とある土曜の午前零時。  
 歯磨きを終えてリビングに戻ってくると、小鳩はTVを食い入るように見ていた。  
 画面の中では、ポップな歌をBGMに可愛らしい絵の魔法少女が戦っている。時間帯から考えてOPだろうか。  
 何となく立ったままぼーっと見ていると、タイトルが表示された。『魔法少女りえる☆マジカ』というアニメらしい。  
 アニメのことはよく分からないが、ぱっと見た感じでは主題歌も絵もしっかりしているように思った。  
 OPが終わったところで、俺の視線に気づいた小鳩が一瞬表情を強張らせ、ばつが悪そうに目線を逸らす。  
「ククク……この後に『堕天した獣の慟哭』があるが故に、ついでに見ているのだ。  
 このような子供向けアニメを闇の眷属たる私が好んで見るとでも思ったか、魂の片割れよ」  
「……お前、前にリリカルなんとかって魔法少女アニメに熱中してなかったっけ?」  
「あ、あんちゃんっ!」  
 顔を赤くして、小鳩は素っ頓狂な声をあげた。恥ずかしがる必要はないだろうに。  
 これが妹モノエロゲーにハマってるとかならどうかと思うが、女の子向けのアニメ程度なら別におかしくはない。  
 あんまり夜更かししすぎるなよとだけ言って、リビングを出る。  
 『第3話、もう何も恐れない』とやたら甲高い声のタイトルコールが聴こえてくるのを背に、欠伸をしながら俺は自室へと向かった。  
 
 
 ゆさゆさ。布団を揺すられるような感覚で俺は目を覚ました。  
「あ、あんちゃん……」  
「ん……小鳩? どうしたんだこんな時間に」  
 目を擦りながらベッドの横に視線を向けると、真っ青な顔をしている小鳩。  
 枕を持って、小刻みに身体を震わせている。その理由は寒いからというわけではないんだろう、この様子だと。  
「り、りえる☆マジカを見てたらマナミさんが、マ/ナミさんに……生首が、なまくびがっ」  
「落ち着け小鳩、こういう時はとりあえず深呼吸だ深呼吸」  
 テンパリ度MAXで切れ切れに単語を発する小鳩を宥めながら、10分ぐらいかかって聞き出した話を要約するとこうだ。  
 『魔法少女アニメを見ていたらヒロインの1人が敵に首をはねられて死んだ』  
 『しかもその際に、血溜まりの中に生首という凄惨な状態が映された』  
 ……あのファンシーな絵柄のアニメになんでそんな血みどろな要素があるんだ。わけがわからないよ!  
「堕天は録画してきたけん、明日にでも見るけど……怖い夢見そうで、寝れへん……一緒に、寝て?」  
 これだけ怯えてても録画はちゃんとするのか。呆れを越してむしろ感心する。  
 変に意地悪する理由はないので、小鳩のお願いを承諾することにした。というか本音を言うと早く寝直したい。  
「今日だけだぞ?」  
「うん……」  
 ベッドの右側に寄ってスペースを作ると、小鳩は空けた左側に潜り込んできた。  
「えへへ、あんちゃんと一緒の布団♪」  
 そう言いながら、小鳩は笑顔で抱きついてくる。  
 仕方ない奴だと苦笑しつつ目を閉じるとすぐに眠気がやってきて、俺の意識は薄れていった。  
 
 
 ――何か下腹部に違和感がある。  
 ぼんやりとした頭でそんなことを感じた。なんだろう、撫でられているようなくすぐられているような、そんな感触。  
 夢だろうか? にしては、くちゅくちゅと水音みたいなものも聞こえてきていやにリアルだ。  
 視線をそちらにやると、小鳩の顔。なんだ小鳩の仕業か……と納得しかけたところで、その意味に気づいて一気に目が覚めた。  
「お前、何やって……っ!?」  
 身体を起こした瞬間に背筋にぞくりと寒気が走り、思わず言葉を途切れさせてしまった。  
 寝ている間から与えられていたであろう刺激のせいで、俺のモノはギンギンにいきり立って、もはや暴発寸前。  
 精液が込み上げてきそうになるのを堪えるので精一杯だ。  
 そんな状況なのに、俺が起きたのに気づいているのかいないのか、小鳩の責めは止まらない。  
 いつになく熱心な表情を浮かべて、竿の部分を両手で上下に扱きながら鈴口を舌で舐めたり口に含んだり。  
 拙い手つきでのその奉仕は正直とても気持ちよくて、小鳩の――”妹”の口の中に、今にも白濁をぶちまけてしまいそうだ。  
 止めさせないと、と頭では思うのに、動けない。  
 どうにもできないまま、ひくひくと陰茎が震え、付け根の辺りから熱いものがせり上がってくる。  
「うぁ、こ、小鳩、もう、出、ぁ、あ……!」  
 小鳩が竿まで口の中にくわえ込むと同時、ビクン、と竿が跳ねた。  
 びゅる、びゅる、と収縮に合わせて放たれていく精液。あまりの気持ちよさに声すら出せず、ただ後ろ手でシーツを握り締める。  
 俺たちが兄妹として越えてはいけない一線を越えてしまった、その瞬間だった。  
 
 何度にも分けて小鳩の口内に白濁を吐き出し、長い射精がようやく終わる。  
 ここ数日自分でしていなかったせいもあって、いつもよりずっと多くの量を出してしまったみたいだ。  
「っ、けほ、けほ……っ」  
 ぜぇぜぇと荒い息をしながら絶頂の余韻に浸っていると、小鳩が咳き込んだ。  
 どうやら、精液を飲み込もうとしたら喉に絡まったようで、だら、と白い粘液が小さな口から垂れるのが見える。  
 小鳩はそれを手で拭い、蕩けた目でぺろぺろと舐め取る。  
 その姿は、普段からはとても想像できないほどに艶っぽくて。不意にどくどくと心臓の鼓動が早くなっていく。  
 小鳩を自分のものにしたい。押し倒して、壊れるくらいに滅茶苦茶にしたい。  
 頭のネジが数本飛んだせいか理性がまったく働かず、心の中から湧き出てくる衝動に任せ、小鳩の肩を掴んで押し倒す。  
「あ、あんちゃん、起き……ん、んむっ」  
 言葉を遮るように、小鳩の唇に自分の唇を押し付ける。妹とのファーストキスは、青臭い精液の味がした。  
 舌で閉じた唇をつつくと、それを抵抗せずに受け入れる小鳩。そのまま舌の裏をなぞると、くぐもったような声があがる。  
 くすぐったいのだろう、後ろに逃げようとするが、手で頭を押さえて逃がさない。  
 くちゅくちゅと、静かな部屋に響く淫らな水音。舌を絡めて歯を舐めて小鳩の口内をゆっくりと味わっていく。  
 このままずっとキスを続けていたい――そう思っていると、小鳩が背中を叩いてくる。  
 気づけば、ん、んん、と苦しそうな声。慌てて唇を離した。  
「はぁ、はぁ……い、息、できな、けほ、し、死ぬかと、思った」  
「わ、悪い、その、小鳩が可愛いから、我慢できなくなって」  
 ぼん、という効果音がする勢いで小鳩の顔が真っ赤に染まっていった。  
 今のはそんなに照れるようなセリフだっただろうか? 感覚がマヒしてしまったのか、よくわからない。  
「あんちゃん、その、つ、続き、してええよ……や、優しく、してくれたら」  
 目を潤ませながら小鳩は、恥ずかしそうに言った。  
 頭を撫でてその言葉に応え、黒のフリルのネグリジェに手をかける。そして――  
 
 
 
 
「そして小鷹先輩は小鳩さんの服を脱がして、露わになった柔肌を……いたっ!」  
 夜空の愛用するハエ叩きで理科の頭をべちっと叩いて、延々続きそうだった妄想語りを止める。  
 土曜の夜の顛末を話したらいきなり暴走が始まってこの有様だ。小鳩の方を見ると、真っ赤になって俯いてしまっている。  
 何故か夜空には睨まれるし。言っておくが小鳩に手なんて出してないからな! 俺は悪くねぇ!  
 ちなみに星奈はというと、小鳩に添い寝するのを想像して鼻血が止まらなくなり、今は保健室。この部は変態ばっかりだ。  
「いいところだったのに邪魔されちゃいました。理科、焦らされてます?」  
「……もうツッコむ気力もないから黙っててくれ」  
 げんなりしながら応える。口でつっこむ気力はなくても下の方はとかまだ言っていたが、無視することにした。  
 部活動が始まって30分も経っていないのに、なんか無駄に疲れた気がする。  
「ところで理科、そのアニメのダウンロードはまだなのか?」  
 珍しくパソコンの前に座っているマリアが、理科に話しかけた。流れを変えてくれてありがとう、マリアGJ。  
「あぁ、もうできていると思いますよ。ここをクリックして……と」  
「おぉ、ほんとだ始まった」  
 りえる☆マジカの主題歌が流れ始めたのに反応したのか、びくりと身体を強張らせる小鳩。  
 割と本気で昨日のがトラウマになってるんじゃないかこれ、と少し心配になる。  
 ちなみにマリアがこのアニメを見ようとしているのは、たかがアニメで寝られなくなった小鳩を子供扱いするためらしい。  
 どうみても地雷を踏む未来しか見えないが、大丈夫なんだろうか。  
「魔法少女モノで『これ、母さんです』になったと聞いて理科も見たいと思っていたのですよ」  
 そう言いながら、マリアの後ろから覗き込むようにして画面を見る理科。母さんがどうこうのくだりはよく分からないが。  
「ふふん、アニメなんかでこのマリア様が怖がるわけがないのだ!」  
「……どうして人は死亡フラグというものを立てたがるんだろうな」  
「これもいきもののサガ、なのですね」  
 機嫌が直ってきたらしい夜空が遠い目をして言い、幸村がのんびりした口調でそれに続く。  
 
 ……20分ほど後、隣人部の部室にマリアの悲鳴が響くことになったのは言うまでもない。  
 
 

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