そのいつまでも続く地平線には、「死」の荒野が果てしなく続いていた。  
砂だけの大地。  
生けるものなど、なにもない。・・・はずである。  
 
「男」がひとり歩いていた。  
長い事歩いていたのか、その足取りは重い。だがその分、力強い。  
砂塵を避ける為の黄土色のローブの頭が、風に舞った。  
その瞬間、「男」の素顔が露になった。  
銀色の髪。褐色の肌。顔全体を覆う、大きなクロス上の「傷」。そして、その黒い銀縁のサングラスの 
奥に覗く、真紅の瞳。  
彼は、「追われる身」だった。罪は「殺人」。人として踏み越えてはならない領域である事は心の中で 
は十分に理解していた。  
だが、彼は・・・  
「・・・・・・・・!」  
サングラスの下の彼の瞳に、「蜃気楼ではない」街が見えた。  
砂漠の街、「リオール」。  
彼の足踏みが、ほんの少しだけ早さを取り戻した。  
 
 
 
『彷徨の咎人(さすらいのとがびと)』 
 
 
 
闇。辺りに何もない。真っ暗な闇。  
「ねぇねぇ。『ラスト』ー。いつになったら腹いっぱい食べていいの?」  
闇の中から、声が聞こえる。  
「まだ、もうちょっとだけ先になるわよ。『グラトニー』」  
闇に蠢く「者」達。  
「それよりも『グリード』の野郎が随分勝手な真似をしてる見たいじゃねーの。  
どうなのよ『プライド』? アイツも・・・・・『処分』するかい?」  
「ホムンクルス」と呼ばれる、人ならざる者。  
「ククっ、そうですね『エンヴィー』・・・・・ まぁ、『お父様』の指示がない限りは放っておいて 
も害はないでしょう・・・  
それに、錬金術師など例え『処分』してしまっても魂さえあれば『人柱』としての役割は十分担ってく 
れますからね・・・」  
「・・・・ケッ。それよりも『あの野郎』の行方は未だに掴めていねぇのかよ。『スロウス』。てめー 
はどうなんだ?」  
「・・・・・・・・・・・・・・・、・・・・・・・・・・・・・・・ウックク・・」  
「ヘッ。テメェに聞いたのが間違いだったよ。」  
「安心しなさい『ウルエス』・・・彼は必ず『あそこ』に行くはず・・・友との『約束』を果たす為に 
ね」  
「約束ぅ? ギャハハハハハハハ! そんなもんの為にわざわざ死にに行くってのかよ?」  
「・・・・さて。彼は我々の『計画』にとっては『鋼の錬金術師』並に危険です。彼の『処分』はあな 
た達に任せましょう・・  
 
・・・・・・『レギオン』・・・・」  
 
「・・・・・・! な、なんだこれは・・・・・・」  
彼は、「二年前」に見た光景との余りの違いに、愕然とした。  
美しい町並みは、影も形もない。  
あるのは、道ばたで泣く子供の声と、銃器の硝煙。そして、不快な血の匂い・・・まるで、「あの時」 
のようであった。  
「こ、これは・・・・いったいどういう事だ!」  
呆然と立ち尽くす彼の元に、軍の制服を着た男が二人、歩み寄って来た。  
色が黒い事から、恐らくは二等兵ぐらいの憲兵だろう。  
「・・・・・・!」  
彼は、とっさに身構えたが、  
「おっおいアンタ! 旅の人か?」  
「この街からは早く出たほうがいい。アンタも巻き添えを喰らうぞ」  
随分、親切だった。彼等は、自分が指名手配の身だと言う事を知らないらしい。  
多分混乱の最中にあるこの街にまでは、情報がすり抜けてしまったのだろう。  
「・・ああ。すまない・・・・・それより、花屋はあるか・・・・?」  
「・・・花?」  
二人の憲兵は、キョトンとした顔になった。  
そのボロっちい格好で、何の為にとでも言いたそうである。  
「・・・・そうだなぁ。このリオールも数カ月前まではにぎわっていたんだが・・・  
今は内戦でひどいありさまさ・・・・・・」  
「花屋はあっても、花なんてないんじゃないかなぁ。今は花よりも食料のほうが大事だからなぁ・・」  
「・・・・内戦・・?」  
彼の脳裏に、数年前彼の「故郷」で起こった凄惨な光景が、鮮明に蘇った。  
 
「それは一体・・・どういう事だ?」  
「ああ、『レト教』っていう宗教団体が、俺達をだましやがったのがきっかけさ。  
最初はちっちゃい花を向日葵に変えたり、丸太ん棒を銅像にしたりってんで本当に神の使いかと思って 
俺もちょっと信じちゃったんだけどね。  
それがタネは錬金術ってんで大チョンボ。おまけに教団の奴等が暴動起こして・・・こんなになっちま 
った・・」  
憲兵の表情は、哀し気だった。彼等も一個の人間。人殺しなどしたいはずもない。  
「・・そうか・・・・ところでもう一つ。この街には『ロゼ』と言う名の女性はいるか・・?」  
二人の憲兵は、お互いに顔を合わせた。  
「・・・あ、あー。ロゼちゃんか。知ってるよ。アンタ彼女に会いに来たのか?  
それなら花も納得がいくぜ」  
「ほんと、いい子だよなぁあの子。けが人の手当てをしたりみんなのスープ作ってくれたりしてよ。  
かく言う俺も、怪我しちまったときあの子に手当てしてもらったんだよなぁ」  
「・・・ま、まぁそんなところだ・・・・・ところで・・・居場所は知っているのか?」  
「あ、ああ。多分この時間ならあそこに行ってるんじゃないかなぁ。恋人のお墓。」  
「・・・墓・・・か」  
「ああ。いい奴だったよあいつは・・・・男の俺が言うのも何だけど顔も良くて腕っぷしも強くてよ。  
おかげでこの街はチンピラが逆にブルってたぐらいさ。いいカップルだったよ。あの二人は。」  
「それが一年前に事故で死んじまってよ。その光景と来たらひどかったなぁ・・・」  
「(やはり・・・・・お前は死んだのか・・・・『ケイン』・・・)  
すまない。世話になった・・・・・」  
「あ、ああ・・・ちなみに墓場は、ここをまっすぐ行って突き当たりを右だよ」  
彼は軽く会釈をして、言われた通りの方向に足を運んだ。  
 
行く途中、一束の小さな花を持った少女が、彼の目に入った。  
「・・・お嬢さん」  
「なぁに? おじちゃん」  
少女は彼のほうを見ると、にっこりと微笑んだ。  
「(お、おじちゃん・・・・)その花・・・・・どこで見つけて来たのかな?」  
「うんとね。むこーの所にお花畑があるの。そこで摘んで来たのー」  
「・・・そうか・・・・・」  
すると、少女がこちらのほうにとてとてと歩いて来た。  
そして、彼の前にその花を差し出して来た。  
「おじちゃんにあげる!」  
「・・・・!? い、いいのか・・? せっかく摘んで来たのだろう?」  
「いいの。お花はまだまだあるし、また摘みに行けばいいもん」  
彼は、少女に向かって優しい微笑みを浮かべた。  
「そうか・・・・ありがとう」  
花を受け取り、少女の頭を優しく撫でた。  
そして、心の中でそっと祈った。  
「(神よ・・・・・この少女に幸多からん事を・・・・)」  
 
そんな彼を見つめる、「影」があった。  
一つではない。  
人の形をしているものの、生気を感じられないその表情は果たして「人」という字がおさまるのかすらも解らない。  
その中でもひと際大柄な影が、殺気すら感じられない冷たい瞳で、彼に狙いを定めていた。  
 
 
規則的に並べられた石の列。  
数カ月前からの暴動で、その数は眼増しに増えている。  
そんな中。「それ」は存在した。そして、その前には一人の少女が佇んでいた。  
少女の右手には、美しい赤い花の束が握られている。  
「・・ケイン。今日はあなたの好きな色の花を持って来たよ・・・」  
そう言って、そっと花を墓の前に置いた。  
ほんの少し前まで、彼女は彼の死を受け入れようとはしなかった。  
悪徳宗教に縋り付き、彼が必ず帰ってくると信じて疑わなかった。  
だが、数カ月前にこの待ちに来た二人の少年の残した言葉が、彼女を変えた。  
『ロゼ 君はこっちに来ちゃいけない』  
『立って歩け 前へ進め あんたには立派な足がついてるじゃないか』  
その言葉が、彼女を吹っ切れさせた。  
彼等は彼等で、今頃は目的を果たそうと必死に努力しているに違いない。  
彼女も、自分のできる事をした。暴動の怪我人を必死に看護し、ケインの遺したお金を使って貧しい子 
供達に食事を作ったりもした。  
「(ケイン。私・・・・・強くなったよ。向こうで・・・見てくれているよね?)」  
彼の名前の彫られた墓の前にしゃがみ、そっと微笑む彼女。  
「・・!」  
後ろから、足音が聞こえた。  
しゃがんだまま振り向くと、褐色の肌をした大柄の男が立っていた。  
「だ・・誰ですか・・・?」  
見ると、きれいなピンク色の花束が握られている。  
「男」は、軽く会釈をすると、その花をロゼの持って来た花の隣にそっと置いた。  
 
 
『前略 元気にしているか?  
俺は今、自分の死を予感している。   
・・・俺は見てしまった。レト教のコーネロ教主が、悪魔と取り引きしている姿を。  
奴は神の使いなんかじゃない。悪魔の使者だ。それを見て以来、俺は常に誰かに狙われている。  
多分俺が見たのを気付かれてしまったのだろう。  
もちろん俺は簡単に死ぬつもりはない。だが・・・・もしも、俺の身に何かがあったら・・・』  
 
 
「あ、ありがとう・・・・あなたは、ケインの知り合いなんですね・・?」  
ロゼの問いかけに、男はこちらに顔を向けた。  
見ると、彼の顔には生々しい大きな傷跡が残されている。  
サングラスの深い黒から微かに覗くその赤い瞳は、穏やかな炎のように見えた。  
「・・・・ほんの・・・半年だけだがな・・・・」  
その言葉を聞いたロゼは、ポンと手を叩きながら、ああと納得した。  
「聞いた事あります。何年か前の旅の最中イシュヴァールの街を訪れたときに、知り合った人と友人に 
なったって。  
よく言ってましたよ。頭ガチガチのガンコヤローって。」  
「男」の肩の力が、ガクンと落ちた。  
「(お前・・・・己れの事をそんなふうに言っていたのか・・・・!!)」  
「あ・・・ご、ごめんなさい・・・あの、聞いた風に言っちゃったもので・・」  
「いや・・・・いい。それよりも・・・・」  
「な、なんですか・・・・?」  
「彼の墓は・・・・何故・・・周りの草が枯れている・・?」  
「・・・・!!」  
見ると、彼の墓の周りの草だけが、真冬のように枯れている。比べると隣の墓とは一目瞭然だ。  
しかも、匂いはしないが腐っているような異様な枯れ方である。  
「・・・・数カ月前・・・この街の暴動が起きた直後から・・・・・  
彼は・・・・正義感の強い人でしたから・・・彼が今のこの街を見て・・・悲しんでいるようで・・・」  
 
「枯レタ・・・・花カ・・・・」  
二人の背後から、まるで機械か何かを通したような声が聞こえた。  
「!!」  
「な、なんですかあの人たち・・・!」  
振り向くと、真っ黒い革のような服を着た男が立っていた。  
「知り合いですか・・?」  
「ち,違う・・・・(くそっ・・・己れとした事が,気配に気付かないとは・・)」  
「・・・・・ソノ墓カラハ・・・・強力ナ毒素ヲ感ジル・・・。  
ヤハリソノ墓ノ下ノ者ハ・・・・・・・アノオ方ノ毒ニ侵サレテ・・・死ンダノダナ・・・」  
「どっ・・・毒・・・・・? ケインは・・・ケインは事故死・・・」  
「マアヨイ。ドノ道アノ者ト関係ノアル者ハ・・・・・・スベテ『処分』スル・・・!  
ソシテ・・・・・『傷の男(スカー)』。貴様モナ・・・・」  
男の後ろから、少しデザインの違う服を着た男達が、ぞろぞろと現れた。  
リーダーらしき男を合わせると13人。  
その中から二人、リーダーの前に出た。  
ベリッ・・・・! 二人の男の肘から、十字の形をした刃が勢いよく飛び出した。  
「逃げろ・・・」  
「えっ?」  
「早く逃げろ! 奴等は貴女をも殺す気だ!!」  
一瞬、遅かった。ロゼが逃げる直前に、二人は刃をスカー達に放った。  
「くっ!!」  
ゴキン。 スカーの右手が軋んだ。と同時に、二つの刃をその右手で同時に受けた。  
刃は突き刺さらなかった。右手の中で、「再構築」する事なく「破壊」された。  
「あ、あなた・・・・錬金術師・・・・!」  
「・・ぉおっ!!」彼が、地面に右手を思いっきり叩き付けた。  
すると忽ち叩き付けられた周辺の土が異様に隆起し、「13人」に向かって雪崩のように襲った。  
「グ・・・・・!!」たちまち、「13人」は全員生き埋めとなった。  
「これで少しは時間稼ぎができる。早く逃げるんだ」  
「はっ、はい・・・・・・!!!」  
立ち去ろうとしたロゼの眼に、恐るべきものが映った。  
「・・・・・・あ、あれ・・・・!!」  
 
「13人」は、何事もなかったかのように立っていた。  
だが、全員「人の形はしていた」が、「人間」ではなかった。  
禍々しく、無機質な昆虫のような顔。それはまるで作物を喰い尽くし、病魔を運ぶイナゴのようであっ 
た。  
ただひとり、先程のリーダーらしき男の変わった姿だけ、他の12人とは少し違っていた。  
「・・・・・!! キメラかっ・・・?」  
「そ・・・そんな・・・・・人間のキメラなんて・・・」  
「ヒェッヒェヒェ! バーーーカ」  
「ククク・・・オレタチハカミニエラバレタ『レギオン(群れ成す者)』ナンダゼ・・」  
「オレタチ13タイハナンゼンニン、ナンマンニントイウジンタイジッケンノセイカデウマレ、カミノアイヲウケタンダ。  
ソンナカスミテーナ、レンキンジュツガツウジルトデモオモッテイルノカヨ?」  
「「ケヘヘヘ! ヒャハハハハハハハ!!」」  
12人の怪人が一斉に笑った。機械のような声がいっそう不気味である。  
その中から、リーダーの怪人がスカーの前に出て来た。  
「貴様ハ・・・・・何ノ為ニココニキタ・・・・・・  
モウ最早・・・・・・錬金術師ヲ殺戮シテ回ル気ハアルマイ・・・・・」  
「・・・・・・友との約束を・・・・一年越しの約束を果たしに来ただけだ」  
「・・フン」  
瞬間、リーダーの怪人の右手が、スカーの脇腹に突き刺さった。  
「・・・くっ!」  
が、間一髪の所で、彼の左手がリーダーの怪人の手刀を手首から掴んでいた。  
「・・・・・フン。ソノ左手デハ・・・・私ノ右手ヲ砕ク事ハデキマイ・・・」  
たちまち後ろから右手の攻撃をさせる間もなく、12人が飛んで襲い掛かって来た。  
「あ、危ないっ!!」  
 
「ゲヘヘヘヘ! シネシネシネーーー!!」  
その12人の下忍の一体が、スカーにその爪を振るおうとした瞬間。  
「・・・フン!」  
彼等のイメージしていた早さとは比べ物にならないスピードでスカーの右手が下忍の胸に深々と突き刺 
さった。  
「ヌッ! ・・チイッ」  
危険を感じたリーダーは、直ぐさまスカーの左手から右手を引き抜き、後ろにジャンプして逃れた。  
「ゲッッ!? ナ、ナンダコノハヤサハ・・?」  
「・・・・・たっぷりと味わうがいい。貴様等が馬鹿にしきった錬金術をな・・・!」  
「ヒッ! ヤ、ヤメ・・・・」  
その瞬間、下忍の身体が胸を中心にしてバラバラに砕かれた。  
「ツ、ツヨ・・・・・・・・・イ・・・」  
頭からつま先まで砕かれた瞬間、下忍の肉体だった物質は爆発四散した。  
その爆発でスカーのサングラスが外れ、中の真紅の瞳が露になった。  
「神の道に背きし悪魔共よ・・・・・制裁を受けろ!」  
残り11人になった下忍に向かって歩み寄るスカー。  
「ジェ、『ジェネラル』! カセイシテクレ! オレタチジャア・・」  
「・・・・・・・・・・・」  
「ジェネラル」と呼ばれたリーダーは、加勢もせずにその戦っている様子を、ジッと見ていた。  
ロゼもその様子を、不安な眼で見ていた。  
「(なぜ・・・・あいつは部下を助けないの? どうして・・・私に襲い掛からないの・・?)」  
 
「ギギ・・・・・ビビビビビ!」  
あれから何分経過したのだろうか。スカーの周りには残り11人の残骸が辺り一面に飛び散っていた。  
「はぁー、はー、はー、は・・・・・・・」  
百戦錬磨の彼とは言え、流石に12人もの怪物を相手にして相当体力を使っているようだ。  
その時・・・  
「う、後ろです!」  
「はっ!!」  
気付くと、いつの間にか後ろにジェネラルの姿があった。  
 
「(しまった・・・・こいつからは殺気が!)」  
ゾブッ!  
「ぐはっ!!」  
一瞬の出来事であった。ジェネラルの左拳がスカーの左脇腹にナイフのように突き刺さった。  
「ぐっ・・・・がぁっ!!」  
たちまち、その場にへたりこむスカー。  
「ククククク。ヤハリ『グラトニー』様ニ受ケタ傷ハ完治シテイナカッタヨウダナ。  
アノクズドモヲ捨テ駒ニシタ甲斐ガアッタ。十分確認サセテモラッタカラナ・・・」  
「はっ!!」ロゼはようやく、この怪物が動かなかった理由を悟った。  
「(そうか・・・あいつは彼の・・彼の体力の消耗と過去に受けた傷の具合を観察していたのね・・  
それだけの余裕を見せるなんて・・・・私なんか、いつでも殺せるって事・・・?)」  
息も絶え絶えになった彼に、ジェネラルはジリジリと歩み寄った。  
「女・・・・待ッテイロ。貴様ノ処分ハイツデモデキル。ダガコノ男ハ。今コノ場で処分シテオカナク 
テハナラナイ・・」  
じわじわと処刑執行しつつあるジェネラルに、ロゼは何もできなかった。  
「(ど・・・どうしたら・・・・・)」  
その時、彼女の足に、先程の下忍共の武器らしき棒状のものが当たった。  
「・・・・・・・・!!」  
ジェネラルが、彼の頭に自らの右手をそっと当てた。  
「光栄ニ思ウガイイ。今マデオマエガ殺シテキタヤリカタデ処分シテヤロウ」  
「くっ・・!? 貴様・・・まさか、錬金術師か? (くそ・・・身体が痺れて・・)」  
「クク・・・ククククク。沢山修行ヲシタサ。ダガ、ドウシテモ芽ガ出ナカッタ。  
ソンナ虚無ノナカ・・・・・我等ガ神ニ出会ッタ・・・・。  
ソシテ・・神ガ与エタモウタコノボデイヲ・・・今度ハ我等ガ神ノ為ニ!  
サァ懺悔シロ!!」  
ガッ!!  
「グァッッ!!」  
止めを刺そうとしたその時、何者かがジェネラルの頭を固い鈍器のようなもので殴りつけた。  
「ロ・・・・・ロゼ・・・・」  
 
「勝手な人ねアンタは! そんなバケモノになってまで得た強さに、何の価値があるのよ!!」  
「ギッ・・・・・コ、小娘ェェェェ・・・!」  
「私を殺すの? いいわよ殺してみなさい!  
私はある人に言われたわ! 『立って歩け 前へ進め あんたには立派な足がついてるじゃないか』って!  
私は歩いたわ! 自分で自分の生き方を決めた! でもアンタは何なの? そんな作り物の身体で!  
あんたには足もなんにもない! ただの操り人形よ!!」  
「ギッ・・・・黙ッテ聞イテイレバッ・・・! ソンナニ処分サレタイカァァァァァ!」  
ジェネラルはスカーの頭から手を離し、ロゼに襲い掛かった。が・・・・。  
ドボッ・・!  
「ギッ!?」  
スカーの右手が、ジェネラルの背中から胸の真ん前までトンネルのように貫通した。  
「強い方だ・・・・貴女は・・・・あの男が・・・・ケインが惚れたのも解る気がする・・」  
「キ サ マァァァァァァ!!」 瞬間。ジェネラルの身体が光り・・・・  
「ガアアアアアアア!?」  
その身体が錬金術の力によってバラバラに「分解」された。  
「ギ・・・・ギ。ドウセ・・・ワタシニコロサレナクトモ、キサマラハオワリダ・・・ スベテキエテ 
ナクナル・・・・・ニンゲンモ・・・・・レンキンジュツシモ・・・」  
「分解」が終わり、スカーが手を抜いた瞬間、ジェネラルであった物質は爆裂し、跡形もなく消滅した。  
「・・・・哀れな魂よ・・・・地獄の裁きを受けろ・・・」  
13人の怪物を全て倒し終わったスカーに、ロゼが急いで歩み寄って来た。  
「あ、あの・・・・助けてくれて・・・・ありがとうございます」  
「い、いや・・・貴女が無事なのならそれでいい・・・くっ!」  
スカーは、また膝を付いてしまった。  
「だ、大丈夫ですか・・・? せっかく完治しかかったところを・・・ひどい」  
「い、いや・・・大丈夫だ・・・ぐ!」  
「よ、よろしかったら・・・・・私の家に来ませんか? 応急手当てぐらいなら出来ますから・・」  
ロゼは、スカーに向かってそっと手を差し伸べた。 スカーは少し黙った後。  
「・・・・世話になる」その細い手を自身の大きな手であまり力を込めずに握り返した。  
 
『もしも俺の身に何かがあったら・・・ ロゼの事を宜しく頼む・・  ケイン』  
 
 
 
 
「えっと・・・・・これで・・・・よし、と。」  
ロゼは少しぎこちない手付きで、彼の褐色の筋肉質の肌に包帯を巻いていく。  
浅黒い肌に、白い包帯が眩しいぐらい映える。  
「・・・すまないな。」  
「いえ・・・・御礼なんて・・・」  
ロゼは彼の顔を見上げて、にこりと微笑んだ。  
「・・・!」その微笑みに、少しだけ彼の反応が変わる。  
胸が、ほんの少しズキンとする。  
開いた古傷の痛みではない。いや、正確に言えばそこもまだまだ痛むのだが、先程塗ってくれた消毒液 
と傷薬で大分楽になってはいる。  
長い間、何年もの間「復讐」という文字に塗りつぶされて忘れてしまっていた感情だった。  
「(・・・ま、まさか己れは・・・・いけない。彼女はケインの恋人なのだぞ・・・)」  
必死に、自分の中に芽生え始めた感情を否定する彼だった。  
「あ、あの・・・・どうかしましたか?」  
「・・・・・!! い、いや、なんでもないっ・・・」  
妙に変な反応をしてしまう。  
そんな彼に、ロゼはクスクスと笑う。  
「けっこうカワイイ所あるんですねあなたって。私、もっと怖い系の人かと思ってましたよ」  
「・・・・・・・・(か、カワイイ・・・?)」  
「あっ、もうこんな時間。夕食作って来ますね」そう言って、立ち上がるロゼ。  
「い、いや・・・そんなに構わないでもらえないか・・・」  
「何言ってるんですか。そんな大ケガしてるのに・・・・待ってて下さいね。すぐに用意しますから」  
そう言って、さっさと部屋から出てしまった。  
「あ、あの・・・・・・・」何故か、そんなロゼに逆らえない彼だった。  
 
一時間後、台所に置いてあるテーブルの前に、ちょこんと座っている彼の姿があった。  
「・・・・・・・・・・・」  
「はいどうぞ。あまり豪華じゃないですけど・・」  
食事の内容は、細長い形のパンが5つ。野菜のサラダ。ビーフシチュー。それと、飲み物とコップ。  
「・・・・・・・・・・・」  
彼は、その中のひとつを、まじまじと凝視していた。  
『牛印 3.5牛乳』  
「(牛乳・・・・・)」  
彼は、牛乳が嫌いだった。彼は知る由もないが数カ月前、彼と戦った「鋼の錬金術師」も牛乳が苦手だ 
った。  
が、彼の場合はそれを上回る。一度も口にした事がないのだ。所謂「喰わず(飲まず)嫌い」という人種 
である。  
「どうしたんですか? 食欲がないんですか・・・?」  
「い、いや・・・・・・その」  
ロゼの不安げな顔に思わず冷や汗が出る。  
ハッキリ言って。今腹の虫が大合唱している。放浪していた間、ロクなものを食べていないし、  
今目の前にある食事は、牛乳を除けばどれも彼の眼には豪華過ぎるものである。  
「・・いただこう・・・・」  
「・・はいっ」  
スプーンを手に取り、ビーフシチューの肉をすくい、口に運ぶ。  
「どうですか・・?」  
「・・・・・・美味い」  
「そ、そうですか! 良かった」  
彼の反応を見た後、笑みを浮かべて自分も食事をはじめた。  
彼は真ん中から千切ったパンをかじりながら、その光景に妙な懐かしさを覚えた。  
「(思えば・・・・・こんな風に食事をするのは・・・・子供の頃以来かもしれないな。  
あの頃は・・・父も、母も・・・兄者もいたな・・そして、師父も・・・)」  
チラリと、自分の右腕を見る。  
「(いや・・・兄者は・・・・ここにいる。ここに・・・いるのだ・・・)」  
 
そんな彼に、生涯で初めての瞬間が訪れた。  
「あ、飲み物注ぎますね・・・」  
コポポポ・・・・  
ロゼが牛乳のパックを手に取って、彼のコップの8分目まで注いだ。  
「・・・・・・・・・!!(ぬっ・・)」  
思わず、食事が止まる。ゴクリとつばを飲む。  
「・・・・? どうしたんですか?」  
同じように自分のコップに牛乳を注いだロゼが、キョトンとした目でこっちを見る。  
「・・・・・・・・・・・・・・」  
今まで彼が戦って来た敵の中で、恐らくある意味最強の敵。  
あの「豪腕の錬金術師」も、「ウロボロスの連中」も、先程戦った「レギオン・トルーパー」や「ジェ 
ネラル」も強かったが、  
これの衝撃はそれ以上だろう。  
「あ、あの・・・・?」  
「(いかん・・・・食事をごちそうになって不様な事はできん! よ、よし・・・)」  
少し目をつぶり、スウウ・・と、深呼吸をした後・・・・・・  
彼は一気に、コップに注がれた牛乳をグイッと一気飲みした。もちろん、手には腰。  
ダン!!  
・・と、勢い良く空のコップがテーブルに叩き付けられた。  
「・・・・・!! ど、どうしました?」  
そして、一言。  
「も、もう一杯頂こう・・・」  
「は、はい・・・・」  
彼は、飲まず嫌いを何とか克服した。・・・だがその眼は、妙に血走っていた。  
 
 
そして、食事の後。  
「すまない。ご馳走になった・・・」  
彼が椅子から立ち上がった瞬間。  
「・・・・・・よろしかったら・・・・このまま泊まっていきませんか?」  
「・・・い、いや。そこまで世話になる訳には・・・」  
「遠慮しないで下さい。部屋も・・・・空いてますし。今からは宿はありませんよ」  
「そ、そうか・・・」  
「さ、案内しますよ・・」  
彼はロゼにかつてケインが使っていたと言う部屋に案内された。  
「・・ここ、ケインが使っていた部屋です。掃除はしておいたからそれほど汚くはないと思いますけど 
・・・」  
一年以上使われていないであろうこの部屋には、塵一つない。  
ベッドのシーツも、きちんと洗濯されている。  
今までの安い宿や野宿に比べれば上等過ぎるものである。  
「・・・すまない。何から何まで・・・・」  
「それじゃあ私、隣の部屋で休みますね。 ・・・・襲っちゃ、ダメですよ?」  
彼女はわざとらしく、小悪魔的な微笑みを浮かべる。  
「そ、そんな訳・・・ないだろう」  
彼はそんなロゼを見て、妙に焦りながら反論する。  
「ふふっ・・・・お休みなさい・・」  
部屋のドアが軽い音を立て、彼女が部屋から出ていった。  
「・・・・・・・・・・・・・・」  
取り敢えず彼は、真っ白いベッドに腰を降ろした。  
右手のほうに見える洋服棚に、ケインとロゼの写真が、きちんと写真立てに飾られていた。  
上にほんの少しかぶっているホコリが、彼はもうこの世にはいない事を証明しているようであった。  
 
その真夜中・・。彼は夢を見た。 いや、夢にしてはあまりにも生々しいものだった。  
 
(こ・・・ここは・・・・砂漠か・・・? リオールの・・・砂漠・・)  
その砂漠を、一台のジープが駆け巡っている。  
だが、明らかに様子が妙だ。 必死に、なにかを振り切ろうとしている。  
運転手の顔が見えた。  
(・・・・・・・・・ケイン!?)  
確かにその顔は、ケインその人である。その表情は、必死だ。何かと必死に戦っているように見える。  
(!! あ、あれはっ・・・・・!?)  
見ると、ジープの運転席の反対側のドアに、何か黒いものがついている。  
その形は、まるで人のようにも見える。しかも、女性。漆黒の長髪をなびかせた、女。  
彼は、瞬時に理解した。 あの女は、刺客なのだと。「知り過ぎた」ケインに送り込んだ、刺客。  
(ケイン!)  
彼は友を助けにいこうとした。  
だが、体が動かない。それもその筈。彼には実体がなかった。  
これからどんな凄惨な光景がその真紅の瞳に映ろうとも、決して目をそらす事はできない。  
次の瞬間。  
運転席のドアから、なにか黒い針のようなものが、何本も飛び出した。  
そしてそれは、一瞬で再び引っ込んだが、その穴から夥しい量の赤いものが代わりに飛び出す。  
血である。  
たちまち、ジープはバランスを崩した。砂にタイヤを取られ、横転した。  
横転したと同時に、凄まじい閃光が一瞬、輝き・・・・  
(ケイィィィィィーーーーーーーーーーーン!!)  
 
「!!!!!」  
彼は、飛び起きた。  
窓から覗く月の光が、まだ深い夜の中である事を物語っている。  
「夢・・・か。いや・・・・夢とは・・・・何かが違うような・・・」  
彼は、今日戦った異形の者の言葉を思い出した。  
『ヤハリソノ墓ノ下ノ者ハ・・・・・・・アノオ方ノ毒ニ侵サレテ・・・死ンダノダナ・・・』  
「・・・・・・・もし・・・もしも本当なのだとしたら・・・・」  
カチャ・・・・  
その時、部屋のドアが軽く軋みながら開いた。  
「・・・・・・・ロゼ・・・」  
入ってきたのは、寝巻き姿の彼女であった。  
「・・・・・・・・ごめんなさい。なんか眠れなくて・・・・・  
ここにいても、いいですか・・・・?」  
「い、いや・・・・・・別に構わないが」  
「・・ありがとう」  
ロゼは少しだけ笑みを浮かべて、部屋のドアを閉めた。  
 
互いに、同じ向きで顔を合わせないまま、ベッドに腰を掛ける。  
「・・・・・・それで・・・」  
それから何分か過ぎた頃、ロゼが口を開いた。  
「それで・・・・・何か?」  
「これから、貴方はどうするんですか?」  
「明日には・・・・・ここを去ろうと思う。貴女を、これ以上奴等との戦いに巻き込む事はできない」  
「それから?」  
「・・・・・・・それから・・・・・・か・・・」  
彼は天井を仰いだ。  
「・・・・・・・わからない」  
「わからない・・?」  
「己れは今まで・・・・・復讐の念を我等が神『イシュヴァラ』に押し付け・・・  
多くの国家錬金術師を・・・・・・・人を・・・・・・・殺してしまった・・」  
「・・・!」  
ロゼの表情に、驚きの色が濃く現れる。  
 
彼は自分の右腕を見つめる。異様な紋様の入れ墨が彫ってある、その逞しい腕を。  
「今思えば・・・・・己れは愚かだった。こんな事をしても・・・・死んでいった者達は還って来れな 
いと言うのに・・・」  
「・・・・・・っ」  
ロゼは、悟った。彼は、死場所を求めているのだと。  
彼が一番許せないのは、国家錬金術師などではなく、故郷と家族を守れなかった、自分自身なのだと 
・・・  
「殺した・・・・。幾ら元には戻れないとは言え、己れは小さな子供までをも殺めてしまった・・。 
この腕を・・・・・自ら汚してしまった。  
償いようも・・・・ない・・・・・・!!」  
「そんな事ありません」  
ロゼが、言葉を返した。  
彼女のほうを見ると、その表情は先程の驚きは消えていた。  
「貴方の腕は・・・・・・・汚れてなんかいない・・・・・・。  
だって、その腕で私を助けてくれたじゃないですか・・・・。」  
「・・・・・・・!!」  
ロゼが、身を乗り出して彼の身体を優しく抱き締めた。  
髪から流れる、ふわりとした香りが彼の鼻をくすぐった。  
「・・・・・・・・ロ・・・」  
「生きて下さい・・・・・。償えないと言うのなら、一生その十字架を背負って生きて下さい・・  
もう・・・・・・人が死ぬのは嫌・・・・。お願いです・・・ケインの分まで・・・生きて・・」  
「・・・・・・・・・・・・・・ロゼ・・」  
彼女の顔が、彼の目の前に来る。  
その距離は少しずつ縮まり・・・・・  
 
静かに、重なった。  
 
それから何分過ぎたのだろうか。  
二人の唇は、ようやく離れた。  
「・・・・・・・・・・・・・・」  
彼は、予測不可能だったこの事態に、完全に表情をボーッとさせて固まっている。  
「ご、ごめんなさい・・・・」  
ロゼが口を開いた事で、ようやく彼の意識が戻った。  
「い、いや・・・・・・・こっちこそ・・・・す、すまない」  
慌てる彼をよそに、ロゼは首を横に振る。  
「いいんです。軽蔑・・・・・・しちゃいましたよね・・・・・  
尻軽な女だって・・・・・・」  
「・・いや。それはない・・・・・貴女の言葉で・・・・己れの心の中の何かが晴れた気がする。  
本当に・・・・・・・・ありがとう・・・」  
彼は、今度は自分のほうからその無骨な唇を彼女の可憐なそこと重ね合わせた。  
「・・・! う、ん・・・・」  
彼の口付けは、限り無く優しかった。まるで、割れやすい磁器を扱うように。  
ケインとのキスと、微妙に違っていたものの、その感触は彼女を優しく溶かしていく。  
その彼もまた、久しぶりの女を抱かんとする感覚に、ブルリとした感覚を再び思い出す。  
「・・・これで、お互い様だな・・・」  
唇を話すと、彼が優しい笑みを浮かべる。  
その表情は初めて会ったときとは大違いの穏やかさだった。  
「ふふっ・・・・そうですね・・・・・・」  
その優しい赤の瞳に、ロゼの顔にも笑みが浮かんだ。  
 
 
彼の大きな手が、寝巻き越しにロゼの身体にやわやわと触っていく。  
「・・・いいの・・か?」  
彼の問いに、彼女は顔を赤くして言う。  
「・・今さら・・ですね」  
「そうだな」  
彼女の寝巻きのボタンを、彼はひとつひとつ丁寧に取っていく。  
たちまち、彼女の美しい肢体が露になる。  
「・・・美しいな」  
「あ、あんまり・・・見つめないで下さい・・・・恥ずかしい・・」  
彼女の事は、ケインの話を聞いたときから、美しいだろうとは思っていた。  
だが、今ここに実際の彼女を抱こうとしている自分がいる。  
自分よりも薄い褐色の肌と、その澄んだ瞳がその美しさを引き立たせる。  
彼も、何人も女は抱いた事はあるが、彼女のようなタイプは初めてであった。  
 
彼は右腕全体を使ってロゼの背中を抱き、空いた左手てその形の良い胸を愛撫する。  
「! ん・・・」  
ロゼの身体がピクン、と反応をする。  
全体を揉みしだきながら、指先で乳首を攻めた。  
「っ! はっ・・・あっ」  
彼女の声が、紛れもない喘ぎ声に変わった。その声に改めて興奮し直す。左手に少し力がこもる。  
「!! 痛・・・・い」  
「!! す、すまない・・・」  
彼は慌てて左手を離した。  
そんな彼に向かい、ロゼは目を潤ませながらも微笑みを浮かべてくれる。  
「・・・優しいんですね」  
「ばっ、バカ・・・」  
初めて、赤くなった彼を真正面で見れた。  
その事が妙に嬉しくなったロゼは、両腕で彼の広い背中を抱き締め返した。  
 
それに応じるように、彼も背中に回した右手を少しずつ背骨をつたうように撫でていく。  
「ふ、う、あっ・・・」  
左手も、彼女の肢体の前半分を少しずつ、だが確実に蹂躙していく。  
細く儚い彼女のカラダを、自らのその力で折ってしまわないように優しい手付きで。  
「! んんっ・・!」  
やがて彼の左手が、お臍をつたいながら、彼女の茂みに到達する。  
「う、あっ! そ、そんな・・・とこっ・・」  
彼の逞しい指が、割れ物を扱うようにじわじわと、ロゼの秘唇を撫でる。  
次第にその手に、彼女自身の液体が潤滑油となってまとわりつく。  
同時に、彼女の声も甘さを増していく。  
「うはぁ、ああ! だ、だ・めぇ・・・! あ、ああっ!」  
そんなロゼの声に、彼は得体の知れない背徳感と欲望が鎌首をもたげる。  
 
自分は今、親友の女をこの手に・・・・  
いや、親友の女「だった」女とでも言い直すべきか。  
 
そんな言葉が頭を駆け巡り、彼を再び興奮させ直した。  
十分に濡れそばっているのを感触で確認すると、左手の動きを止めた。  
「! ・・・・・?」  
右腕も背中から引き抜いた。  
そして、彼女に覆い被さるような体制になった。  
 
少しだけ腰を降ろすと、自らのそそり立った逸物が彼女の陰唇に当たる。  
彼はロゼの頭を優しく撫で、額に口付けを交わす。  
「・・・・・・いいか?」  
その言葉に、ロゼの顔に一瞬だけ怯えが走ったものの、すぐに赤くして頷く。  
「は、はい・・」  
その言葉を聞いた後、彼も頷いた。と同時に、ゆっくりと、彼の逸物が彼女の秘所へと挿入されていく。  
「! くっ、ああっ!」  
「・・・・・・・・・っ!」  
ロゼは、彼の逸物の大きさに、腹の中が抉られたような感覚に陥った。  
彼もまた、初めてではないにしてもその狭さと、快楽に声を上げた。  
「だ、大丈夫・・・か?」  
そんな彼の問いに、ロゼは意気も絶え絶えのまま微笑む。  
「はい・・・・あ、あなたのが・・・・おっきくて。でも・・・大丈夫・・ 大丈夫ですから・・・・・」  
「ロゼ・・・・」  
その言葉に、ほんの少しだけ後悔の念が頭をよぎる。  
「う、動くぞ・・・・。苦しかったら・・・言ってくれ」  
「は、はい・・・・・・くっ! ンン、は、アア!」  
彼の腰が、少しずつだが、力強く動き始める。  
そんな彼を、彼女のそこは締め付けながらも、健気に包み込むように迎え入れる。  
「ふぅ、ああ! あ、あなたの・・・がっ・・・・・あなたのがっ・・・私の中で・・・」  
最早、彼は何も考えられなくなった。夢中になって、彼女を蹂躙していく。  
ロゼもまた、彼の腰の動きに次第に合わさっていく。  
「あ、アア! フゥ、アウア! わ、わたしっ・・・・わたしっ・・もうっ!」  
到達への前兆か、ロゼの背中が弓のように張る。  
そして、彼にも限界が訪れる。  
 
「・・・・・・・っ!」  
彼は、射精しようとする自らの逸物を、絶頂を迎えようとするロゼから引き抜こうとしたが。  
ぎゅっ、と、彼女に抱き締められた。  
「! お、おい・・・」  
「こ、このまま・・・・・お願い、このままで・・・・!」  
「・・解った・・・・・」  
そして、彼はそのまま、最後の一突きとばかりに腰を打ち据えた。  
「あ、ああ! わ、た、しっ・・・! ふ、あああああぁ!」  
かん高い嬌声と同時に、ロゼの身体が大きく痙攣する。  
彼もまた同時に、彼女の膣内に自らのものを全て解き放った。  
「う、あ、あ、ああ・・・・」  
ロゼは彼を潤んだ目で見つめた後、再び彼の唇にキスをした。  
 
「・・・・・・ありがとう・・・・・・」  
 
そして、二人はそのまま、深い眠りについた。  
 
 
『なぁ・・・・・ロゼ。』  
『なに? ケイン・・・・』  
『俺は・・・・真の平和な街を求めて・・・この国中を旅してみた。  
でも・・・・・・そんな街はどこにもなかった・・・・・・  
でも・・・もしも・・・世の中に争いがなくなったら・・・・・  
二人で・・・・どこか遠い美しいところに行きたいな・・・・・・。』  
『そうね。私も・・・・行ってみたいなぁ。ねぇ。約束してよ。  
いつか・・・・・必ず、連れてってね』  
『・・・・・・ああ。 約束だー・・・・・・      』  
 
 
「・・・・・・・・」  
朝の光が差し込む中、ロゼは目を覚ました。  
彼が気を利かせてくれたのか、彼女にはしっかりと寝巻が着せられている。  
「あの人は・・・・」  
気が付くと、彼女はひとり。彼の姿はベッドから消えていた。  
見ると、自分とケインが写っている写真の下に、手紙のようなものがあった。  
「・・・! これって・・・」  
宛先はイシュヴァール。消印は去年。ケインが死んだ二日前・・・  
ロゼは、寝巻きのまま外に飛び出した。  
 
「待って!!」  
彼は、思った通りケインの墓の前にいた。  
「・・・・・・起きてしまったか。なるべく貴女が起きないうちに去ろうと思っていたが・・」  
「今更・・・・『行かないで』なんて言いません。せめて・・・・・  
せめて、『行ってらっしゃい』ぐらいは・・・・・言わせて下さい」  
彼女の目から、涙がこぼれていた。でもそんな事おかまいなしに、彼女は微笑みを浮かべる。  
彼は唇のはしをそっと折り曲げる程度の笑みを浮かべた。  
「・・・・・解った。  
・・・・・・・・・『行って来る』」  
「『行って・・・・・らっしゃい』・・・・!」  
 
「あっ! さ、最後・・・に・・・」  
振り向いた彼を、ロゼは大声で静止させた。  
「・・・・」  
「最後に・・・・名前を・・・・・あなたの・・・・名前・・・」  
振り向いた彼は、笑った。今まで見た中で、一番穏やかで、陰りのある笑み。  
「・・・・・己れの・・・・・・名前は・・・・・  
            ・・・・・・・・・・・」  
それをしっかりと聞き取ったロゼは、コクリと頷く。  
「その名は・・・・貴女に預けておこう。受け取ってくれ・・・ロゼ」  
「・・はい・・・・」  
彼は再び振り向いた。  
銀縁のサングラスをかけ、砂漠の砂塵に消えていく。  
 
ロゼは確信していた。  
いつか・・・・・・・・きっとまた逢える。と。  
彼の、そして自分の命が、ある限り・・・・・・生きている限り。  
 
そして、帰り様にケインの墓を見ると・・・・  
「・・・・・・・・・・!!」  
ケインの墓の前に、小さなガーベラの花が、美しく、力強く咲いていた。  
まるで、旅立つ彼の武運を祈るかのように・・  
「あ、ああ・・・・・・・ケ、イン・・・!!」  
 
『・・・世の中に争いがなくなったら・・・・・』  
 
†彷徨の咎人 おわり†   

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