ああ、そうだ。 残念なお知らせだ。  
 私は、私はとうとう我慢が出来ない。  
 限界だ。 オーバーリミッツだ。 臨界点突破だ。  
 全ての原因は、奴。 あのにっくき黄土色ヤンキーだ。  
 奴め。 10年も前だとはいえ、奴は親友である私に気付いちゃいない。  
 (そもそもあの頃の私は女として認識されていないのだが、しかしそれでも、と思ってしまうのは我が侭か?)  
 そのうえ奴は、私の前であの柏崎星奈(肉)――不本意ながら名前は覚えている――といちゃつくではないか(言いがかり)。  
 何故かは知らないが、私はそのいちゃつく様(言いがかり)を見るたびに、胸の奥底で言い知れぬ何かが蠢くのだ。  
 モヤがかかったように晴れない私の心が、このままじゃ爆発しちゃうよその前にどうにかしろよ馬鹿垂れ、と語りかけてくるのだ。  
 と言われても、何をどう解決すればいいのかわからない私は、とりあえずトモちゃんに相談を……え?要らない?  
……むぅ、私の大事な“同性”の親友に対して失礼な仕打ちだな。  
 ともかくも、私の心とやらがやけに落ち着かない様子なので、とりあえず必死になって行動を起こしてみた。  
 わ、笑うなよ?  
 
 
――放課後。  
 
 俺はHRの終了と同時に、教室を飛び出した。  
 急ぎ足で、隣人部の部室である礼拝堂の談話室に向かっている。  
 普段ならばそれほど急ぐこともなくゆったりと部室へ足を運ぶ俺だが、今日は少し違った。  
 
 夜空が、学校を休んだ。  
 
 担任によれば風邪とのことだが、それがどうにも引っ掛かる。  
 昨日のあいつは具合が悪いどころか、いつにもまして星奈やマリアをいじめたおしていた。  
 罵倒したり、罵倒したり、主に罵倒したりして。  
 さらに言えば、夜空が欠席すること自体にも違和感を感じる。  
 学業に関しては本当に優等生な夜空は、俺の記憶じゃ欠席したことがない(と思う)。  
 本当に、何かあったのだろうか?  
 柄にもなく、不安になる自分がいた。  
 記憶の片隅でちらつく誰かの顔と、頭に浮かんだ夜空の顔がダブって見えた。  
 ……なんでだろうな?  
 とにかく、早く部室へ行かなければならない。  
 理由はわからないけど、そんな気がした。  
 行ったところで、夜空がいるはずもないというのに。  
 それなのに、足が止まることはなかった。  
 …………。  
 ほどなくして、部室前にたどり着く。  
 ドアノブに手をかけて、勢い良く部室へ駆け込んだ。  
 
「夜空っ!」  
 
 すると扉の先から、うぇ!?と、聞き覚えのある声が聞こえてきた。  
 声のした方を見れば、本日風邪で欠席中のはずの三日月夜空が、そこにいた。  
 らしくもなく、アワアワと慌てふためきながら。  
 ……はい?  
「何やってんだ……夜空」  
「え、ええと……」  
「休んだんじゃなかったのか……?」  
 と、若干ジト目で俺は言う。  
「や、休んだぞ? 確かに、私は風邪で休んだ」  
「じゃあ何で学校にいるんだよ……見たところ、全然元気そうだし」  
「そ、それはだな……えー……」  
 探偵に追い詰められた犯人のような顔で唸る夜空。  
 何とも奇妙な表情だ。  
 それから、こちらを一瞥してから僅かにそっぽを向く。  
「そ、そんなことは、どうでもいいだろう?」  
「どうでも、いい……?」  
 ……何故かはわからないが、その言葉に対して無性に腹が立った。  
「そ、それより、なぜ小鷹はここに私がいるとわか……」  
 夜空がブツブツと何かを言っている、が、俺の耳には届かない。  
 というか、それどころじゃなかった。  
 さっきの言葉がどうにも気に入らず、沸々と怒りが沸き上がってくるからだ。  
 どうでもいい?  
 いいや、少なくとも、俺にとっちゃ――  
 
「よくねぇよ!」  
 
 夜空がぎょっと目を見開く。  
 思わず俺は夜空の肩に手をかけていた。  
「よくねぇだろ!?」  
「……こ、小鷹?」  
「見慣れていた奴がっ、親しかった奴がっ、突然消えちゃったらっ、いなくなっちまったらっ、悲しくなるだろっ!? 心配になるだろっ!? せめてっ……せめて……連絡くらい、してくれよ……」  
「……!」  
「…………すまなかった」  
 不思議なことに、あの夜空が素直に謝った。  
 何故かはわからないが、苦々しく顔を歪めているような気がする。  
 それに対して、今さらになって罪悪感を感じてしまう俺。  
 そもそも、夜空が学校をサボったのには何か理由があったのではないか?とか。  
 部室で何をしてたんだ?とか、そういや俺たちに連絡手段ってなくね?とか、  
 頭が冷えてきて、いろいろ気になる点が浮かんできた。  
 ……俺はひどく理不尽な怒りをぶつけてしまったんじゃないか?  
 よく見ると夜空は僅かに俯き、微かに震えているように見える。  
 そーっと、静かにゆっくりとさりげなく何気なく掴んでいた肩を離す。  
「……えー、と」  
 ……気まずい。  
 
「……えー、と」  
 しょ、正直に言おう。  
 私はっ、今っ、猛烈に感動しているっ。  
 目の前の鈍感黄土色ヤンキーはっ、タカはっ、私のことをっ、本気で心配してくれたのだっ!  
 これはっ、これは浮かれていいタイミングなのではないかっ!?  
 おっと……これは私のキャラじゃないな、落ち着け夜空。  
 ……いやいや、実のところ予想外の展開なんだ。  
 私の脳内プログラムでは、こうなる予定だった。  
 
私が欠席する  
↓  
放課後、小鷹が部室へ来る(きっと来ると思ってた)  
↓  
小鷹以外の隣人部メンバーが掃除当番などの諸用で少し遅れてくることは調査済みだ  
↓  
小鷹は油断する(私が欠席したからな)  
↓  
隙だらけの小鷹にビッグバンアタックをしかける(←自分でも何がしたいかわからない)  
↓  
私の勝利(ふぁんふぁーれ)  
 
 となるはずだった。 おかしいな……。  
 私とトモちゃんの考えた作戦は完璧だったはずなのにっ。  
 小鷹が部室へ来るという辺りまで予定通りだったのだが……。  
 思った以上に小鷹の行動が早かった。  
 ……あろうことか、油断しているはずの小鷹が、扉を開けるなり、その……私の名前を呼んだのだ。  
 いくら私といえど動揺しないわけがなかった。  
 
 感動して熱くなる顔を見られたくなくて、俯き加減になる私。  
 テンションの上がりすぎた脳味噌を必死で落ち着かせるため、強く拳を握り締めた。  
「その、悪かった……言い過ぎた」  
 …………ん?  
 何を勘違いしたのか、恐る恐るといった風に小鷹が言った。  
 私は慌てて取り繕う。  
「ち、違うぞタ、じゃない小鷹、今回のは全面的に私が悪い」  
「え、そ、そうか?」  
「ああ、今すぐ土下座したい気分だ」  
「ちょ、待て、夜空。 そこまでされたら俺が困る」  
「あ……いや、本当に、すまなかった」  
 私としたことが……また頭に血が上ってしまった。 不覚だ。  
「「……」」  
 暫しの沈黙。  
 時計の針の音だけが、チクタク世話しなく鳴り続けていた。  
 ……それにしても、なんだろう。  
 何故だかわからないが、落ち着けたはずのテンションがまた上がってきた。  
 さっき触れられた肩がやけに熱い気がする。  
 ついでに言うと、頭もこんがらがってきた。  
 なんなんだこれは。  
「……夜空?」  
 先ほどまでは頭にあったはずの計画が、すっぽりと抜け落ちてしまった。  
 なんとなく、目的が不明瞭な謎計画だった気がするし、まあどうでもいいのだが。  
 
 ……それにしても、やけに頭がぼーっとするな。  
「どうしたんだ、夜空。 顔赤いぞ?」  
 ドクン。  
 確かにそんな音が聞こえた。 多分これは、私の心臓が鳴った音だ。  
「夜空?」  
 ドクン。  
 また鳴った。  
「熱でもあるんじゃ……」  
 言いながら、小鷹が私のおでこへ触れようとした。  
 触れるか触れないかの寸前まで手が伸び――  
 ぷつんっ  
 私の中で、何かの糸が切れた。  
「ふ、」  
「え?」  
 もういい。もうワケがわからないのだ。  
 もうどうにでもなるといい。  
「ふ、ふふっ、」  
 ははは! そうだ! どうとでもなればいい! リア充爆発しろ!!  
「ははははははっ!!」  
「よ、夜空っ!?」  
 普段のような不敵(?)な笑みではなく、悪の親玉のような高笑いをする私はなんと不気味なことだろう。  
 小鷹が凶暴な野獣を見るような目で私を見ていた。  
 しかしっ、覚醒した私はリア充にも負けないぞ! わはは!  
「小鷹!」  
「な、なんだっ?」  
「私と勝負をしよう」  
「は……?」  
 目が点になるとは、まさに今の小鷹のことだろう。  
「ルールは簡単だ。 笑った方が負け組、勝った方が勝ち組だ」  
「なんだよ組って!?」  
「ちなみに笑わなければ何をしてもいい」  
「フリーダム過ぎる!」  
 相変わらずツッコミだけは激しいな。  
 お笑いセンスは皆無のくせに。  
 しかしクールな私は取り合わない。  
「さあ、準備は不要だ。 開始」  
「えっ、ちょっ」  
「ついでに言うと肉体的接触も可だ」  
「いや、だからフリーダム過ぎるっての!!」  
「ツッコミの被りは感心しないぞ」  
「うぐっ……ってそういう問題じゃねぇよ!」  
「考えるな。 感じるんだ」  
「キリッとした顔されても困るんだが!?」  
「むー……口うるさいヤンキーめ」  
「俺は不良じゃねぇ!」  
火すら吐きそうな勢いで小鷹はツッコみを入れていく。  
「言うな。 ますます惨めになるから」  
「泣いていいか? 俺」  
「下らないこと言ってないで、さっさと私を笑わせてみせろ」  
 こっちは切実なんだぞ?と恨めしげに私を睨んだ。  
「……な、なら、小噺を一つ。 じゅげ」  
「却下」  
 きっぱりと私は言い放つ。  
「何でだよ!」  
「落とせない噺ほど寒いものはないからだ」  
「ちゃんとオチもあ」  
「失格」  
「さっきより酷いっ!?」  
 
「ふむ、そっちが来ないのなら私から行くぞ」  
「くっ……夜空の笑いのセンスはやっぱり壊滅的なんじゃぬぉぉぉぁぁぁ!!??」  
 小鷹は怪獣のような悲鳴を上げた。  
「ちょっまっ脇っは反則じゃひぃっ!?」  
 何を隠そう、この私が小鷹の脇腹を責め立てているからだが。  
「肉体的接触は“可”だ」  
「ず、ぬぅぁっ、ずりぃ、ひはっっ、ぞ!!」  
 くくく、楽しいぞ小鷹。  
 思わずニヤけてしまいそうだ。  
 こちょこちょ。  
 小鷹の苦悶に満ちた表情を見ると、こんなにも愉快になってしまう。  
 肉ほどじゃないが、私も女王様気質ということか?  
 ……それは、なんとなく認めたくないな。  
 さあ、笑え小鷹、笑ってしまえ。 とっとと負けをみとなひゃうっ!?  
「な、何をっ!?」  
「見りゃっ、わかんだろっ?」  
「んぐぐっ……卑怯な真似をっ!」  
「人のことっ、言えるかおい!」  
 くそっ! 人をくすぐるのは楽しいがその矛先が自分に向けられるのはっ、くぅっ!!  
「くぉ、のぉっ!!」「負け、る、もの、かぁぁぁ!!」  
 
 こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ!!!!  
 
――――……5分後。  
「うひぃっはっはっはひぃっ!? はっはっはっはっ!!」「ひぃっ、ふっ、ひっははははははっ!!」  
 はぁ……はぁ……。  
 ……引き分け、だと?  
 くそぅ……小鷹め、なかなか手強いではないか。  
 思わず腰が抜けてしまったぞ……。  
 しかも意外と容赦がなかった……。  
「大丈夫か、夜空」  
 尻餅をつく私に、一足先に息を整えた小鷹が手を差し伸べてくる。  
「……先に手を出したのは私だ。 いわゆる自業自得だ。 小鷹が心配する必要はない」  
 と、敵の情けを拒絶し、立ち上がろうとしたが、足に力が入らなくて無理だった。  
 ぬぬ……。  
「あー、その、無理すんなって」  
 小鷹が再び手を差し伸べてくる。  
「……」  
 逡巡し、むすっとしたまま、差し出された手に手を重ねた。  
 ぐいっと、私の体ごと引っ張り上げられる。  
 ……意外と力、あるんだな。 いや、男ならこれくらい普通か?  
 ともあれ、否が応でも男と女の違いを思い知らされてしまった。  
 お礼は言わないぞ、恥ずかしいから。  
 
「勝敗は、まあ、引き分けだろう。 ドローだ」  
「……何の意味があったんだよ、今の不毛な争いに」  
 嘆息混じりに小鷹が言った。  
「……」  
 いや、しかし、そう悪いものでもなかっただろう?  
 下らないことに、全力で打ち込むというのも。  
 ……少なくとも、私は楽しかったぞ。  
 決して口に出す気はないが、そう思った。  
「あー……」  
「……ん?」  
 ちらりと、小鷹がこちらを一瞥したのを私は見逃さない。  
「……まあ、楽しかったけどよ」  
 ……ふふ。  
「なんだ、意外と素直だな?」  
「そりゃ、お前に比べたらな……」  
「え……?」  
「いや、なんでもねぇよ」  
 むぅ、誤魔化された。小鷹のくせに生意気だ。  
「ふん、言いたいことがあるならハッキリ言ったらどうだ」  
「いや、遠慮しとく」  
 むむ、あくまで言わないつもりだな。  
「むむむ……」  
「な、なんだよ」  
「私はそういう、言ったけど相手が聞こえなかったみたいだしもう言わなくていいや〜、みたいなノリが大嫌いなんだ! 素直に吐け小鷹、吐いてしまえ!」  
「え、えぇ〜……?」  
 私はジリジリと小鷹に近づきながら、  
「吐かないなら……また地獄を見せてやってもいいんだぞ?」  
 敢えてわきわきと手を動かして見せた。  
「え!? い、いやそれはっ……」  
「ほうら、ほうら……」  
フラりフラりと、さらに距離を詰める私。  
「く、来んなよ!」  
 ガタッと、後退りしていた小鷹が壁にぶつかった。  
「くうっ!?」  
「もう逃げ場はないぞ? さあ、吐け!」  
 ゆっくり小鷹の脇に手を伸ばしていく。  
「か、勘弁してくれ!」  
「いーやダメだ。 吐くまで許さん」  
「ひぃぃぃぃ!!!」  
「ほーらほーらっ!」  
 再びくすぐり攻撃を開始した。  
「やっ、めっ、ろぉぅぉぉっほぉぉ!?」  
「わはは! 吐いてしまえば楽になれるぞ!?」  
 まあ、素直に自白したところで楽にしてやるつもりなどさらさらないがな!  
 と調子に乗ってるところに、新たな介入者が現れた。  
 ガチャリ。  
 
「「あぁぁ〜〜〜〜〜〜〜!?」」  
 
「「あぁぁ〜〜〜〜〜〜〜!?」」  
 
 それは、全力で忘却の彼方に忘れ去られていた我が部の残念で残念なメンバーたちだった。  
「「へっ?」」  
「なっ、ななな、なになにしてっ、ええぇっ!?」  
 ひどく狼狽しているのは、もちろん肉だ。  
「せ、先輩がた! どうぞっどうぞ行くとこまで行っちゃってください理科たちのことは気にせずさあ早く!!!」  
 鼻息荒く目が血走ってるのは、我が校随一の変態メガネ、志熊理科。  
「ああ、とうとう夜空のあねごもあにきにれいぷされるときがきたのですね」  
 なぜかちょっと嬉しそうな顔をしている幸村。どうしてそんな見解になるのだ?  
「おおおお兄ちゃんと夜空が何かくっついてる!? はっ、離れろバカアホうんこ夜空ーー!!」  
 うるさいぞ幼女。 じたばたするな。  
「ク、クク……情けないな我が眷属よ。 我への忠誠心を忘れ、下らぬ人間ごときに尻尾を振って……うぅっ、あんちゃんからはなれろあほーー!!」  
 相変わらず重度のブラコンだな……。 小鷹の妹は……。  
「いいいつまできゅっちゅいてんのよ!?」  
 噛み噛み過ぎる肉の言葉で、ようやく私は我に返った。  
 状況確認。  
 私は小鷹を壁に押し付けている。  
 私を退けようとした小鷹ハンドは私の肩にライドオン。  
 私の手、夜空ハンドは小鷹の脇腹へ。  
 見上げればすぐそこに小鷹の、顔。  
 他人から見れば、絡み合っているように見えなくもない。  
 状況確認、結果。  
 ほぼ密着状態。  
  ほ ぼ 密 着 状 態 !  
「!?」  
 我ながら、恐ろしい速度で小鷹から体を離した。  
「こ、これはっ、別にななななんでもないぞっ!? 仲良く抱き合ってたとか全然そんなんじゃないからなっ!?」  
「そっ、そうだぞ! 俺たちはそんなやましい関係じゃないっ!」  
「構いませんっというかむしろやましい方が理科的には興奮します!!」  
「お前はいい加減自重って言葉を覚えろよ!?」  
 すかさず小鷹が変態メガネにツッコみを入れた。  
「あ、あんた、夜空……奥手なフリして、あんたっ……うぅぅぅっ!!」  
 何故か物凄く恨めしげに私を睨む肉。  
 お前とにらめっこなんてしたくないぞ私は。  
 
 ともかく、この状況はまずい。  
 ……主に私の精神的な意味でだが。  
 どんどん熱くなる頭の中でALERTがガンガン鳴っている。  
 恥ずかしくて顔から火が出そうだ。  
 たぶん頬も耳もリンゴみたいに真っ赤になってることだろう。  
「くぅぅっ……後は任せる、小鷹」  
 言うなり私は鞄を拾い、脱兎のごとく部室から逃げ出した。  
「あっこら夜空っぜんぶ俺に丸投げかよ!?」「待ちなさいよ夜空〜〜!!」  
 後ろから聞こえるのは雑音。雑音だ。  
 振り向くな。後ろには誰もいない。誰もいないんだ。  
 ……。  
 ようやく後ろを振り向いたのは、校門を抜けてからだった。  
 ふう……。  
「……すまないな、小鷹」  
 後で、何かお詫びしてやらねば……。  
 さすがに酷なことをしてしまったからな……。  
 しかしどんなお詫びを……、と考えたところで、ハッとした。  
 思えば、ここ最近の私は小鷹のことばかり考えていないだろうか?  
 何をして遊ぼうか、何をすれば楽しく過ごせるか、何をすれば小鷹が笑ってくれるだろうか、そんなことばかりを。  
 ああ、今日だってそうだ。  
 “学校を休み、小鷹への奇襲に備えていた”  
 言葉にするとあまりにも体が悪いし、決して他人に自慢できるような話じゃないが、私は真剣だった。  
 どうやら私は、小鷹に関わる事柄に遭遇したとき周りを省みなくなるようだ。  
 そして、なぜ私が学校を休んでまであんな目的も定かじゃない謎計画を実行しようとしたのか。  
 その理由も、ようやく解った。  
 ちょっと考えてみれば、すぐにわかることだったのかもしれない。  
 今にして思えば、なんて回りくどい方法だったんだろうと少し自分に呆れる。  
 それくらい、その答えは簡単だった。  
 そう、私は……私は――  
 
 
  小 鷹 と 遊 び た か っ た だ け だ っ た 。  
 
 
 昔のように、小鷹とじゃれ合いたかったんだ。  
 周りのことなど忘れ、全力で小鷹と触れ合いたかった。  
 馬鹿な話をしたり、ケンカをしたり、たくさんのことを、もう一度してみたかった。  
 それは、そうだろう?  
 だって私は小鷹の――タカの、親友なのだから。  
 そう在りたいと願っても、不思議はないはずだろう?  
 しかし現実として、記憶の壁が邪魔をした。  
 私がタカを認識していても、タカは私に気付いていない。  
 だから無意識のうちに考えたのだろう。  
 タカが私に気付かなくとも構わない。  
 私は、私のまま。  
 タカの親友としても、三日月夜空としても、タカとの日常を楽しんでやる、と。  
 その結果が……隣人部であり、今日の謎計画の答えなんだと思う。  
 全ては、私と小鷹の過ごす日常のため、ということだったのだ。  
 ……意外と単純だな、私も。  
「ふふっ……」  
 ……気付けてしまえば、なんてことはない。  
 今日のような行動を起こすことになった発端は、認めたくはないが……嫉妬だったのだろう。  
 小鷹と肉が、親しげに話しているのを見てイラっとしたのも、隣人部メンバーと一緒に笑ってる小鷹を見てちょっと胸がズキッとするのも。  
 全ては嫉妬から来るものだったのだろう。  
 “親友をとられたくない”という、子供っぽい独占欲だ。  
 我ながら子供くさい真似をする……。  
 しかし、まあ……悪くない気分だ。  
 モヤモヤな気持ちの原因に気付けたからといって、何が変わるわけでもないが、多少なりともスッキリした。  
 それに、今日はとても楽しかったしな。  
 また今度、(できるなら二人きりの)機会を見つけてはちょっかいをかけようてみようと思う。  
 私なりの、三日月夜空なりの方法でな!  
 ふふっ……。  
 さあ、これからの日常も、きっと楽しくなるぞ?  
 
「覚悟しておくんだな……なぁ、小鷹?」  
                      (終わり)  
 

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