キスをするには身長が足りない。
腕を組むにも身長が足りない。
抱き締められても、それを返すだけの抱擁ができない。
なぜなら身体が小さいから。
休み時間に、質問にきた学生に答える修ちゃんの後姿にじっと視線を遣っていた。
年齢差に加えて、性格上からくる落ち付き方とか、温和な態度とか。
考えれば考えるほど憎らしい。
何が一番憎いかって、自分だけがこんなに子供な事だ。
あゆは、上背はあるし、抜けているところもあるけど皆に好かれるくらい可愛いし性格もいい。
話で聞いたことのある「リカさん」だって、どう考えても自分よりつり合う。
そんな中でが選んだのが自分だって、それは嬉しいことけど、疑問も残る。
なにせ、恋愛については全く自信がないから。
はぐは溜息を吐きながら、飲んでいたココアのマグカップをテーブルに置いた。
マンション以外で修ちゃんと一緒にいれるのは好きだけど、学校の時はなんだか嫌だ。
勿論、他の人とはなしをしているのを見るのが嫌だとか、そんな単純な理由もあるけれど、
いつもいつも、他の人と比べてしまう自分が居る。
選んでくれたのは修ちゃんなのに。
そう、信じる事ができなくなる。
「元気ない?」
花本がこちらに近づいてきた。
ノートを小脇に抱えて、にこりと口許が笑っている。
この人はやさしい。
だけど、それははぐだけのものじゃない。
「別に…。」
二人きりの時なら、こんな気持ちの時は甘えるんだけど、今は皆の前だから少し抑える。
そんな想いは、はぐの口からトゲトゲしさを含んだ言葉になって飛び出した。
「ウソ。元気ないだろ。…それともなに、おなか減った?」
『ウソ』は合ってる。
けど、おなかは減ってない。
ウウン、と首をヨコに振って、はぐは俯いたままで花本の顔を見ようとしなかった。
じっと床を見つめていたはぐの視界に、突然花本が現れる。
しゃがみこんだ姿勢ではぐの顔を覗き込み、「やっぱり元気ない」と一言。
それからそうっとはぐの手を取って、頬に小さくキスをくれた。
「修ちゃん」
教室の隅だからって、こんな事をしたら見られちゃうよ、とはぐは目だけで訴える。
余り大騒ぎをするとそれこそあやしいから。
けれど、花本はにこりとして動揺すらしない。
床の上に両膝をついて、はぐの首に腕を回し、ぎゅうっと抱き締めた。
「大丈夫。俺はお前が大好きだよ」
まるで超能力者のように、そう、言ってくれた。
教室で抱き合う二人に視線をくれる者は何人かいたけれど、それはごく微笑ましい光景に見えた。
だからきっと誰も気付いていない。
彼らの想いに。