胸が震えた  
 
偶然見かけた一組の男女  
自然に彼女の手を取った長身の男  
戸惑いながらも握り返す白い手  
俯き加減の君の横顔  
 
「あ、真山」  
 
「・・・・・・久し振り」  
 
扉からそっと中を覗き込む  
陶芸教室には彼女しかいないようだ。  
俺の存在に気付いた彼女は、突然の訪問に驚きながらも嬉しそうにお茶を勧めてくれる。  
教室内に設けられた畳の間に腰掛け、作業の手を休めた彼女も一緒にお茶を啜る  
 
「久し振りだね。今日はお仕事で寄ったの?」  
 
「まぁそんなトコ」  
 
「ふーん、そうなんだ〜。祝日なのに大変だね。って私も休日出勤なんだけどね」  
 
お互い大変だね。と言いながらいつもと変らない笑顔。  
・・・・いや、変ったのかな?  
ちょっと前までは笑っていてもどこかで別のことを考えているようだった。  
笑顔を向けると辛そうに目を反らしていた君  
一生懸命言葉を捜して眉を寄せる表情  
そのすべてが俺の曖昧で残酷な態度のせいだった。  
それが変っていた。この間までのぎこちない笑顔じゃなくて  
無意識に現れる柔らかい笑顔。  
黙り込んだ俺の目を覗き込みながら「どうしたの?」と無邪気に小首を傾げる仕草  
変ったのはどうして?  
 
不意に先日の光景が蘇る  
夕暮れ時、手を繋ぐ男女の後姿。  
 
「そういやさ、こないだ山田のこと見かけたよ」  
 
「え?そうなの?声掛けてくれたら良かったのに」  
 
「いや、ツレがいたからさ・・・・・あれってもしかして野宮さん?」  
 
「・・・・・う・・・うん。」  
 
真っ赤になりながら手元の湯のみに視線を落とす彼女。  
とても分かりやすいな。と思う  
すぐ顔に出る。そんなところが愛しいと思っていた  
ただ、その気持ちに応えることは出来なかったけど。  
 
「もしかして、付き合ってたり?」  
 
「そ・・・そんなんじゃないよっ!ただ時々一緒にご飯食べに行ったり、ドライブ連れて行ってもらったりするくらいで」  
 
「・・・・・それを世間一般では『付き合ってる』って言うんです!」  
 
相変わらず鈍いお嬢さんですねー!と彼女の束ねた髪を軽く引っ張る  
 
「そうなの?キャ!ごめんなさい!」  
 
昔みたいにじゃれ合う二人。彼女の中のわだかまりはもう無くなってしまったのだろうか?  
あの男のせいで?  
肩に彼女の柔らかい頬が触れる。シャンプーの香り。飾らない彼女らしい香り  
腕の中にその存在を感じて「ツキリ」と胸が痛んだ  
散々彼女を傷つけたのは自分だ。  
なのに、何故胸が痛くなるのだろう・・・・。  
 
「山田はさあ」  
 
言いながら彼女の結わえた髪を解く。癖のない薄茶色の髪がさらさらと肩に流れる  
 
「・・・・・真山?」  
 
俺の真剣な表情に気付いたのか訝しげな表情だ。  
 
「山田は相変わらず無防備なんだね。・・・野宮さんの前でもそうなの?」  
 
「・・・・?!何言って・・っ」  
 
彼女の抗議を封じ込めるように唇を重ねる。  
いつだって近くにあって、本当ならさっさと自分のものにできた唇  
そうしなかったのは、ずっと思いを寄せていた彼女の存在と俺自身  
何故、今この時、人気の無い学校の片隅で飢えたように彼女の唇を貪っているのだろう。  
 
「・・・・っ・・・!やっ・・・」  
 
抗議に口を開きかけた隙に唇に舌をねじ込む。  
歯列をなぞり苦しげに漏らされる呼吸の合間に更に奥へと舌を滑り込ませた。  
逃げ惑う彼女の舌を執拗に追いかけ絡めとる。  
胸叩き抗議する拳を両手で捕まえると、角度を変え更に深いものにする。  
人気のない教室で、絡み合う舌の水音だけがやけに耳につく。  
 
「・・・はぁっ・・・」  
 
彼女の顔をそっと盗み見る。苦しげに寄せられた眉、頬に流れる涙  
自分が今どんなに酷いことをしているか。解かってる。解かってるけど  
 
『山田が他のヤツを見ているなんて』  
 
なんて傲慢なんだろう。  
 
そのまま畳の上に押し倒すと、左手のみで彼女の両手を拘束し頭の上で縫い付ける  
思った通り強い抵抗にあい、繋がっていた唇が離れると、溢れ出した唾液が彼女の頬に伝っていた  
 
「なんでっ・・・!なんでこんなことするのっ!」  
 
「ごめん・・・山田。ごめん 俺が、俺だけが悪いから!」  
 
彼女の両手を縫いつけたまま、体重で彼女の身体ごと固定する  
再び唇を合わせると、こんどは空いた右手で彼女の身体を辿っていく  
こめかみから首筋に、肩からわき腹に  
彼女の抵抗を唇で封じ込めながら  
そのまま掌を滑らせて、Tシャツの裾から素肌に触れる  
柔らかい胸のふくらみにたどり着くと、ビクリと大きく肩が震えた  
 
下着を押しのけるようにして、直に膨らみに触れる  
唇は首筋を辿りその柔らかい部分に印を刻み込む。  
 
「ど・・・・どうしてこんなことするのよぉ・・」  
 
既に抵抗を止めた彼女の口からは弱々しい声しか出ない  
 
「私じゃダメだったんじゃないのぉ・・・」  
 
俺は答えない。だってその答えは自分自身が一番解からないのだから  
ずっと彼女に対しては自制していた。  
タカが外れただけかもしれないし、もしかした嫉妬かもしれない。  
自分勝手なのは解かっている。酷いことをしていることも  
ただ、もう止まれないんだ・・・  
 
彼女のすすり泣きに胸が張り裂けそうになりながらも  
俺は止まれなかった。  
下着ごとTシャツを捲り上げ、露になった白い胸に触れる  
仰向けになっても零れないそのたわわな胸に手を這わせ、やわやわと揉みしだく  
掌の中でカタチを変えるソレに俺は理性が音を立てて崩れて行くのを感じていた。  
やがて親指でその中心に触れると、彼女が息を飲んだのを感じた。  
片方は親指を人差し指で愛撫しながら  
もう片方は唇で啄ばむ。  
やがて舌の上で小さな蕾は存在を主張しはじめる。  
 
「・・・・・あっ・・・ああ!」  
 
彼女の小さく開かれた口からは熱を帯びた声が漏れ出していた  
 
「感じてるの?」  
 
「ちがう・・・っ!」  
 
「山田は俺でも感じてくれるんだ。野宮さんじゃなくても?」  
 
なんでこんなに酷い言葉がスラスラ出てくるんだろう。  
 
「俺のこと嫌いになっていいよ。嫌いになっていいから今は俺のものになって?」  
 
膝を割るようにして自分の足を滑り込ませる  
たくし上がったスカートの裾から手を忍び込ませると、すぐさま下着に手を掛けた  
 
「殴っても蹴ってもいいから。いくらでも罵ってくれていいから」  
 
急かされるように下着を引きずり下ろすと小さなソレは彼女の片方の足首のあたりで引っ掛かった  
 
「ごめん・・・・止れないんだ・・・・・」  
 
肩に顔を埋めるように吐き出すと、そのまま彼女の中心へと手を這わせた  
最初に柔らかなヘアーの存在を感じ、さらに奥に手を伸ばすと熱く潤ったものが指の腹に触れた  
一気に下半身に血液が集まる  
 
「・・・・・・・・なれないよ」  
 
すぐさまにも彼女の中に押し入りたい。熱く潤ったソコに己の欲望を押し付けてしまいたい  
目が眩みそうだった。彼女の女の匂いに狂いそうになっていた  
けれど、頭の上から聞こえた彼女の声に一瞬我にかえる  
 
「・・・・嫌いになんかなれないよ」  
 
「・・・・・・・山田」  
 
「あんなに好きだったんだもん。嫌いになるほうが難しいよ」  
 
もう止れなかった。  
再び唇を重ねると執拗に口内をかき回す。  
指先で彼女の中心に触れる。  
どんどんと潤いを帯びていくソコを中指と薬指でかき混ぜ、  
すでに拘束から解かれた彼女の両手が背中に廻されたのを感じると  
そのまま指をソコに埋めた  
 
「・・・・・・あぁん」  
 
「・・・・山田・・・・山田・・・山田」  
 
俺は馬鹿みたいに名前を繰り返しながら  
指先で彼女を犯しながら身体中に舌を這わせていく  
 
「・・・・真山っ」  
 
馬鹿みたいにお互いの名前を呼び合いながらあとは落ちていくだけだった。  
 
 
はぁはぁ、と上擦った息遣いだけがその空間を支配する  
たまに漏らされる甘ったるい彼女の声に満足を憶えながら、  
俺は唇で指先でその柔らかな身体を辿ることに夢中になっていった。  
執拗な愛撫を受け赤く染まった胸の頂きはツンと上を向き己が存在を主張している。  
俺は左右のソレを唇と舌先とで嬲りながら時々音を立てて強く吸う。  
するとおもしろいくらいに正直に彼女の身体がビクリと跳ね上がり  
下肢に添えられた指先には更に潤いが絡みつく  
 
「すごい。山田・・・・すごく濡れてきた」  
 
「そ、そういうこと・・・・あぁっ!言わないで・・・い・・・いからっ」  
 
二人の息遣いに水音が混じる  
彼女の中心から溢れた潤いを指の腹に擦り付けると、一番敏感な部分指を這わせる  
 
「・・・・・・っまや・・・まっ・・・あぁっ!」  
 
押さえつけた肢体が一際大きく飛び跳ねた  
親指でその場所に刺激を与えながら、中指を奥深くまで差し入れる  
そこはとても狭く、熱く内壁が蠢くように指をしめつける  
その感触に一気に己が下肢に血液が集中した  
気の遠くなるほど熱くて狭いこの場所に、己が自身を埋め込むことを想像する  
 
『頭が沸騰しそうだ』  
 
長い髪を振り乱しながら、ひたすら甘い責め苦に耐える彼女  
苦悶するように歪められた眉、上気した頬  
僅かに開かれた唇からはピンク色の舌が覗き、意味の無い言葉だけしか出てはこない。  
 
「あっ・・・・はぁはぁ・・・・んっ!なんだかヘンだよっ・・・!」  
 
右手で下肢に愛撫を与えながら、左手を彼女の頬に添える  
人差し指をその小さな口に含ませると、ぎこちないながらも舌で答えてくれた  
俺の下半身はすぐにでも爆発しそうで  
けれど焦ってはいけないと己を叱咤しながら彼女を快楽の淵へと押しやることに集中する。  
 
「はぁはぁはぁ・・・・・・・あっ・・・ああっ!」  
 
一瞬、彼女の身体が固く反り返る  
一瞬、差し込まれた指が強く強く締め付けられる  
一瞬、驚きに目が見張られたと思うと、やがて甘いあきらめがその瞳をよぎりゆっくりと伏せられる  
やがて、くたりと全身から力が抜けた彼女を両手で強く強く抱きしめて  
俺は気が狂いそうなほど幸せを感じていた。  
 
『幸せを・・・・・?このコを不幸にしたのは俺なのに』  
 
「山田?」  
 
「ん・・・・・・」  
 
身体の下、緩慢な動きで見上げてくる彼女の瞳は与えられた快楽で曇っている  
欲望に膨れ上がった下半身を意識しないように彼女の上から体重を退けながら  
俺は言葉を捜す  
 
「大丈夫か?」  
 
「・・・・・多分・・・・・。私どうなったの?」  
 
状況が飲み込めていない彼女の様子からして  
おどろく程狭かった彼女の「なか」も  
まだ彼女が誰のモノにもなっていないことが解かってしまった。  
同時に湧き上がってくる喜びと独占欲。なんて身勝手なんだろうか  
そんな俺をおまえは許してはくれないだろうけど  
 
「・・・・山田・・・。まだだよ」  
 
まだ終らないよ  
 
 
力の抜け切った彼女の膝を両手で思い切り押し広げると、「ひっ」と息を飲む声が聞こえた  
露になった中心は溢れたもので艶めいていて  
顔を近づけると執拗に愛撫を与えられた敏感な蕾が充血しているのがわかった。  
 
朝露で濡れた花弁のような彼女の一番女な部分を目の当たりにし  
舌で味わってみたいという誘惑にも駆られたが、血液の集中した己が分身がもう限界だと訴えている  
素早くジーンズをずらすと熱く潤うソコへ己が自身をあてがった。  
 
「・・・・・・あ」  
 
状況を察知した彼女が小さく声を漏らす  
溢れる蜜をなすり付けるようにして入り口を刺激すると苦しげ眉が寄せられた。  
 
「いくよ?」  
 
「真山・・・・・真山ぁ」  
 
彼女の混乱が手にとるように伝わってきたがもう止めるつもりはない  
両手で彼女の膝を掬い上げるように持ち上げると少しずつ腰をおとしていった。  
先ほどの愛撫のお陰で随分と潤ってはいたが  
想像以上に狭いソコに出来るだけ苦痛を与えないように気遣いながら  
じょじょに送り込んでいく。  
 
「・・・・ふっ・・・・ううっ・・・」  
 
「ごめん。痛い?」  
 
「ん・・・・・ううんっ・・・だ・・だいじょ・・・ぶ」  
 
「ごめん・・・・山田・・・・ごめんっ」  
 
こういった状況にはおおよそ似つかわしくもない台詞を繰り返しながら  
俺は何かに憑かれたように動きを早めていった  
 
小刻みな注拙を繰り返しながら、やがて行く手を阻む小さな抵抗に遭遇したが  
そこを解し、こじ開けるように動き続ける。  
更に肩に脚を担ぎ上げると、その柔らかな双峰にも手を伸ばしその頂にも刺激を与える  
痛みを堪えているのだろう。背中に当たる踵に力が込めるられるのを感じたが  
すぐにでも彼女の中で果ててしまいたい一身で動きを緩める余裕がない。  
 
「あっ・・・・・あっ・・・んっ」  
 
「山田っ・・・力抜いて・・・!」  
 
「できないよ」と涙目になっていたけれど、繋がった部分からは水音が聞こえ始めていた  
浮かされたようにもらされる意味をなさない言葉にも違った色が混じり始めていた  
 
『もう限界だ!』  
 
一気に奥まで貫くと、唇でその悲鳴を封じ込める  
 
「んんっ・・・・・・んんっ!!!!」  
 
背中に鋭い痛みを感じる。  
爪くらい幾らでも立てればいい。この俺のエゴに比べたら  
後から幾らでも罵ってくれていいから。俺を恨んでもいいから  
今だけ。瞬間だけは  
 
「・・・・・・・・山田!」  
 
汗ばんだ肩に額を押し付けるようにして、激しく腰を動かすと  
彼女の中に己が欲望を解き放った。  
 
押さえ込んでいた欲望が開放されると俺は一度だけブルっと身震いをする  
体中を駆け抜けていった目も眩むような快感  
その代償に俺が差し出したものは・・・  
「はぁはぁ」と頭の上から苦しげな息遣いが聞こえる  
けれど俺は掛けるべき言葉を見つけられないでいる。  
額を彼女の肩口に押し付けたまま、顔を上げることが出来ないでいる  
あんなに大切にしていたのに傷つけてしまった  
俺が壊してしまった  
 
彼女と培ってきたぬるま湯のような、けれど涙が出るほどに愛しい月日を  
最悪の方法で打ち砕いたのは自分  
ならばその責任を負うのも自分のはずだ。  
これは現実なのだから。  
目を瞑っていてはいけない。きちんと向き合わなくては  
ちゃんと目を開いて。彼女の目を見て  
 
 
 
 
 
ちゃんと目を開いて・・・・  
 
「・・・・・・・・・・・・・」  
 
開いた目に真っ先に飛び込んできたものは  
彼女の泣き顔ではなく、よく見慣れた天井と古びた照明で・・・・  
 
「・・・・・・・・・・夢?・・・・っていうか夢!!」  
 
ガバリと飛び起きると間違えなく自分の部屋で・・・。  
メガネを掛けてないぼやけた視界に映るのは乱れた寝具と枕もとに置かれたままの眼鏡  
 
「・・・・・・ってマジ?夢オチ?・・・・ってアリ?」  
 
あまりにもリアルな夢だった。  
本気で壊わしてしまったかと思った。もう戻れないのだと思うと本当に辛かった  
 
「ゆ・・・・・夢で良かった!!」  
 
頭の中だとはいえ、彼女にしてしまったことを考えるとあわせる顔がない  
それくらい彼女の身体も吐息もリアルで・・・・夢中になってしまった。  
壊われても構わないとさえ思って彼女を犯してしまった  
彼女の中に押し入り、欲望のままに腰を使い  
その中に全てを注ぎ込むまで・・・・・・  
 
「・・・・・・・・・・・マジかよ・・・この年齢になって・・・」  
 
思わず頭を抱え込む。  
その開放感もまた現実(リアル)だったのだ。  
 
「あ、真山」  
 
「おう。久し振り」  
 
久々に藤原デザインを訪ねた俺はそこで今、一番顔を合わせづらい人物に遭遇した  
「今日は今から打ち合わせでね」と説明する彼女の白い首筋や唇に無意識に目が行ってしまい心の中で己を叱咤する。  
 
「打ち合わせって?美和子さん?」  
 
「ううん。野宮さんと。ここで待ってるように言われたんだけど」  
 
何気ない風を装いながらもまともに彼女の顔を見ることができない。  
屈託のない笑顔を向けてくる彼女の長い髪は夢の中と同じ。襟足あたりでひとつに纏められている  
『結わえた髪を解くと、癖のない薄茶色の髪がさらさらと肩に流れて』  
一瞬、夢の中のワンシーンが蘇る。髪に触れようと右手は動きかけていて  
 
「ごめん。待たせたね!」  
 
「あ、野宮さん」振り返った彼女の髪が揺れる  
 
「それじゃ早速始めようか?・・・ん?真山じゃないか。随分と久し振りだな」  
 
伸ばしかけた掌をグッと握り締めると、俺は平静を装う  
 
「お久し振りです。あ、仕事の邪魔はしたくないんで早々に退散しますね。また今度ゆっくり」  
 
相変わらず人を見透かしたような笑顔。正直苦手だ  
ただでさえ心の中に爆弾を抱え込んでいるようなこの状況。早々に退散するに限る  
一瞬意味深なシルバーフレームの奥の眼差しにぶつかったが、それに気付かない振りをして  
俺はその場を後にした。  
 
「夢は夢だからな」  
 
「現実じゃない」と知らず呟いていた。  
いつか四葉のクローバーを探した河川敷をぼんやりと歩く。  
随分と西のほうに傾いた太陽がまっすぐに続く小道を、鉄橋を茜色に染め上げる  
 
「現実じゃない」  
 
呪文のように繰り返す。  
あれは夢だった。俺は誰も裏切ってはいない  
ただ気になる。  
今日顔を合わせた彼女と夢の中の彼女はまったく別人なのだろうか、と。  
夢の中のあの激しい思いは何処から来たのだろうか、と。  
 
つい先刻、彼らの元から立ち去るときに何気なく振り返った視線の先で  
彼が彼女の髪に触れ、何か言葉を囁くと  
ちょっと困ったように、けれど嬉しそうに見上げた彼女の横顔  
 
 
 
 
 
 
「ツキリ」と心が痛んだのもまた現実で・・・。  
 
 
 
 
 
終わり  
 
 

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