1ヶ月間の遠征から帰還したダリーは、休まることのなかった疲れを癒そうと帰って早々  
自室のベッドに寝転んだ。もう外は暗く、時計を見ると真夜中だった。長期間の任務はこ  
れが初めてという訳でもなかったが、ダリーには妙に長く感じられた。流石にこのまま眠  
るのはまずいと思い、重い足でクローゼットに近寄り、ラフな服装に着替える。その間に  
も違和感の原因を探って、最終的に行き着いたのはわかりやすい結論だ。双子のきょうだ  
い、ギミーとこんなに長い間離れたのは初めてだった。  
再度転がったベッドでうとうとまどろみ始めたところに、チャイムが鳴った。こんな時間  
に誰が。視線だけを向けてみるがドアを透視できるわけはない。仕方なく重い体を持ち上  
げてドアノブを回す。  
「よっ」  
「…ギミー?」  
現れたのは双子の片割れだった。  
 
「どうしたの?夜中に珍しい。」  
ダリーは自分の疲れなどそっちのけでギミーを迎え入れた。ひと月もの間離れたのは初め  
てで、生まれた時から一緒にいた分喪失感は激しかった。  
「いや…遠征どうだったかなって思ってさ。」  
互いにベッドに腰掛けながら会話を続ける。二人並んで座れるのはここくらいなものだ。  
「?ギミー、行ったことあるよね?」  
その時は二週間の遠征だった。こちらにしてみれば随分と長かったが、ギミーは直ぐに時  
間が過ぎたと言っていた。  
(…そっか。待つ方が長く感じるんだ)  
ダリーはギミーの手に自分のものを重ねると、視線を合わせてただいま、と言った。ギミ  
ーはビクリと体を固くして下を向いてしまう。  
「…どうし、」  
たの、と続くはずの言葉は中途半端な所で喉に押し返された。ギミーが自分の肩にダリー  
の頭を押し付けるように抱き締めたからだ。思いがけない行動に思考が停止している間、  
固い指先が細い首筋をそっと撫でる。ゾクリと背筋を通過する感覚にぎゅっと目を閉じた  
瞬間、ベッドに仰向けで倒れた。正確に言えば、押し倒された。  
「、なに…?」  
見上げて目に入ったギミーの表情は、見たことがないくらいに厳しい。耐えるように眉を  
寄せて、首筋にあてられた指先は震えている。  
「待って、ギミー。」  
指先が肌を滑る感覚に体を震わせながら、ダリーはじっとギミーの瞳を見返した。うろた  
えるように瞳を泳がせて黙り込む彼は、やはりいつもと違う。  
「ちゃんと教えて。どうしたの?」  
いつもの彼の真っ直ぐな目はそこには無い。逸らすか逸らさないか考えて、どうにかその  
位置を保っているような目。やがてギミーは深く息を吐いて、小さな声で言った。  
「………ダリーが、好きなんだ。」  
しっかりと、耳に届く声。  
「ちょっと離れて、寂しくて…側にいたいだけかと思ってた。ずっと一緒にいたからそう  
なんだろうって。でもダリーを見た瞬間全部吹っ飛んで、触りたいって思った。今までは  
こんなのなかったんだ。だから側にいれた。……どうしよう、ダリー。離れるのなんか、  
嫌だ…。」  
淡々と語られる双子の心境を、ダリーは予想だにしていなかった。離れて寂しかったのは  
自分と同じだ。しかしそれが、「触りたい」理由になるということはつまり。  
「…私もギミーが好きよ。でも、それとは違うのね。」  
少し悩んで、ギミーは弱々しく頭を垂れた。  
「――何がしたいのか、わからないわけじゃないわ。きょうだいでそれをするのが駄目だ  
ってことも知ってる、よね?」  
ギミーは泣きそうな表情を浮かべて、再度首を縦に振った。それを見たダリーは、困った  
ように笑いながらギミーの首に腕を回した。  
 
まくりあげた服を気にも留めず、震える手で胸に触れた。小ぶりなそれはしかし初めての  
感触で、何よりダリーのものだ。嬉しさがこみ上げてくる。ずっと触りたかった。きっと  
幸せなんだろうと思っていて、やはりそれは正解だった。ゆっくり手のひらで包んで、少  
し力を込めるとダリーは小さく声をあげた。  
「ご、ごめん…っ!…痛いか?」  
恐る恐る尋ねると、ダリーは首を横に振って違うの、と言う。  
「ちょっとびっくりしただけ。…初めてだからよくわからなくて。」  
続けて。優しく笑う彼女に嬉しさと申し訳なさが溢れて、それでも止まれはしない。首筋  
に顔を埋めると彼女の匂いがして、そのまま滑るように首筋を唇で辿る。持ち上げた服は  
邪魔だったが、それをどうにかするより触りたかった。胸に唇を寄せて、さっきよりピン  
クに色付いた突起を口に含むと、ブルリと腰が震えた。痛がるようなことはしてないはず  
だ。  
「…ダリー、気持ちいい?」  
「あっ…!!いや、喋らないで…!!」  
歯が当たるのか、眉を寄せて潤んだ瞳で言う。ドクリ、下半身に熱がたまった気がする。  
そのまま両手で片方の胸を包んで、舌先でそのまま刺激すると、突起は硬さを増した。い  
つのまにか胸を突き出すような体制をしていて、もっと触っていいのかと考えてしまう。  
歯が当たらないように舐めて吸って、ふともう片方を見た。  
「…な、見える?何もしてない方も同じふうになってる。」  
「っ、見たくない…!!」  
「?なんで」  
「……恥ずかしい、の…」  
震える声でそう言った。やっぱり涙が滲んでいて、泣かせたいわけじゃないんだと言いた  
くなるけれど場違いだ。だったら止めてあげれればいいだけで。  
(優しくするって決めたのに)  
体は正直で、早くひとつになりたがっている。けれどダリーが痛いのなんて嫌だった。こ  
の行為を許してくれているのだって、ダリーが優しいからだ。  
(オレと同じ気持ちなわけじゃない)  
それでも、続けていいと言ったのは、ダリーの声だった。  
「…ギミー?」  
急に動きを止めたギミーに、ダリーは恐る恐る声をかける。しかし彼の表情をみると同時  
に軽く笑い、そのままそっとギミーの眉間に触れた。  
「…なんだよ」  
「すっごいしかめっ面。」  
くすくす笑って、ギミーの頭を優しく撫でた。ギミーは呆気にとられた顔で、思わずじい  
っと彼女を凝視する。  
「怖いの、我慢する。ギミーにそんな顔させる方が、もっとイヤだもの」  
 
「ひぁ…っ!!やぁ、なに…!!」  
内股はしっとりと濡れていて、上から強く擦るとその度に声があがる。知識もあまり無い  
ままの実践に近いギミーは、この辺りに女性が一番気持ちいい場所があるというアバウト  
な受け売りをそのまま信じるしかなかった。  
「…どこだろ…ダリー、どこ触ると気持ちいい?」  
「ば、バカ!そんなの知らな、っつ!!!!」ビクン、と大袈裟に体が跳ねた。直前に行き来した  
場所をさぐると、またビクリと体が震える。  
「…この辺、か。ダリー、腰上がる?」  
「っ…む、り。足、力入らない…」  
こんな感覚、体験したことなどないのだ。ダリーはつま先からじわじわと浸食を始めた何  
かの正体がわからなかった。ただ、それが増える毎に触れられた箇所が熱くなることには  
気づいていた。ギミーは、ダリーの両足を持ち上げてショーツを外した。ダリーの抗議の  
声も聞こえるが、それ以外に方法なんか浮かばない。  
「怒んなって」  
「怒るに決まってるじゃない!!そんな、は、恥ずかしい格好…!」  
「でも脱がさないとできねーし」  
「それでも、だって…!!」  
真っ赤になって意見する彼女は、先ほどまでの様子とうって変わって元気そうだ。とうと  
う横を向いて縮こまってしまった。普段大人びているきょうだいの、こういう姿はなかな  
か見られないのでもう少しこのままでもよかったが、正直に言おう。限界が近い。  
「ダリー。」  
耳元でささやくと、赤い顔をさらに赤くさせて目線だけを向けた。  
「どんだけ痛いのか、とか、全然知らねえけど」  
「…」  
「我慢して、くれる?」  
 
 
「い、た…っ!」  
「っ…!」  
ギチギチと入り口が音を立てそうだ。指三本で慣らしたかいがあるのか無いのかわからな  
い。まだ半分も入っていない状態でこれだ。ダリーの、懸命に息を吐いて力を抜こうとし  
ている姿は、ギミーには嬉しくもあり気の毒でもあった。  
(オレが、痛ければいいのに)  
もちろんギミーも痛くないわけは無い。けれどダリーの痛みの強さは、握りしめたシーツ  
からもわかる。自分の比ではない。  
「…は、あ……もう、大丈夫よ」  
玉になった汗を額に作り、ダリーは弱々しく笑った。まだ少し進もうとすると、ダリーは  
ぎゅっと目を瞑って歯を食いしばる。じわりと血が滲んで、赤い唇はさらにその色を増し  
た。  
見ていられなかった。  
 
「あっ!!」  
途端に高い声が上がった。艶を含んだそれは明らかに今までとは違う。ギミーは彼女の下  
腹部にある充血した突起を指の腹で撫でた。さっきは少し触っただけだったが、それだけ  
でもここが「気持ちいい場所」なのはわかる。  
「や、そこ、やだ…っ!!」  
「オレもイヤなんだよ。」  
ただのわがままだった。行為の方法しか知らないくせに、こんなことを言うなんてばかげ  
てるけど。  
「お前だけキツいとか、絶対嫌だからな」  
 
「あ、あっ、」  
腰を揺する度に漏れる声は、快楽しか追っていない。痛みよりも快楽が増した。全て入っ  
た後、数回はゆっくりと抜き差しを繰り返したがもうそれも考えられなくなった。  
「っは、あ…あぁっ、ん、ぁん…!!」  
「はっ…ダリー、なんでこんなの持ってんだよ」  
くちゅくちゅ音を立てる結合部を見ながらギミーは言う。覆っているゴムの元所持者はダ  
リーだった。  
「…キヨウさん、が、持っておけ、って…あっ!」  
「…そっか。うん、よかった」  
胸を撫で下ろしたギミーに向けて、ダリーはきょとんと目線を向ける。  
「…?何が…」  
「彼氏用じゃなくて、さ」  
にこりと笑ったかと思うと、動きがさらに早くなった。ベッドがギシギシと音をたてる。  
それに比例するように、ダリーの爪先から、何かがまたじわじわと押し寄せてくる。その  
感覚は既に全身に渡っていた。  
「ん…っ」  
ギミーはダリーの唇にそっと指を這わした。その行為ですらダリーには快感となって返っ  
てくる。そういえば、キスは一度もしていなかった。じっとギミーを見ると、視線に気づ  
いたのか苦笑を浮かべて汗ばんだ髪を梳かれる。  
「…物欲しそうな顔してるぜ?」  
「っ!し、してないわよ!!」  
「これは、」  
再度唇に触れた指先は熱を持っていた。ゾクリと体が震える。  
「…好きなヤツにとっときなよ。なーんて、オレが言える立場じゃないんだけどさ」  
「ひ、あっ!!だめ、奥…っ!!」  
そのまま前かがみになって頬に唇を落とす。必然的に押し進んだモノは奥を突いた。痛み  
なんてとっくに感じなくなっている。肌がぶつかる音とかき混ぜられる水音に耳を塞ぎた  
くなりながら、それでも指は途切れそうな意識の支えを求めてシーツから離れることはな  
い。ダリー。不意に耳元で呼ばれた名前に、内壁がぎゅっと締まるのを感じた。  
「ゃっ、あぁああああっ!!!!」  
「っつ!!」  
ビクビクと小刻みに震える体。断続的に吐き出されるそれを受け止めて、ダリーは意識を  
手放した。  
 
 
ダリーの体を拭いた後、熟睡する彼女をただそっと見下ろした。優しくて愛しくて、大好  
きな彼女は自分を受け入れてくれたけれど。  
「…ごめんな、ダリー。ありがとう。」  
額にかかる淡い色の髪をそっと払い、さっきまで汗ばんでいたそこに唇を寄せる。次いで  
頬にキスを落とし、名残惜しそうに離れた。指は自然と彼女の唇の形を確かめるように辿  
った。  
側にいたいと思った。それが最初でそれが全てのはずだった。隣にいれば幸せで、手を繋  
げばそれが溢れて、抱き締めれば一緒に幸せになれると思っていた。  
(好きなヤツなんか、出来なきゃいいのにな)  
そうすればずっと、お前の一番はオレなのに。  
ギミーは軽く息を吐くと、そっと部屋から出て行った。  
 
 

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