*ビョーキ注意報!?*  
 
夏。  
世の皆様がたが夏休みを謳歌したように、軍部にもリラクゼーションの一環として夏休みがある。  
期間は地方ごとに異なるが約一週間から十日程。  
ただ、軍部には一つだけお休みに於ける「鉄則」があった。  
『休みのときは上下なし』  
というものである。  
・・・・まぁ単純に言えば、お休みのときぐらいは階級の上下関係なく人として対当に接しろと言う事 
である。  
 
ここ東方司令部の面々も、夏休みに入った。  
「なぁリザ。今日はどこで食べようか?」  
「・・・そうですね。三丁目のイタリア料理の店などはいいんじゃないでしょうか?」  
「いいね。行ってみようか」  
ロイ・マスタングとリザ・ホークアイはチャンスとばかりに堂々とデートをしている。  
そして。ロイの側近中の側近のひとり、ジャン・ハボック少尉は・・・  
 
 
「お兄ちゃん! いいかげんに起きてよ!」  
17、8ぐらいの歳の少女が、ジャンの寝ている布団を引っ張る。  
「・・・・んぁ〜? るせーな。夏休みなんだからちっとはだらけさせろよ」  
ジャンは夏休みの間、実家に帰っていた。  
「ったくもう! 帰ってから3日・・・いっつも朝帰りを日課にして!」  
「っせーな・・・・・ムニャムニャ」  
ジャンが寝返り、身体が正面を向いたとき・・・・・  
「・・!」  
とんでもないモノが少女の目に入った。   
 
それは首元に付いた、女性の口紅。  
「・・・・・・!!  
(キスマーク!!)」  
てん、てん、てん、てん・・・・・・・  
「(ちょ、ちょ、ちょっと・・・・・・・・・)」  
それはジャンの身体の下の方に降下しており、最終的にはパンツの中に・・・  
「・・・・・・・・・・この・・・・・・」  
少女は、部屋の隅に置いてある電気掃除機を取り出し・・・  
「こ、このスケベ兄貴ーーーーー!!」  
しゅごおおおおおおおおお!!  
股間を思いっきり吸い込んだ。  
「おわっ! ナニ吸い込んでんだテメー!!?」  
「ホラ! さっさと着替えてよ! 洗濯できないじゃない!!」  
「・・・ったくよ・・・・」  
ジャンは妹を部屋から出て行かせると、言われた通り下着を履き替え、ドアの前に放り投げたた。  
「ホイよ! 洗濯頼んだぜ。」  
そして・・・思い出し笑い。  
「・・・・・・ニヤリ。」  
『また会ってねv』『今日安全日なのv』『浮気しちゃダメよv』・・・  
 
-ジャンの心の声-  
「(しかしここ3日間ツキまくりじゃねーか・・・・  
ポコチン労働基準法違反だっちゅーの!  
今のオレにオトせねーオンナは中尉ぐらいなモノだぜ・・・  
このままオレのバットで、大佐やイチ○ー君と打率勝負でもしてみっかヨ!?)」  
 
「・・なーにニヤニヤしてんのよ!?」  
突然、妹の声が耳もとから聞こえて来た。  
 
「おわっ!? いつからいたんだよ!?」  
「さっき洗った洗濯もの干しに来たの。ベランダはお兄ちゃんの部屋からしか行けないじゃん」  
「ああ、そう・・・・・・・・」  
ジャンは渋々引き下がった。  
「・・・お兄ちゃん。いろんな女の人と付き合うのは勝手だけどさぁ・・・」  
「あん? んだよ」  
次の瞬間、恐るべき言葉が妹の口から飛び出した。  
「汚れたパンツ洗う妹の身にもなってよね!」  
「・・・!?  
誰のパンツが汚れてるってぇ!?」  
声を高めたジャンに、股間から異様な感触が襲って来た。  
「・・・・?  
(な、何ィーーーーーーーーーーーー!?  
さっき替えたばっかのパンツにシミがぁ!?)」  
そして恐る恐る中を覗いてみると・・・・・・・  
「(うげっ!! 亀が怪し気な涙をーーーーーーーーーーーーーー!?)」  
「・・・・なにやってんのよ? 挙動不審よ?」  
「・・・・・・・・・・・・・・  
な、なんでもねーーーーーー!!」  
ジャンは慌てて上着を着て、家から出て行ってしまった。  
「・・・・・・・・・・・・ハァ!?」  
その様子を、妹はアゼンとして見つめていた。  
 
30分後。  
行きつけの病院にて。  
「ハボック君、ビョーキもらったね?」  
主治医の先生の第一声はこうだった。  
「・・・・・・いぃっ!? どーゆー事ッスか先生??」  
この主治医の先生。ジャンが小さい頃から診てもらっている顔なじみである。  
「『アレ』つけないでやったんだろ!?  
つけないでツケもらっちゃったってか? わーはははははは・・・・・・・」  
「あ、あの、いや、その・・・・・・・  
(・・・・・チッキショー! さてはここ3日間の間に口説いたオンナの中に時限爆弾背負ってたヤツが 
いたにちがいねー!  
クソアマが〜、賞味期限切らしやがって〜・・・・・・)」  
「ま、当分薬の副作用でカユミが続くだろうが初期の症状だから1週間ぐれーで治るだろ。  
たまにはいいクスリだろ、イロオトコ!」  
「・・・・・あ゛、あ゛り゛がどう゛ございました・・・・」  
ジャンは込み上げる怒りを必死で堪えた。  
「バイバイ菌〜」  
「(オレとした事がヘタ打っちまった〜〜・・・・・!)」  
そして、病院から出た直後・・・・・・・  
「・・・・・・・っ!!」  
猛烈なカユミがジャンを襲った。  
「・・・・・・・・・・・  
(か、か、かきてぇ〜〜〜〜〜〜〜!!  
でも家に着くまではガマンだ! ガマンだオレ!!)」  
そのせいで、自然と内股になってしまう。  
「(か、カッコワリい〜〜〜〜〜〜〜〜〜!! オレとした事が!!)」  
その不気味な様子を、見ていた一組の男女がいた・・・・・  
 
その二人とは、ロイとリザだった。  
「・・・あれ、ハボック少尉じゃないですか?」  
「・・・・・何やってるんだアイツは」  
「・・・・・・・・なにか白い袋落としましたね」  
「・・・・追い掛けて拾ってみるか」  
二人は早速ジャンの後をそっと追い掛け、落とした袋を拾った。  
「何でしょう? 病院の薬・・・・みたいですけど」  
「・・・・・・・! (これは・・・・)」  
ロイは直ぐさま袋に書かれていた病名にハッとした。  
「・・・・・なに顔を青めているんですか?」  
「い、いや・・・・・リザ。  
この袋は私が届けるよ。ちょっと待っていてくれ」  
そう言うとロイはダッシュでジャンの元に走った。  
「・・・・・・・はぁ?」  
 
「・・・・ハボック少尉」  
「・・・おわっ!! 大佐じゃないっスカ! 一体・・・」  
ロイはニタリと笑うと先程拾った薬をそっとジャンの眼前に差し出した。  
「・・・・・落としたよ?」  
「なにぃ!?」  
ジャンは慌ててロイから薬の袋を取り上げた。  
「フフフフ腐・・・・・君も好きモノだねぇ」  
「た、た、大佐・・・・・・望みは何ですか?」  
「フフ・・・・・・そーだねぇ・・・・・・・・・」  
 
その瞬間、ロイの瞳から怪しい光が放たれた・・・・  
「君には確かけっこうカワイイ妹がいたねぇ。歳は確か18歳だったかな?  
彼女と食事にでも・・・・」  
「・・・ちょっと待て。  
アンタオレの妹に手ぇ出すつもりか・・・?」  
「ははは。手を出すとは言ってないだろう。食事に誘うだけさ。  
・・・それで黙ってあげよう。どうかね・・・・・・?」  
「・・・・・・・・・・・・・っ!!!」  
この瞬間ジャンの頭に天使と悪魔が降臨した。  
 
-天使-  
『ダメだ! 絶対ダメ!! 野獣の如き大佐に妹を喰わせるなんてダメッスよ!!』  
 
-悪魔-  
『ゲへへ。これでオレの出世街道が保証されるなら妹なんざ安いもんだぜ! ゲへへ・・』  
 
そして、ジャンの出した結論は・・・・  
「・・・お断りします」  
「そうか。交渉決裂と言う訳だね。男を見せたね少尉」  
ジャンは、半分魂が抜けていた・・・  
「(妹よ・・・ 兄ちゃんはオマエを野獣の魔の手から守ったよ・・・ウフフ・・・)」  
「・・・・誰が野獣かね?」  
「・・・・はっ!!」  
・・・・・・・・あんただ。あんた。(←天の声)  
「馬鹿だねー少尉。可愛い部下のビョーキを私がお喋りする訳ないだろう?」  
ロイはジャンの肩をポンと叩き、最高の笑みを見せた。  
「た、大佐ぁ・・・・・一生付いて行くッス!!」  
そのときジャンの眼に見えたロイは、まさにゴッドであった。  
だが・・・・  
 
二日後。  
中央(セントラル)の病院に、ジャンの姿があった。  
「・・・・・・・・甘かった・・・・」  
ロイは、その後リザと行ったレストランで酔っぱらった勢いで喋ってしまったのだ。  
「・・・おかげで東部の病院じゃ半径一メートル以内誰も近寄ろうとしねー・・・・  
妹の耳にも入って『移ったらどーすんのよ!』ってパンツも洗ってくれねーし・・・  
何で高い電車賃掛けてセントラルの病院まで通わなきゃいけねーんだよ・・」  
 
コノウラミハラサデオクベキカ。  
 
そんな心がジャンを支配していた。  
「孤独だ・・・・・  
誰もオレの気持ちなんか分かってくれねぇ・・・・・誰も・・・」  
そうブツブツ言いながら病院の待合室に入ると・・・  
「・・・・?」  
何故か大人も子供も、ご老人も眼を点にしてビビっていた。  
そしてその視線は真ん中に座っている大男に・・・・・  
「・・・・・・!!」  
その大男は、そのデカイ手で股間をボリボリとかいていた。  
「おお・・・・・・・」  
ジャンは、その大男の顔をよく知っていた。  
「おおお〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」  
その男とは・・・・・・!  
 
「アレックス・ルイ・アームストロング少佐!!」  
「・・ああ。東部のハボック少尉ではないか。こんな所で何をしているのかね?」  
ジャンは半泣き状態でアレックスの手をガッチリ掴んだ。  
「アンタがそんなにエッチな漢だったとは!!!!」  
「・・・?」  
「わーはははははは! 同士めっけたぜ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」  
 
翌日・・・  
「オラオラオラ〜〜〜大佐! やっとめっけたぜ〜〜〜〜!!」  
バイクに乗って特攻服に身を包んだジャンとアレックスが、デート中のロイとリザの前に現れた。  
「な、なんだねその格好は!! それにアームストロング少佐まで・・・」  
「話は聞きましたぞ。酔った勢いとは言え上司にあるまじき行為!」  
「大佐にはオレ達最強コンビ誕生のイケニエ第一号になってもらいますからなぁ!!」  
リザはロイにそっと耳打ちした。  
「・・・・・まずいですよ大佐・・  
まだ夏休み中です。 『休みのときは上下なし』が鉄則ですから、我々同士で起こしたモメゴトは何も 
罰せられません」  
「なっ!! そうだった・・・・・・・・ヤバイ」  
ロイは初めてちょっとだけ後悔した。  
今回は発火布の手袋もしていない。まさに無能状態。  
「な、って言うかなんで少佐までいるのかね??」  
「はーははは! 大佐にはわからないでしょーね! オレ達の義兄弟にも匹敵する深いキズナをよ!」  
「キズナ・・・・何ィ!? まさか・・・・少佐もなのか?」  
「はははは少佐! これからオレ達『ビョーキコンビ』でどんどんのして行きましょうや!!」  
 
その時、アレックスの眼が点になった。  
「ビョーキ? 何の事かね??」  
「「「・・・・・は?」」」  
「え、え、アンタ・・・・・・なんで?」  
アレックスは、ふぅとため息をつくとポケットの中の薬の袋を取り出した。  
「うっ!!」  
「そ、それは・・・・・」  
『アレックス・ルイ・アームストロング様  
病名・インキンタムシ  
お薬の使用方法・一日三回、患部に適量をお塗り下さい。』  
「イ、イ、インキンの薬?????」  
「ア、アンタオレと同じビョーキじゃあ??」  
アレックスはフルフルとその太い首を左右に振った。  
そして、一言。  
「お主と一緒にするな・・・」  
そう言って、アレックスは帰ってしまった。  
そして・・・・・ジャンは死んだ・・・・・  
「オ、オレはインキン以下か・・・・?」  
その様子を、ロイとリザはアゼンとして見ていた・・・・  
「・・・ちょっとだけ同情してしまうな」  
「この事は黙っておいてあげましょう・・・・大佐」  
「ああ。」  
 
その後、ジャンはセントラル赴任の為に別れた彼女と付き合うまで、二度と女遊びをする事はなかった 
と言う・・  
合掌。  
 
†おしまい†  
 
 

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