−*−  
 
超銀河ダイグレンが軋みを上げている。月と同じ大きさを誇るこの超々弩級戦艦が超重力に引かれて悲鳴を上げる。  
元凶となっているデススパイラルマシン破壊のための超螺旋弾による第一波攻撃は失敗した。  
これでは第2波の成功も期待できないだろう。ならば誰かが超螺旋弾を抱え、直接攻撃する他に手段は無い。  
現在、スペースキングキタンへの弾頭取り付け作業が急ピッチで行われている。  
 
「俺も一緒に行くよ」  
 
そのとんでもない妹の発言にキタンは固まる。この妹は何を言い出すのか。  
自分は今から間違いなく命を落とすというのに。  
 
「おまっ、何言ってやがんだ! 自分が何言ってるか解ってんのか!?今からデススパイラルマシンに突っ込むんだぞ!?  
どうやったって生きては帰ってこれねぇんだ! そんなとこにお前を連れて行ける訳無ぇだろうが!」  
 
キタンは兄として妹を死に戦に行かせる訳にはいかなかった。自分は黒の兄妹の長男であり、家族の長である。  
家族を守るのは自分の役目。それに妹を巻き込むなど本末転倒。  
その時格納庫内に轟音が響き渡る。どうやら超高圧力に耐えかね、船殻に穴が開いたらしい。  
もう幾ばくも時間は無い。  
 
「いーじゃん。兄ちゃんだけじゃ心配だぜ。1人より2人、そっちの方がきっと成功すると思うんだけどなー」  
 
あくまでキヤルはいつも通りである。それこそこの出撃の意味を理解していないとでもいうように。  
今も超高圧空間という名の波が艦内に侵入する音が間断なく続く。  
 
「いいか、もう一度言うぞ。お前はここに残れ。んで絶対に生きて地球に帰るんだ。」  
「えー、でもさー、姉ちゃんたちに何て言われるか分かんないよ」  
「とにかく駄目なものは駄目だ! 黒の兄妹長男キタンとして末っ子キヤルに命令する!  
お前は残れ! そして生きて未来を手に入れろ! もう一度言うぞ、これは命令だ!」  
「…………」  
 
事の重要性を全く理解しない妹にキタンはイラつく。何故分かろうとしないのか。  
人柱になるのは自分だけでいい。ただそれだけの事だというのに。  
妹の肯定の言葉を待っていると、当の妹は黙りこくってしまった。  
様子が何やらおかしい。  
 
「……なら…ちゃんは……なる……よ……」  
「あン? 何だって? しゃべるならもっと大きな声でしゃべってくれ」  
 
ボソボソと話す妹はますますおかしい。今は時間が無いのだ。一刻も早く出撃しなければいけない。  
しかし、その言葉にキヤルは感情を爆発させる。  
 
「…なら兄ちゃんはどうなるんだ、って言ってんだよ! 何だよ、 自分は死んでも構わないってのかよっ!」  
「キ、キヤル…」  
 
先程まで何も考えていない能天気そのものだった妹の突然の豹変にキタンは気圧される。  
周りの喧騒も、騒音も耳に入らない。  
 
「さっきから聞いてりゃ、俺が行く俺が行くばっかでさ! 置いていかれる俺の気持ちなんて全然考えてないじゃん!」  
 
そう叫ぶ妹の言葉と、その目に光るものを見たキタンははっとなる。身内が死に行くというのに平然といられる者がいるだろうか。  
自分は、ただ兄をおもんばかって気丈にも怖がるまいと振舞っていた妹の気持ちを傷つけてしまった。  
 
「俺だって死ぬのは怖いよ! 当たり前じゃんか! でも兄ちゃんが死ぬのはもっと嫌だ! それなら俺も一緒に行って死んでやる!」  
 
キヤルは能天気という仮面を剥ぎ取り、己の生の感情をキタンに叩きつける。  
自分にとって兄を失うことがどれだけ悲しいのか、そしてどれだけ怖いのか。キヤルは泣き叫ぶ。  
 
「すまねぇキヤル…。確かにお前の気持ちを考えてなかったな。…でもよ、やっぱお前を連れて行くわけにはいかねぇよ。  
俺はお前達には生きていて欲しいんだよ。だから…、頼む」  
 
キタンは頭を下げる。妹に死んで欲しくはない。この言葉に嘘偽りは無いのだ。  
その時、自分宛に通信が入る。もう時間だ、これ以上問答に時間は掛けられない。これ以上は超銀河ダイグレンが持たない。  
だがキヤルは一向に引こうとしない。  
 
「兄ちゃんは分かってない! 俺は兄ちゃんがいないと嫌なんだ! 兄ちゃんのいない世界なんていたくない!  
ずっと兄ちゃんと一緒にいたい! 兄ちゃん無しじゃ生きていけない! 俺は…俺は…、俺は兄ちゃんが好きなんだよ!」  
「俺だってお前のことは好きだ。でもな…」  
「違う、そうじゃない! 俺は兄ちゃんとしてじゃなくて1人の男の人として好きだって言ってんだよっ、この鈍感兄貴っ!」  
 
−*−  
 
結局、キヤルはついてきてしまった。散々泣き喚いて縋りつき、キタンとしては降参するしかなかった。  
おまけに涙交じりのキスまでされてしまった。妹に好かれるのは嬉しいが、こんな展開になるのは勘弁して欲しい。  
とはいえ今更文句を言った所で始まらない。もう引き返すことは出来ないのだ。  
これが失敗すれば自分も妹も、ダイグレンの仲間も、地球に住む人々も皆死ぬ。それだけは避けなければならない。  
 
「ったく。お前のせいでキヨウたちに会わせる顔が無くなっちまったじゃねーか」  
「仕方ない、仕方ない、運命だと思って諦めよーぜ兄ちゃん」  
「ヤレヤレ、これから死ぬってのに緊張感の無いこって」  
「いいじゃん、俺たちらしくってさ」  
 
 
先程まで泣き喚いていたキヤルはすっかり元に戻っていた。己の気持ちを吐き出して楽になったらしい。  
ちなみに現在キヤルはキタンの膝の上に座っている。キタンがキヤルンガが無いからお前の乗る場所が無いぞ、と言うと、  
キタンの上に座るから別にいい、と言う答えが返ってきたのだ。  
結果、二人三脚状態で機体を操っている。  
 
「こうなっちまったからには仕方ねぇ! 覚悟決めろよキヤル!」  
「おっけー! まかせて!」  
 
スペースキングキタンはダンガンメン形態を解除、ガンメン形態になると、超螺旋弾弾頭をデススパイラルマシンを取り巻く螺旋変換フィールドに突き刺す。  
すると、フィールドは一時的に消失し、遂にデススパイラルマシンがその姿を眼前に曝け出した。  
こうなれば、後はミサイルを撃ち込むだけだ。キタンは発射しようとトリガーを引くが一向に発射されない。  
モニターには一面エラーの赤文字。超高圧力により、全てのミサイルが発射不可になっている。  
そしてスペースキングキタンそのものも、圧力に耐えかねひしゃげていく。  
 
「糞ぉぉぉ! 肝心な所でぇぇぇ! …ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!!」  
 
スペースキングキタンは爆散した。結局キタンたちは力及ばなかった。  
最後の希望が潰えてしまった。もうこれ以上は超銀河ダイグレンとて持たない。みんなが絶望しかけたその時、爆発地点から1つのエネルギー反応が現れる。  
それはスペースキングキタンの中のキングキタンであった。  
 
「「まぁぁだ、キングキタンが残ってるぜぇぇぇぇ!!」」  
 
キタンとキヤル、二人の声が重なる。  
 
「お守り代わりに拝借してきたグレンラガンのドリルゥ、使わせてぇ、貰うぜぇぇぇぇぇ!」  
 
キングキタンの背中に背負ったドリルを手に装着する。そしてコクピット内でキタンが猛り、雄雄しい雄叫びを上げる。  
 
「「こいつはシモンの! 大グレン団の! 人間の! いや、この俺たちの魂だ!  
てめぇ如きに食い尽くせるかァァァァァァァ!!!」」  
 
二人の叫び声と共にボロボロに傷付いていたドリルが再生し巨大化する。それは正にグレンラガンの必殺ドリル。  
この土壇場においてキタンとキヤルは螺旋力に目覚めたのだ。  
 
「「食ぅぅらえぇぇぇぇぇっ、  
 
   キィィィィィングキタァァァァァンッッ  
 
     ギガァァッ、ドリルゥゥ、ブゥゥゥゥゥゥゥレイクゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」」  
 
キングキタンのギガドリルは遂にデススパイラルマシンを貫いた。  
しかしキングキタンもまた、その爆発に飲み込まれ、消滅していく。  
 
「…兄ちゃん、最後に兄ちゃんからキスしてくれない?」  
「……まあ、最後だしな。ホレ、顎を上げな」  
「ありがと、兄ちゃん…。んっ…」  
 
キタンがキヤルに口付けをするや否や、キングキタンは完全に崩壊し、粒子1つ残さずこの世界から消滅した。  
 

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