  
刺し下そうとする阻み手をマスタングは瞬間的に脱力させ、  
がくりと相手がなったところでその銃を蹴り上げた。  
「お前も大総統一派の刺客か!」  
「っ…!」  
なんとも、犯人のそれは容易く防がれた。  
細身の刺客、夜目に全ては伺えないがかなりの小さな人物であることは伺えた。  
かすれた声も高い。  
少年かと察した彼は、ねじ伏せて組み倒された犯人を強く抑えながら尋問した。  
「言え、何者だ!」  
だが、後ろ足でみぞおちをロイは蹴り上げられた。  
怯んだ瞬間に犯人は暴れ、逃げかかるが、  
ロイはなんとかもう一度捕らえ、その覆面をはぎ取った。  
 
「……!」  
我が目を疑う事実に声が詰まる。  
はらりと流れる金糸の髪、よく知る面差しのその姿…  
大きな瞳の別れた恋人、リザ・ホークアイの姿がそこにあった。  
「リ、ザ…まさか」  
「仕留めそこなったわ、早く焼けば?」  
殺してしまえという驚きの言葉に、ロイは眉を顰めた。  
彼女の豹変ぶりに耳を疑う。  
きつく睨み、こちらを凝視し殺意だけが存在する彼女の応答には、  
以前の面影が微塵も感じられない。  
ただ別れたいといって一方的に離れ、上からの指令を受けて、  
別の部署に彼女は行ってしまった。  
置いていかれたような感をくらったことで失念していた今のロイに、  
なんとも酷な対面である。  
信じがたい事実を目の前に突きつけられて胸がざわついて仕方がない。  
「リザ、なぜだ?どうしてこんなことをしている?」  
「早く殺してしまえ」  
「何を言ってる。この数ヶ月、あれから連絡も取れなくて、  
移動先の部署にもとりついでもらえずに探していたんだぞ」  
「死の男…」  
ぼそりと彼女は漏らした。そして再度燃やせと怒号をあげる。  
「リザ、今までどうしていたんだ?」  
「…焔に、焼かれて、私が消える」  
「答えるんだ。リザ!」  
目の虚ろな彼女は、燃やせとしか答えなくなった。  
ロイが肩を掴んで詰め寄ると、彼女は口の中で何かを噛んだ。  
一瞬の口の動き、鈍い音…  
カプセル状の毒であろう。失敗したら始めから自殺するつもりだったらしい。  
 
「何を噛んだ。吐き出すんだ」  
彼女の歯に指を入れ、ロイは染み出して喉に陥りかける薬剤を取り上げた。  
現在、開発されている自害向けの薬剤は、除去が早いと助かることが  
多いのを彼は思い出した。  
「飲みこむんじゃない。口を開くんだ!」  
「グッ…ゥッ!」  
すくい出していると、何度か歯で指を噛まれた。  
深く噛み切られたが、そんな痛さも忘れるほど彼は必死になって取り出した。  
混乱する対面、恋人の救命、何もかもが彼の背にのしかかっている。  
彼は、暴れながらも飲み込もうとするリザの口から胃液ごと吐き出させた。  
そして即刻、浴室へ彼女を連れていった。  
蛇口とシャワーを全開にし、口元についた残滓や胃と口内の余流を半刻以上かけて浄化させた。  
リザは、致死には至らなかったがなんとか急性症状からの緊張と共に放された。  
僅かに残る抵触濃度で青ざめてぐったりと彼女は倒れこんでいる。  
「リザ…もう、大丈夫だな?」  
「いや、離せっ!」  
抱きかかえて起こそうとするロイを拒むためか、舌を噛みかけるリザの口に  
ロイはまたもや寸前で自身の指で妨げることとなった。  
――おかしい  
湧き出す更なる疑問にロイは躊躇しだす。  
対面した時からの雰囲気、焦点の合わない瞳、むき出しの攻撃性…  
全体的なこの豹変振りは、まったく以前と違いすぎる。  
自分を殺すのに失敗し、死を即効に選ぶ行為といい  
まるで制御を受けたかのようなものだ。  
何かが奇妙だった。  
人格を含めて操作されたような嫌な感じだ。  
命を顧みず、使命だけを遂行する感覚を覚える。  
「すまない」  
この場でとにかく当身を食らわし、リザの意識を途切れさせた  
ロイは浴室から彼女を抱えて移動した。  
 
まったくどちらもひどい状態である。  
指や手は噛まれた血が張り付いており、服は双方ぼろぼろ…  
明るい場所で、よくよく見直したリザはやせ細ってひどく衰弱した顔色である。  
だが、ふとずれ動いた彼女の服から零れ落ちたものにロイは愕然とした。  
「これは、この匂いは…」  
数個に及ぶ粉末剤の束である。  
以前、犯罪関係の仕事に関ったときに見たことのある、  
非合法の覚醒剤様の作動薬があったのだ。  
鼻から吸引可能で、注射で摂取もできるものもあるとか…  
「そんな、まさか…」  
抱き下ろして薬を手に取ったが、本物だった。  
つい数ヶ月前まで、一緒だったとき、薬を用いていることなどは決してなかった。  
そんなものに手を染める彼女ではないのを自分はよく知っているのだから。  
何かが、彼女に起こったに違いないとロイは推測した。  
とにかく、リザの身体を抱きよせて着替えさせなければならない。  
目覚めて勝手にまた自殺されぬように拘束もしなければならない。  
しかし、もみ合った時に生じた彼女の服の裂け目から見えたものに  
ロイは絶望的な気分を味わう。  
相次いで起こる驚愕にとどめを刺された。  
くっきりと浮かぶ鎖の痕…そこから紅い班模様が  
美しかった腕に多々染められていた。  
 
鎖で繋がれていたような痕跡…首にも同様の印があった。  
顔色を更に強張らせながら、ロイは彼女の上半身の服を脱がして確認すると、  
「…そんな」  
髪で隠れて見えなかったが、首から胸にも…  
そして腹部や背中にまで及ぶ鞭打たれた痕と多数の紅い斑点でロイの心臓が凍りつく。  
見ていられなくなる。  
着替えさせているときに、下肢のつなぎ目には酷い扱いを受けたものを見た。  
両腕を震わせながらロイは気を失っている彼女を抱きしめた。  
枕にそっと沈めさせ、軽く横から包み込んだ。  
やっと会えた愛する恋人、なぜもっと早く取り戻せなかったのかと自分を呪う。  
守れなかった。助けられなかった。  
「リザ…」  
唇を噛んで悔しさを募らせた。黒髪が震える。  
とにかく瞼が熱くなって、ずっとこらえていたものを開放し、  
息を殺して彼は泣いてしまった。  
同時に、顎に血が滲んでいく。  
切れた口の痛みよりも、激しくて、忌々しい怒りがこみ上げてくる。  
何者かが、薬で彼女の精神状態を撹乱し、一種の洗脳のような処理を施したのだろう。  
刺客の役割を刷り込み、あんな酷い扱いをしたのだ…  
 
――暗い地下室に響く、あの時の冷たい空気…  
「おや、綺麗な肌が台無しだね…顔は殴るなと念を押したが、  
ここまでしろとは言わなかったぞ」  
「そうでしたか?とにかく、花火にしちゃ駄目だって命令だったでしょう。  
生殺しでいいってことだと思ってたんですがねえ」  
隻眼を揺らして微笑むブラッドレイは、目の前の女を爆発させたくて押さえき  
れない衝動を持つキンブリーから鞭を受け取った。  
その日、薬を飲まなかったリザに体罰を与えることになり、  
キンブリーがその役目を行っていたのだ。  
犯さず殺さず、とにかく1時間痛覚を味あわせることでリザは鞭を使われた。  
本来の殺傷方法に至りきれない興奮で、キンブリーは息があがっていて、  
今にも爆発を欲している様子だ。  
ブラッドレイはそれを見て、失笑と共に別口をあてがった。  
「この子は駄目だよ。連れてきた私の護衛達でも奥で破壊してきなさい」  
「それじゃ、失礼します。…お嬢さん、楽しかったよ」  
鞭の使い手が下がり、数秒後、廊下で爆音が轟いた。  
その音を、朦朧としていた意識の中、リザは聞いていた。  
ブラッドレイは直立したまま横たわる尉官を見た。  
もはや原形を留めない、無残な女性の正装姿を見て彼は微笑する。  
首と手足は鎖に繋がれ、背に受けた鞭の傷は重症だ。  
スカートは切り裂かれ、足の節々には切り傷がある。  
破れたストッキングが傷口に張り付き、痛みを伴わせていることだろう。  
リザは、床に平伏して、ただ嬲られるのを耐えしのぐしかなかった。  
殆ど動けない状態で、下手に動くと繋がれた鎖が皮膚に食い込んで辛いばかりだったのだ。  
重い体を起こして、腕のみで支えながらリザは言葉を紡いだ。  
 
「大総統、約束が違います。私は…」  
「そう、側妾として傍に置く。私の命令を頼りに動く存在になるということだよ」  
「…それは…了承しています。でも、薬なんていりません。  
あの時、そんな条件はありませんでした」  
「甘いカクテルジュースだよ。注射などより色気があろう。  
大した作用じゃないし、何より気持ちよくなれる」  
「あんなの、私じゃなくなってしまう…」  
「煩わしい思いも、悩みもいらなくなるし、私としては好都合なんだから服用したまえ」  
「…でき、ません…」  
「ここまできても、全てを委ねないのかね。私の言うとうりにしていれば、  
君の仲間に手はださないよ」  
「傍でお仕えするのに必要ありません。私は、大総統に…」  
息を呑んで、リザは忠誠を捧げていますと、小さな声で伝えた。  
大総統一派と敵対することで、ロイ・マスタングの近辺は、  
最近とみに騒がしくなっている。  
彼女も、同僚達も皆、連日緊張の嵐だった。  
マスタングの支持者もいたが、その裏切りは激しく、孤立に追い込まれるのも  
時間のうちであることは周知だった。  
しかし、時期的に今はまったく無力でも、いつかその巻き返しが  
できる計画を密かに進行させていた。  
ゆえに、なんとか希望を持ちつつ彼らは日々をすごしていたのだ。  
ところが、大総統一派のもっとも残酷なしかけにリザは直面してしまった。  
 
今より遡ること数日前、射撃訓練で同僚らと離れ、一人でいたのがきっかけであった。  
閣議に出席中のマスタングの座席の下に、その時、大量の火薬がしこまれ  
彼の退席と共に爆発するということだった。  
それは、座席の下にある地下通路からキンブリーによって実行される予定だった。  
直上にいるマスタングの半径1メートルのみを破壊できるという巧妙な手口だという。  
盗み聞いてしまったリザは、たまたま居合わせた大総統らに取り囲まれた。  
そして、実行を阻止するための提案をもちかけられ了承し、  
異動という形でその日のうちに姿を消した。  
電話口で、別れを告げただけの自分を恋人は強く聞き詰めていたが、  
あえて孤立した男に協力できないと残して彼女は切った。  
そんな経緯で、彼女は今ここにいる。  
リザの顎を持ち上げ、もう片方の手で彼女の胸元に這う傷口をブラッドレイはなぞった。  
「……っ!」  
這いなぞる指が彼女を苛む。爪がそこに割って這い入り、皮膚が強い刺激を発火させた。  
「未だ、私が手を出していない意味がわかるか?」  
「…痛…ッ…」  
「小娘一人、殺すのは容易い。だが、…今の状況を活用するには、君を取り上げてあの男の覇気をそぐのも一興かもしれんな」  
「……もう、関係ありません。今は大総統のものです」  
「どうにも彼は、まだ君の中に棲んでいる」  
ここにはいないロイ・マスタングのことをブラッドレイは述べているようだった。  
「従順にこちらに組したふりをして、中ではあの男を飼っている。  
なのにマスタングから剥がしたら、それは強まる一方…泣かせる話だね」  
「違います!」  
「どうせ手に入れた妾なら、骨まで望みどうりの形でありたまえ」  
彼女は関係を絶ってここまできたことにしているが、ブラッドレイはそれを  
容認せず、飼い犬が中で棲息していることを由としていなかった。  
記憶を封じるに適切な処置を行うに、まずは薬剤でそれを修正しようとしたのだ。  
 
「だから、強情な君に贈り物を持ってきた。まずは、あの男の仲間から  
物理消費していくことにする。掃除するのに、邪魔な彼の周囲もあったことだし…  
君を完全に躾るのに、私としては一石二鳥」  
杖で地を叩く合図によって、大きな音で扉が開かれた。  
そして、縄で捕縛されたままのハボックが護衛らによって、そこに転がされる。  
声を失ってその光景を見たリザは、顔を硬直させた。  
「全く、面白いことにこの男は我々の周囲を探っていたんだよ」  
そう言い放ち、ブラッドレイは部下から銃を受け取り、間髪入れずに  
ハボックの足を撃ち抜いた。  
苦悶に打ちのめるハボックがリザにこの程度、大丈夫だと言い伝える。  
だがそれもさっさと足でブラッドレイに蹴り上げられることで封じられた。  
続いて、一瞬のこと、2発、3発とブラッドレイは様々な箇所を続けて撃ち放った。  
ハボックは激痛に見舞われ、打たれた肩と足が麻痺し、意識が朧になっていった。  
リザの目の前に連れてこられて、1分も経たないうちに、虫の息の状態に  
彼は陥りかけている。  
「次は頭だ」  
ブラッドレイが言い終えるまでもなく、リザが静止をかけた。  
繋がれた鎖が、床と擦れ合う音と悲鳴に供じる。痛烈な声で彼女は懇願した。  
「やめて、やめて…下さい!」  
「まあ見ていなさい。すぐに片付くよ」  
「なんでもするわ。だからやめて!」  
「君の記憶に残るものはやはり物理的に削除するのが一番だろう」  
「ロイのことも忘れるわ、何もない私でいるわ。あなたに全て従います」  
「そうかね?」  
「私が覚えているのが罪なら、償います。改めます。だから、殺さないで下さい!」  
歩み寄ったブラッドレイは、彼女の鎖を剣で砕いた。  
そして、子犬のようにリザを持ち上げて薄く笑った。  
リザはハボックの様子をもう見ないようにし、ブラッドレイの首筋に力の入らない体でキスをした。  
そして、そのまま彼女は緊張と共に失神する。  
 
 
しばらくして、大総統室よりはずれた区画にある寝室で彼女は目を覚ました。  
受けた体罰の跡が凄まじい疲労感をひきよせる。  
しかし、まだ体にはそれ以上のことは何も施されていない。  
手当てされ、包帯もまかれてある体には不釣合いなドレスが着せられていた。  
ほっそりとしたデザインの、肩の開いた黒いドレス…だが、  
下着がつけられていないことで、その意図を彼女は思い知った。  
「生きているかね?」  
いつの間に、扉が開かれたのだろうか。  
気配などまったくわからなかったが、ブラッドレイがそこにいた。  
死人のように青ざめているリザを見て、彼は再び問い詰めた。  
「ご心配をおかけしました。大総統閣下、今後ともよろしくご指導願います」  
「キング・ブラッドレイだ、そう呼びたまえ」  
「はい…キング・ブラッドレイ、様…」  
ベッドから降り、ドレスをつまんで優雅に彼女は体を傾けた。  
この国の貴婦人達が行うおじぎで迎え、深々と頭をさげた。  
そしてこの場にふさわしい礼節で挨拶の言葉を述べた後、最後に腕を差し向けた。  
震えを懸命に抑制しながら、静脈注射のために腕を差し出したのだ。  
その手を取り、ブラッドレイは首を振った。  
「私は落差を楽しむのが好きでね。今の君を試してからだ。それから検討してみよう」  
そのまま引いた手でベッドにリザを追いやった。  
「あっ…」  
「おや、震えているぞ…大丈夫か?」  
「…大丈夫、です…」  
胸を触られた瞬間、リザは更に心拍数が上がるのを感じた。  
口をふさがれ、舌で深く男の熱が漂ってくる。  
「んっ…」  
鎖骨にあった手が乳首をつまんできた。  
 
ぐりぐりといじられて、それはやがて高まりと共に突状に立ち上がった。  
だがときおり包帯の上にあたる傷が痛みを連れてくる。  
「あ、っ……う」  
「可愛そうに、美しい体にこんなに傷をつけて」  
鞭で殴打されて、腫れた部分を男は舌でなぞった。  
その痛さに悶えるリザは、同時に胸の飾りを指で刺激されることで、  
余計にのけぞってしまう。  
「はぁ…アァ」  
続いてドレスを剥ぎ取られ、下半身の秘孔に指を練りこまれた。  
全裸の彼女に対して、男は半分ほどはだけただけである。  
未だ夜も深まっていない明かりのついた部屋、…恥ずかしさにリザは  
気がおかしくなりそうだった。  
いまだ潤っていない彼女のあそこは、最初の侵入からくる摩擦に痛さを催させる。  
一度、指は抜かれたが、次に秘部は男の舌で摘み取られた。  
舐められてから、中にはざらついた軟体物が悪戯に入ってくる。  
「ひっ…あぁぅ…やぁ」  
「君の匂いがするよ、これが君の…赤くて綺麗な色だ」  
蜜を吸い出すようにそこをしゃぶられ、吸引の力でリザの内奥が引き締まった。  
予備的に走った疼きが、進入してきた舌で更に縮動してしまう。  
「アァ…ァ!」  
「本当に、締まりがよさそうだ」  
卑猥な液音をたらしている蕾を、ブラッドレイは眺めた。  
指を入れるとそこは、最初のときとは違い、ぬるりと吸い込まれていく。  
「うぅ…ンぁ!」  
2本、3本とそれは増やされた。大きく彼女の脚を開脚させるようにして、ブラッドレイは口と指を使って弄んでいった。  
 
青ざめて死人のようだった彼女の顔色が、赤く羞恥で染まりかける様を見て彼は声をつなげた。  
「ロイ・マスタングに仕込まれた体だ。彼以外を受け入れるに、より良い手ほどきをしてやろう」  
「―――…っ…!」  
一端離れたブラッドレイは、見覚えのある拘束具を持ってきた。  
今朝方、自分を苛んだあの枷が見える。  
鎖のついた手足を奪う金属の輪…そして鎖…  
リザが慄き、恐怖に陥る。  
あの時、キンブリーに鞭打たれた時に言われた言葉を思い出した。  
『打たれると、濡れるでしょう…』  
甚振られながらキンブリーにスカートを引き裂かれた時、  
強姦される恐怖で下着が濡れたのをリザは思い出した。  
それがここで再び始まろうとしているのだろうか。  
「ふむ、私は鞭など使わないよ」  
くつくつと腹黒く微笑むブラッドレイは、本能的に両足を閉じようと  
しているのを必死でこらえているリザに言った。  
そして、かすかに彼女が震えているのを見てこう述べた。  
「大丈夫だ、よく入るように繋ぐだけだよ」  
それがどれほど彼女を蝕んでいるのかを知りながら、いやらしい手つきで  
ブラッドレイは蜜の溢れている部分をぐちゃりといじった。  
「はぁ、ん…ぅ…っ!」  
「おやおや、半熟の卵黄をフォークで潰したみたいだね」  
そっとついばんだだけでリザの蕾から拘束具の恐怖に伴う粘液が流れた。  
つーっとそれは流れていき、シーツに染みるのではないかというほどの  
勢いで溢れていたのだ。  
やがて、男は枷を全てつけていった。  
天蓋つきの寝台に、折れ曲げるように脚だけが上から釣り上げられている。  
リザの膝にその負荷がかかり、開かれた下半身は男からは内奥まで丸見えのようだった。  
 
続いて、再び探るように指を入れて赤肉の襞へ愛撫がこめられた。  
「あん、ああぁ…や、あぁ」  
じゃらじゃらと鳴る音が身体を捻って反応しているリザの様子を映し出す。  
動くと鳴り出すベルのように、音が耳に刻まれてしまう。  
もはや手足を引っ張られるようにつながれ、胸骨にまで絡まれた鎖が  
あっては何も抵抗できない。足は折れ曲げられ、僅かに身体を捻ることしか  
できずにいるが、肌に食い込んだ鎖で逆に傷が強く痛む。  
それと同時にいたぶられる部分が、意図と裏腹に快感を生んでしまい、  
屈辱に涙がでてきた。  
それでも、もう嫌だとは絶対に表せない。  
静止をよびかけてはならないとリザは歯を食いしばって飲み込んでいる。  
「マスタングはどんな味だった?」  
「ひぁっ…ァア」  
ブラッドレイは蕾が最も露になった状態で、3本の指を勢いよくねじ込んだ。  
熱いリザの赤身が肉壁でそれを受けて締まりこんでいく。  
「マスタングはここをどう貫いたんだろうね」  
――やめて、その名前をもう出さないで  
別れた恋人の名を聴覚で聴き取るたびに、襞が収縮して反応してしまう。  
それを確認するかのように、ブラッドレイは何度も指を絡めて抜き差しを行った。  
「いい具合だ。私もいただくことにするよ」  
寝台が男の立ち膝の重みでぎしりと唸った。  
ひとつだけキスをリザに落としてブラッドレイはリザを犯していった。  
「アゥ…あぁ、あ…んぅ……っ」  
 
ぎちぎちと内部を貫通していく大きな質量で、リザは苦痛を覚える。  
指で弄ばれた時とは比べ物にならないくらいの圧巻で、痛みが彼女の意識を支配した。  
泣き耐えて、堪えていた涙がさらなる量をして溢れてしまう。  
深部まで交雑すると、ブラッドレイは妖しく笑み、  
「いい声で啼け」  
と、首元で伝えてから前後に動き出した。  
「や、あぁ…痛、い…」  
「少しの辛抱だ、直に変わるさ」  
「あぁ…ウゥ…っ…」  
動きと共に、こすれて巻きつく膣の収縮がだんだんとリズムを帯びて  
自身に同期してくるのをブラッドレイは勝ち取った。  
リザが零す涙声が、快楽に引きずり込まれる嗚咽に変わりいく。  
「ハァ…アァァ…っ!」  
――いや、やめて…  
リザが無意識に身体をよじって接合をできるだけ避けようとするが、  
その瞬間に男の楔が中に深まり官能を誘発する。  
「あぁあ!」  
――ロイ…!  
嫌な行為なのに、身体が男の刺激で快楽を導いていく。  
溢れた愛液が滴り、男にいいように陵辱されてしまう。  
のけぞってしまった拍子に食い込んだ鎖が激痛を催していくが、  
胎内に埋め込まれた男の突き刺しによって打ち消されるような快感が走りだす。  
あまりの激しい振動に、もがいた手首から傷がつき血がうっすらと滲んできた。  
同様に、手当ての及んでいた背の傷口が、シーツとの摩擦ですれて生々しい痛みを生み出す。  
「あぁ…あっ…ッ…」  
「痛くならぬように、犯して感じさせてやろう」  
「ヒィッ…ッ!」  
「ここだね、君の最も悩ましげな所は…」  
ひくひくとしたものが内奥の中で、応じている。  
そこで最たる快楽を奏でたことをリザは指摘された。  
擦り込むようにあたる部分を蹂躙され、リザは身体が絶頂に向けて恍惚となりかける。  
 
「ハァ、ア…」  
達しかける瞬間、マスタングの名前をブラッドレイに呼ばれて彼女はびくりと体を捻ったが、その時にあたっている部分から逃れようとしてしまった。  
ふっとブラッドレイは口を釣り上げてその様を愉しんだ。  
彼女の腰を大きな手で鷲?み、リザを懇願させたくなったらしい。  
「言ってごらん、私を必要とするように」  
終焉までまだ遠い、と彼は伝えた。  
絶頂を達しきれずに、交わった状態で半ばまでしか感じることしかできないまま  
攻められていたリザは、掠れた言葉で従わされた。  
この状態ではいつまでも開いた傷の苦痛と快楽だけの繰り返しで、  
痛みを堪えてから受け取る快感に意識がいつまで正常でいられるだろう。  
「アァ…ア…私…わたし、を、…」  
身を捻る余力さえ残らない。無抵抗の状態のリザが、腰を震わせながら続けた。  
――ごめんなさい、ロイ  
「名前も呼んで言ってみるんだ」  
「キング…ブラッド、レイ…様…あぁっ…っ…う!」  
内奥の敏感な部分をあてこすられながら、彼女は述べた。  
あまりの激震で挿入への入り口が擦れて血がでてきた。  
他にも、背や手足に滴る血液が乾いて体のあちこちで不快感を催していることしか、  
今は何も考えられない。  
他に知覚できるものなど、子宮にむけて貫かれた部分にある、この男からの快楽のみだ。  
砂を噛むような抱かれ方に、狂気を覚え、リザはもはや意識が朦朧としていった。  
「もう、…いかせて、…下さ、…い…っ…」  
微笑を浮かべて、男は大きく腰を前後した。  
「うぅ…あぁ!」  
情交に対して最も絶頂感を感じえた彼女は、枯れたはずの瞳から涙を再び流した。  
動かされている途中、自身の性を強く恨み、抱かれる姿の惨めさに心を砕いていた。  
「アァ…っ…ん!」  
「ふ、これで中に放つとどうだね」  
「い、や…あぁ…ぅ」  
応じるまでもなく強く揺さぶられた子宮に男のものが放出された。  
その生々しい瞬間を、リザは感じとってしまった。  
 
陵辱され、体のみならず言葉でも懇願して受け入れた。  
できる限りの覚悟で応えて、最後には男の欠片までも吸収させられてしまったのだ。  
彼女はもう何も考えられなかった。  
挿入された肉塊を、あさましくも内部は官能と共に受け入れて  
手放すまいと躍動している。  
生理的に嫌悪すべき行為のはずなのに、身体は快楽で満たされ男の  
欲情に応じてしまっている。  
放たれた生ぬるい、相手の液まで吸い込もうと、今も自分の身体はいやらしく動いている。  
「っ…う…」  
「そう泣くな。抱くことはできるが、私に繁殖能力はない」  
涙を舌でからみとって、痛々しい姿に突き落とされたリザを宥めたが、  
大して効をなさなかった。  
互いに繋がったまま、彼はリザに念を押した。  
「良いか、やはり抱くことでマスタングが完全には抜け切っておらぬことが判明したぞ」  
「そん、な…っ…」  
厚い肉壁が、自分を貫いた部分でびくりと動いた。  
リザはなけなしの力で腰を離そうとしたが、ブラッドレイは鎖ごと足の付け根を  
開かせ、力を込めて放さなかった。  
挿入されたままの身体に残る異物感がどうしようもない。  
リザは、どこか、襞がまだ動いて欲しいとしている感を覚え、  
はやく抜いてほしいと願った。  
「彼を消失させるためにはとらねばならぬ手段も今後、必要かな」  
「…っ…ぅ」  
乳首を摘まれて、胸のふくらみを揉まれると嫌なものが走り出した。  
さっき手放したばかりのあの快楽が蘇りかけている。  
胸に受ける愛撫がぴくぴくと腰の動きを誘っているかのように高まってしまう  
――やだ、もう嫌…!  
「あ、ァ…っ!」  
「分解して新しく作り上げる。知らぬとはいえ、あやつも死の男だな」  
彼女が意識を手放すまで、ブラッドレイは淫猥な音を立てながら、  
何も言わずに泣き続けるリザを犯し続けた。  
この場で奏でられたリザの音は、陵辱による嬌声と従順な言葉だけだった。  
 
 
あれから連日連夜、医師と相談しながらロイはリザの介抱につとめた。  
今夜、入院中のハボックが数ヶ月ぶりに昏睡状態から意識をさましたことを聞いて、電話口で安堵するが  
「明日、見舞いに行く…そう伝えておいてくれ」  
そう述べてすぐには見舞えないことで病床にいる彼に心の中で謝罪した。  
連絡を受けて喜ばしい気持ちになったが、看病疲れのせいかすぐに見舞うことができなかったのだ。  
ハボックは、リザが姿を消した数日後に重症を負って入院した。  
原因はおそらく自分であろうことは承知している。  
部下を巻き込んで、死なせかけて…自分の不甲斐なさにロイはやりきれなくなる。  
介護者を雇い、仕事を終えて帰宅してはずっと看病を続けていることで彼の心身もずいぶん疲弊しているのだ。  
もっとも、ひどいリザの中毒症状も峠をこえたようだったが、  
今度は記憶に障害が残ったようで、加えてあまり知覚応答も時々得られなかった。  
何より、軍服を嫌がり、見ただけで泣き叫んでしまう。  
食事はほとんど食べないが、少し起き上がれることになったので、  
この頃はどこかへいなくなるのではないかと冷や汗をかくのがロイの心配の中心である。  
 
置いた電話口で、そう思い煩っているうちに、浴室で悲鳴が聞こえた。  
走っていくと、ロイはシャワーを浴びようとしているリザを見つけた。  
だが、彼女は頭を抱えてうずくまっている。  
「いやあぁ…!」  
「もう大丈夫だ…ベッドに戻ろう」  
「もう、止めてください。大総統…」  
シャワーにつながっていた鎖を見て、リザはおびえていたのだ。  
「大、総統…?」  
「繋がないで…下さい。お願いします」  
ロイは事の遂行者の大まかな予想がついた。  
この場で怒りを沈めたが、まずはリザを抱きしめて宥めにかかることを重んじた。  
だが、その時リザは隠し持ったナイフを振り下ろそうとする。  
「何をするんだ、よせ」  
頬にそれが外れてあたり、ロイの顔に傷が走った。  
「リザ…」  
あがる息を抑えながら、彼女は両手でナイフを持ち替え、  
目の前のかつての恋人に狙いを定めた。  
『――いいか、お前はロイ・マスタングの泣き所だ』  
呪文のようなメッセージが彼女の頭を反芻する。  
『――だから、最も油断した時に殺すんだよ』  
ロイが大きな声で彼女の名を再び、呼んだ。  
はっとした彼女は、一瞬こちらを垣間見たような目をしていた。  
「私…私は」  
「やめるんだ。刃をこっちへ渡せ」  
だが、目に涙を浮かべながら、リザはこちらを向き、構えをはずそうとしなかった。  
 
抜けたはずの薬の作用ではなく、解け切れなかった精神が呼んでいる。  
二重にかけられた呼びかけが正しいと彼女の深層が訴えている。  
『いいか、仕留めることができなければ戻ってくるな。その場で死ぬんだ』  
『はい、キング・ブラッドレイ様のためならなんでもします』  
『いい子だね』  
「助けて、大佐…いやよ、ロイ…死なせたくない…だけど」  
『――さあ殺しにいけ、さもなければ死ぬまで犯すぞ』  
その瞬間、勢いをつけて彼女は足を蹴り上げ飛び込んだ。  
ぐさっとした鈍い音が、血の匂いを放った。  
「…っ!」  
「ロ、イ…あ、私…」  
ぬるぬると愛する男の身体から突き刺さったナイフが見えたことで、リザは気を取り戻した。  
どこか見慣れた瞳になった彼女は外界の気配を知覚する。  
この香り、優しい空気…  
「大丈夫だ、外れてる」  
よく見ると、それは標的とした部分を外れて右腕になっていた。  
ロイは途中から彼女の手を引き、あえて自身にそれを埋めさせたのだ。  
「やだ、…私、あなたを…本当に…」  
「いいんだ。たいしたことないさ」  
見上げると、優しい表情が見える。  
怪我を負わされ、冷や汗をかきながらも、笑顔を作るこの男は誰だろう。  
刺された人間は、殺される時、こんなふうに微笑んだりしない。  
そんなこと、教わらなかった。だけど、この人だけは違う。  
 
「…リザ?」  
「私、私…あの人に…」  
「判っている。ごめんな、怖かったろう」  
――思い出した  
この人は、確か私が守ろうとした人だ  
ずっと愛していた人だ  
こっちの世界が本物だ…  
彼女の瞳から。大きな粒の涙が流れ出す。  
小さな叫びが、ぽつりぽつりと聞こえてくる。  
「…だって、やらなきゃ駄目だって私を犯すのよ」  
「リザ…」  
「でもやめてって、言えなくて…心の中で何度も叫んだけど…っ」  
懐かしい瞳が見えた。額にロイが唇を落とす。  
刺さった部分に走る痛覚よりも、これを聞くほうが痛かった。  
「すまない…」  
「ロイ、ロイ…」  
ナイフにこめた力が抜け、リザが気を失って倒れこんだ。  
怪我を負っていない片方の手でロイは彼女を受け止めた。  
「…戻ってくれて、ありがとう」  
そのまま、やりきれない思いを携え、リザを熱く抱擁した。  
 
 

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