『特別な君へ』  
 
 今日も理科は絶好調だった。夜空にちょっかいをかけ、そして罵倒され、俺と幸村を交互に眺めたかと思うと  
「今日は小鷹先輩が攻めな気分です……! ようしのってきましたよぉ!」  
とパソコンを立ち上げ何やら打ち込みだし、  
「小鷹先輩が……幸村くんが……そして小鷹先輩が理科が……理科が?」  
と謎の言動をしたかと思えばぽーっとあらぬ方向を見ていたり。  
 まあ、一般人がこのような行動を取ったら認知症の疑いすらもたれてしまうが、理科だから「まあ理科だな」で済まされていた。  
こいつを見ていたら馬鹿と天才は紙一重という言葉が常々思い出される。  
 そしていつも通りの理科のように帰っていった……と思っていたが、どうやら違っていたらしい。  
あいつは、俺の靴箱にメモを残していったのだ。  
 見つけられたのはたまたま手が当たったからに他ならなく、おそらく手が当たらなければそのまま放置していただろう。それくらい小さなメモで、見つけてほしいのかほしくないのか分からなかった。  
 そこに書かれていたのは、ただ一文。  
「あしたの放課後、理科室にきてください」  
 女の子らしいまるまるっちい字で、あいつでもこんな字を書くのかと感動のような納得のような不思議な気分になったことを覚えている。  
 
 そして、翌日。  
 俺は授業をそれなりに真面目に受け、一緒に部活に行こうと言う夜空に  
「悪い、先行っといてくれ」  
と言付け、そして理科が待つのであろう理科室へと向かった。  
 ここで夜空に、理科に呼ばれているということを伝えていたら、おそらく夜空も何があるのかとついてきただろう。  
けれど、俺はそれをしなかった。何を思っていたのかは、よく分からない。  
覚えていないわけでもなくて、多分『なんとなく』というやつだ。  
 そして、俺は今理科室の扉の前に立っている。  
 
 一つ息を吐いて、二つノックをする。  
別にここには知らない人も誰もいなくて、緊張する要素は一つもないのに、何故か少し息がし辛い。  
あまり来ない場所だからか?  
「小鷹先輩ですかー?」  
「ああ、そうだよ」  
「どうぞ入ってくださーい」  
 言われたとおりにドアを開き、中に入る。  
 一番前の一番大きい机、おそらく理科の定位置なのであろう主に教師が使う教卓と黒板の間に、理科は座っていた。  
 そこまで歩み寄ると、理科は少し慌てて  
「あっ、小鷹先輩、こっち来てください」  
と言って、ポニーテールをふりふり揺らしながら黒板脇の扉の方へかけていった。  
「そこってどこへの扉なんだ?」  
「準備室です!」  
 理科室には理科準備室までついているらしい。元は資料室だったはずなのだが、壁をつけたのだろうか。  
もしかして、普通の教室よりも狭いのはそのせいか?  
 しかし理科室が理科のための部屋だということを知っている今、理科準備室と聞くと理科が何の準備をするのだろうと思ってしまうな。  
 部屋に入り、二人して立ったまま口ごもる。準備室には椅子がなかったのだ。  
 そして理科準備室には様々な薬品やらよく分からない基盤やら同人誌やらがおいてあった。最後のは確実に要らないだろ。  
「ああ、先輩に理科の部屋の中見られちゃってる……。ャ、先輩そんなにじろじろ見ないでぇ……」  
「はいはい」  
 どこにいても理科は理科なのだと再認識した。このモードになると理科はとたんに残念になる。  
ああ、見た目だけは…………。見た目だけはストライクなのになぁ……。  
 理科は恥ずかしそうに手で顔をおおっていやんいやんと言いながら悶えている。  
「何の用件なんだ、こんな所に呼び出して。話なら部室でもできるだろう?」  
「部室じゃ、他の人がいる場所じゃできないお話なのです……」  
 
 声をかけると、理科は一瞬で落ち着いて返答してきた。変わり身早いな。  
 理科は俺を見据えると、いつもとは違った、真面目そうな雰囲気で語り始めた。自然、俺もその話をまともに聞く。  
「小鷹先輩は、理科にとってとても特別な人なんです。  
先輩がいなければ、隣人部で皆さんと仲良くすることもなかったし、誰かと放課後ゲームすることもなかったし、海へ行くことも、試験のお疲れ様会なんてすることもありませんでした」  
「……、まあ、そうだろうな」  
 実際、俺らと隣人部で遊んでいなければ理科は未だ一人理科室で実験していただろうと容易に予測がつく。  
「だけど、それって、俺だけが特別ってわけじゃないだろう? それに、仲良くするって言っても友達ってわけじゃ……」  
「何言ってるんですか。放課後集まっておしゃべりして、たまに校外で遊んで、そんな関係を友達と言わなかったら、どんな人を友達と言えるんですか」  
「そうなのか?」  
 意外な言葉だった。友達は少ない……どころか、『ソラ』を除けば一人もいないんじゃないかと思っていたが、そうか……俺にも、友達はいるんだな。  
「そうです。それに…………小鷹先輩は、特別なんです」  
 また、その言葉を続ける理科。俺には未だにその意味が分からない。  
「理科を人と触れ合わせてくれたことだけじゃなくて……理科室登校なんて言った私を変な目で見なかったし、………………変態なことを知った後でも理科のこと、かわいいって言ってくれたし……」  
 かわいい? と首を捻ったものの、おそらく『ホモゲ部』をやる前のやりとりのことだろうと見当をつける。確かに、似たようなことを言った。  
「理科にとって先輩は、すごい特別な人なんです。だから、逆に聞いてもいいですか?」  
「なんだ?」  
「先輩にとって特別な人って、誰ですか?」  
 特別な人。そう聞かれて、真っ先に思い浮かんだのは家族の顔だった。親父、小鳩、そしてもういない母さん。それから、隣人部のみんな。そのあとに少しだけ、ケイトと天馬さん、ステラさんの顔も。  
 ただ、理科が言っていることはそういうことじゃないのだろう。  
 だけどそれでも。俺はこう言いたいんだ。  
「俺にとって、俺の外見だけで引かないで接してくれるみんなが特別だよ」  
 これは、俺の紛れもない本音だ。今思い浮かべたみんなは、俺のことを見た目で判断せず、普通に接してくれる。それだけで、俺にとっては十分すぎるくらいに特別な人間なんだ。  
 
「そう……ですか。はは、やっぱり小鷹先輩は小鷹先輩ですね。搦め手も迂遠な表現も全く通じないと。これは直接言うしかないんですかね……」  
 理科は、俺の言葉を聞いたあと笑っているような泣きそうなような微妙な表情をし、それからキッと俺の目を見た。  
「先輩。そのみんなの中には、理科も含まれてるんですよね?」  
「ああ」  
「じゃあ先輩。理科が言いたいのはこういうことです。先輩の中での理科の『特別』を、もう一段階上に上げてください」  
「へ?」  
 言っていることがよく分からない。つまり、どうしろと?  
 俺の思っていることが顔に出たのだろう。理科は軽く涙目になった。いや、本気で分からないものは分からないんだけれどな?  
 しかし、罪悪感は沸いてくる。いくら理科でも女の子は女の子。その泣き顔なんて見たくはない。しかしどうすればいいのか。  
そんなことも分からずおろおろしていると、理科が少しためらったあと投げ放つように叫んだ。  
「理科は…………理科は先輩のことが好きなんです! 先輩に理科のことを好きになってほしいんです!」  
 
 俺は、情けないことにすぐには何も言えなかった。  
驚いたということもあるし、初めてのことなので戸惑っているということもある。  
友達もいなかったのに、告白などされたこともない。  
 そんな俺に業を煮やしたのか、理科は俺に飛び込むように抱きついてきた。  
こけないようにしっかりふんばり、理科を地面に落として怪我させないようにその体を抱きかかえる。  
いつもいつもはしゃいだような行動をしてばかりのその体は、意外なほどに細く小さく、そしてやわらかかった。  
「先輩…………」  
 俺の胸の中から、理科が上目遣いでこちらを見てくる。  
潤んだその瞳を前に動けなくなった俺は、だからその顔が少しずつ俺の顔に迫っていることに気付いても動けなかった。  
 ……動かなかった、というのが正しいのかもしれない。俺が抱きかかえている腕を緩めなければ、そもそも理科は動けないはずなのだから。  
「ん……」  
 俺に向かって顔を近づけながら、理科が悩ましげな吐息をあげ目を閉じた。そのポーズはどこからどう見ても、キスを待つ女の子で。  
 思わず。  
 その唇に、自分の唇を重ねてしまった。  
 
「ん……!」  
 少しして、唇を離す。理科が驚きに目を見開いて、そして信じられないというような顔をした。  
「夢みたいです……」  
 さっきまでつながりあっていた唇に指を当て、呆けたように呟く理科を見て、俺はその左頬に右手を添え、もう一度、今度ははっきりした自分の意思で理科にキスをする。  
今度は、さっきよりも少し長く。途中で、呼吸が辛くなったのか理科が鼻で息をして、それがまた妙に生々しさを感じさせた。  
 ゆっくりと、二人の顔が離れる。  
「これは、先輩が理科の彼氏になってくれるっていう意思表示ですよね?」  
「……ああ、そうなるんだろうな」  
 息を整えながら、理科がにやりと笑って聞いてくる。……笑い方が若干、夜空に似てきている。人はやはり身近な人に影響されるものなのだな。  
「んふふ……」  
 その笑い方に邪悪なものを感じ、少し後退したが甘かった。  
 さっきよりも勢いよく、しかも俺を転ばせようとして理科がタックルを仕掛けてきたのだ。たまらず俺はしりもちをついて倒れる。  
「おい、理科!」  
 そこからは目にも留まらぬ早業だった。理科は丁度顔の位置に来ていたベルトを外し、チャックを開けそして俺の……なんだ、アレを外気にさらしやがったのだ。  
行為に移るのもその行為自体も早すぎる。  
「うわ……生で見るの、初めてです……」  
 理科がごくりとつばを飲む。これから何をしようとしているのか分からないほど初心ではないし、それに恥ずかしいがやめてほしいと思うほど枯れているわけではない。  
結局、俺はまな板の上の鯉を演じることにした。  
 理科は意を決して、そろそろと俺のモノを右手で握ってきた。やわらかい手のひらが、棒の部分を握る。  
 ベルトを外されて以降、半ばまで屹立していたそれは、理科が握って、恐る恐る上下に揉むような動きをしてくることで完全に立ち上がった。  
「きもちいいですか……?」  
「ああ……。理科の手、すごくやわらかいな……」  
「よかったです……」  
 しかし、やわやわと刺激を加えられる程度でこらえ切れなくなるほどではない。それを理科も察したのか、上下運動のスピードが徐々に早くなっていった。  
 
 しかし、まあ、なんだ。  
 自分でリズムをつかめないから不意に襲う感覚が背筋を通り抜けるとはいえ、ほぼ単調に上下させられるだけではそう刺激が強いわけでもない。  
 俺の表情を見て、先ほどから一定の硬度を保っているそれをじーっと見て、理科はもごもごと口を動かした。  
 そして、べーっと赤い舌を出すと、その先端から白いような透明なような液体が俺のモノに垂らされていく。  
 ……ぬるぬるして気持ちいい。  
 それをにちゃにちゃといじりながら、理科はまたあくどい笑みを浮かべた。  
「おい……まさか、」  
「先輩……、こういうのも、期待してるでしょ?」  
「うあっ!」  
 そう言って、理科は俺のモノの先端をくわえた。そのまま、顔を上下に動かす。  
 熱い熱い理科の口内で、これまた熱い舌が俺のモノを蹂躙していく。  
 左右にねじったり、裏筋を舐め上げたりするその動きに、俺はとうとう降伏宣言をあげた。  
「……ッ、理科っ、もう……もう出るっ!」  
 しかし、理科はその口を離してはくれない。  
「ひーへふよ。ほほはははひへふははひ」  
 しゃべりながら動かされたその口の中で、俺は勢いよく果てた。  
「口に入れたまましゃべんなっ! …………あ、ああぁぁぁあああっ!」  
「んっ、んむっ! んんんんんんッ!」  
 理科は涙目になりながらも口内でそれを受け止めている。飲み込もうとして、少しむせていた。  
「大丈夫か?」  
「んむ……ちゅ、ん……ぷは、だいじょぶ、です」  
 指でこぼれた分を掬い取り、口の中に入れ全部を飲み込んで、理科が答える。  
「ほんとに、ねばっこいんですね……。でも、思ってたより苦くないです。むしろ、小鷹先輩のだと思うとおいしいです」  
「ばかいえ」  
 俺はそういうと立ち上がって、身だしなみを整えようとした。が、理科に止められた。  
「先輩…………まさか、これだけで終わりだなんて思ってないですよね?」  
 胸元のタイに手をかけ、引き抜きながら理科が言ってくる。  
「いやでも……、夜空たちが待ってるかもしれないし……」  
「先輩は、理科にあんなことまでしておいて、このまま帰るんですか?」  
 上から順に、ぷちぷちとワイシャツのボタンが外されていく。  
 ポニーテールをくくっているシュシュと同じ色の下着が見えたところで、俺は慌ててそっぽを向いた。  
 
「分かった、分かったから! だから服を脱ぐのをやめろ!」  
「さっきはあんなことまでしたのにここで恥ずかしがるのはどうなんですか」  
「いいから!」  
「脱がせたい人ですか?」  
「いっかい黙れ!」  
 静寂が支配する。俺は覚悟を決めて、ついでに抑えてはいるが色々な欲望を止められそうもないので口を開いた。  
「分かったから……どうするんだ?」  
 実は、俺はあまりそういう知識を持っていない。  
 いや流石にどういう行為をしてとかは分かるのだが、学校でエロい話題で盛り上がれる友達もいなかったし、  
 家では本を読んだり家事をしたりするのに忙しかったから  
 そういうことに興味がなかったわけではないものの手順とかそういうことに関してはさっぱり知らないのだ。  
「まずは脱ぎましょう。話はそれからです」  
「ああ……」  
 俺はその言葉に従い後ろを向いて服を脱ぎ始めた。背中の方から衣擦れの音が聞こえてきて、さらにズボンが脱ぎにくくなった。  
「先輩、ポニーテールのままがいいですか? それとも下ろしましょうか」  
「好きにしてくれ」  
 もうほんと、それしか言いようがない。俺はこの髪型が好き、などといった嗜好を特には持っていないのだ。  
「眼鏡はどうします?」  
「外しといた方が、怪我とかしなくて済むんじゃないか?」  
「じゃあ外します」  
 しばし、無言の時間が訪れる。俺は全ての衣服を脱ぎ去り、若干恥ずかしさを覚えながら理科に尋ねた。  
「もういいか……?」  
「いいですよ」  
 その言葉を受けて振り返る。  
 
 ………………………………。  
「お前、それは反則じゃないのか?」  
「ふふふ、分かってないですね先輩」  
 理科は白衣のみを着ていた。白衣のみといっても、その丈は制服のスカートより少し上くらい。  
 白衣の前のボタンを留めている現在、いつもの制服とあまり変わらない露出度だった。  
 ちなみに眼鏡はなく、髪型はいつぞやのようにおろしてストレートにしている。  
「これはですね、見えないからこそ見たくなるという人間の性質を利用しているんです。小鷹先輩も理科に釘付けでしょう?」  
 白衣のボタンをゆっくりと外しながら理科が言う。俺はその動作をつい見つめてしまっていた。  
「…………確かに!」  
 さっきからずっと理科を凝視しっぱなしな気がする。なるほど、これが半脱ぎの効果か……! なかなかの策士だぜ志熊理科……!  
 白衣のボタンが全て外されるまで、俺は理科の体を凝視していた。  
 白く細い裸身が露わになっていくその光景は、淫靡でありながらどこか神聖ですらあった。  
「先輩、襲ってこないんなら…………こっちから襲っちゃいますよ?」  
 理科はそう宣言した後、また俺を押し倒してきた。…………押し倒されすぎじゃないか、俺。  
 いやでもこれはこれで理科が抱きついてくれると、やわらかい体がむにっと当たって嬉しいし。  
 …………なんだか俺も、少しずつ変態への道を歩み始めている気がする。  
 白衣の前が全開で、肩や腕は隠れているのに大事な部分は一切隠れていなかった。それがまた、俺の興奮をそそる。  
 肘に体重をかけ、少し起き上がった仰向けのまま、理科のするままにまかせる。  
 理科は、俺のモノの上にまたがって、入り口と先端を合わせようとしていた。  
「先輩……行きますよ?」  
 そして、理科が一気に腰を下ろした。暖かく包まれていく感触。そして、何かを割り開くような感触も。  
 やっぱりというかなんというか、理科も初めてだったようだ。  
 …………ここは俺がリードしてやらなければいけなかったんだろうが、つい流されてしまった。  
 理科は目に涙を浮かべながら、それでも上下に動こうとし始めた。慌ててその体を掴み、胸に抱いて動きを止める。  
「や、先輩…これじゃ動けないですよ……」  
「痛いんだろ。無理すんなって」  
「でも……」  
「でもじゃない。っていうか、お前は俺が痛がる女の子を無理やり動かして素直に気持ちよくなれるような人間だと思ってるのか?」  
「自分が気持ちよくなりたいだけじゃないですか……」  
「そうだよ。だから今お前が動かなくてもいいんだ」  
「……分かりましたよ」  
 胸の中で、理科が俺に体重を預けてくる。それはとても心地よい重みだった。  
 
 ねえねえ、と理科が呼びかけてくる。  
「小鷹先輩って、普段エッチなこととか考えるんですか?」  
「……いや、あんまり。家事とか勉強とかあるし」  
「じゃあ、私とこうしているときは、えっちなこと考えてくださいね?」  
「そんなもん、考えずにはいられねえよ」  
「……あは、そうですよねー。こんな美少女が半裸で抱きついてるんですもんねー。しかも、その……入ってるし」  
「なんだ、もう動いても大丈夫なんだな?」  
「いや、ちょっとまだですよ!」  
 流石にまだ痛いのか、ぎゅうっとしがみついてくる。しばらくは無言のまま、白衣越しにその背中を撫でていた。  
「なんかこのまま眠れそうなくらいいい気分ですね……」  
 そんな風にとろけきってしまいそうなくらいにほのぼのした理科の顔を見ていると、心の奥の方から『理科をいじめたい』という気持ちが湧き上がってきた。  
 ……自覚していなかっただけで、俺はサディストだったのか?  
 しかし、この理科が俺にしがみついた状態では理科が動くことはないだろう。  
 現に今も健全な方向で気持ちよさそうに目を閉じて、まるで日に当たっている猫のように、ごろごろとゆったり左右へ転がっている。  
 このままだと本気で寝かねない。どうしようか……。  
 ……ああそうか、俺が動かせばいいんだな。単純な事実に気付き、行動を開始する。  
 理科の腰を掴み、少しだけ宙に浮いた状態で固定する。胸の中から「小鷹先輩?」と聞いてくる理科を無視して、俺はその最奥を目指して律動を開始した。  
「ぇ…やぁっ、先輩っ! そんないきなりぃっ!!」  
「っは、いきなり…どうしたんだ?」  
「いきなりそんな突かれたら…私……壊れちゃいますぅ!!」  
「なんだ、そんなに気持ちいいのか?」  
「そ、そんなことないですよ……?」  
 どうやら図星だったらしい。ゆったりと左右に動いていたときに、どんどん高まっていたのかもな。あれはゆっくりナカを擦り付けていたのかもしれない。  
 なぜだか先ほどから理科をいじめたくて仕方が無い。理科がマゾだって言うから俺の中のサドな部分が目覚めたのだろうか。そういうことにしておこう。  
「さっきまで痛がってたのに、理科ってばとんだ淫乱だな」  
「や、やぁっ……違うのぉ…淫乱じゃないのぉ…」  
「言い訳すんなよ。ほら、言ってみろ。理科は無理矢理犯されて興奮する、とんでもないマゾヒストの淫乱だってな」  
「んやぁ…ちがっ、違うのぉ……理科はぁ……」  
「マゾヒストじゃないなら、なんなんだ? 無理矢理腰を掴まれて犯されておきながら気持ちよくなるなんて、マゾヒスト以外の何者でもないぞ?」  
「……理科はそんなのじゃ……あんっ」  
 
 理科がいい加減否定してうるさいので、腰を掴んでいた左手を離して、俺のモノが出入りしている理科の秘裂の、その上に位置する菊座に指の腹を当てた。  
「やだぁ……先輩…そっちは、ひんっ……ち、ちがいますよ……」  
「何が違うんだ?」  
 言葉を交わす間も、指の腹はそのすぼまりを押し広げるように動き、時にそのひだに爪をかけた。  
 その度に、理科は体を縮め、何かをやり過ごすようにびくっと震えた。  
 快感を、やりすごすために。  
「嫌なんだろ? じゃあ、なんでそんなに気持ちよさそうなんだ?」  
「…………あぅぅ」  
「嫌がることを無理矢理されて気持ちいいなんて、マゾヒストの証だろ」  
 その言葉とともに、じわじわと周辺を弄くりその穴を慣らしていた指を一気に突き入れた。ずぷっ、と卑猥な音が響く。  
「あっ、やぁぁぁっ……! だめぇ、ひやぁぁっ!!」  
 悲鳴のような嬌声をあげながら、理科がびくびくと体を震わす。  
 唐突な刺激に驚いたのか、理科は全力で走った後のようにはっはっと弱弱しく息を吐き出しながら、俺にぎゅうっとしがみついてきた。  
 両足もまたがったままの俺の体を締め付けてくる。  
 さらに、体の震えに連動するかのようにその膣肉も痙攣して、入ったままの俺の分身を何度も何度も搾り取るように締め上げてきた。  
 これは……まさか、理科の奴、本気でイっちゃったのか……。  
「………っは、はっ……はぁぁ……」  
 快感の波が通り過ぎたのか、理科がゆっくり息を整える。理科が完全に落ち着く前に、俺は再度理科に呼びかけた。  
「もういい加減、認めちまえよ。いつもは自分で言ってることだろ? 理科は、ドMだ、ってな」  
「…………はぃぃ、りかは、ドMですぅ…」  
 いい感じに頭がぼんやりしているようだ。そのまま続ける。  
「理科は、もっといじめられたいんだよな?」  
「はぃ…………って、え?」  
 気付いたようだが、もう遅い。既に言質はとった。  
「……じゃあ、たっぷりいじめてやるよ!!」  
 腰を上げて、理科の最奥に俺の分身を届かせる。  
 そしてそのまま、一番奥を何度も何度も突き上げるようにして、俺の先端で理科の子宮口にキスをする。  
 最奥の淫靡な入り口は、いやらしくねっとりと吸い付いてきて、小刻みに抽送する度に腰が抜けそうなくらいの快感が俺に襲い掛かってきていた。  
 歯を食いしばり、がむしゃらに動くことで果ててしまいそうな快感をこらえる。  
 理科はといえば、これ以上はできないというくらいに背筋をぴんと反らし、半開きになった口からは幾筋もよだれをたらし、快感にとろけきった雌の表情を晒していた。  
「あぁッ!! ゃっ、ふぁぁぁんっ!!! らめ、らめらめらめれすぅっ!! そんなおくばっかつっついちゃ、らめ、やめれぇぇえっ!!!」  
「理科っ、お前、今、すっげぇやらしい顔してる……!」  
「あ、ゃぁあっ! やあぁぁぁぁあああんっ!!」  
 理科が一際激しく膣内を締め付けてきたと同時に、俺もこらえ切れなくなり、脳天を突き抜けるかのような感覚とともに俺は理科の膣内で精を解き放った。  
 射精するリズムに合わせて、理科の最奥に擦り付けるように俺の分身を押し付ける。理科の体内はまだ断続的にきゅうきゅうと絞り上げてくる。  
 俺はその一回一回に腰を持っていかれそうな快楽を感じていた。  
 
 二人してぜいぜいと荒い息を吐く。二、三分ほどかけてゆっくり息を整えていたら、理科がよいしょっと両腕を突っ張って、上体を起こした。  
 …………繋がったままで。  
「お、おい……」  
「あは、中出し、されちゃいましたね……」  
 俺のが入っているおなかを撫でながら、理科が恍惚とした表情で言った。  
 今更ながら、大丈夫なのだろうかと不安になってくる。ここまで勢いで突き進んできてしまったが、二人ともまだ高校生なのだ。  
 もし出来ちゃったなんてことがあったら、二人は学校にいられなくなるだろう。  
 そのことを伝えると、理科はにんまりと笑ってこう言った。  
「もちろん、計算済みですよ。うまく着床してくれるといいんですが」  
「おい!?」  
「冗談ですよ、冗談。まあ金銭的には私が色々発明してもらったお金が結構あるので大丈夫だとは思いますし、  
先輩の遺伝子と理科の遺伝子がどう反応するのかがとてもとても気になるのですが、それでも花の高校生活をわざわざ短くすることもないですよ。  
逆の意味で、計算済みです。念のためにお薬も飲んできましたし」  
「そうか…………」  
 身勝手ながら、安堵する。理科が苦労を背負い込むのは遠慮したい。  
「それよりも、ですよ」  
 腰を揺らしながらの一言。それに意識を引っ張られて、俺は理科を注視した。  
「先輩には理科のハジメテをもらわれてばかりですよね……。  
ハジメテのえっちにハジメテの中出し…………。  
こんなに激しくイっちゃったのもハジメテです。  
…………すごく気持ちよかったから、ね、もう一回、シてください…………」  
 その言葉を聞いている途中で俺は腰を突き上げてみたかった。  
 けれど、俺は耐え抜いたのだ。誰か褒めてほしい。  
 ついでに、突き上げるよりもいい案を思いついた。  
 理科の体を抱きかかえ、その体ごと転がり、理科を床に寝かせ俺が見下ろす形にする。正常位、といったか。アレだ。  
 この状態なら、理科の体を思う存分見ることが出来る。小さな両胸のふくらみ、やわらかそうなおなか、そして今まさに俺と繋がっているそこも。  
 ……へえ、こんな風になってるんだな。  
 ひとしきり感心してから、改めて理科の全身を舐めまわすように見る。さすが女の子、全身がやわらかそうだ。むしろやーらかそうだ。  
「小鷹先輩がけだものの目をしている……!」  
 と戦々恐々の理科を尻目に、俺はまずその胸に両手を這わせた。  
 あわせて、むにむにと指を動かす。  
 むにむにむにむに。  
 指の動きに合わせて、その小さいながらも確かなやわらかさ(俺はいったい何を言っているんだ?)が感じられて、女の子の胸の魔力を実感した。  
 むにむにむにむに。  
 
「やぁ……小鷹先輩のえっちぃ……」  
「男はみんなけだものなんだ。お前も前に言ってただろ? ……それに、前みたいに男との会話で陵辱だのなんだの言ってたら、いつか本当にされちまうぞ?」  
「ふふっ、もちろん小鷹先輩以外には言いませんよ。……心配してくれたんですね。嬉しいです」  
 こんなことをやっておいて今更だが、本当に今更だが、その笑顔を見ていると気恥ずかしくなってきた。  
 慌てて誤魔化すために、理科の両手を自分の胸にやらせる。  
「自分でいじってろ」  
「やだ、そんな趣味あったんですか……?」  
 と問うてくる理科を無視して、理科をはさむように両手をつく。そして腰を大きく引き、勢いよくその華奢な体に打ち付けた。  
「ひゃぁぁっ! い、いきなりなにするんですかぁっ!」  
 この体勢は腕が疲れるが、腰を大きく動かせるのが利点だ。それだけ激しくすることができる。  
 どうやら理科は激しく……というか、まるで犯されてるようにされるのがイイらしい。  
 いつもいじめられたいというようなことを言っているだけあって、本当にマゾヒストの気があるようだ。  
 だから俺は、ひどく乱暴に、欲望の赴くまま理科の小さな体をゆさぶった。  
「あ、あっあっあっ、はんんっ!! はっ、はげしすぎま、ひゃん!!!」  
 打ち付けるリズムに合わせて理科があえぐ。白い喉が凄く綺麗で淫靡だ。  
 その顔が快楽で歪む様がまた、ひどく愛しい。…………俺って、やっぱりドSなのかな。  
「やぁ、こだかせんぱぃ、そんなっ、はげしすぎぃっ!! も、もうりか、いっちゃいますよぉっ!!!」  
 その言葉を聞いて、俺は抽送をだんだんとゆっくりにしていった。  
 もう少しで完全にイけたであろう理科が消化不良のまま終わらせられて、段々とこちらに焦点を合わせてきた。  
「ふぇ? え……こだかせんぱい、なんでやめちゃうんですか」  
 呆けて口を半開きにしたまま、理科が疑問を放った。多分俺は、いやらしい顔をしていたと思う。  
「さっき、いっちゃうからだめって言ってただろ?」  
 その言葉を聞いている間、理科は自ら動こうとして体を揺らしていた。その顔はまるでぐずる子供のような表情だった。  
 だがもちろん、その程度では満足な刺激は得られない。そのことに早々に気付き、あきらめて俺をじとっとにらんできた。  
「こだかせんぱいのいじわる」  
 俺は多分、にやりと笑った。  
「なあ、どうしてほしいんだ? 自分で言ってみろよ」  
「極悪人の顔です…………。  
何人もの少女を毒牙にかけた性犯罪者の顔をしてます……。  
まさか小鷹先輩がこんなにドSだったなんて…………悔しい、でも感じちゃう…………  
………………………………あの、やっぱり、言わなきゃだめ……ですか?」  
「だめだ」  
 即答すると、理科はかあっと顔を赤らめた。  
 どうやら自分がこれから言う台詞を想像したようだ。皆でふざけている時には恥ずかしげも無く言えても、こんな雰囲気の中では言い辛いみたいだ。  
 最も、それすらも気持ちイイ、のかもしれないが。  
 全くマゾヒストとは興味深い性質である。  
「本当に、いわなきゃシてくれないんですか?」  
「俺はこういうことについてはあんまり知らないって言っただろ? 教えてくれないと分かんないなあ」  
 まあ、流石に嘘だが。ここまで来れば健全な男子高校生ならば分かるだろう。  
 理科は赤かった顔をいちごレベルに真っ赤にして、ぎゅうっと両目をつぶり何事か考えたかと思うと、羞恥心を振り払うためか勢いよく叫んだ。  
 
「小鷹先輩のあつくておっきいおちんぽで理科のおまんこじゅぷじゅぷかき回して、先輩のせーえきを理科のなかにいっぱいどぴゅどぴゅ出してっ!!!」  
 
 理科は一気に叫んだ反動と羞恥からぜえぜえと荒い呼吸を繰り返していた。その理科の耳元に顔を近づけ、ある一つの事実を口にする。  
「なあ理科、今のお前の言葉ってさ、  
『なんか人として大切なものが終わってしまう気がします』って自分で評価した星奈の台詞と、ほぼ同じだぞ。  
…………なあ、お前、人として終わっちゃったな」  
 そう言って、俺は理科の反応も気にせずピストン運動を再開する。  
 きちんと言えた理科へのささやかなご褒美といったところか。  
 もちろん、いじめたいだけだが。  
「へ……あ、あんっ、んにゃぁぁぁあっ!!」  
 何を言われたのか瞬時には理解できずに戸惑っていた理科だったが、俺が動き出したことによってまた快感を感じ出したようだ。  
 決して大きくはない理科の胸がふるふると揺れ動き、形を変えるその様は、どうしようもなく俺を興奮させた。  
「あ、あ、あぅぅぅっ! ひゃ、らめっ、らめれすよぉ! そんらにはげしくされたらりかこわれちゃうっ!!」  
「いいさっ、そのまま壊れちまえっ!」  
 そういう俺もかなり限界が迫っていた。  
 理科のナカは理科が感じるたびびくびくと収縮して、  
それはつまりほぼずっと俺は擦り上げられ搾り取られているわけで、その快感は想像していたよりもはるかに上だった。  
 …………というか、もう無理。限界。  
「や、やあああぁああん! にゃ、にゃかででてゆぅっ!!!」  
 尿道を半ば固形物のようになった精液が通り抜ける度、背筋をなぞられるような快感が走る。  
 その状態でも理科のナカは構わず締め付けてくるため、竿も傘も気持ちいい。  
 癖になる感触だった。  
 理科は自らの体をかき抱くようにした両腕と、内股気味にした両足とを突っ張らせて達していた。  
 
 抜くのも何かもったいない気がして、ナカに入れたままの状態で体を倒して理科を横抱きに抱え頭を撫でた。  
 指通りのいいさらさらの髪だ。   
 ゆったりと撫でていると、俺の胸に顔を埋めたまま理科がぼそりと呟いた。  
「激しくて気持ちいいのはイイんですけど、気持ちよすぎるのが問題ですね。  
女の子に子宮でイく味を覚えさせちゃったら、もう男無しじゃ生きていけなくなっちゃうそうですよ」  
 どこ発信の知識だよそれは、とツッコミそうになったが、辛うじて踏みとどまる。この状況でツッコミなんてしたら、  
「ツッコんだままツッコミを入れるなんて、小鷹先輩のえっち」などと下ネタに変換されかねない。…………考えすぎか。  
 だがしかし、ふと思いついことを口に出してみる。  
「なら、お前はもう男無しじゃ生きていけないのか?」  
「もう先輩無しじゃ生きていけません…………。責任、取ってくださいね?」  
 やられた。  
 それはもう、完膚なきまでにやられた。  
「もちろんだ」  
 と、どうにか返事を返すので精一杯だった。  
 
 なんとなく気恥ずかしい微妙な雰囲気のまま、ゆったりとした時を過ごす。  
「先輩の体、あったかいです……」  
 男の方が体温は高いらしいからな。そんなことをうつらうつら考えていたら、少し眠ってしまいそうになった。いかんいかん。  
 このまま学校に泊まるわけにもいかないし、ずっと裸でいると風邪を引いてしまうし、帰って小鳩の飯も作ってやらないと。  
 そのことを伝えると、理科はこう提案してきた。  
「でも、まだ時間はありますし、小鷹先輩のも大きいままだし、…………だから、その、もう一回しましょ?」  
 是非もない。こちらとしても願ったり叶ったりだ。ただ、下腹部辺りが色んな液体でぬるぬるしているのが気になる。  
「ああ。だがその前に、一回体を拭こうぜ。どろどろだ」  
「そうですね。ん……」  
 理科が体を離し、俺のモノが引き抜かれる。そして、理科は立ち上がり、机の上のティッシュを取ろうと机の縁に体を預けて前にかがんだ。  
 お尻を俺に突き出すようにして。しかも、鼻歌とともにお尻をふりふりと揺り動かしている。  
 性欲がむくむくと鎌首をもたげていく感覚がはっきりと分かった。  
 さっきから俺は、賢者モードと獣モードの切り替えが早過ぎないだろうか。  
 だがしかし、本能には逆らえない。  
 ……何だこれは、誘ってるのか?  
 …………誘ってるんだな。  
 俺も立ち上がり、静かに理科の後ろにつく。  
 理科の腰辺りで揺れ動き、チラリズムという言葉を体現している白衣の肩部分を掴み、腕のあたりまで引き下ろす。  
 これで理科の腕は背中側で白衣に絡まって、満足には動かせなくなった。  
 計算どおり。  
「な、なんですか?」  
 理科が疑問を発したが、当然無視する。それよりも、行動で示した方が早い。  
 理科の上半身を机の上に押し倒すと、腰が丁度いい位置にきたので、そのまま腰を掴んで後ろから挿入した。  
「ひゃんんっ!! そんな、いきなりすぎですっ!!」  
 理科が文句を言ってくるが、構わず腰を打ち付ける。理科の尻たぶに俺の腰がぶつかって、パンパンと小気味よい音を立てた。  
「やっ、やだっ! 止めて下さい!!」  
「この状況で止めるわけないだろう? それとも、理科はここでやめられて我慢できるのか?」  
「できませんけどっ! でも、ひどいですよ! 自分から一旦休憩って言ったくせに!」  
「理科のお尻を見てたら我慢が出来なくなったんだ」  
「小鷹先輩の変態! お尻フェチ! ぁ、ぁ、ぁ、やぁぁああっ!!」  
 言ってる間にも理科はどんどん気持ちよくなってきたみたいだ。なんだかんだで、本質的に被虐願望でもあるのかもしれないな。  
「ああんっ! もう、先輩がそんなにするから、んんっ! 理科また気持ちよくなっちゃいますよぉ!」  
 存分になってくれ。  
 
 突然、なんというか、こう、女の子が気持ちよくなって、  
オクターブ高い声で鳴いたり、無意識に腰を揺らしたりするのは動物としての本能的な求愛行動なんだろうなーとか、  
良い声で鳴きやがってこの雌犬がとか、  
よがりまくっている理科を見ているとそんな変なことが思い浮かんだ。  
 理科との行為が獣並みに激しいからだろうか。  
 いやでもこの方が気持ちいいんだってきっと。  
「や、やだっ、またいっちゃう、いっちゃいますから! い、や、にゃああああんっ!」  
 ついでに、この姿勢もまた動物の交尾とよく似ている。  
 しかし、人間ほど交尾の仕方にバリエーションがある動物はいないだろうな。  
 なんだっけか、四十八手とやらもあるそうだし。  
 理科なら詳細に知っていそうだ。  
 今度聞きながら試してみよう。  
 びくびくと全身を震わせる理科に最後の一突きを打ちつけ、俺は何度目だろうか、五度目くらいの絶頂を迎えた。  
 流石に迸るほどの量は出なかったが、しかし何にせよ気持ちがいい。  
 なんでこんなに気持ちいいのだろうか。  
 息も絶え絶えながら、理科は律儀につっこんでくる。  
「やだぁ……小鷹先輩の猿ぅ……。オナニー覚えたての中学生じゃないんだから自重してください……」  
「俺は理科の体を味わいたいだけだから問題ない」  
「そもそも関係ないです! というかなんですか体を味わいたいって!  
理科を! もっと理科自身を求めてくださいよ! ヤり終ったらポイですか! 明日は夜空先輩明後日は星奈先輩ですか!」  
 おかしなことを言うもんだ。きちんと『理科の』体を味わいたいって言ったのに。  
 俺はそんなに遊んでるようなチャラい男じゃないぞ。  
 そもそも初めてだし。これは少し分からせてやる必要があるな。  
 理科の腕を半端に拘束していた白衣を脱がせ、理科を持ち上げて机の上にきちんと座らせる。  
 理科の視点はいつもより少し高い。  
 いつもより少し俺に近い。  
 全裸の理科は、俺がこれから何をするのかと疑わしそうな目つきでこちらを見ていた。半ば、怯えた小動物のような仕草。  
 目の端に涙が溜まっているが、決してそれを零さないようにと目を見開いている。  
 その姿を見ているとぞくぞくとした嗜虐願望が俺に降りかかってきたが、気合でスルー。  
 ここで怖がらせてしまったら、理科はきっと本当に怯えてしまうだろうから。  
 今だって、さっきだって気丈に振舞っていたけど、声には本気の怯えが含まれていた。  
 俺は、その手を握る。そのまま、二人の間で両手を合わせる。真っ直ぐに、理科を見る。  
 
「好きだ」  
 音が、消えた。心臓の鼓動は激しい。  
 先ほどまで激しく動いていたのとは関係なく、顔が、体が熱い。  
 理科は無言で、未だ目を見開いている。  
 聞こえていないのだろうか。聞こえていても頭に届いていないのだろうか。  
 …………仕方ないな。  
「理科、大好きだ」  
 修辞を増やし、呼びかける。…………それでも反応がない。困った。  
「理科、愛してる」  
 単語を変えて、三度目の同じ睦言を囁く。  
 ようやく、理科はその顔をじんわりと赤面させていき、顔だけに留まらず白いその肌もどんどんと赤く火照っていった。  
 これはこれで、可愛いな。  
 口元がわなわなと震え、何事か言葉を吐き出そうとしていた。  
 たまらなくなって、その唇に口付ける。ゆっくり、じっくり、撫でるように。  
 両の手は繋いだままで左右へ広げ、邪魔にならないように机に手をついた。  
 堪能してから、唇を離す。  
 理科は、今の今まで息が止まっていたかのように、荒い息を繰り返した。  
「卑怯です……」  
 理科が囁いた。意味をつかめなくて首を傾げる。  
 どの部分に対して卑怯だといったのだろうか。  
 思い当たる候補がいくつかあってそれとは決められないのだが。  
 しかし、理科が発した言葉は俺の予想のどれとも違っていた。  
「たった一言で、こんなにも理科の心を揺さぶるなんて卑怯です!  
理科が好きだって言ってもどこかぼんやりしてたくせに自分から言ったらこんなにも理科をきゅんとさせるなんて卑怯です!  
小鷹先輩も理科の言葉で悶える位してくださいよ!」  
「そうは言われてもな……そんなテンションで言われるとときめきようもないと思うんだが」  
「うう……それも正論です……」  
 机に突っ伏して、まるで穴でも掘るかのように理科はぐじぐじと悩んでいたが、  
意を決したのだろうがそれでもおずおずとこちらを見上げ、震える唇で宣言してきた。  
 上目遣いがたまらない。  
「りりりり、りっ理科も、その、こっこっ、小鷹のことがす…………好き、ですよ?」  
 きゅんときた。  
 俺の名前に『先輩』とつけずに呼んでみようとしてどもるところとか、語尾が思わず疑問形になってしまっているところとかに。  
 胸の奥が締め付けられる感覚が心地よい。その不思議な感慨ごと、理科を抱きしめた。  
「えへへ……これでおあいこ、ですね」  
 はにかんだように理科が言う。  
 その顔は見えないが、きっと、とろけたような笑顔だろう。  
 
 
 

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