俺は志望高に無事合格した。周りは「お前ならトーゼン」的視線で俺を見る。  
よくやったなぁなんて台詞は聞き飽きて、そのどれもに心はあまり篭っていないことをイヤってほど感じた。  
入学してすぐ、美術部に入部。  
理由は、勉強時間が確保できるから。ここの美術部は部員が少なく、おのおのが暗黙の了解で行動しているため自由度が高い。  
放課後の美術室は静かで、気持ちをリラックスさせるには最適だと思ったのだ。  
それでも美術部員であることには変わりなく、作品をたまに提出しなければならない。  
初めての中間テストを終えて、仕方なく筆を取っている、といったところ。でもそれは表向きだ。  
高校に進学してから覚えた油彩は、思ったよりも奥が深くて俺にとっては新鮮だった。  
描きかけのカンバスをイーゼルに乗せ、じっと眺める。  
まだ完全に乾いていない絵の具がてらてらとした光沢を放ち、美術室のきらきらした埃とともに目の前で踊っている。  
彼の描く絵は抽象画で、全体にふんわりとした雰囲気の漂う明るい色使いをしていた。  
タイトルは、女神。  
自分でも陳腐だし滑稽だと思うけれども、それが一番しっくり来た。  
描くのは俺の女神。  
年上の癖に、俺と変わらない笑顔を持っていたひと。あの雰囲気と独特の空気感を、このカンバスに再現したい。  
夏が終わるまでに仕上げて、あのひとに見せにゆこう。  
記憶の中の女神との違いを教えてもらいに。  
美術部に入ったということも、あのひとは知らない。驚かせてやろう。  
そして、俺自身を、俺という全てを知ってもらいたい。  
―さあ、続きを描こう。  
 

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