「アチ、アチチチッ」
病院の廊下を歩く一人の男。
その両手には、縁をつまむようにして持たれた二つの紙コップがあった。
何時もの何倍もの時間をかけ目当ての病室へと辿り着くと、
男はドアの前で困った顔をしていた。
(しまったな…どうやって開けたもんか…)
目の前を揺れる湯気に目を細め引き返そうとした時、突然病室の扉が勢いよく開いた。
中から姿を現したのは、最近何かと世話になるレイテと、
その旦那であるマッケンだった。
驚きながらもなんとかコーヒーを零さなかった男が、
安堵のため息を漏らしたのも束の間、レイテから手厳しい言葉がかけられる。
「おいおい…アンタ、ダメだよコーヒーなんて…赤ちゃんに良くないの知らないのかい?」
『先駆者の知識』に目を見開いた男は、
その背後にすっぽりと隠れてしまった短身の旦那を探す。
「勉強不足だな」
マッケンが頭を振りながら渋い声で追い討ちをかけると、
そのさらに後方から、ベッドに横になった男の嫁が言う。
「しっかりしてよ、未来のパパさん」
自分の未熟さを思い知らされた男は、何時もの癖で後頭部に手を伸ばそうとするが、
その手が塞がっていたことを思い出し、思わず苦笑い
思わず苦笑いを浮べた。
そして次の瞬間、何者かに背中を押された男は、
尻を突き出すように前のめりに倒れてしまう。
「なぁーにボケッと突っ立ってんだよ」
「キヨウさん、お花をお持ちしましたよ」
熱いコーヒーを頭から被った男が振り返った先には、ゾーシィとアイラックの姿があった。
二人はそのまま室内に入ると、ベッドの回りに駆け寄り楽しげな会話をはじめた。
男は顔をしかめながらも立ち上がろうとしたが、
さらに大きな衝撃がそれをさせてはくれなかった。
「なにやってんだ?こんなところで?」
抱きかかえた大きな熊のぬいぐるみから、ひょっこり顔を覗かせたキッドが不思議そうに首を傾げた。
たくさんの祝福。
それはきっと、どんな宿命を持った命にも等しく贈られるものだ。
-よし、終われ-