壁を隔てた先で、夏らしく炎天下に照らされながらもランニングに精を出すリア充、
もとい体育会系の部の女子学生たちが掛け声をあげている。
ああ、なんという青春。
素晴らしき青い春。
ほとばしる汗。
短パンからちらつく生足。
揺れる胸元。
その全てが俺の脳内にピンク色な妄想を――
「ってなんだこのナレーション!? 俺はこんなこと考えてないぞ!?」
「おお、メタな発言ですね小鷹先輩。熱中症ですか?」
「犯人はお前かぁぁぁ!」
「はい、もちろん理科の仕業です。だから口汚く罵ってください」
「当然のように罵倒を要求するな!」
「ああっ、罵倒じゃなくてもいいですっ。ただ理科にツッコミを入れてくれるだけでいいですっ!だからもっと大声で!」
「……遠慮しときます」
「なぜです?あ、わかりました。これはあれですね、あれ」
理科は、なぜか得意げに眼鏡をくいっと上げてから言った。
「放置プレイってやつですね?」
「お前は史上稀に見るアホだ!!」
すると理科は、なぜかかぁっと頬を赤くした。
「アホだなんて……そんなことを言われたのは初めてです」
「何でそこで赤くなるんだ!?」
理科はますます顔を真っ赤にして、
「先輩には、理科の初めてを奪われてばかりですね……」
「あれ、なんか激しいデジャヴ……」
「バレましたか」
一瞬でけろっとした表情に戻る理科。
……お前は手品師か何かか?
「……なんかもうどうでもいいや」
「釣れない、もといツレない先輩も素敵ですね」
「俺は魚でも何でもないぞ」
「古典的なボケですね。 なんでやねん」
無表情でそんなツッコミを入れてくる理科。
「……もうどうにでもしてくれ」
「ならば理科と性行為に励みませんか?」
「励みませんっ!」
毎度毎度なんてことを提案するんだこの変人は。
「なぜです?あ、わかりました。これは」
「放置プレイでも何でもない!」
「ちぇー」
「露骨に残念がるなよ……」
「すいませんでした。お詫びに理科の身体を好きに」
「しません!!」
「むむ、さすが先輩です。ガードが硬い」
……何で年下の女の子を相手にこんな疲れなきゃならないんだ。
「んー」
むむむ、と唸りながら考え込む理科。
またロクでもないことを考えてる気がする。
「“硬い”って、なんだか卑猥な響きだと思いません?」
本当にロクでもなかった。
「ああそうだな硬い硬い」
「とうとう流されました。うふふふ」
なぜ笑ってるのか甚だ疑問だが、敢えて触れてやらない。
なんか怖いし。
「さて、本題に入りましょう」
「今のが前振り!?」
「え、前貼り?」
「いちいちそっち方面に話を持ってくな!いや、いちいちツッコミ入れてる俺も悪いのか……?」
「これは失礼しました。では方向を修正して、問題です、ででんっ」
俺は思わず嘆息し、ジト目で理科を見た。
「本題……だろ?」
「些細なことは気にせずに」
ガクリと項垂れる俺。
続きをどうぞと手で促した。
「本題ですが」
理科はコホン、と一息おいてから、
「なぜ理科と小鷹先輩は部室に二人きりなのでしょう?」