幸村(ちょっとだけ男体化)×星奈、夜空、オマケで理科  
 
●注意事項  
 
レイプ、及び性転換が苦手な方はスルーしてあげて下さい。  
厳密には性転換じゃないんですが、苦手な人は本当に苦手でしょうから。  
 
 
 
年上の人間に憧れを抱いた経験が全く無いと言う人間は、恐らくそうは居ないだろう。  
それが同性か異性かは別にして、年長者に対する憧憬は、誰にでも少なからず共通する経験の筈だ。  
 
小学校に入学したばかりの頃、手を引いて入学式の列に並んでくれた六年生。  
まだ通学路もよく覚えられなかった頃、一緒に登校してくれた近所の上級生。  
中学一年生の頃は、三年生がやけに大人びて思えたものだ。  
幼稚園の先生や近所の女子大生、友達の年の離れたお姉さんなどは、  
手の届かない星のような存在として、しばしば憧れの的となった。  
 
中には、その憧れを現実に手に入れた者も居るだろう。  
二年生の頃に野球部のキャプテンと付き合える事になったと言う者も居るだろうし、  
入社した時は上司だった人と同じ役職まで上り詰められたサラリーマンも居る筈だ。  
それらは時に幸運、時に本人の努力、時に神の助力から得られた幸せだ。  
 
努力すれば夢や憧れが必ず叶うとは言わない。  
成功者が例外無く努力しているとは言わないし、敗者に努力が足りなかったとも言えない。  
贔屓目に見ても、明らかに何の努力もしたいないのに、他者より遥かに簡単に  
高嶺の花を自分の物にしてしまえる、恵まれた者も居るのは事実だ。  
だが敢えて綺麗事を言うなら、努力し続ける限りは、憧れが叶う可能性の芽は必ず在り続ける。  
諦めたら試合終了とは、よく言ったものだ。  
 
そう、綺麗事を言うならば、の話だが。  
 
何をどれだけ努力しようとも、決して叶わない夢、届かない憧れがある事を、  
楠幸村は若くして知ってしまった。  
「彼」の――敢えて本人の為に「彼女」とは呼ばない――年齢から言えば、  
諦念を知ってしまうには、あまりに若過ぎたと言わざるを得ないだろう。  
彼は知ってしまった。  
自分が、憧れの「あにき」と肩を並べる事は、未来永劫有り得ない事を。  
 
 
その日羽瀬川小鷹は、隣人部の部室に現れなかった。  
例によって彼だけが知らされていなかった、臨時の移動教室。  
トイレに行っている間にクラスメート達は姿を消しており、  
三日月夜空すら事前に何もメールで教えてくれなかった。  
まさか近代世界史の授業で、いくら臨時とは言え、  
視聴覚室に集合がかけられていたとは、小鷹には予想も出来なかった。  
そしてその特別授業には感想文の提出が義務付けられており、  
提出しなければ補修になるなどと言う事も。  
 
職員室に行って、居合わせた他の教員に担当教諭の授業のスケジュールか何かを聞けば、  
その日の授業が突然視聴覚室での資料映画視聴に変更された事は、分かったかもしれない。  
だが職員室に行くとまた勝手にサボり扱いされ、教員達から非難され、言い分も聞いてもらえず、  
あまつさえ内申点まで下げられる事を経験で知っていた彼は、体育館や音楽室など回り、  
見つかる筈も無い級友達の姿を自力で見つけ出す事に精を出してしまった。  
その体育館や音楽室に居合わせた、他クラスの者達や上級生下級生から、またしても  
「教室に乗り込んで来た」「教師への早すぎるお礼参りか」「いや昼寝場所を探してたんじゃ」  
等といった噂が立ったのは、言うまでもない事だろうか。  
 
そういった次第から、その日の放課後の部室は、小鷹抜きの風景となった。  
 
夜空は読書に勤しみ、星奈は恋愛ゲームに夢中で、  
理科は薄い本を読みながら鼻血を垂れ流し、幸村は黙ってポットの傍に立ち尽くす。  
マリアはシスターとしての仕事に追われて、今日は顧問業に専念出来る暇が無い。  
そして小鷹もマリアも居ないとなれば、小鳩が部室に来る事も無かった。  
 
この四人だけになってみると、部屋は存外静かなものだった。  
放っておいても勝手に騒ぐマリアは今日は居ないし、  
星奈に無理矢理可愛がられて泣き喚く小鳩も不在。  
いつもは仲良く喧嘩している夜空と星奈も、今日はたまたま互いに自分の趣味に没頭中だ。  
話しかけなければずっと黙って同人誌を読み続ける理科に、  
話しかけても静かな返事しか寄越さない幸村とくれば、賑やかす要素は何一つ無かった。  
 
この時、星奈が自分の世界に没頭する余りに独り言を呟いてしまわなければ、  
幸村が変貌してしまう事は無かったかもしれない。  
「あぁ……やっぱりルナちゃん可愛いぃ……」  
右手はコントローラーを握ったまま、左手は頬に添えて、  
星奈はうっとりとした顔でテレビ画面に魅入っていた。  
いつもの事なので理科も幸村も反応を返さないが、それを言うなら  
夜空が手厳しい批難を浴びせる事もまた、いつもの事ではあった。  
「本当に救いようの無い駄肉だな、貴様は。ギャルゲーなどにうつつをぬかしおって」  
そしてまた、星奈が躍起になって反論するのも、いつもの事だ。  
「あんたにルナ=マリアホークちゃんの魅力なんて分からないわよ!  
 良い? ルナちゃんはね、片想いの男性を妹に横取りされたのに、  
 それでも妹を恨んだりせずに、ずっと心配してあげて……」  
 
何とはなしに夜空が画面に横目をくれると、ディスプレイ上では  
件のルナ何とかというキャラが、黒髪の男性キャラと結婚式を挙げている場面だった。  
「男を寝取られたんじゃなかったのか? その新郎は誰だ?」  
「主人公よ。名前はセナ=カシワザキにしてあるけど。  
 ロマンチックだわぁ……。この二人、声優さんも実際に結婚したらしいの……」  
それから星奈は一しきり、ルナを幸せにしてあげてね……だの、  
悔しいけど、あなたにならルナを任せられるわ……だのと呟き続けた。  
どうやらゲームの方でもエンディングを迎えたところだったらしい。  
 
「よく話が見えんのだが、つまりそのマリアみたいな名前の女は、  
 最初は主人公以外の男に惚れていたと言う事か? ビッチだな」  
「なっ!」  
「紛う事無きビッチだ。あぁ下らない。女なら、一生一人の男を想い続けるべきだ。  
 それを何だ? 妹に寝取られて? 妥協して主人公と結婚?  
 男なら誰でも良いんじゃないのか、まったく尻軽にも程があるな」  
ゲームの途中経過を知らない夜空にとっては、  
作中で主人公とルナの間にどんな経緯があったかなど分からない。  
だが分からないからと言って、そのゲームを心底から愛する者に対して、  
言って良い事と悪い事があるのは明白だ。  
星奈がヒートアップするのは無理からぬ事で、客観的に見ても夜空の方に非があった。  
「二人の間にどんな葛藤があったと思ってんのよ!  
 ルナの妹を主人公が殺してしまったかもしれないって状況で、  
 それでもルナは、頭を下げ続ける主人公を責め立てる事もせず、  
 むしろお互いの心の傷を――」  
「はぁ、傷をなめ合ったわけだな」  
「違う! 傷を癒し合ったのよ! 変な言い方するな!」  
「大体何で主人公がヒロインの妹を殺すんだ? 火サスでも滅多に見ない展開だな」  
「軍人だから仕方ないの! 裏切り者を討伐する任務だったんだから!」  
 
流石に煩く感じたのか、理科が口を差し挟んだ。  
「それ以上は引いておきましょうよ、星奈先輩。  
 一部の人にしか分からないネタをそんな風に当たり前のように並べ立てるから、  
 ガノタが嫌われたりする羽目になるんですよ」  
ガノタ、という言葉の意味するところは夜空にも幸村にも分からなかったが、  
ここまで話しておいて今更引いておくだの嫌われるだのも無いものだ。  
 
理科の進言で星奈が勢いを弱めれば、そこにつけこむのは夜空の定石だ。  
むしろ先程までの星奈の勢いを借り受けたかのように、自身の勢いを増す。  
「大体なんだ貴様は、女キャラとの恋愛に夢中になって。  
 我が部にレズビアンなど要らん、帰れ。と言うか死ね。  
 女好きの癖に帰り道で男にレイプされて自分も女である事を  
 否応なく自覚して恥じ入りながらビルから飛び降りてしまえ。  
 いや飛び降り自殺は人に迷惑がかかるからやっぱり駄目だな。  
 樹海だと警察が捜索するし、海での入水自殺は確か海自か海保の管轄だから、  
 どちらにせよ税金を浪費してしまう事になるな。  
 かと言って自宅で首吊りなどしたらご両親も家を手放すかもしれんし、  
 自殺のあった土地など価値が下がって、一等地でも中々買い手がつくまい。  
 不動産屋に迷惑をかける羽目になってしまうし、どうしたものか。  
 海外の紛争地域に行って流れ弾で死ぬと言うのも良いが、  
 その場合も恐らく自衛隊なり大使館なりには手間をかけてしまうのだろうし。  
 あぁどうした事だろう、生きていても迷惑なのに、死ぬのも迷惑だとは。  
 肉が挽肉になるだけなのに何故こうも面倒なのだ?  
 もう良い、柏崎家の資金で巨大ミキサーを作って中で入浴しろ。  
 私がスイッチを押してやるから」  
 
その間星奈が全く反論を試みなかったわけではないが、  
まるで星奈が何も話してなどいないかのように、夜空は無視し続けた。  
よくここまで相手を痛めつける口上が思い浮かぶものだと、幸村は感心する。  
古来から、「沈黙は金、雄弁は銀」と言う。  
銀の精製法が確立されておらず、金より高価だった時代の格言だ。  
夜空の雄弁さは、男らしさを目指す幸村としては、  
是非学ばせてもらいたいものがあった。  
 
だが、ふと思い出す。  
自分は男子ではない。  
どう足掻いても、どれだけ努力しても、絶対に男にはなれないという事を。  
精進を重ねようとも、憧れの小鷹と肩を並べる武士(もののふ)にはなれない事を。  
 
「彼」が密やかに目を伏せている事にも気付かず、  
夜空と星奈の口論は激しさをいよいよ増してきた。  
「私はレズビアンなんかじゃないわよ!  
 ギャルゲーをやってるのも、ヒロイン達と恋がしたいわけじゃないの!  
 友情を育んで、一緒にショッピングに行ったり、遊園地に行きたいだけなの!」  
あくまで現実に女友達の居ない事に対する代理満足、と言うのが星奈の主張だが、  
恍惚とした表情で頬を赤らめながらギャルゲーに埋没する様は、  
傍目に見て同性愛者以外の何かだと思う方が難しい。  
部員の中では殆ど誰も知らない事ではあるが、星奈の部屋には  
夜空のタペストリーや、夜空の使用済みグッズなどが保管されている。  
星奈本人は臥薪嘗胆の心意気の表れと思っているが、  
あれとて見る者が見れば偏執的な恋愛感情の発露にしか見えまい。  
 
星奈のどこかにそんな自覚があったのか、  
それとも兎に角ムキになってしまう性格だったのか、  
彼女は顔面をトマトのように真っ赤に染め上げて反論し続けた。  
だがそんな中、一人だけ、幸村の微細な表情の変化に気付く者があった。  
「幸村君、どうかしたんですか?」  
理科だ。  
本人が自己主張しないので取り沙汰される事が無いが、  
理科は部員の中でもっとも周囲に目を配る、ある意味一番の大和撫子だ。  
とてもそうは見えないのが損なところではあるし、  
実際自分が持ち上げられる事が嫌で、わざと演技で誤魔化している節もあるが。  
 
最初は気に留めるつもりの無かった夜空と星奈も、  
幸村の様子がどこかいつもと違う事に気付き、静まり返る。  
「わたくしは……」  
続く言葉を待ち構えるように、一同が息を飲んだ。  
「わたくしは、どうせいあいしゃ、なのでしょうか?」  
言葉の意味が分からずに首を傾げたのは、夜空だけではなかった。  
だがある意味において、この場で最も幸村の気持ちを  
察する事が出来るのもまた、夜空だ。  
 
「男であるべきか、女であるべきか、迷っているのか?」  
その言葉の意味も星奈や理科には分からなかったが、  
幸村はこくりと小さく頷いた。  
夜空は、小鷹(タカ)の旧来からの親友としての立場を確固たるものにする為に、  
自分は「男友達」であるべきだろうかと常々考えてもいた。  
少なくともタカにとって、ソラは男友達だった。  
同時に、自身の恋心と友情とを天秤にかけ、  
女として小鷹に接し、認めてもらいたいという願望も無いではない。  
かと言って「女友達」として認めてもらいたいわけではない。  
「男としての親友」か「女としての伴侶」かで、常に揺れ動いている。  
 
幸村も似たような心境ではあった。  
憧れの武士たる小鷹に一歩でも近付きたいという、男としての願望。  
そして口には出さないが、憧れの先輩たる小鷹に見初められたいという、  
女としての願望も今や芽生えている。  
自分が本当は女だったのだと知って以来、「彼」の中では  
「男としての舎弟」か「女としての伴侶」かで、  
どちらを選ぶか決着をつけられないまま生きてきた。  
男らしさを磨く為と称して執事服を着用する事も、  
時折やるせなさを感じる事だってある。  
かつてのようにメイド服で居た方が、女として愛してもらえるのではないかと思う。  
女としての立場しか考えなくて良い星奈や理科に比べれば、  
問題は酷く複雑化していたと言って良いだろう。  
 
幸村にとって最も理想的なのは、「男でありながら、小鷹に愛してもらう」事だった。  
だがそれが叶う事は、幸村が「同性愛者」になってしまう事をも意味する。  
体が女である以上は有り得ない話なのだが、  
その葛藤は本人以外には十全に伝わり切るものではなかっただろう。  
馬鹿馬鹿しい悩みだと切り捨てられる者は居ない。  
 
ここで、この場に集まった四人の中で、  
誰が最も計算高いか、その序列を纏めておく必要がある。  
 
まず最も打算を働かせるのが苦手なのは、疑いなく星奈だろう。  
その星奈を手玉に取り、マリアを顧問に仕立て上げた  
夜空の計算高さは、特筆に値するものがある。  
しかしよく見ると、女だと判明した途端に小鷹にくっつくようになった幸村も、  
ある面で言えば非常に女らしい計算高さがあると言って良い。  
「女」を武器にする点だけ見れば、夜空以上の「女臭さ」かもしれない。  
そして偽のキャラを演じたまま、さり気なく部員達の為に立ち回る理科。  
夜空さえも打ち負かす事のある彼女が、最も計算高いと言える。  
 
つまり  
星奈<夜空<幸村<理科  
という序列になる。  
 
星奈は何も考えず、ただ幸村の境遇に同情しただけだったが、  
正反対に夜空は考えを巡らせ、計算を組み立て始めた。  
幸村が女だったと知るや否や、執事服を着せて「女」から遠ざけようとした、  
その知略を彼女はここで発揮する事にした。  
ライバルを蹴落とすのに、好都合なタイミングだと踏んだのだ。  
「幸村」  
「なんでしょう、夜空のあねご」  
「初心を忘れる者は、男としても女としても半人前だ」  
腕組みし、柏崎天馬ばりの威厳を演出して、夜空は言い放った。  
またこの女は自分に都合の良いように事を運ぼうとしているな……  
と呆れかえる星奈の前で、夜空は即興の持論を展開した。  
「真に主の事を慕うならば、主が求める姿になる事が肝要だ。  
 小鷹はお前に、女を求めていると思うのか?  
 いいや、違うだろう。男として、頼れる舎弟としてのお前を求めている筈だ」  
別に小鷹はそんなものを求めてなどいないのだが、幸村の方は  
日々のヤンキー漫画やパンの献上などで、すっかりそう思い込まされてきた。  
まだ承服しかねるものを感じつつも、幸村は得心したように項垂れる。  
「わたくしがおろかでした……おのれの立場をわきまえず、不遜なことを……」  
「分かれば良いのだ。お前が何を目指すべきか、  
 何をすれば小鷹が最も喜んでくれるか、もう言われなくても分かるな?」  
「はい。わたくしが当初の目的どおり、真のおとこを目指すことです」  
あーあ、言いくるめられちゃって……と理科は嘆息した。  
 
夜空の打算はまだ続く。  
彼女はここで、ライバルを二人一気に蹴散らす策を講じた。  
「理科、頼みがある」  
「何でしょう?」  
「お前の技術力で、幸村の体を男にしてやってくれ」  
突拍子も無い提案に、星奈と幸村は目を丸くした。  
理科は内心、夜空なら言い出しかねないと思っていたので、殊更驚かなかった。  
「ちょ、ちょっと夜空! いくら何でもそれは……」  
「理科の技術力なら可能なのではないか?」  
星奈が止めようとしたのは、理科の技術力を軽視したからではない。  
幸村を本物の男性にしてしまう事に、倫理上の抵抗を感じたからだ。  
何より、幸村が本当に望んでいる事がそれなのか、と言いたくもある。  
 
しばらく言い淀んだ後、理科は顎に手を当てて答えた。  
「……不可能ではないですよ。私の技術力でなくとも、  
 性転換手術を受ければ良いだけの話ですし。  
 それ以外にも、私独自の科学力でもって行うのであれば、  
 クリ○リスを陰茎並みに肥大化させるとか、ディルドと神経接続するとか、  
 疑似的に男性にしてあげる方法はいくらでも可能です。  
 短時間で永続的な効果をもたらすのはさすがにここの設備では不可能ですが、  
 ホルモン剤を定期的に注射しなければならない事に比べれば、  
 実際の性転換手術よりは遥かに手軽に出来ます。  
 その代わり、一〜二時間で効果が切れると思いますが」  
さすがにこの場で幸村を完全な男にしてしまう事は不可能らしいと知って、  
夜空は落胆の色を隠せなかったが、程なくしてすぐに思い直した。  
「あぁ、一時間でも十分だ」  
何が一時間で十分なのか、星奈には分からなかった。  
一時間後には元通り女の体に戻ってしまう、疑似的なトランスセクシャルなら、  
幸村の願望は何一つ叶わないのではないか、と思う。  
その願望が「男になる事」か「女である事」かは別問題として。  
 
この「一時間で十分」という言葉に、理科は察するものがあった。  
計算高さは理科に一手も二手も遅れを取っているが、  
性格の悪さだけで言うなら、夜空は疑いなく隣人部最狂のようだ。  
「分かりました。理科室に行って薬品を調合して来ます。三十分程待ってて下さい」  
何故理科が納得しているのか分からないまま、星奈はその後ろ姿を見送った。  
まさか、この場で最も計算の働かない自分が、  
犠牲者になるなどという事は露程も予測出来ずに。  
 
理科室への往復で最低でも十分。  
残り二十分弱で薬品を調合してしまう理科のスキルが高いと言う事か、  
それとも前々から個人的趣味で準備を既に進めていたのか。  
恐らく後者なのだろうが、出来れば前者であって欲しい。  
兎も角も、理科は予告通り、三十分でその薬品を持参して部室に戻った。  
「はい、どうぞ。理科特製、疑似性転換溶液です!」  
恐らくは自分が性転換して、小鷹とホモファックをする為に用意していた――  
いや、やはりその事については考えたくない。  
即興で一から作り上げたのだと、誰もが信じたかった。  
メスシリンダーに入れられたそれは、キャップを取ると酷い異臭がした。  
「うっぷ……闇鍋の時のような匂いだな……」  
「こ、これ飲むの? 幸村」  
「たしかに、すさまじい匂いですが……もののふならば、このぐらい……」  
丸一日は部室に染みついた匂いが取れないのではないかと思う程、  
その液体は数メートル離れていても鼻腔を貫いてくる。  
幸村は覚悟を決めると、それを一気に煽った。  
 
ガタンっ!  
傍にあった椅子を巻き込んで、幸村は絨毯の上に勢いよく倒れ込んだ。  
「ゆ、幸村っ!?」  
「おおおお、おい幸村! 大丈夫か!」  
星奈は兎も角、自分からけしかけておいて土壇場で慌てる夜空は、  
理科の目から見れば「まだまだ甘い」と言わざるを得なかった。  
うつ伏せに倒れた幸村を夜空が抱き起すと、呼吸の乱れは明らかだった。  
「はぁ……はぁ……あそこが……暑いです……」  
あそこ、という言葉の意味を真っ先に理解したのが理科、  
次いでエロゲーに傾倒している星奈だった。  
一番最後に言葉の意味に気付いた夜空は、しかし真っ先に  
幸村のズボンを脱がせにかかった。  
心のどこかでは、理科の技術力を疑っていたのかもしれない。  
まさか本当に野望が実現出来るとは、信じていなかったのかもしれない。  
躊躇い無くズボンを脱がせた夜空は、幸村の可愛らしい純白のパンティが  
テントのように怒張しているのを見て卒倒しかけた。  
 
「ま、まさか……これは……」  
「う、嘘でしょ? だってコレ……」  
「皆さん、理科の技術力を疑い過ぎですよ」  
理科は屈みこむと、無遠慮に幸村のパンティを脱がせた。  
それは幸村を辱める為ではなく、苦しさから解放してやる為だった。  
この薬の効能や、作用するまでの時間を経験で知っている理科は、  
徐々に膨張していくソレが、やがて女物のパンティなどでは  
到底収まりきらなくなって苦しくなる事をも理解していた。  
「ひゃっ!?」  
その可愛らしい悲鳴を上げたのが、星奈ではなく夜空だったのは意外だ。  
彼女達の見守る前で、幸村の陰核は見る見る内に肥大化していった。  
最初はポークビッツ程だったものが、十秒もする頃には  
バナナのように図太く、キュウリのように長くなった。  
「こ、これが本物のおちんちん……」  
本物がこんなワケないじゃないですか、と呟く理科の声は、  
もう誰にも聞こえていない。  
睾丸があるわけでもなく、包皮はおろかカリ首も無い、  
それはただの肉の棒でしかなかった。  
処女の理科が何故本物の男根を見知っていたのかと言えば、  
彼女にとってネット上で無修正の男根の画像を漁るのは日常茶飯事だったからだ。  
 
クリトリスを肥大化させて棒状にしただけだったから、  
幸村の体はそれ以外の部分は全て元のままだった。  
控え目な乳房も、腰のくびれも、喉仏も、何もかも。  
この疑似チンコに射精能力など勿論無いし、体力は女のままだ。  
それでも、幸村は満足していた。  
「これで一歩、だんしに近付けました」  
いやいやいや、そうかぁ? と言いたくなるのを、星奈は喉の奥で堪えた。  
下半身のごく一点以外は、幸村は魅力的な乙女の姿を保ったままだった。  
まだこれじゃ男とは言えないでしょ、とは口が裂けても言えなかった星奈だが、  
その言葉は夜空が代弁した。  
「甘いな、幸村。それだけでは小鷹のような真のヤンキーにはなれん」  
星奈の言いたい事とは微妙に違ったが、幸村は大人しく傾聴した。  
「小鷹のような真のヤンキーになりたくば、肉体だけ男にしても仕方ない。  
 その新たに得た男の肉体で、何を成し遂げるかが重要なのだ」  
結構まともっぽい事を言うじゃない、と感心しかけた星奈に、  
しかし夜空は無情な視線を振り向けた。  
「肉をレイプしろ、幸村」  
「……ハァァァァァァァァァァァッ!?」  
 
内心で夜空の作戦を見抜いていたのは、理科だけではない。  
夜空の性格を考慮すれば、幸村にも先が読めていて然るべきだった。  
もっとも、幸村が夜空の思考を読んでいる事に気付いていたのは、  
理科だけだったのだが。  
「承知しました、夜空のあねご。  
 あにきのように立派なれいぷをしてご覧にあげましょう」  
小鷹がいつ誰をレイプしたんだ、というツッコミは、誰も挟まなかった。  
ただ、身の危険を察知した星奈が表情を引きつらせるばかりだ。  
「ちょ、待っ……う、そ……」  
幸村に男として生きる事を刷り込ませ、同時に星奈の処女を散らせる。  
こうして二人のライバルを一度に蹴落とすのが、夜空の作戦だった。  
幸村も理科も、そんな浅はかな考えを読んでいたからこそ、  
ここまで大人しく夜空の指示に従ってきたのだ。  
女らしいドロドロした立ち回りは、夜空よりもこの二人の方が上手だった。  
 
さり気なく、理科は部室のドアの前に陣取っている。  
そこから逃走するのは不可能のようだ。  
ならば背後に居並ぶ窓のどれか一つから――  
そう考えた星奈は、しかし足腰が立たなくなっている事に気付いた。  
「動け……な……?」  
「あぁ、言い忘れてましたけど。この薬って、強力な興奮剤でもあるんですよね」  
理科が何程の事も無いかのようにさらりと言い放つ。  
「興奮剤!? そんなありきたりなエロ同人みたいな……」  
「直接飲んだ幸村君の性欲増強は勿論、匂いを嗅いだだけの私達も、  
 本能的に男性のアソコに目が釘付けになって仕方ない筈ですよ」  
それは夜空にとって計算外だった。  
だが確かに、幸村の下半身から目が離せないでいるのも事実だ。  
そう言われてみれば、先程躊躇無く幸村のズボンを脱がす事が出来たのも、  
或いは薬の効能にあてられたせいかもしれなかった。  
「ふ、ふふっ……さぁ行け、幸村! 肉を肉奴隷にしてしまえ!  
 それでこそお前は小鷹にまた一歩近づける!」  
「おおせのままに、夜空のおねご」  
「ぎゃああああああああ嫌だぁああああああああっ!!!」  
 
こんなものは、カウントしたくない。  
セックスとしてカウントしたくはない。  
こんなものはファーストキスでは断じてない。  
ファーストキスは小鷹と……と心に決めていたのだから。  
だが現実の問題として、迫り来る幸村の魔手に、星奈は抵抗出来ないでいた。  
「もう……許して……」  
無理矢理剥ぎ取られたわけではないのに、彼女はもう全裸を晒していた。  
幸村はレイプらしからぬ丁寧さで、星奈の服を脱がせていった。  
その間、薬の効能にあてられた星奈は、暴れる事も出来なかった。  
幸村が服を脱がせ易いように、半ば無意識で腰を上げたりした点から見るに、  
我知らず理科の薬のせいで理性が吹き飛びかけていたのかもしれない。  
「まだ唇をうばっただけですよ、星奈のあねご」  
つまり、まだまだこれからだ、という幸村の意思表示だった。  
 
星奈は必死で思考を律しようと努めた。  
相手は女だ、相手は女だと、頑なに自分に言い聞かせる。  
女同士のファーストキスならノーカウントだと、何度も念じる。  
幸村の小さな唇から伸びた冷やかな舌が、  
前歯をこじ開けて絡みついてこようと、  
これは断じてキスではない、と考えた。  
そうだ、相手は女なのだから。  
これから行う事も、セックスではない。レイプではない。  
何しろ、相手は女なのだから。  
 
じゃあ、この興奮は何なの?  
何で女の子相手に、私はこんなに性欲が昂ぶってるの?  
何で私は、この行為を受け入れようとしてるの?  
私は、本当にレズビアンだったの?  
「……あ、自分から舌を絡ませ始めましたよ」  
「もう下半身もビッシャビシャだな。ダムが決壊したかのようだぞ」  
同じく身動きの取れない夜空と理科は、観戦に徹していた。  
幸村はまだそこに指一本すら触れていないのに、星奈のアソコは大洪水だ。  
今の幸村程でないにしろ、勝手に大きくなったクリトリスが、  
さながら洪水の上をたゆたうノアの方舟じみている。  
まだ、服を脱がされて、ディープキスをされただけで、この濡れ具合。  
こんな姿は誰にも、ましてや小鷹には絶対見せられないだろう。  
レイプされたというだけでも、女性としての資産価値は下がる。  
ましてや星奈は抵抗らしい抵抗を試みもせず、  
それどころか秘部をしとどに濡らしている。  
もうこの時点で、彼女は小鷹に思いのたけを打ち明ける資格は奪われていた。  
何と言っても、好きでもない「男」に犯されて感じる、ビッチなのだから。  
 
覆いかぶさる幸村の魔の手は、次にメロンのような乳房に伸びた。  
「さすが星奈のあねごは、みごとな肉をお持ちです」  
細い指が乳房の海に沈むと、星奈は「あっ」と小さく声を上げた。  
いかにも女らしい、可愛らしい嬌声は、幸村の嗜虐芯を煽った。  
この声を、敬愛すべき小鷹の前で歌い上げるつもりだったのだろうか。  
この声を、小鷹にだけ聞かせてあげるつもりだったのだろうか。  
この声を、小鷹以外の「男」に無理矢理引き出されている事は、  
処女にとってさぞかし悔しかろう、と――。  
「星奈のあねご」  
「……な……に?」  
「はさんでください」  
それだけ言うと、幸村は絨毯の上に寝そべる星奈の腹の上に跨った。  
「うっ、重っ……」  
幸村の体重は女子の中でも軽い方だが、上に乗られれば重いのは確かだ。  
赤ん坊ですら決して軽くはないのだから。  
だがそれによって肺が圧迫され、星奈が苦しむのを、幸村は意に介さなかった。  
「はさんでください。あにき以外の、だんしのモノを」  
それはきっと、犯される側にとって受け入れがたいものの筈だった。  
 
だが、星奈は従った。  
スポーツ万能、常から他の女子よりは鍛えられている星奈の体力なら、  
幸村を押しのけて逃げる事も十分に出来た。  
しかし今は薬の効能によって腰に力が入らない状態だ。  
馬乗りになられれば、逃げる術は無い――と、星奈は心の中で言い訳した。  
内心では、幸村の肉棒が欲しくてたまらなくなっていた。  
それもまた、理科の薬の効能だったかもしれない。  
或いは現実を受け入れられない余りに、錯乱気味だったのだろうか。  
はたまた、逆に現実を受け入れようと努力する余り、倒錯していたのか。  
「何、これ……凄く、熱い……」  
星奈はいやに従順に、幸村のモノを自慢のメロンで挟み込んだ。  
大量の血液が流入したクリトリスは、クリトリスと思えない程の熱を孕んでいた。  
「ヤぁあんっ!」  
声を上げたのは、星奈ではなかった。幸村だ。  
セックス時における女性の快感は、男性のそれを遥かに凌ぐ事で有名だ。  
ましてや幸村のペニスは、現実にはペニスではない。クリトリスだ。  
女性の肉体のままで、普通にクリトリスを刺激されるだけでも凄まじい快感なのに、  
ましてや今は巨大化したそれを巨大な乳房に挟まれ、埋め尽くされている。  
もし幸村に射精能力があったなら、これだけで星奈の顔面に  
白濁の汁をぶちまけていたに違いなかった。  
 
それから星奈は、頼まれてもいないのにパイズリを開始した。  
幸村は「はさんで」と言っただけで、まだ「うごかせ」とは言っていない。  
薬のせいで星奈の方も発情を抑えきれなくなっている事は、  
今や否定のしようもなくなっていた。  
「んふっ……じゅくっ……ゆひむらぁ……ひもひイイ……?」  
「ひゃっ、ひゃべらないれ……ひぇなの、あねごぉ……」  
もはや犯されているのがどちらなのか分からなくなるくらい、  
幸村は星奈の体の上で身を捩り続けた。  
命令してもいないのにクリトリスの先端を男根そのもののように咥えられ、  
しゃぶられ、舌を這わせられれば、快感を通り越して地獄のようですらある。  
キュウリのように長くなった幸村のクリトリスは、  
星奈のメロンで覆い尽くしてさえ、まだ先端が楽に覗く程だった。  
この長さなら、パイズリと同時にフェラをするのは造作も無い。  
「ふふ……す、凄いな、これは……」  
夜空は何とか腕をのろのろと動かして、携帯電話から動画を撮影している。  
この動画をネットで拡散するも良し、小鷹に見せつけるも良し。  
いずれにせよ星奈にはもう、この部室に居場所は無くなる。  
邪魔者を排除した暁には、晴れてタカと結ばれ――  
「あ」  
夜空は幸村のあからさまな表情の変化に目を止め、思考を中断させた。  
一瞬置いて、幸村が叫び声を上げる。  
「やめへぇっ! もうイってるからぁ! イってるからぁっ! あねごぉっ!」  
男と違って射精という明確な終了が見えないのが、女の快感だ。  
幸村はクリトリスを刺激され続けて脳天に何かが這い上った事を実感しつつも、  
星奈がしつこくパイズリをし続けたせいで、白目を剥きかけていた。  
 
幸村はとうとう姿勢を維持出来ず、前のめりに倒れた。  
星奈の体の上で、パイズリをしたままでの事だったので、  
まるで星奈の顔面に腹や胸を覆いかぶせるような態勢になる。  
星奈の頭頂部の先で肩肘をつき、もう片手は踏ん張って、  
痙攣を繰り返しながら終わりの見えない責め苦に耐える。  
明るい発色の短い髪が、死にかけの蟻のように小刻みに震えた。  
「うぁ……アッ……あっ、かはっ……も……ヤメ……」  
どちらがレイプされていたのか分からなくなるくらい、  
幸村は悶え続け、星奈はフェラとパイズリをし続けた。  
もし幸村が射精していたなら、星奈も明確なゴールを見出し、  
動きを止めていたかもしれない。  
星奈に引き際が分からなかった事が、幸村の地獄を延長させ続けていた。  
「もう止めてやれ、肉」  
「ふぇえ……?」  
間抜けな声をくぐもらせながら、それでも星奈はフェラを止めない。  
幸村が訴え続けている声も、耳に届いていなかった様子だ。  
「幸村は降参している。休ませてやらんと、壊れてしまうぞ」  
夜空に咎められたものの、まだ舐めたりないとばかりに、  
星奈は名残惜しそうに幸村を解放した。  
幸村の巨大で長大なクリトリスの先端は、星奈の唾液によって愛液のように濡れていた。  
 
幸村が壊れてしまうというのは、言い得て妙だったかもしれない。  
現実問題として、幸村はどこかおかしくなってしまったようだった。  
「もう。そんなに吸っても、出ないものは出ないわよ」  
絨毯の上に全裸のままで腰を下ろしている星奈の太腿の上で、  
幸村は膝枕のような態勢でまどろんでいた。  
膝枕のような態勢で、と言ったのは、厳密には膝枕ではなかったからだ。  
星奈の片腕によって後頭部から抱え込まれ、幸村の首は宙に浮いた格好だった。  
その態勢で、「彼」は赤子のように星奈の乳首を吸っている。  
寝惚けているようにも見えるが、意識はそれなりにあるようだ。  
薬の匂いにあてられた効果は夜空、星奈、理科の中から既に抜けかけており、  
膝枕をしてやるくらいの事なら、もう星奈には出来るようになっていた。  
腰にもある程度力は入るし、幸村の首を抱える程度の事は造作も無い。  
「んじゅ……ちゅっ……」  
こうすれば母乳が出て来ると信じ込んでいるかのように、  
幸村は星奈の乳首を熱心に吸い続けている。  
それは、愛撫や前戯のようなものではない。  
これがセクシャルなものなら、幸村は乳首を吸うだけでなく、  
乳房を揉むとか、乳首を摘まむとか、いくらでも出来た筈だ。  
そうではなく、「彼」はただ母親に甘えるかのように、兎に角乳首を吸い続けた。  
「彼」の家庭環境については推測の域を出ないが、  
幼い頃から「男らしく」あれと教育されてきた環境が、  
母親に甘えるという当たり前の幼児の行いすら「彼」に許さなかったのかもしれない。  
その反動をここで一気に解消したいとばかりに、  
幸村は母性の象徴に甘え続けた。  
 
だが、夜空にとっては面白くない話だ。  
ここで終わられては、いつも通りのただの馬鹿騒ぎの延長で終わる。  
程なくすれば幸村の疑似男体化の効果も切れる。  
星奈は未だに純潔を散らしてはいない。  
夜空は、幸村を焚き付ける事にした。  
「まだまだ温いな、幸村」  
「ふぇ……?」  
「お前は結局、レイプに成功していない。  
 ましてや襲った女に甘えるとは、言語道断だ。  
 小鷹のような立派な性犯罪者になりたいなら、どうすべきか……  
 言わずとも分かっているな?」  
別に小鷹先輩は性犯罪者じゃないですけど、  
という理科のツッコミは聞き流された。  
瞬間、星奈の表情が強張る。  
刹那、幸村の目に獰猛さが戻る。  
狂乱の宴が、突如として部室に戻り始めた。  
 
しかし幸村が標的としたのは、星奈ではなかった。  
「ままま、待って幸村! 私、あなたとは……」  
慌てふためく星奈を余所に、幸村は夜空の方を見つめる。  
夜空はまだ、幸村の思考を読めていない。  
「往生際が悪いぞ、肉。なぁに、そう難しい事ではない。  
 元々貴様はレズなのだから、幸村は女だと思えば、  
 その幸村と交わる事にいささかの抵抗も無いだろう」  
「確かに幸村のモノなら、私、もう受け入れても良いかもって思うけど……  
 じゃなくって! あぁ今の無し! 今のは薬のせいだから!」  
そんな星奈の発言を、夜空は「見苦しい」と一蹴したが、  
幸村にとっては逆に一つの判断材料となった。  
即ち、もう「彼」には、星奈に手を出そうと言うつもりはさらさら無くなっていた。  
「夜空のあねご……」  
「ん?」  
「お覚悟」  
侍は己の下腹部に光る愛刀を正眼に構えたまま、次なる標的に襲いかかった。  
 
薬の効果が切れかけていたのは、匂いを嗅いだ者達だけだ。  
直接服用した幸村のクリトリスはまだ萎む気配は無く、  
一旦は絶頂を迎えた事で落ち着きかけていた性欲も、  
時間が経った事で往時の勢いに立ち返っていた。  
「こら待てっ、幸村!」  
後ずさった夜空スカートを、か細い指が捉える。  
女子の制服を着慣れていない幸村は多少手間取ったものの、  
その割にはやけに速やかにチャックを下ろし、  
夜空にスカートを脱がせる事に成功した。  
「何故だ幸村! 私ではなく肉を犯せば良いだろう!」  
「それではいみがありません、あねご」  
「意味!? 意味とは何だ!」  
「星奈のあねごには、もうレイプはなりたちません。  
 みずからわたくしのモノを舐めてくださったのですから」  
「あ、あれは脅されて従っただけだろうが!」  
「そればかりか、わたくしにオッパイを吸わせてくださいました」  
「それだけで同意が成立したなどとは……」  
「星奈のあねごはいいました。わたくしのモノなら、もう受け入れてももいいと」  
 
今なら、全員の注目が夜空に向かっている。  
多少ほくそ笑んだところで、誰にも見咎められまい。  
理科はひっそりと口角を吊り上げた。  
繰り返すが、この四人の中での、女としての打算、計算の  
能力においての序列は、星奈、夜空、幸村、理科の順だ。  
夜空は実のところ、女としての打算は幸村にもまるで劣る。  
夜空は幸村と星奈の二人を一気に蹴落とすつもりだったが、  
まさか幸村が最初から夜空まで蹴落とすつもりだったとは、  
理科以外は誰も気付いていなかった。  
彼女だけは、最初からここまで読んで、薬品を調達して来ていた。  
「ちょっと考えれば分かる事じゃないですか、馬鹿だなぁ夜空先輩は」  
そう、言ってやりたい気分だった。  
理科はそれを頭の中だけで呟き、頭の中だけで高笑いしていた。  
あたかも突然の幸村の反旗に、慌てふためいている風を装いながら。  
 
薬の匂いの効能が切れている夜空には、  
星奈と違って逃げるだけの体力の余裕があった。  
スカートを剥ぎ取られながらも、何とか幸村の手からすり抜けて、ドアまで走る。  
だがドアノブに手をかけたところで、彼女は立ち止まってしまった。  
今の彼女の下半身は、パンティ一枚しか身に付けていない。  
靴や靴下は穿いているが、そんなものは何の慰めにもならない。  
この格好で外に出れば、いかに髪を切り落として  
美少年のようになったと評判の彼女でさえ、女としての恥辱を曝け出す羽目になる。  
腰を隠すものさえ無いのに、仮に逃げ延びて、どうやって家まで帰れと言うのか。  
それに、今の彼女のパンティは、濡れていた。  
薬の匂いによって情欲を掻き立てられたせいで、愛液が分泌されていた。  
今はもう効能も切れて膣そのものは渇いているが、  
濡れたパンティの方が乾くにはまだまだ時間がかかる。  
この痴態を、衆目に晒す事は出来なかった。  
「ゆ、幸村……」  
返して……。  
そんな言葉が通用する局面と相手でない事は、もう分かり切っていた。  
 
「やめてっ! お願いだから! 幸村ぁっ!」  
夜空は部室のテーブルの上に両手をつき、尻を幸村に突き出していた。  
何とかしてスカートを奪還しようと試みたものの、  
幸村の手が固くそれを握りしめたままでは、奪い返せる道理は無かった。  
いつもの詐欺紛いの論述が通じるわけもない。  
彼女が何を言っても、幸村は聞く耳を持たなかった。  
それに、星奈と理科が幸村に手を貸した。  
「この裏切り者ぉっ!」  
「いつから理科達が先輩の仲間になってたんですか」  
かつて小鷹に向かって「もう友達じゃないですか」と言った事もどこ吹く風、  
理科はこの部の発起人に冷たい一言を言い放った。  
「先に裏切ったのはアンタの方でしょ」  
夜空の姦計のせいで一時は処女膜を破られかけていた星奈は、  
今更その夜空に対して救いの手を差し伸べるつもりなど無かった。  
彼女ら二人の手によって、夜空は簡単に壁際に追い込まれ、  
ついで無理矢理テーブルの前まで手を引かれてきた。  
 
「それじゃ幸村、思い切りやっちゃいなさいな」  
「好きなだけ夜空先輩の体を楽しんで下さい」  
処刑を促す星奈と理科。  
懇願するような目で背後の幸村を振り返った夜空は、  
いつしか頬を赤く泣き腫らしていた。  
だが、幸村は首を振る。  
「いいえ、おふたかた。そういうわけにはまりません」  
一瞬、夜空の顔に希望の色が戻る。  
やはり従順なメイドにして、今は執事でもある幸村は、  
いざとなったら雇い主を裏切るような真似は出来ないと言う事か。  
――そう、思った夜空の耳に、最も残酷な一言がつきつけられた。  
「夜空のあねごのからだを、すきなだけ楽しむなどと。  
 それでは真のレイプにはなりえません」  
「……と言うと?」  
先を促す理科ですら予想出来なかった言葉を、幸村は吐いた。  
「夜空のあねごに快感などあたえるつもりはありません。  
 星奈のあねごの時もそうでしたが、女人は胸をさわられると、  
 ほんにんの意思とは無関係にあえぎごえを漏らしてしまうかのうせいがあります」  
「……つまり?」  
「つまりわたくしは、夜空のあねごの、アソコだけをたのしませてもらいます。  
 けっして他のぶぶんをせめたてることはしません。  
 夜空のあねごには快感ではなく、いたみだけを受けていただきます」  
夜空の顔が引きつったのは、言うまでもない。  
「ひっ……や、ヤダよぉ……たすけて、タカっ……」  
「夜空のあねごの体から、くすりの効果がぬけたのはさいわいです。  
 星奈のあねごのように快楽をかんじるしんぱいが、ありませんので」  
「イヤだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」  
 
右から星奈、左から理科に体を押さえ付けられ、  
夜空は抵抗らしい抵抗をする事が出来なかった。  
その彼女のヴァギナからは、破瓜の証が滴となって零れ落ちている。  
それは、彼女の涙のようでもあった。  
「ぐっ……はぅ……んいっ……いたっ……」  
予告通り、前戯は一切無かった。  
多少は胸を弄られたり、手マンでもされていたならば、  
少しは愛液を湿らせて膣を解しておく事も出来たかもしれない。  
それさえ許される事なく、夜空は渇ききった己の秘穴に、  
力技で幸村の刃を貫通させられた。  
「こんっ……なの……って……無い……よぉっ……」  
咽び泣きながら、夜空は取り返しのつかない事態に絶望していた。  
処女を奪われたどころの話ではない。  
間違いなく内壁が裂けているとしか思えない痛みが実感出来る。  
上半身はワイシャツとブレザーを羽織ったままで、下半身だけが剥き出しだ。  
脱がされたパンティは、完全に足首を通すのまでは流石に面倒だったと見えて、  
今も彼女の左足首に引っかけられたままだ。  
 
せめて、前戯さえしてくれていたなら。  
生娘の膣がそれで確実に濡れたとは言い切れないが、  
それでもまだ、今より痛くない可能性はあった。  
膣以外の全てが綺麗なままだと言うのに、痛みは普通のレイプ以上だ。  
レイプの中でも、最も無残なレイプだと思えた。  
無理矢理口内射精されたり、乳首を舌と唾液で汚されるのでも、  
まだこのレイプよりはマシなんじゃないかと思える。  
所詮は肥大化しただけの、ただのクリトリスなのだから、射精は有り得ない。  
妊娠の危険性は皆無だが、それでも、だからマシだなどとは思えない。  
これはもはや強姦ではなく、暴力に近かった。  
快楽など少しも無く、痛みと出血だけが伴う。  
「あぁぁあぁ、すごい、すごいですぅ! すごくきもちいいですコレぇっ!」  
夜空の尻に乱暴に腰を打ちつけ、バン、バンと肉の音を響かせて、  
男根そのままの硬さとサイズを維持したままのクリトリスを出し入れしながら、  
幸村はいつもの静かな口調をかなぐり捨て、享楽に喘いでいた。  
クリトリスを膣で締め付けるのだから、その快感は男性はおろか、  
女性にすら想像出来ない次元の高みにあった事だろう。  
 
「あハぁっ! 夜空っ……! よぞらぁっ! 良いよぉんっ!」  
もはや幸村は、夜空を「あねご」とは呼ばなくなっていた。  
「あねご」と呼ぶ事は、相手に対する敬意を意味する。  
レイプの実行においてそれは不要な概念だ。  
世の中のレイプの大半は知人による犯行と言われている。  
つまり、恋い慕うあまりに強行に及んでしまうという事でもあるのだが、  
幸村の場合はそうであってはならない。  
夜空に対する敬愛の念からの犯行ではなく、  
完全な敵意と、後はただ己の快楽の為の犯行でなければならない。  
そうでなければ、前戯すら飛ばした事の意味合いが薄れる。  
感極まったこんな状況でも、心の隅ではそんな計算を働かせる辺り、  
星奈や夜空には間違っても出来ない芸当だ。  
もののふとやらを目指す日々の心意気は、伊達ではなかったと言う事か。  
だが表情は美女のままで、アヘ顔で夜空の後頭部を見つめている。  
舌を軽く唇からはみ出させ、涎が顎の上を垂れていき、  
乳首は可愛らしく尖って自己主張している。  
「よぞらぁっ! よぞらぁんっ! あ、あぁっ、よっ、ふぁああぁあんっ!!」  
最後の一瞬、まるで射精したかのようにビクビクと体を震わせて、  
幸村は絶頂を迎えた。  
それでも夜空は最後まで快感など微塵も得る事無く、  
くしゃくしゃになった顔を涙と鼻水で汚して荒い呼吸を繰り返していた。  
 
 
もうじき下校時刻と言うのに、宴はまだまだ終わる気配を見せなかった。  
「大好きだよ夜空……もう私、小鷹なんかいらないから……  
 だから私の事、ちゃんと星奈って呼んで……?」  
「ん……肉……」  
「駄目だってばぁ。ねぇ夜空、私と付き合おうよ。  
 そうだ、うちに住んだら良いのよ。そんで毎日理科の薬でセックスしよ?  
 おっぱい沢山吸わせてあげるし、代わりばんこで犯しあお?」  
「馬鹿を……言うな……気色悪い……」  
幸村へのパイズリとフェラで、星奈の中の何か変なスイッチが入ってしまったらしい。  
ご指摘通り、彼女の中にはレズビアンの気質があったと言えるだろう。  
星奈は手始めに、幸村に飲ませたものと同じ薬液を、理科に所望した。  
理由は二つある。  
一つは、激痛に喘ぐ夜空を救い出してやりたかったから。  
あの理科特製の薬品の匂いを嗅げば、官能が痛みを凌駕してくれるからだ。  
そしてもう一つは、それを飲んだ自らの体に、  
幸村と同じように紛い物の男根を生やす為だった。  
 
夜空にとっては小鷹が何よりも大切な存在だったが、  
星奈にとってはそうではなかった。  
彼女にとっては小鷹と同じくらい、夜空の存在が大切になっていた。  
その事を彼女が自覚したのは、つい先程の事だが。  
「小鷹の事は諦めようよ、夜空。もうどうせアンタ汚されちゃったんだし。  
 でも私はアンタが汚れてても気にしないよ?  
 むしろ女友達と恋人と、一挙に手に入れられて、清々しい気分」  
「誰が……貴様の友達か……貴様の恋人か……」  
口では反論を試みるが、夜空は半ば呆然自失のていだ。  
無理矢理嗅がされた薬液によって体から力が抜け、  
感じたくもない快楽を強制的に植え付けられた彼女は、  
星奈の肥大化したクリトリスを、血に塗れた膣に突っ込まれていた。  
彼女は密かに、転校を決意していた。  
もう小鷹には顔を合わせられない。  
星奈を筆頭に、こんな危険な部員達とも会いたくない。  
幸村の、そして理科の思惑通り、彼女は陥落してしまった。  
 
では他方、幸村が大願を成就出来るかと言えば、それも不可能だ。  
理科は幸村の弱点を熟知していた。  
「どうしたんですかぁ、幸村君? 私もレイプするんじゃなかったんですか?」  
「ヒッ、ひあぁっ! も、やめへっ! おねがいらからっ……!」  
星奈を同性愛の虜に落とし、夜空を撃墜した幸村は、  
最後に残った理科をもレイプするつもりでいた。  
男らしくレイプを完遂する事で、男として小鷹に近付けるつもりでいた。  
だがこの期に及んで、「彼」は……いや「彼女」は、  
自分が悉く女であったという事実を突き付けられていた。  
幸村の下半身から生えた強直は、あくまでクリトリスであって、ペニスではない。  
そこを凄まじいスピードで扱かれれば、快感は男性の比ではない。  
理科すらもその毒牙にかけようとしていた「彼女」の目論見は、  
ただ手コキされるという、それだけの反撃でいとも容易く崩れ去った。  
全身に電流が走り、思うように動く事が出来ない。  
今や彼女は、起き上がる事すら許されず、  
ただ絨毯の上で理科にシゴかれ続けるだけとなっていた。  
 
やはり理科が最も知略に長けている事は、再確認するまでもない。  
仮に自分が幸村に手を出されかけようとも、  
ちょっとクリトリスを片手で握りこんで摩擦してやるだけで、  
簡単にその動きを封じる事が出来る。  
理科は一番最初に、幸村の性転換を夜空に打診された時から、  
既にここまで計算し尽くしていた。  
彼女の技術なら本当に幸村に男根を後付する事も不可能ではなかった。  
だがペニスは、クリトリスに比べれば快感が強くない。  
手コキした程度では、幸村は止まらなかっただろう。  
本物のペニスなど幸村に与えてしまえば、幸村の暴走を抑える事は出来なくなる。  
星奈と夜空を蹴落とした上で、自分だけは被害を一切受けない算段が、  
当初から彼女の中には在った。  
「星奈先輩はレズに覚醒、夜空先輩は脱落。  
 幸村君もこうなっては小鷹先輩からは見向きもされなくなりますし、  
 理科の一人勝ちといったところですね。  
 念の為小鳩ちゃんとマリアちゃんと、ついでにケイト先生も  
 その内潰しておきましょうかねぇ……」  
幸村がクタクタに疲れて立てなくなるか、さもなくば下校時刻になるか。  
兎も角それまで手コキを続けていれば不戦勝出来るのだから、  
理科にとってはこんなに楽な事は無かった。  
何故、こんな簡単な反撃で幸村を無力化出来る事に、  
星奈も夜空も気付けなかったのだろうか。  
体を押さえ付けられていた夜空は兎も角、星奈なら反撃の隙はあったのに。  
パイズリだけで幸村を腰砕けに出来たのだから、  
その事実を鑑みれば、幸村の弱点などすぐに分かった事だろうに。  
あろう事か彼女は、幸村に犯される事を受け入れかけてさえ居た。  
「オツムの足りない人達ばかり……はぁ」  
最後の勝利者である理科は、暮れ沈む夕映えの光を背に、  
下卑た微笑みを浮かべていた。  
 
 
 
「……一体どんな夢見てんだろうな」  
遅れてやって来た小鷹は、ソファの上で眠りこける幸村の顔と、  
何食わぬ顔で同人誌を読み続ける理科の顔とを引き比べていた。  
夜空はいつも通り読書に勤しみ、星奈は相変わらずギャルゲーに夢中。  
「理科、幸村に一体何を飲ませたんだ?」  
理科は薄い本から目を上げると、事もなげに答えた。  
「ただの睡眠導入剤ですよ。他にいろいろ調合してるんで、  
 今頃は淫夢に取りつかれてると思いますけど」  
「淫夢って……お前、何でそんなものを」  
「小鷹先輩との濃厚なセックスの夢を毎晩見る為に、密かに開発してたんです。  
 お陰で毎朝快適な目覚めですよ、理科は」  
こんな怪しげな薬を毎晩服用していたのかと、小鷹は呆れかえった。  
 
「幸村がいきなり倒れた時は肝を冷やしたものだが。  
 いつになったら目覚めるんだ? 本当に眠っているだけなのか?」  
「それは確かですよ、夜空先輩。  
 目が覚めれば副作用は一切無い事は、私の体で人体実験済みです。  
 ただ、寝ている間は、本人の望み通りの夢を見ていられるだけです」  
「望み通りの夢、ね……」  
幸せそうに緩みきった寝顔をしていたと思えば、  
逆に今は苦しそうに身悶えて「やめて……お願い……」と呻いている。  
こんな状態の幸村を見せ付けられれば、彼女の望む夢と言うのが、  
どんなものかはあまり想像したくない。  
しかも途中何度か「まだ唇をうばっただけですよ、星奈のあねご」だの、  
「よぞらぁっ! よぞらぁんっ!」だのといった不穏当な寝言を口走っている。  
しかしこれも理科に言わせれば、本人の望む事柄を、  
本人が望む以上に暴走的に増大させた結果らしい。  
つまり、普段の幸村は決してここまで強い願望を抱いていないという事だ。  
「多分、小鷹先輩に認められたいという願望が、  
 薬のせいで余計な枝葉までつけて成長しちゃってるんでしょうね。  
 私だって夢の中では小鷹先輩をシチューにして食べた事ありますけど、  
 普段からそこまでやりたいと思ってるわけじゃありませんから」  
さらっと物騒な事を言われて小鷹は戦慄したが、  
理科曰くそれは薬の効果のせいらしいので、聞かなかった事にする。  
ひょっとすると理科なら本当に普段からそんな事を考えてそうだったが。  
 
 
 
はい終了。  
 

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