ハボックが起き上がって診察を受けることができるようになった頃、  
ロイがようやくじっくりと話を詰めに訪れた。  
意識が戻ってはじめの頃、ハボック自体の記憶が曖昧だったため、  
混乱させないようにそっとしておいた。  
ロイも同僚達も見舞いに来ては、月並みな労いしか言えなかったらしい。  
もっとも、リザに何が起きたのか、その全貌に達することの  
できる人間は、ロイしかいなかったが  
「皆もお前の復帰を待ってる…ゆっくり休養してくれ」  
「…それで、話していないことって何ですか?」  
「それは…」  
「そういえば、中尉は向こうで元気にやってんのかな」  
「……」  
「俺、なんか大事なこと忘れてるんですよね」  
ハボックはリザが異動してからこれまで自分が眠っていた理由を  
なかなか思い出せていない。  
だが、単独でハボックがリザの身辺を調査しにいったことからはじまる  
正確な事実をロイにここで聞かされた。  
すると、口を開いたままの病人は目の色だけが変わっていった。  
負傷するまでの大まかな経緯を言ったロイは、  
ハボックによく休養するよう、落ち着かせながらもう一度労った。  
だが、リザが戻ってきてから今までの事情を逆に聞かされると、  
ハボックはより険しい顔つきになっていったのだ。  
そして幾度目か、ロイがリザのことで言い辛そうな内容を  
省こうと俯いた途端、点滴の管をぬいて起き上がったハボックがロイを殴った。  
机、食器や医療器具一式とハボックの上官が床に転がった。  
意識が戻ってすぐに、なぜそれを話さなかったのかと彼は言い出した。  
大きな音を聞いて、看護士達がもうひとつ殴りかかろうとして  
貧血で倒れこむ患者を支えにかかる。  
 
だが、おさまらない憤りが彼を動かした。  
「ハボック…体に障る。あまり動くな」  
「あんた、何やってんだよ。…何やってたんだよ」  
未だ、起き上がるのすら大変なことであるのに、  
ハボックは無増の力でロイの上に掴みかかった。  
熱い目の色で上司を罵倒し、息を荒くしながら、  
彼はものものしい怒りをロイにぶつけた。  
「何で守ってやれなかったんだよ!」  
「……」  
「中尉は俺なんか守らなくてよかったんだ。俺がさっさと  
あの時撃たれて死んでりゃよかったんだ」  
ロイは俯き、もう一発殴りかかろうとして襟をつかんできた  
ハボックに抵抗を表さなかった。  
気が済むまで殴られることにしようと思っているようだった。  
掴まれた襟に、大きな腹立ちがそのまま流れる。  
殴られて当然だ。リザは自分を責めることなどしなかった。  
何度も謝ったのに、彼女は自分の無事があればいいとだけ言ってくれた。  
詰って罵られる反応すら返ってこなかったのだから、かえって辛かった。  
ここでハボックが責めてくるのが自然の反応というもので、  
今更これを予想しないことなどなかった。  
だが、しばらくそのままで…ハボックが静かになった。  
自分を掴んだ手が悔しそうに揺れている。  
「あんたが死んだら中尉が泣くから、嫌なんだ。  
…だから泣かないようにしてやりたいっていつも俺は考えてた」  
「……」  
「だけど、中尉は自分が傷つくのなんか構わないから、  
俺はいつもはらはらしっぱなしだ。…その結果がこれかよ!」  
「…気が済むまで殴れ……」  
「女なんだぞ…男が守ってやれなくてどうすんだよ!」  
罵った上司に対してだけでなく、自分にも向けてハボックはそう言った。  
何もできなかった自分に情けなくなってきたのだろう。  
 
普段、適当な軽い調子の男が、今は悔しさにうち菱がられて肩を落としている。  
看護士らが暴れていた患者を止めるために数人集まり、彼を囲んで諌めた。  
ロイの襟首を持ち上げて興奮していた彼の手は、やがて脱力していった。  
俯いて、思慕をよせていた女を想い、煮え切らない気持ちで  
いっぱいになったのだ。  
「すまない…」  
「…俺に向かって謝るな!」  
ロイ自身も、ハボックが行動を起こした頃、懸命に彼女の調査と  
追跡を行って最善の努力はしていた。  
だが、周囲の状況から立場上あまり表立った行動に移せず、逆に軍の  
内務調査に追求を却下され、停職を食らう警告まできており八方塞りであったのだ。  
もっともな決め手となる機会を得ることができずにいると、  
すれ違いにハボックがストレートな行動を起こしていた。  
正直、自分もその日のうちに外聞を捨て去り同行しようと思っていた。  
だが、即日、ハボックの負傷の知らせにかち合い  
その事後処理に忙殺されてしまった。  
もう、今となってはあのタイミングで出遅れた自分を  
ハボックが責めて当たり前であろう。  
「何で俺が生きてんだよ」  
「…ハボック…」  
「俺が助けに行ったのに、逆に助けられてどうすんだよ。あんな男に中尉は…」  
 
呟くように悔いをこめて、彼は語っていた。  
やがて、ロイから離れ、動いた反動で痛み出した体を抱えてのろのろと  
ハボックはベッドにもどる。  
横になり、頭から毛布をかぶって彼は押し黙った。  
…立ち上がって埃のついた姿のまま、ロイが呆然と立ち尽くしていると、  
吐き出すような口調で退出が促された。  
「出てけ…」  
「ハボック…私は…」  
「二度と来るな、はやく出て行け!」  
きつい口調で人にあたるハボックをちらちら見ながら、  
周りのものたちは片づけを行っていた。  
患者を興奮させた自分に、周囲の者は責め立てるような視線を向ける。  
いたたまれない気分を持ち帰ろうとして、  
「大事にしてくれ」  
肩を落として、無言でロイは去っていった。  
 
 
その頃、付添いの介護者が都合により早く帰ったため、リザは夕方一人でロイの家にいた。  
このごろは、ずいぶんと体調が安定してきたこともあり、  
これからのことを真剣に考え出す時間が多い。  
職務復帰を最終的には望んでいるが、ブラッドレイにされた事をまだふりきれない。  
もし何かの折にまた軍部で問題を抱えることになれば、ますます  
ロイの足を引っ張るだけの存在になってしまうのでないかと不安になる。  
――戦いたい。負けたくない  
無力に陥る自分でいたくないと決意を持ち出してから、  
彼女はソファに腰掛けてうたた寝に入った。  
 
だが、使われていないはずの裏口が奇妙な音を立てていたことにやがて気づいた。  
ロイならば、帰宅前に必ず電話が入る。  
今日はハボックの入院先に足を運ぶために遅くなるかもしれないのに…  
不審に思った彼女は膝掛けをはらい、ショールを手にとり裏口を開けた。  
すると、何者かに口を塞がれ身体を背後よりからめとられてしまった。  
「やっ…離し、て!」  
「忘れたのかね、私だよ」  
「――……」  
重音が鼓膜に響いた。横目で確認すると覚えのある人物がいる。  
彼女の体が凍りつき、全身が震撼した。  
眼帯を持つ片目の男、キング・ブラッドレイが現れたのだ。  
大きな体躯にリザは阻まれ、口をふさがれたせいか人を呼ぶこともできない。  
すっと、広い男の手が震える体を撫で、リザのブラウスのボタンをはずしていった。  
「あれからどうしていた?ずっとマスタングに慰めてもらったのかね?」  
流れ出した涙と共に彼女は首を振って否定した。  
本能的に恐怖につき落とされる。とにかくこの男が恐ろしいのだ。  
あの時、散々辱められ、狂気の沙汰と思えるほど嬲られたのだから…  
「何を泣く。私の腕の中で、悦んでいただろう。覚えているはずだ」  
「いやっ、…離して…もうやめて」  
胸を開かれ、下着が外気に晒された。  
体をねじって逃れようとするが強い力に制圧される。  
「私の命令を糧に動く存在になるという約束は反故になったのか?  
…お前はあやつを殺さずに生きている。これは命令違反だよ」  
――戦わなければ、戦いたい  
露にされた白い肌…残された刻印を、確かめるように男はなぞり、  
リザの耳で言葉を紡ぐ。  
「未だ残る体の印…思い出したまえ…私に忠誠を捧げた体を」  
「やめて…!」  
――諦めたくない…  
這い降りていく太い指が胸の中に進入してきた。  
 
「……」  
こうすれば強張った体を徐々に操れると意図した男…今だと、彼女は狙った。  
腕を欺き、咄嗟に下にずり落ちたリザは手をスカートに動かした。  
右の大腿にもしものときにと常備していた銃を抜き取り、男に向けたのだ。  
幸運にも取れた間合い…震えた両手で定めた銃口…  
「私は、…私は、あなたの言うとうりにはなりません」  
「ほお、刃を向けるか」  
「諦めないわ、もうあなたの思い通りにはさせない」  
「言うとおりにしていれば、生かしてやるものを」  
「はじめから殺すつもりだったくせに!」  
「快楽という褒美を共有してやったではないか」  
腰に添えた剣を抜き、ブラッドレイが不気味な眼光を向けた。  
この男の接近戦での達人ぶりを、リザはよく知っている。  
それだけに、こちらはただでさえ陵辱されてきた恐怖に陥って  
混乱したままの状態…銃ひとつで何ができよう。  
このままでは確実に殺される。  
踏み寄られた瞬間、リザは引き金を引いた。  
何に当たるわけもなくただ、疾走のごとくかわされるだけだと  
分かっているが、精一杯に抗った。  
弾丸がきれるまで数発、大声で来るなと叫び発砲した。  
今の自分の死相をあざ笑うかのように、男が見ている。  
もう逃げられない…  
「ロ…イ、ロイっ…!」  
「死ね」  
疾風の如く向かってくる刃、これまでかと思ったその時、  
大きな焔の塊が眼前に現れ扉を吹き飛ばした。  
避けきれぬ勢いを持った熱波に目が怯み、ブラッドレイは立ち止まった。  
 
その隙に、リザの視界は暗くなり、何かが自分の顔を  
覆うようにかけられたことを覚えた。  
軍服の上着をリザの頭ごとかぶせ、ロイが彼女を外に避難させたのだ。  
一点突破的に放たれた戸は炎上し、隣の庭先で燃えて炭になった。  
「後は任せろ」  
全身が悲壮感に包まれていた彼女に微笑み、優しい言葉をかけたロイは  
そのままぐちゃぐちゃになった彼女の顔を隠すように掛け直した。  
そして侵入者に、…これからの最大の存在に振り立った。  
「大総統、私の部下がご迷惑をおかけしたようです。  
…こんな所までいらっしゃるとは、何をお咎めですか?」  
「…命令違反で躾けてやっていただけだよ、いろいろとね」  
奥歯をきつく噛むことで、ロイは嘲笑うように言い放ったブラッドレイの  
発言への怒りを鎮めた。  
「先日、私はある事実を見つけました。公式文書によると、彼女は大総統閣下の  
お側にいたことが記されていないことが確認されました」  
無表情のままブラッドレイはロイの言葉を聞いていた。  
「ゆえに、…この場はお引取り願えませんでしょうか。  
これからはいざ知らず、これまでのことも含めてご検討願います」  
どうかこのまま引いてほしい、という一心でロイは丁寧に述べて言った。  
今、ここでこの隻眼の男と戦うには分が悪すぎる。  
リザを庇いながら勝てるかどうかも、判断がつかない。  
いつか、互いに合間見えることは判っているが、こんな民間人の住まう町の  
一角では、どれほどの被害がでるか予想できない。  
ついぞ放った牽制の焔も、裏口の扉が焼けて消失しただけとはいえ  
騒ぎになってもおかしくない。  
何より、あれから未だ傷の癒えていないリザの精神状態にも悪影響が強すぎるのだ。  
 
「彼女は渡せません。私の部下のことは私が責任を持って管理しています。  
大総統のお手を煩わせることはありません」  
「私が所望する女を渡せぬか。それでよりいっそう袂を分かつことになってもか?」  
「リザはあんたの玩具じゃない!」  
咄嗟の言葉だったが、後で失言を詫びながらロイは頭を  
下げて引き取るように願い出た。  
そのままブラッドレイは無言で手をふり興味が失せたと言い残して、去っていった。  
――あの猛獣、圧巻だな…  
男が去った頃、心の中で肝を冷やしながらロイは深呼吸した。  
息が深い。あの剣が収められるまで、呼吸がまともにできなかったのだ。  
たった数分のやり取り、下される鬼の眼光の鋭さに並みの人間は腰を抜かすだろう。  
額に流れる汗の量に、後からよくも生きて放されたとロイは何度も驚いた。  
――だが、いつか殺してやる  
壁に座り、上着を頭からかぶり蹲るリザを見た。  
その生存を確認して、しゃがんだままロイは彼女を両手で覆った。  
まだまだ一向に震えがとまらない様子だった。  
こんな風では自分に顔を見られるのも嫌だろう、と思える。  
何も言わずに抱きしめると、堰を切ったようにリザが泣き崩れる。  
「ごめんなさい…私、怖くて…」  
「電話が通じなかったので、もしやと思って駆け付けた…間に合って良かったよ」  
「もう少し、このままで…お願いします」  
「もうこれ以上、守れなかったら…」  
続く言葉が、彼の口からそれ以上出てこなかった。  
もう誰も傷つけたくないという思いが胸を占め、  
言葉を発せられぬほど彼の心を支配した。  
数分、隣に座った彼はリザを支えていた。  
 
 
その夜、シャワーを浴びてから眠る準備をしていたリザは鏡の前で  
着ている服の紐を緩めた。薄い明かりの元に映る自分の胸元…  
傷跡が這うようにそこに走っていた。  
背にも強く打たれた跡がまだ残っており、時折痛む。  
軍人という職業柄、こんなふうに傷跡をもつことを覚悟しなかったことなどない。  
しかしながら、鏡に映し、目の当たりするのが辛くてまともに見たことが  
なかった。そうして、今夜それに決意をこめた。  
彼はこれを見たらどう思うだろうか  
服を整えた後、化粧ケースの奥に潜めたものに手をあてた。  
小さな、指輪がそこにある。  
彼女はロイに贈られたその指輪にキスをしてみた。  
指に通してそれを眺めていたとき、  
「もう、眠ったのか?」  
ノックと共に様子を伺うロイの声がした。  
彼女は否と返事をして、着替えたことを告げて中に入るように招いた。  
そして、いつものように、床に寝床の用意をしだしたロイの手をリザは制した。  
これまで、自分にベッドを渡して彼はずっと床で寝ていた。  
リザが最も酷い病状にあった頃は、ロイもこの部屋にいたが、  
彼女の容態が半ば落ち着きだしてからは廊下で扉ごしに眠っていた。  
しかし、彼女のほうがせめて中で寝るようにと言って  
床のほうで落ち着くことになったのだ。  
「一緒に……傍にいてほしいです」  
「……」  
躊躇したように考えたロイだったが、寝付くまでと  
判断してリザのベッドに腰掛けた。  
寝台に沈み目を閉じる彼女の額を撫でながら、明かりを消した。  
 
横に腰掛けたロイはベッドの中に入るのを促されたが、  
「…それはできない」  
重く答えた。  
これまでロイは、一線を越えてすごした夜を持とうとしていなかった。  
恋人として過ごした日々とは違い、あんな事件があったせいかリザの  
心身の傷を考えると抱けなかった。  
何より、彼女を傷つけたのは自分と同じ性を持つ男であることが最大の壁だったのだ。  
日も浅く、癒えていないであろう体を考えるととても手を出せなかったのだ。  
「私、大丈夫です…」  
そう気遣われるとかえってロイは心配してしまう。  
今でさえ、かすかに震えながら自分の手を握り返してくるくらいなのだ。  
ここ数日、自分が時々、リザに劣情を抱いて苦悶しているのを  
彼女は知っているのだろか。  
それをロイは懸念してしまった。  
気づかれて、こんなふうに接してくれるその気遣いに恐縮してしまう。  
「…震えているじゃないか」  
「平気です……むしろ、もう思い出したくないの」  
腕をついて彼女に近づくと、彼女は苦しそうにそう述べた。  
夕方の出来事が余程こたえたのだろうか  
「あれから私、思い出して…嫌な夢をまた見そう」  
「リザ…」  
「お願い…」  
「―――辛かったら言うんだぞ…」  
悲しみを満たすようにロイはリザの涙をぬぐい、頬にキスをした。  
そして、柔らかい唇があたり、そこでささやきあうように動いた。  
「本当にいいのか?」  
再度尋ねると、頷きとともにイエスという小さな返事が返ってきた。  
 
求められて喜ばしいことでもあったが、かえって傷を深めはしないかと  
ロイは心配でならなかったのだ。  
だが、触れ合った部分に走る情恋の火は先を進ませた。  
衣が擦れ合う音、キスで溶け合う二人の仕草が次第に熱さを募らせる。  
肌を晒すと柔らかい裸身が見えた。  
「……あ…」  
彼女の髪を撫でながらキスをして、続いて胸の上にも行った。  
目に映る種々の傷が痛々しい。  
せめて唇でなぞることでなくなって欲しい。  
そのためなら幾らでも愛撫をしたくなると彼は思ってしまった。  
こんな細い体であの暴力に耐え抜いたにかと思うと、  
やりきれない気持ちを改めて実感する。  
「ああ…ロイ…っ…!」  
突起を口に含むとリザが弓なりに反り返った。  
そして濃厚な愛撫が乳房から彼女の秘孔に移ろうとしている。  
「……っ…」  
止めるべきかと懸念したロイが、欲情に流されて自制がきかなくなり  
かけると共に、眩暈を覚えそうだった。  
だが、リザが頬を染めながらも脚を開いてくれた。  
「……リザ…」  
これまで行った愛撫が、彼女の下肢の付け根に移ろうとするのを彼は許された。  
「んぅ…ア…」  
開かれた彼女の浅い部分にロイが口付ける。  
細やかに反応した彼女は、ゆるく体をしならせて喘ぎだしていた。  
漏れる声、黒髪を撫で返す細い指の仕草…  
反応の何もかもが恍惚の領域を表現し始める。  
「…いっ…ッ…あ」  
口で進入した後、指をもって中の赤華へそれをすべらせた。  
入り口はまだきつい。次第に濡れていっているが、十分に男を  
受け入れるほど緩められてはいない。  
 
指で襞の中を含ませると、眉をよせていたリザだったが…  
だんだんと溢れる液でロイを遊ばせた。  
「や、あぁ…」  
脚を開きながら大きく体を捻り、その悶えも高まった頃、  
ロイが彼女の腰を引き寄せた。  
じんと濡れ広げられた彼女の紅い花園に楔があてがわれる。  
触れた部分に来るものに備え、やや微動だに怯んだリザが力を抜き出していった。  
ここで、進むべきかと再度戸惑ったロイだったが、  
リザが声を震わせて来るように伝えたのを合図に繋ごうとした。  
潤った窄まりに肉塊をあて、彼はゆっくりと貫いた。  
彼女を抱くときに走る高揚感、快楽への誘いに脈が打ち出す。  
互いに重なり合う熱いものがいまひとつになりだす。  
「…っ……あ…」  
やはり忘れられないこの感触…リザは耐え抜いた。  
中で自分に溶け合おうとする男の一部が、納まるまでに  
いささか苦痛が伴う。  
汗をかきながらも震う体を気遣い、優しげに自分を抱く男が  
途中で心配そうにしていた。  
痛がる彼女を伺いながら、ロイは繋がりあうまで内心すまなさそうに  
していたが、リザは、  
「大丈夫よ」  
上から気遣う男に笑んで答えた。  
自身を感受してくれる健気な部分がいとおしいのか、こうして男に  
抱かれている彼女の今の姿が美しいのか…そのどちらもロイは愛している。  
守れない自身を恨み、悔やんだことなど計り知れなかった。  
しかし、今こうして再び愛し合うことができる瞬間にたどり着けたのだ。  
決してもう誰にも触れさせたくない恋人…絶対に傷つけたくないと強く誓い、  
ただ彼女が安らかにいてくれることだけを、あの絶望的な心で願っていた。  
 
ブラッドレイから離された彼女と住まう日々、己の中の恋慕から  
募り溢れる情欲をひた隠してきたことも多いだけに…  
今のこのめぐりあわせに幸せを感じずにいられない。  
触れまいと思っていたのだ。それだけに感慨もひとしおだ。  
守ることだけに専心しようとしていたのに、こうして  
脆くも危うい劣情に彼女は応えてくれる。  
そんな込みあがる情を辿りながらロイは、  
次第にリザを深く抱き始めようとした。  
結びついた状態でいるリザにこう伝え、  
「熱い、な…もう少し、我慢しててくれ」  
腰に託した自身を彼は緩慢に動かしだした。  
「あ…あ…」  
ブラッドレイから解放されて、ようやく受け入れた恋人の体を  
リザはゆっくりと感じ出していった。  
「…ああぁ…んッ」  
苦しかったものが流されるように肉感が悦びを誘い出している。  
熱く、強い波となって自分の官能が踊り始めている。  
「リ、ザ…」  
このままでロイの甘い声を聞くと、最上の悦びが跳ね上がってくるようだった。  
そうして、彼女の体が快楽に塗れていく。  
囚われていた時、呪って切り裂いてしまいたかった自身の体が  
今は恋人のために必要とされている。  
酷い陵辱に見舞われた時、もうこんなに愛されながら抱かれることなど  
叶わないと絶望していた。  
今この瞬間の情交が嘘のように嬉しくなる。  
「嘘みたい…私、おかしくなりそう…っ…や、あぁ…ん!」  
歓喜の喘ぎを始めた彼女は涙を流しながら縋り付いた。  
なまめかしい声を奏で、ひたむきに応えるリザの体は深くロイとひとつになる。  
 
「あ、そこ…ロイ…もっと…」  
「愛してるよ」  
「私、も…あぁっ!」  
弾けるように揺れる彼女の乳房を時折、愛撫していたロイ…  
強く、だが優しく抱かれることでこの上ない快楽が彼女に訪れる。  
内襞の収縮がロイのものに律動的に絡み付いてくる。  
「アァ…ッ…ハァア!」  
深くまで沈めると、接した部分から感点が極まりだし、  
リザは制御のきかない体でロイに更に縋った。  
抱きつくと、それがいっそう感じ入ってしまう状態に流れ、興奮状態が激しくなる。  
「あ、ぁ…ロイ…やぁ…」  
リザが引きずられる快楽に一瞬驚きを覚え、体をくねらせてしまった。  
そうすると、そこで内部にあたる肉襞へのロイの感触が、  
あらゆる回路の快楽に修飾されてしまう。  
「う、アァッ…んぅ…」  
そそりたった乳首、柔らかい妖艶な肢体…  
重なることでじかに知覚できたそれらのせいか、ロイは欲情を  
いっそうかきたてたまま、リザの内奥を自身の動きで呼び覚ましてしまった。  
きつく結ばれた状態、楔の打ち込まれた濡れた部分から、  
愛液が滴り二人の結合がますます激しくなっていく。  
「あぁ!…アァァ…ン!」  
「リザ…凄く熱いよ…」  
自分だけを感じて喘ぐ姿のなんと美しいことか…ロイが彼女に酔いしれていく。  
嬌声、淫猥に交じり合う音、そしてベッドの軋む様も何もかもが  
絶頂に向かって泳ぎだす。  
――いかないで、無くならないでほしい…だけど  
「やぁ、あっ…怖、い…」  
ほんのひとつ、一瞬だけ蘇ったあのときの記憶が降りた…  
ちらついたあの空間、類似したものがどこか意識の奥低で手を  
こまねいているようだった。そんな錯覚が突如として現れた。  
 
あの時、自分はどうだったか?  
ブラッドレイに犯されていた時、募る絶頂感の後、愛のない行為で  
何度も快楽を導かれてしまった。  
受け入れさせられたあの時と、今のこの昇り詰めようとする瞬間が  
彼女に真を問いかける。  
今とそれらがどう違うのかと、脳裏に浮かぶ…  
――いや、こんなこと思い出したくない…  
蕩ける感触、砕けそうに躍動する下半身…  
同じ体、同じ感覚があっさり快楽として受け入れられているだけでは  
ないのかと問いかけられたようだった。  
支配感に満たされていた情交の感触にリザが慄いたのだ。  
――ロイに知られる!  
「や、…あ…っ」  
何度も誘発させられた子宮のなかのあの官能が、  
今の感覚と違わないものだということに彼女が動揺しだした。  
「違う!」  
「…ロ、イ…」  
はやる心を募らせたリザの涙を見て、ロイが熱い声で叫んだ。  
「同じじゃない…今、俺が抱いてるのは君だ」  
「アッ…ァ!」  
奥を突き上げるようにしてリザの中深く、彼は身を融けさせた。  
――判らないかもしれない…だがいつか判ってほしい。  
俺が抱いて作り上げるものはただの感覚だけじゃない  
「愛してる…だから抱いてるんだ!」  
――確かめ合える、感じ取れる実感だ  
 
「…ん、あぁぁ…」  
「抱いて…慈しんで、生きていることを感謝できるのはリザだけなんだ」  
「ロイ…ロイっ…あぁ!」  
必死で彼女はロイにしがみついた。  
一点に向かって飛び出した快楽が頭を白くさせ、  
何も考えられないほどに彼女の性を刺激した。  
やがて全てが絶頂に行きつき、その集約がリザを満たした。  
熱く締め付けた彼女の中が、ロイを続いて満たしていく。  
そしてまもなくそれは散りだす。  
熱に浮かされた体から放たれたロイの欠片は、挿入を終えた外部に澱んだ。  
そのまま、いきついた感を持ちながら、恍惚としたリザの体が  
寝台の上で更に抱擁を受けた。  
混乱に一瞬見舞われていた彼女を、終盤では闇雲に抱いてしまった。  
そうして、自ら達してしまったことでロイは気にする素振りを持ってしまったが、  
「ロ、イ…んっ」  
何より、再び抱けることのできた悦びが勝り、  
いきついた後でもキスをせずにはいられなかった。  
――離さない…絶対に守るんだ  
ベッドに沈むリザの体に重なり、強く彼はキスを落とした。  
合わさる肌、絡み合う舌…唇が互いを熱くはみあう。  
未だ、息の整わなかったリザだったが、物欲しげに、  
だが緩やかに絡みつくロイの唇から伝わる愛情で瞼を濡らした。  
 
唇が離れ、続いて愛撫がさっきとは違った激しさをしてリザの体に与えられた。  
優しくついばむように、彼女の首筋にロイは接吻していった。  
そして、やがてぎゅっと彼女を再び抱きしめた。  
汗ばんだ白く柔らかい肌が男の体で慈愛に包まれる。  
「ロイ…」  
先ほどの興奮から流れた心臓の音が激しい。  
リザはその感触を無言で実感した。  
そして同時に、ロイの心に通える存在であることを願った。  
――わかる…この人と生きていきたい  
「愛してるよ」  
――そう思えるから私は貴方がますます好きになる  
向き合ったロイの頬を、そっと彼女はなでた。  
溢れる涙は彼のためでしかないと今思う。  
「貴方が愛してくれるから、私は、……生きて行けるわ」  
「リザ…」  
「もう、恐れない…ロイがいるんですもの」  
その言葉に、ロイは心の底から実感できる糧を得ることができた。  
必要としてくれる、互いにひとつでいられる実感…  
生きていることで深まる絆がここにある。  
「もう一度抱いて…」  
過去の凄惨な事実を越えて、自分を本当に受け入れてくれたリザの気持ちに  
ロイは最も柔和な表情となった。  
閉ざされた形を、ようやくこの手に取り合うことができた。  
感激のあまり彼も瞼が熱くなりだした。  
その後、二人は更に肌を合わせて愛し合った。  
 
 
 
 
目覚まし時計をかけ忘れたことで遅刻を迎えたと思ったロイは、  
ベッドの上で気だるげに起き上がった。  
しかし、今日が休日だということを思い返し、再びベッドに潜り込んだ。  
眠っているリザをこちらに引き寄せようとしたが、  
本当に深く熟睡していたので慎重に起こさぬよう、傍に擦り寄った。  
そのとき、電話が鳴っていることにロイが気づく。  
うるさい音で二人の熟睡を妨げるのに腹をたてたが、さっさと取り上げて、  
リザの安眠を続けさせたかったので走って取りに行った。  
受話器をもつと、意外な声にめぐり合えた。  
第一声から向こうの声は明るかった。  
朝の挨拶に加えてこちらから返事もたてないうちに、  
快調な様子を張り上げてくる。  
「それで、大佐、昨日はすみませんでした」  
「ハボック…」  
悪びれもなく、戦線復帰にむけて話が持ち出され、  
ロイは戸惑いながらもほっとして聞いていた。  
だが、用件の核心部分を含む次のやりとりに、たじろぐロイを  
逆手にハボックがこじつける。  
 
「俺の当面の目標は、中尉の望みをかなえてやること。だから、またあんたのために  
命かけます。大総統になって俺らをさっさと楽にして下さい」  
「言ってろ…」  
出て行けとはねつけられた時、これで彼とも切れてしまうのではないかと心配していた。  
だが、こちらにもう一度ハボックは戻ってくれるらしい。  
ロイは本人の口から聞かされて安堵した。  
続いて、上司の機嫌を取りながらハボックはこう述べた。  
「その頃には中尉も気が変わってるかもしれないし、俺にはまだチャンス  
あると思うんですよね」  
「さあ、どうだかな」  
「守られてばっかいる男って情けないって、きっと気づくと思うんです。  
そんな中尉を俺が熱く慰めるんです。そして俺の格好良さに彼女はメロメロに」  
調子付いた電話を見据えたロイは、受話器を乱暴に置いた。  
やれやれとした顔を零してベッドに戻ると、寝起きのリザに  
不思議そうに尋ねられた。  
「今の電話は誰だったんですか?」  
「間違い電話だ。安心したら眠くなった。もうちょっと寝るよ」  
「はあ…」  
向き合って、リザの温もりを独占するようにロイが彼女の体を抱きよせて目を閉じた。  
ロイのあくびにつられてリザもうとうとしだした。  
眠りにおちる寸前に見たその時のロイの寝顔は、何やら嬉しそうに口元が緩んでいた。  
これからがはじまる。  
新たなる道にむけて、二人はまどろみの中でしばしの休息に羽を休めた。  
 
完   

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