A challenge of a cherry boy
~チェリーボーイの挑戦~
その2
*ドラッグ・パニック*
ラッシュバレーまであと二駅まで来た。
・・だけど、その時にはもう夕方で、日が沈み始めていた。
無論、列車の旅に不馴れなウィンリィは完全に夢の中にいる。
そして・・・・・・その可愛い顔がオレの肩に当たってる訳で・・・
彼女が呼吸をする度に、なんとも言えない吐息が聞こえてくる。
オレは左手でズボン越しにけつを抓って、必死に腹の底から込み上げる欲望と戦っている。
蛇の生殺し状態だ。一刻も油断できない。
「・・よく寝てるね。ウィンリィ。」
「ま・まーな。 今日はもう日が暮れるし次の駅で泊まろうぜ」
「・・あっ。次の駅の街『イツボッシ』にはおいしい料理の店がいっぱいあるみたいだよ。
ラッキーじゃないか兄さん」
オレが入院してる最中に買ってきたのだろうか。
アルはいつの間にか荷物から『プロが選んだ! 安くて美味い名物料理店100選』
・・とかいうガイドブックを取り出して読んでる。
「そっか。中央(セントラル)でカネもある程度降ろしたから、久しぶりにババンと喰うか」
言われてみれば、大分腹も減ってきた。
ヒューズのおっさんの奥さんが作ってくれたアップルパイも、もう今頃消化されてしまってる。
隣で寝てるウィンリィも一緒だろう。
・・でもこれは肉体があるからこその特権だ。
肉体のないアルには、食欲はあるものの食べる事なんかできやしない。
そんなことを微塵も口にせず、あまつさえ調べていてくれてる弟に、後ろめたさを感じつつも・・・とても感謝している。
すると、当のアルがオレの方をジッと見つめている。
「・・・・・・なんだよ。」
「・・・・チャンスは今夜だよ。兄さん・・・・」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜・・・・・!」
・・・・・訂正。
とんでもないヤツだ。
兄をからかうとは。
立ち上がってツッコミたいのはやまやまだが、隣で気持ちよさそうに寝ているウィンリィを怒鳴り声で起こしてしまうのはちょっとかわいそうだ。
オレはグッと堪えて、汽車の揺れに身を任せることにした。
それから、2、30分ぐらい歩いただろうか。
オレとアルはまだ寝足りなさそうなウィンリィを連れて、ガイドブック片手に街を一通り詮索したあと一軒のホテルに入った。
軍の系列であるこのホテルならばオレ(国家錬金術師)の名前で宿泊代はある程度浮くし、
ここのオーナーシェフはこの国で5本の指に入るフレンチ・シェフなのだそうだ。
一石二鳥である。
建物や本で見た部屋もなかなか奇麗だし、ウィンリィも喜んでくれるだろう。
ある程度の手続きを済ませ、部屋を二つとった。
あくまで形式としてだが・・・・・・・
気付けば時間は6時。
荷物を置いて一息ついたら、すぐに食事の時間となった。
オレは例のブツ・・媚薬を、コートからそっと取り出し、ズボンの左ポケットに移した・・・。
「おいっ・・・し〜〜〜〜〜〜〜〜Vv」
夕食の感想は、このウィンリィの一声で決定した。
「良かったねウィンリィ。
・・・・・ほら。兄さんもがっつかないでよ。行儀悪いなぁ」
・・確かに美味い。
今まで喰ってた病院の薬のにおいのするメシとは天と地の差だ。
前菜、魚、メインディッシュの肉など、どんどん胃の中に入ってく。
食べる事のできないアルも、取りあえず怪しまれないように鎧の中に仕込んである袋に(勿論、種類ごとに分けてある)食べてるフリして入れてる。
それで、腹も大分満足した所に、最後のオーダブルが入った。
「お待たせいたしました。当店自慢の『ジャンボパフェ』でございます」
テーブルに置かれたのは、山盛りに積み上げられたひとつのパフェ・・?だった。
いや、これがパフェと言えるのか?
これには、オレもアルも、ウィンリィもアゼンとするだけだった。
普通のデザートを頼んだはずだったのだが、どうやらオーナーシェフが気を聞かせてくれたらしい。
オレを国家錬金術師と知っているだろうとは言え随分気っ風のいい人だ。
「うーん・・・これを・・・・食べろってか?」
「そうみたいね。ちょーど二人分ありそうだし」
・・・・ひょっとしてこれは、大チャンス?
それにはウィンリィを席から少しだけ、外させなければ。
オレは必死に頭の中で、ウィンリィを一旦席を外させる言い訳を検索した。
頭の中の何人ものオレの会議の結果、最もらしい言い訳をヒットした。
「あ、そうだ。
悪ィけどウィンリィ。アルの鎧用のオイルとクリーム、
置いてあるか聞いてきてくれねぇ?
頼む! このパフェ好きなだけ食べさせちゃるからよ」
「兄さん?(・・ッッ!とうとう強行手段に出るのか?)」
「うーん・・・・どーしょっかな。」
・・・頼む! OKと言ってくれ!!
汽車の中でおあずけ状態を食らわされて、もー我慢の限界なんだよ!
「・・・いーわよ。
ちょっと待っててね」
ウィンリィはそれだけ言って、鼻歌歌いながらロビーの方に行ってしまった。
作 戦 成 功。
オレはすぐさま、ポケットからブツを取り出し、
アルにも見えない角度で言われた通り一口分・・・・
「エ・ド!」
「〜〜〜〜〜!!!???」
いきなり、ウィンリィの声が聞こえた。
「な、なんだよ、もう聞き終わったのか?」
「? ホラ。持ってきたよ」
その手にはちゃんと錆び取りオイルと、艶出しクリーナーが・・・早っ!
「・・それよりなぁに? そのパフェの上にどっちゃりかけた液体? シロップ?」
「あ、ああこれはハチミツ・・・」
・・・・・って、え? どっちゃり??
ギャアアアアアアアアアアアーーーーーーーー!!!
ウィンリィの声にビビったせいか、オレは瓶の中の液体を全部かけてしまってた・・・・
「や、やば・・・・」
「・・・なにがやばいの? それじゃあ・・・・」
ウィンリィが爆弾パフェにスプーンを入れた。
ど、どーなっちまうんだ?」
「はい、あーん」
何ィィィィィィィィィィィィィィ!!!!?????
こ、これをオレに喰えと???
やばい。
やばいヤバイYABAIyabai!!
ヒューズのおっさんに「一口分」と言われたシロモノだったのに・・・・
エドワード・エルリックピーンチ! ・・・そ。ピーンチ。
ってボケかましてる場合かオレ!
・・・とか思いながら、オレは決心した・・・・・・
ウィンリィから差し出されたその爆弾を、オレは口に入れた・・・
「・・・・・・(兄さん・・・アンタ漢だよ!)」
「どぉ? オイシイ?」
「・・・・・・・・オイシイ・・・です。」
ウィンリィはオレの声を聞くと、喜びながら自分も黄色い声を上げながら食べ始めた。
どうやらこれが媚薬などとは微塵も思っていないようだ。
まぁ確かに意外に味は悪くない。
誰もがハチミツだと言われたら納得するだろう。
だが、オレの胸中は恐怖が頭の中を過っていた。
どーなっちまうんだろう。オレとアイツ。
やっぱり悪い事はできないものだ。因果応報・・
気が付くと、山盛りのパフェはきれいにオレとウィンリィでたいらげていた・・・
合掌。
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