「そらにかえるひ」
もう、限界なのかもしれない。
もともと、タカ――羽瀬川小鷹に10年前の真実を伝えるのはもっと先にするつもりだったのだ。その(主に精神的な)準備のために部活を創った。部室も手に入れた。ちょっとしたスイートホームになるはずだった。
それなのに。
気づけば奴はやたらとモテていて。美少年にも変態にも幼女にも、多分妹にも……そしてあの巨乳女にも。
猶予はあまり残されていない。
とは言っても、小鷹との間に築かれつつある(はずの)新しい奇妙な友情を壊してしまうのが怖かった。
それだけではない。あの日、別れの挨拶とそれに続くもっと大事な言葉を告げられなかったことが心の傷になっていた。
…………いま一度、焦げた後ろ髪を見つめる。
髪形を戻せば小鷹の記憶も戻るだろうか。
明かすのならこちらからと決めていた。彼が自ら思い出し、その結果として関係がギクシャクするのはどうしても避けたかったから。
今日は8月30日。隣人部の夏が終わりかける日。
……しばしの逡巡の後、私はたった一人の大切な男に"再会"する決心を固めた。
窓から見える夏の空は、どこまでも青くて眩しい。