*****  
 
 
 それが何だったのか、考えてはいけない。考えるだけ無駄な話だからだ。それが何もので  
あるにせよそれはこの場所に“居た”し、それがどのような原理で行動しているにせよ  
それは“そのように行動した”のだし、“誰が悪いのか”という話になれば結局はお定まり  
の“誰も悪くはないが運が悪かった”という話に落とし込むしかないのであり──つまり。  
「──、……っ、ひ、……や……」  
 宝月巴という名の女性が、大体成人男性をやや超える程度の体長の、無数の指のない腕  
だか足だかそして壁や天井に貼りつくための植物の蔓を思わせる器官を持つ生白いぶよぶよ  
とした肉塊──ひと言で表すならば、触手、に捕獲され、恐怖の余り腰の抜けた身体を  
引きずられているのは。つまりは“運が悪かった”からだった。  
 
 抵抗する気、というものは、彼女の頭から根こそぎ奪われていた。それの異形を見た  
瞬間まず恐怖と嫌悪が先に立ち、足首を掴んで引き倒された時点でパニックになった。  
 床に打ちつけた腰の痛みと、ストッキング越しに感じる肉塊のぐじゅぐじゅした表皮と  
蠢く分厚い肉に混乱したまま動けなくなる。  
 かちかち鳴る己が歯の音を聞きながら、巴は力なく投げ出した自分の両脚から膝頭を  
登り太腿へと這い伝おうとする肉塊を唯喘ぎ見ている。白い額に栗色の髪の毛が落ちて  
貼りつく。首に巻いた赤いマフラーも、持ち主と同じく力なく垂れ下がる。  
 地方検事局主席検事という重職に就いていることもあり、普段は怜悧な、冷たささえ  
感じさせる容貌なのだが、今の彼女にその面影はない。理解の範疇を越えた現実に怯え  
混乱する女がいるだけだ。  
 それでも何とかして逃げようと後ろ手に手を突きにじるのだが、触手の方が速い。  
 故意にか偶然にか、スカートを捲りあげる格好で触手は進む。日に当たらない肌色の、  
太り過ぎたなめくじのような肉塊が女の身体を這う。  
 脚を覆うストッキングが、よじれ皺だらけのスカートが、肉塊から滲む粘液を吸って  
どろりと重く肌にまとわりつく。強烈な腐敗臭に巴の乾ききった喉から空えづきが洩れた。  
 ぴ、と。小さな音がして、巴の身体が強張り跳ねる。重量のある肉塊はびくともしない  
が、巴の動作は目的あってのものではなく唯の反射に過ぎなかった。  
 ぴりぴり化繊の弾ける音を立て、柔らかい触手の何処か硬い部分に引っかかけられた  
ストッキングが破れる。剥き出しになった肌は肉塊で覆われあっという間に見えなくなる。  
肌に直接沁み込む粘液は、腐った果実から零れる腐汁のように、微かなぬくみを持って  
いた。  
「──ッ?! っひ──!」  
 触手が巴の身体を登る。ゆっくりと、のたのたと。鈍重な動きは知性の低いイキモノの  
それで、恐怖するのは巴がニンゲンだからだろう。  
 意図が見えない。  
 このイキモノの、理由が見えない。  
 巴を捕縛し身体を這うのは何故か。このイキモノは、例えば巴を──考えたくはないが  
──“敵”とみなし殺そうとしているのか。例えば──もっと考えたくはないが──  
食べようと、しているのか。はたまた単にこのイキモノの進む方向に巴がいて道代わりに  
這っているだけなのか──全く分からない。  
 
 分からない、ということは、恐い。  
 恐怖と生理的嫌悪感とで巴は動けない。  
 これも、おかしかった。  
 確かに恐い。確かにおぞましい。けれど、例えば。どうにかして振り払うとか、その  
努力だけでもするとか、助けを求めて声を上げる、とか。そういった行動が取れても良い  
筈だった。  
 なのに出来ない。  
 何故か、出来ない。  
 涙を滲ませ首を横に振るだけで、他に何も出来ない。  
 何が起こっているのか分からない。──“分からない”ということは、恐ろしい。  
 触手の頭が巴の下腹部に乗る。ずるりと進む。足のない身を尺取り虫のようにたわめ  
緩ませ、上へ、上へ。  
 巴は悲鳴を上げた。  
 ジャケットの内側に潜り込む肉塊の感触に総毛立ち、ボタンを留めたままで限りのある  
隙間に無理矢理潜り込んでくる肉に圧迫され息を詰まらせる。触手は薄いインナーを滑り  
粘液を撒き散らし身をよじらせて突き進む。ジャケットの生地がみちみちと軋み、巴の  
鳩尾付近は強く押し潰された。  
 か、は、と、呼吸の切れ端が震える唇から洩れて、視界がぐらつき。  
 ボタン糸の千切れる音と共に苦しさから解放された。  
 それは同時に触手の進行を妨げるものがなくなったということでもあった。  
 必死で息つく巴の鼻先をむっとする腐敗臭が殴打し。  
「──、」  
 触手の先端が、巴の目の前にあった。  
 それは生白い、不健康な肌の色をしていた。太り過ぎたナメクジか、血をたらふく吸った  
蛭のようなフォルム。肉は自重で垂れ下がるほどに柔らかく、表面から浸み出す粘液で  
とろとろと光っている。先端の中心が少しだけ窄まっていて、穴が開いているようだった。  
その穴からも体液がとめどなく溢れている。強いにおいも。重苦しいにおいはその穴から  
していた。  
 におい。  
 腐敗臭、と、最初は思った。けれど例えば肉の腐る際の刺激を伴ったものではなく、  
もっと重い、甘い、果物が腐る時のような、甘い、唯甘い、暴力的なまでに甘い、鼻腔を  
突きぬけて脳そのものを侵すような、甘い匂いが目の前の触手からはしていた。  
(──)  
 巴の脳は。それを、“いいにおい”と捉えた。  
 巴は陶然とする。半開きの唇に微かに上気した頬に“いいにおい”の元凶が擦りつけられ  
半透明の体液で汚されるまで陶酔は続いた。  
 触手と頬との間に粘る糸が引かれ落ちて、ようやっと我に返る。  
 目を見開き思わず身を引く巴。だが、  
「な──や、嫌──!」  
 足が、腰が腕が動かせない。足と腰はまだ分かる。肉塊がべたりと乗っているからだ。  
しかし腕は。  
 巴の。床に突いた両の手は、何時の間にか伸びていた触手に絡め取られていた。外そうと  
身をよじるが、体勢と妙に力の入らない身体のせいで全く効果がない。どころか這い伸びる  
細い触手にジャケットを引きずり落とされる。剥き出しになった肩はがたがたと震えて  
いた。  
 
 悲鳴。  
 肉塊に隠れて見えない足におぞましい感触が絡みつく。柔らかくぬめって力強い、身体  
を縛めるものとは別の触手らしかった。  
 感触は巴の両の足の間を縫うようにして這う。膝のくぼみをなぞられた瞬間、「や──  
何──」ぞくりとした寒気が生まれ、粘液まみれの表皮と内腿が擦り合わされるとその  
寒気は一層強くなった。  
 寒気から逃げようと足に力を込める。込めようとする。動かない。思い通りにならない  
身体に恐怖と混乱ばかりが募る。寒気は今や足から腹の辺りまで拡がっていた。  
 否。  
 巴は何度も首を横に振る。  
 否。これは寒気ではない。脚を震わせ下腹部を、腹の奥を疼かせる熱を何と呼ぶのか、  
巴は知っている。  
 巴は激しく首を横に振る。熱に潤む瞳には否定してしきれない色がある。  
 違う。  
 そんなわけがない。  
 荒くなる呼吸も気道の中程が堰き止められる錯覚も速くなる鼓動も全身を巡る血が熱く  
なるのも腰から下がぐずぐずに崩れて動けないのもそれなのに触手が這うごとに痺れる  
ような刺激が腹の奥へと走るのも──「ちが、そんなわけが──! ッ、や、あ──ッ!」  
 言葉を重ねての否定は、見えない触手が濡れきった下着を掻き分け蕩けひくつく部位に  
触れたことでカンタンに瓦解した。  
 ぐちゃり、と、音。  
 濡れた肉と肉との間を進む重くぬめる音。  
 巴の背が仰け反った。鋭い寒気に似た快楽が秘所から下腹部、背骨を抜けて肺腑から息  
を押し出す。  
 甘ったるい嬌声に、涙を溜めた目が限界まで見開かれる。洩れた声を誰よりも信じられず  
にいるのは巴自身だった。  
 触手は入り口でのたくる。先端を潜り込ませようと躍起になっているようなのだが、  
いかんせん触手の肉は女の肉を貫くには柔らか過ぎて、熱く膨れた粘膜を擦ることにしか  
なっていない。  
 そんなもの、必死で快楽を否定しようとする巴には何の慰めにもならないが。  
 ぐちゅ、と、触手が僅かに引かれる。  
 ああ諦めたのか──安堵と、微かな、認めたくはないが落胆の気持ちに巴の眉が切なげ  
に寄り。  
「?! う、あ、ああッ──?!」  
 入り口を割りゆっくりと侵入するナニかに顎を反らせた。  
 巴からは見えなかったが、それも触手の一部だった。ぶよぶよとした肉塊の中に、管が  
通っている。管は周囲の肉と比べると多少の硬度と柔軟性を持っているらしく、肉塊の中  
から薄い肉と粘液を纏いつかせてもごりと鎌首をもたげ立ち上がり。巴のナカへと先端を  
潜らせたのだ。  
 管の直径はそれほどでもない。纏う肉を合わせても小指の太さあるかないかだろう。  
つるりとした表面は重なる襞の隙間をちゅぷちゅぷと潜ってゆく。  
 最悪だった。  
 
 犯される。女性としては最悪の事態のひとつだ。ワケの分からないモノに捕まる。人生  
でそうそうあることではない嫌なことだ。ワケの分からないモノに捕まって抵抗の術も  
無く犯される。いっそ正気なぞ手放してしまいたいくらいに受け入れ難い事態だ。しかも、  
嫌なのに、犯されているのに、「──う──そ──」入ってくる触手の細さに、物足りなさ  
を、感じて。「私──そんな、」無意識に腰をくねらそうとしている自身に気づいたと  
あっては。  
 巴の目が焦点を結ばなくなる。甘い腐敗臭から、下腹部の疼きから、この“現実”から  
逃れるため意識が散漫になる。  
 
 一方。肉塊はといえば、獲物の様子に頓着した気配は微塵もなかった。力を失い重みを  
増した女の身体も、うわ言を呟く唇も、異形であるそれには興味の対象となり得なかった  
のだろう。  
 侵入させた触手が、狭い場所に行き当たり、こつんと先端をぶつける。女の脚がぴくり  
と跳ねる。いちばん奥、というわけではなかった。きゅうきゅうと絡む襞が触手で割り開く  
には困難な様相となっていたからだった。  
 こつん、こつん、と触手は先端で道を探る。女の身体が揺れる。跳ねる。触手を包み  
潰すように襞が絡み、二種の体液が混ざり溢れる。  
 ここが限界、と。肉塊は悟ったらしかった。  
 今の機能ではここが限界。と。  
 だから。異形は次の行動に移った。  
 肉塊の表面にぼこりと瘤が生まれる。幼児の拳ほどの大きさの肉の塊は本体の上もぞもぞ  
震え。沈む。  
 と思えばまた表面に現れた。但し位置が異なる。最初生まれた場所から瘤はその身ひとつ分  
の距離を移動していた。  
 また沈む。また現れる。ピストンで押し出されるかのように、瘤は本体である肉塊の上  
を目的地目指して這いにじる。  
 そうして辿り着いたのは、一本の、長く伸びた触手の根元。触手に犯されひくつく濡れた  
肉のほど近くだった。  
 瘤が沈む。触手が二三度くねる。女はワケも分からぬまま喘いで蜜を零す。瘤が現れる。  
細い触手の、女に潜っていない部分が表皮をはちきれんばかりに膨らませる。小さな瘤だ。  
女の手でも握れる程度の少量の肉だ。その小さな肉の塊は小指程度の太さの触手に不格好  
にぶら下がり。  
 もごり。移動した。  
 女のナカへ。触手を伝い、やわらかい肉の塊を押し込んだ。  
 
「──?!」  
 新しい刺激に巴の意識は無理矢理引き戻される。浅い快楽に疼いていた場所に、膣口を  
広げ入ってくるモノがある。何かは分からない。巴からは見えない。  
 と。巴の上に乗っていた触手がずるりと落ちた。おそらくは退いてもこの獲物を逃がす  
ことはないと踏んだのだろう。必然触手に遮られていた巴の視界も広くなる。首を傾ければ  
今自分の下肢でナニが行われているのかもしっかり見えるようになる。  
 悲鳴は上がらなかった。上がったのは泣きじゃくるような嬌声だった。  
 巴の、どろどろに蕩け開き触手を咥え込んだ秘所に、ぶよぶよとした生白い肉の瘤が  
押し込まれる。異形の大部分と同様に瘤も柔らかい。自身の力だけでは女のナカに押し入る  
ことは叶わない。  
 
 しかし。その瘤が強い力で押し出され、触手という道に沿って進むのであれば。更に  
ひとつの瘤の後ろから別の瘤が幾つも幾つも連なり押され、後ろに戻らぬよう絶え間なく  
押し込んでくるのであれば。女のナカへと割って這入るには充分だった。  
「か、っは」  
 巴の秘所は、柔らかな瘤を受け入れる。じらされきった襞が瘤へ絡み瘤は耐え切れず  
押し潰され、巻き込まれてぐじゅりと粘液を吐き出す。ぬるい、ひりつくような刺激が  
生まれ、巴の身体は快楽と物足りなさとに震える。しかしそれだけでは終わらず次の瘤が、  
次の肉が胎に押し込まれ、徐々に版図を広げてゆく。横だけではなく、奥にも。触手では  
届かなかった場所にまで肉をぐいぐいと進めようとする。  
「ん、っく、あ、あ、」  
 巴の割り開かれた太腿がとろりと光る。肉塊の粘液と、巴自身の汗と、秘所から溢れる  
愛液を吸って、ストッキングの残骸が重く揺れた。  
「あ──ひっ! や、今、の、な──や──!」  
 巴の声が高くなる。腰が跳ねる。  
 幾つ目からだったか。瘤の様相が少しだけ変化していた。滑らかに丸かったはずの表面  
が大小様々の突起に覆われたものへ変わっている。規則性はなく、大きさは目でようやっと  
見えるサイズのものから小指の爪ほどのものまで。存在する場所も、ぽつぽつとひとつ  
ふたつ付いていたり、かと思えばびっしりと密集していたり。  
 共通しているのは、突起が全てある程度の硬度を備えていた、ということだった。  
 硬い、といっても金属や木材の硬さではなく、せいぜいが指にできたタコ程度であろう  
が。問題は、その程度のカタさのものが、しかも複数、蕩けきり敏感になった性器へ挿入  
され、充血し僅かな刺激にも反応するようになった内壁へ擦りつけられるとどうなるか、  
という話で。  
 答えとしては。腹の内側から生まれた快楽に身をよじりあられもない嬌声をあげる。と  
いったものだろうか。  
 気持ち好かった。敏感な膣内は水気の多過ぎる海綿体──あくまで、ようなもの、では  
あるが──で摩擦の痛みを完全に消した状態で押し広げられ、ぐにぐにと移動する瘤は  
熟れきった襞を優しくしかし圧倒的な質量で擦り、物足りなさに喘げば硬い突起が弱い  
部分を刺激する。  
「ひっ! あ、いや、やあっ! あ、う、ああああっ!」  
 悶える巴のナカへ、肉は間断なく送り込まれる。みちみちと拡がる孔口から垣間見える  
肉の量は、明らかに限度ぎりぎりだった。  
 舌を突き出し短い呼吸を繰り返す巴のまなじりから涙が零れる。痛み、からではない。  
少しでも痛むのならば、こんな目尻を下げ蕩けた表情はしない。  
 もごり。肉塊が蠢く。瘤を送るのを一旦止めて、もごり、もごりと身を動かす。巴の  
ナカに入った肉も、ぐちゃり、ぐちゃりと移動する。肉瘤についた突起も巴のナカを移動  
し襞を引っかく。  
 ごつん。と、巴のナカで突起同士がぶつかった。硬いふたつの突起物は寄せ上げられ巴  
の内側に押しつけられ。水泡を潰したときのように。薄皮を破り膿を飛び散らせた。  
「  」  
 膿の──膿? それとも別の種類の体液?──熱い、濃い液体が、粘膜に、触れた瞬間。  
「  」  
 巴は。  
 背を反らせ。脚を反らせ。  
 今まで聞いたことのないような叫びを上げ自分の胎が激しく収縮するのを感じた。  
 
 突起の潰れた場所を爆発的な熱が、快楽が突き刺す。「あぐ、ひ、い、ぎひいいいッ!」  
蠕動する肉塊がキモチイイところをねとつくカラダで擦り快楽を神経にすり込む。「やめ、  
やめでええッ! や、あ、あ゛あ゛あ゛あ゛ッ──!」胎内の別の場所でも同じことが  
起こっていた。ぶちゅ、と突起が潰れ熱い飛沫が降りかり灼けるような快さで殴打される。  
「いや゛、いや゛ああああッ、────?!」  
 収縮の圧で肉瘤が押し出される。  
 瘤には大きめの突起がついていた。その突起はねじれる肉につれ踊り、丁度巴の、真っ赤  
に膨れた秘芯とぶつかり。破れて、ねとりとした中身をぶちまけ、やわらかな肉瘤で包み  
潰した。  
「    、ッ、あ゛──」  
 快楽が、巴の脳の許容を超える。  
 巴は。複数種類の分泌液を溢れさせ、滑稽なほどみじめな姿勢で、絶頂を迎えた。  
「あ」  
 頂きは終わりとイコールではない。  
「 、っか、は、あ゛、あ゛、あ゛、」  
 肉塊が激しく蠕動する。巴の両腕を掴む触手が動き、びくびくと痙攣する背中を押す。  
巴は肉をまとう触手を咥え込んだままに、肉塊へと覆い被さる姿勢をとらされる。肉塊は  
動きを緩めず、思考を奪う甘い腐敗臭も甘い薫りを濃縮したかのような粘液の放出も止めず、  
女の身体をベッド代わりに受け止める。  
 ベッドの、否、肉塊の一部が盛り上がる。薄い皮を透けるまでに押し上げるのは、太い  
管と、管に繋がる何かの内臓めいたものだった。  
 臓物が膨れる。風船を膨らます子どもの頬を思わせる。  
 刹那の間を置き。  
 それは放たれた。  
 臓物から管へと勢いよく噴き出されたのは濃い粘度を持つ体液だった。固体にほど近い  
ソレが管を通り抜け。  
 巴に潜る、触手の細い管へと殺到した。  
 触手がねじれる。自らの許容量と明らかに釣り合っていない暴虐的な量の体液に身を内側  
から軋ませ、壊れる前にと恐ろしい勢いで体液をその発射口から吐き出した。  
 体液を注がれ膨れあがる触手を。触手の動きを。突き上げる剛力でブチ撒けられる、  
特濃の媚液を。全て受け止めたのは、気も狂わんばかりに悶えるオンナのカラダだった。  
 
 巴の耳にもう音は届かない。獣じみた自らの嬌声ばかりが鼓膜を聾する。  
 巴の目にもう色は映らない。唯々まっしろな光だけが視界を覆い尽くす。  
 巴の心は。快楽に焼き尽くされた、“宝月巴”は──。  
 
(おとうさ、ん……おかあ、さん……)  
 ずっと昔に喪った両親を呼ぶ。霞んだ脳裏に姿もおぼろな両親を見る。  
(……あかね)  
 たった一人の肉親の名を呼ぶ。自分がいなくなればたった独り残される妹の名を呼ぶ。  
此処にいるのが自分で、異形に犯されているのが自分だけで、残されるのが自分でなくて  
良かった。そう思う。  
(……)  
 束の間の逡巡があった。  
 女のナカを触手が掻き回し、かぼそい喘ぎが洩れる。発するはずだった思考を切り裂く。  
「……、……」  
 それでも彼女は。途切れ途切れにその名を呟き──虚ろに目を閉じた。  
 
 
*****  
 
 
おしまい。  
 
 

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