あいもかわらず緊張状態にあるはぐみの上半身
今日も今日とてマッサージ
しかし
ちょっと前までは心地良さそうにその身を預けてくれていた彼女だが
最近様子がおかしい ――――――
「 もうちょっと深く息つけるか? そうそう
体に力を入れないで ゆっっっくり ・ ・ ・ 」
患部を避け 二の腕から肩、そして肩甲骨にかけて
浴衣の上からゆっくりと滑るように掌を這わせる ・ ・ ・
と 彼女の小さな体がぴくりと反応した
「 どうした? はぐ 」
「 あ ・ ・ ・ ・ 」
後ろから抱え込むような体勢から彼女の顔を覗き込もうとしたのだが
・ ・ ・ 顔を背けられてしまった
「 ・ ・ ・ ・ ? 」
そしてなんだろう 心なしか
彼女の頬が微かに赤みを帯びている気がして
「 熱が出てきたかな? 」
おもむろに彼女の小さな額に手を宛がった
と 次の瞬間 その手に小さな手が触れた
「 ・ ・ ・ ・ はぐ? 」
その手は何故か 細かく震えていた
「 ・ ・ ・ も いいよ ・ ・ ・ 」
「 ―――――― え 」
その 小さな手の持ち主は言う
「 も、 自分で 熱も ・ ・ ・ ないし ・ ・ ・ っ だから
はぐ 自分でできるから ・ ・ ・ っ いい ・ ・ ・ 。」
「 ――――――― 。」
「 ・ ・ ・ 修ちゃんは、お休みしてて? 」
そうか、わかったよ、と 言って病室を後にする
―――――― 無理を させてしまっていたのだろうか
頬を染め 当惑し微かに涙ぐんだ目で自分を見つめてきた 先程の彼女の顔が頭に浮かぶ ――――
全快までの果てしない長い長い道のりを恐れ
心の底で 彼女の回復を自分が急いてしまってはいなかったろうか
なんてことだ
――――――― 自分は揺るがない と 決めたのに
「 はぐ ・ ・ ・ っ! 」
「 しゅ、修ちゃん ・ ・ ・ ? 」
俺は再び彼女の病室のドアを開けていた
驚いた表情でこちらを見つめるはぐ
「 すまなかった! 」
「 オレが焦ったって仕方のないコトなのに ――――― お前に 無理をさせてた ・ ・ ・ 本当に 」
「 ――――― っ すまない!! 」
一気に だが 一句ごとに 全身全霊をかけて 彼女に謝っ―――
「 修ちゃんっ ! ! 」
「 !? 」
次の瞬間 彼女が胸に飛び込んできていた
「 ちが ・ ・ ・ ちがう、の 修ちゃんは悪くない ・ ・ ・ っ わた、私 ・ ・ ・ がっ 」
「 は ・ ・ ・ ・ はぐ? 」
予想だにしなかったはぐの行為に驚いて固まる自分の胸に 顔をうずめたまま彼女は
妖精のつぶやきかと思うほどの小さな声を振り絞り 言う
「 だ だって ・ ・ ・ 変、なの ・ ・ ・
修ちゃんに マッサージ ・ ・ ・ とき おか、おかしく ・ ・ ・ なる の 」
表情はわからないが 彼女の耳は真っ赤だ
「 さ、さわって ・ ・ ・ もらったとこ とか へ、へんな ・ ・ ・ 感じで びくっ、て するし
ちがう ・ ・ ・ さわってもらってるのと ちがう とこまで なんか ・ ・ ・ 」
「 はぐ―――――? 」
シャツの肩口付近を握り締めてくる彼女の手の震えは最高潮に達していた
「 声とか ・ ・ ・ しゅ ・ ・ ・ ちゃんの ・ ・ ・
なんか ・ ・ ・ もう 熱くって ・ ・ ・ 熱く なって ・ ・ ・ っ
お、おなかの 下らへん ・ ・ ・ が ぎゅー、・ ・ ・ って なるんだも ・ ・ ・ っ 」
「 ―――――――― は・・・ 」
俺は
それ以上言葉を紡がなくなった彼女の口から発せられる湿った熱を
只呆然として しばらく胸に感じていた ―――――
が、 ハッとして我に返り なんとか言葉を絞り出す
「 あ あああああのなはぐ ・ ・ ・ ? おおおおなかがぎゅーって なるなるなるのは、ホラ
おおおなかが減ってるとか ・ ・ ・ ・ 」
「 ちがう ・ ・ ・ っ!! 」
何か 大きな何かは 彼女により一気に否定された
彼女は 埋めていた顔を上げる
「 ちがう ・ ・ ・ の、 」
上気した表情 ―――― 赤い熱を纏った彼女の唇が
紡ぐ
「 修ちゃん ・ ・ ・ 」
カンビなる 思考停止の 合図
[終]