来客用の駐車場から見上げると、彼女のいる教室の部屋の明かりはまだ灯っていた。
すでに六時を過ぎていて学生の姿はまばらで、妙な静けさが校舎を覆っている。
ひたひたと、人気のない校舎を歩く。
「じゃあね、あゆ明日ね」
教師から小さい女の子が出てきた。山田さんの友達で、前に祭りの夜に会ったことがある。
少女が出て行ったのと入れ違いに、開け放たれたドアを軽く叩く。彼女はドアに背を向けて
座って、こちらを振り向かずに言った。
「なあにはぐちゃん、忘れ物でもした?」
「久しぶりだね、山田さん」
「!!」
思いっきり動揺して、山田さんが椅子から転げ落ちた。
「の、の、野宮さん、どうしてここに」
「近くの喫茶店の内装工事を頼まれてね、帰りに通ったらまだ明かりついていたんで久し
ぶりに顔でも見たいなと思って」
山田さんの顔が面白いほど真っ赤になる。多分、この間の事務所でのコトを思い出して
るんだと思う。思い出し赤面されると、オレもなんだか恥ずかしくなってくるけど。
「あ、差し入れ持ってきたんだ。みんなで食べな」
思い出して、オレは紙袋を彼女に差し出した。躊躇いつつも、おずおずとそれを受け取る。
中身を見て、表情が強張った。
「これ…」
「ああ、なんかおいしそうだったんで。ロールケーキと蒸しパン。なに、キライだった?」
「いえ。好きです。ありがとうございます。えっと、あの、お茶入れましょうか」
思いもよらず、山田さんの方からそう切り出してくれた。さっさと帰れと言われるかと
思ったので、驚いた。
「邪魔じゃないならお茶いただいていこうかな」
「じゃ、こっちどうぞ。和室の方に」
仕切られたふすまを開けると、六畳くらいの和室が突如として目に入った。靴を脱いで
上がりこむ。畳の感触なんて、ずいぶん久しぶりだった。やがて山田さんがお茶と切り分けた
ロールケーキを持って入ってきた。
「いいね、教室に和室があるのって」
「教授の趣味です。お茶のときは和室の方がいいって」
「確かに、落ち着くよね。最近は内装工事も和室っぽくっていうお客さんがおおくてね」
「ああ、だから私が頼まれるのも」
「そうそう。山田さんのデザインは特に評判いいよ」
そんなことないです、と言って山田さんは照れたように笑う。年よりも幾分幼く見える笑顔。
オレといる時は、そんな笑顔は滅多に見せてくれない。やっぱオレ、怖がられてるのかなぁ。
真っ赤になって慌てたり怒ったり膨れたりしてる姿もかわいいけど、やっぱり彼女には
天真爛漫な笑顔が似合うと思う。
ふと、会話が途切れる。とたんに山田さんは俯いてしまう。うーん、やっぱ怖がられてるな。
「どしたの、なんか話してよ」
「話って、私…」
「オレに色々聞いてよ」
彼女は小首をかしげ、何か考えてからおもむろに口を開いた。
「野宮さんて彼女いるんですか?」
「ゴホッ!!」
突然の質問にオレは食べていたロールケーキを詰まらせてむせてしまった。
「大丈夫ですか野宮さんっ?」
驚いた山田さんが隣にきて背中を叩いてくれる。
まったく…。まったくこの娘は!
「私、ヘンなこと聞いちゃいました?」
返事の代りに、彼女の腕を掴む。反射的に振り解こうと手を引く山田さんを力でねじ伏せ、
オレは彼女を抱きしめた。
「彼女いるなら、こんなことしない。好きでもない子に、こんなことしない」
「…ウソっ」
ぐぐぐっと、ものすごい力で押し返される。オレを見上げる顔が真っ赤なのは、
力を込めてるからか、そうじゃないのか分からない。
「野宮さんは大人だから、こんなこと平気なんでしょ?私の事からかって遊んでるんでしょ?」
「あのさ、山田さん大人っていうのを勘違いしてない?」
「そんなこと」
「オレは山田さんが思ってるほど大人じゃないし、山田さんが思ってる以上に大人って
真面目で不器用だよ」
一瞬力が緩んだ隙に、オレは再び彼女を抱きしめた。そのまま勢いに乗って押し倒す。
畳の部屋ってこういうとき便利だよな、と頭の隅で思った。どうでもいいが。
「じゃあ山田さんは、ずっとオレがからかってるんだと思ってた?」
「ハイ。でも今は…そうじゃないかもって、思ってます」
聞こえるか聞こえないか分からないほど小さい声で、山田さんが言う。顔が真っ赤だ。
目が合うと、さらに顔を赤く染めて自分の掌で覆ってしまう。
オレは、彼女の手の甲にキスをした。キスをして、舌を出してぺろりと嘗めた。
「ひゃッ!」
山田さんは驚いて、逃げるようにオレの腕の中で体を反転させた。だけど、背中なんて
前よりも無防備じゃないか。オレは髪の毛を掻き分け、そっとうなじに舌を這わせた。
彼女のさわやかなシャンプーの香りが鼻腔をくすぐる。
「あ…んっ。も、なん…で」
「なに、感じる?」
「いや…、あッ、あぁん…」
山田さんのかすかな、でも濡れたような喘ぎ声を聞いているうちに、なんだかこっちも
たまらなくなってきた。服越しにブラジャーのホックをはずす。
「あ!」
びっくりして身を起こしかけた山田さんを、強引に反転させて再び最初に押し倒したのと
同じ体勢にした。顔が上気して、息が少しだけ荒くなっている。
「この間の続き、しよ」
耳元でそう囁くと、山田さんはしばらくの沈黙の後コクンと頷いた。それを合図にオレは
彼女の唇を優しく包んだ。彼女ももはや抵抗はせず、黙って受け入れてくれる。舌で唇を
突付くと、おずおずと扉が開かれる。オレは彼女の内側に入り込み、自在に動き回った。
「ん、んんっ、んふっ」
山田さんが首に手を回してきた。しばらくは貪るように舌を絡ませていたが、やがて
疲れていったん唇を離した。互いにハァハァ荒い息をしている。
「なんか…眩暈がする」
「オレ上手いから」
やだぁ、と彼女が笑う。その口元は唾液が光っており、なんだかとても淫靡だった。彼女が
息を整えている隙に、オレはそっと服の中に手を侵入させ、先ほど外したブラの中に侵入し、
滑らかな乳房を指で味わった。
「あぅ…んっ」
途端に山田さんが仰け反り、かわいい喘ぎ声を上げる。彼女の胸は細い割にはずいぶん見事で、
形もボリュームも色も全てパーフェクトだった。と、不意に彼女の表情が曇る。
「どした?」
「あの、せめて、あそこのふすまだけでも…」
よく考えたら、俺たちは教室でコトに及んでいたのだった。
「この時間、滅多に人来ないけど、でも」
泣きそうな声を上げる山田さんに頷いて、いったん身を起こして「作業中・入室禁止」の
札をかけて教室のドアをしめ、ふすまもしめた。
「さ、これで大丈夫」
戻ると、彼女も身を起こしていた。俺は彼女の正面に座り、キスをかわしながらブラウスの
ボタンを外していった。驚いたことに、山田さんもおずおずと手を伸ばし、オレのシャツの
ボタンを外し始めた。
「だ、だって私だけ脱ぐのズルイじゃないですか」
顔を真っ赤にしながら震える手でボタンを外す、そんな仕草が愛しくて、抱きしめたくなる。
互いに上半身裸になると、山田さんは今更のように顔を赤くして両手で胸を覆った。
「なんで隠すの?恥ずかしいことないよ。綺麗だから」
それは、心からの言葉だった。肌は白く、彼女が作る陶器のように滑らかできめ細かい。
全体的にほっそりとして華奢な割には胸は豊かに膨らんでいる。我慢できずに覆いかぶさり、
頂点の突起ををでつまみ、唇に含んだ。
「ア・・・ッ!アァッ、ダメぇ…」
舌を使って丁寧に愛撫すると、彼女の口から堪えきれずに声がこぼれる。
ゆっくりと手を下腹部に下ろし、スカートを捲り上げて内腿をなで上げる。ビクン、と
彼女が跳ね上がる。足元のガードが緩んだ隙に、オレは彼女の足の隙間に入り込み、下着越しに
ではあるが、大事な部分に手を触れた。
「やっ、そこは…あ、あぅん」
山田さんが体をくねらせる。指でノックするようにその部分を確かめていき、何度か上下に
ゆっくりとこする。その度に彼女の声はしゃっくりのような声を上げる。しばらく続けていると、
次第に彼女の下腹部からは力が抜け、下着も湿り始めた。
下着を脱がそうと手をかけると、意外なことに彼女は自ら腰を浮かせてくれた。スンナリと
下着を脱がし、ついでにスカートも脱がせる。これで彼女は生まれたままの姿になる。しかし
もう恥ずかしがる余裕もないらしく、荒い息を吐きながら、ひたすらオレにしがみついてくる。
じかに下腹部に触れる。始めは掌全体で包み込むように、そして徐々に指で探るように。
すでにそこはじんわりと湿っており、オレの指を暖かく濡らす。
中指の先を彼女の中に入れてみた。
「ンンンッ!ンーッ!」
すると、白魚のように体を仰け反らせ、こちらが驚くほどの声を上げる。
「ゴメン、痛かった?」
「痛い…んじゃ、ないの…ッ、なんか、なんかヘン…。ン、あぅ…ン!」
ゼイゼイと息をしながら、彼女が喘ぐように言葉を繋げる。おそらく初めての異物感に
相当驚いたのだろう。
「力、抜いて」
彼女はコクンと頷いたが、それでもものすごい力を入れてるのが伝わってくる。緊張を
ほぐす為に頬やまぶたにキスをして、耳をねぶる。
「あふぅ…ン!あぁん」
蕩けるような声がして、強張りが若干解ける。その隙をついて、オレはもう少し深く、彼女の
中に指を侵入させた。彼女の中は指一本でもきつく、指以上の異物を受け入れる余裕は今の
ところなさそうだった。
中指を一番奥まで侵入させると、彼女は一つ大きな息をした。
「痛い?」
「…ちょっと。でも平気」
彼女の目じりにはうっすらと涙が溜まっている。彼女の気遣いが嬉しくて、強く抱きしめる。
「動かすよ」
「ン…、あ、あ、あぁっ、あ…!」
ゆっくりと前後に動かす。内壁を抉るようなその感触と、彼女の喘ぎ声がオレをたまらなくさせる。
気が付くと、かなり激しく指を出し入れしていた。
「あ、あああん!あん、あんんっ!」
山田さんの声が大きくなる。しがみつく背中に爪を立てる。そんなのはどうってことない。
彼女を狂わせる快楽に比べれば、痛みなどなんてことはないんだ。
「や…なんか、ヘンっ。止めて、いやぁ、怖い…ッ!」
そして彼女は一際甲高い悲鳴を上げて、がっくりと床に倒れこんだ。
* * * * * * *
「ん…」
山田さんの声がした。
「目、覚めた?」
彼女は目をこすりながら起き上がり、そして自分が裸であることを思い出して慌てて服を胸に当てた。
「の、野宮さん…」
「山田さん、指だけでイッちゃって、気を失うんだもんなぁ」
かあっと顔が赤くなる。ホント、からかいやすい娘だ。
「早く服きなよ。風邪引くよ。オレ後ろ向いてるからさ」
散々裸を見といて今更、という気もしないでもないが、一応そう言って背中を向ける。ホッとしたような
ため息が聞こえ、そのあと着替える衣擦れの音が聞こえる。
もういいですよ、という言葉に振り返ると、きちんと身づくろいを済ませた彼女がいた。顔はまだ赤い。
「なにか?」
「…なんで、その、しなかったんですか」
「したじゃん。山田さんイッたじゃん」
「そうじゃなくて、野宮さんは…」
だんだんと声が小さくなる。まあ、女の子の口から言うのはかなり恥ずかしいんだろう。盛りのついた
高校生じゃあるまいし、自分の欲望はそれなりにコントロールできるのだ。言わないけど。
真っ赤になって俯いている山田さんの頬に手を当てて、顔を上げさせる。
「大人はね、そんな無節操にやらないんだよ。ゴムもないのにできるわけないじゃん」
「……」
「そんな心配してくれるなら、今度また、続きしようか」
「し、心配って!」
「どこがいい?」
彼女は怯えたように目を伏せたが、やがてオレの耳元に唇を寄せて、そっと囁いた。
「横浜の、観覧車の見えるホテル」