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ニアは日課といっていいほど、庁舎で総司令として働く俺の元へ、毎日お弁当を届けにくる。  
いつものようにやってきた彼女が去った後、今日はたまたまその場に居合わせていたゾーシィたちにからかわれた。  
彼らはよく自分達の中を揶揄して遊ぶのだが、今日はなんとなく頭に残って気になっていた俺は、  
公務も終り橙の灯火が軒先にともるころ、からっぽのお弁当箱を玄関先でニアに手渡しながら、言った。  
 
「なぁニア。甘い声ってどんなのだとおもう?」  
「・・・・・・あまい?」  
きょとんと目を丸くした彼女は、「それってお菓子の名前かしら?」と小首をかしげる。  
思ったとおりの反応がかわいくてシモンが頬を緩めると、ニアもにっこり笑ってくれた。  
 
この照れくささにも最近はようやく慣れてきた。  
ぐんぐん発展するカミナシティでの暮らしを見守るという、総司令の仕事に忙殺されても、  
このあったかい気持ちにどれだけほっとすることか。こんな気持ちで日々を暮らせる街。  
俺だけじゃなくて、カミナシティに住むみんながそうであれるようにと思う。  
 
「なんか今日、ニアがくると俺の声がいつもと変わるって言われてさ」  
「?でも私はシモンの声、毎日違うと思います」  
「え、そうなのか?」  
自分としては無意識だったので意外だ。甘い声とか本当に出してるんだろうか。  
今度は俺が目を丸くすると、ニアは嬉しそうに言う。  
 
「ええ!お弁当を持っていく時は、ちょっと子供みたい。出逢ったころみたいな声で懐かしくなるわ」  
(・・・まぁ、いつのまにやら声変わりもして、背だってぐんと伸びたしなぁ。)  
「それに二人でお部屋にいたりくっついているときはちょっと低くて・・・男の人の声」  
 
そしてニアは何か思い出したのか、恥らったのか。  
からっぽのお弁当箱をそれこそ出逢ったころより女性らしく膨らんだ胸にむにっと抱いて、頬を赤らめた。  
 
「ベッドの中で内緒話のときは、くすぐったくて・・・」  
「わぁーっ!!すすストップ!げ、玄関先でこの話題はまずいんじゃないかな!ニア」  
「・・・ごめんなさい」  
ニアは俺の必死さに失言があったのかと気づいて、口をつぐむ。  
タイミングよく空気を読んだ風が俺の火照った首元を撫でるとともに、ニアの深いスリットにもぐりこみ、  
ちらりと白くすらりとした太ももを覘かせた。  
 
 
・・・・・・・・・待て。待て、俺。べつにニアは誘ってない、そのはずだ。  
そうだそうだ、今日はお弁当箱を返すだけのつもりじゃなかったっけ。  
疲れてたはずだよな、うん明日も仕事は山盛りだしな。  
 
そうやって俺が必死にかけたストッパーを、いつだって彼女はいとも簡単に外してしまうのであった。  
「えっと」と言いよどむニアは懸命にこちらを見上げ、色付リップクリームのしっとり光る唇の間から  
薄明かりに可憐な舌をちらつかせて、きらっと輝く瞳で言う。  
「でも、どのシモンもシモンだから。すきよ!」  
 
・・・・・あぁもうものすごく泊まりたいニアのやらしい声聞きたいエロくてごめん、だって俺も男なんだ。  
 
「!? シモ・・・んんっ・・・・・・」  
なるべくできるだけ、突然じゃないように押し付けた唇と、忍び寄る欲と舌で、俺は少し苦いリップを舐め取る。  
我ながら不器用なキスだったが、それでも応えはじめた彼女の唇に煩悩がもう爆発しそうだ。  
ニアの声ごと吸い尽くそうとちゅ、ちゅ、と音を立てた。それでもくぐもった声が漏れる。  
 
おいおい、玄関先がどうのって言ってた俺はどこへいった?  
そう自分に問いかけると、呆れたことにニアを抱いてなお余る片手が、かってに後ろ手で扉を閉めた。  
・・・・・・・・なんと都合の良い。  
じり、じり、とニアを後退させ、彼女の手からコトンとお弁当箱が滑り落ちたところで、はっとして息をつく。  
 
「はぁっ・・・・」  
息苦しさからか、ニアは荒く吐息をつくと、もう、と少し膨れて恥かしそうにうつむいた。  
「・・・・・・・・・ごめん。」  
苦笑いで謝ると、ニアはいつもと違うちょっと低い声で、襟元を持ってぐいっと引き寄せた耳元で甘えた。  
 
「玄関先じゃ、やだ」  
 
(省略されました。)  
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