*本編3部と4部の間くらい  
 
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リーロンを呼んできてくれ、とシモンに頼まれて超銀河ダイグレンの整備施設に向かった。  
アンチスパイラルとの最終決戦を前に、せわしなく機材の搬入を行っているスタッフを横目に、  
ヨーコはグレンラガンの置かれた整備ユニットにまっすぐ向かった。  
ロンは暇さえあれば大抵ここに来て機体の最終調整を行っているためだ。  
 
「わかったから、これ以上近づくんじゃない!」  
ヨーコの予想通り、ロンはいた。  
グレンのコックピットハッチを開いて中にいる誰かと話をしている……というか、何やら揉めている様だった。  
「あら、出力のマニュアル切り替えはコックピットの中でしかできないのよ……ちょっと失礼。」  
「どさくさに紛れて膝に乗るな!」  
「大人しくしていないと作業できないわよ……意外と座り心地がいいのね。」  
話し相手は先日グレン団に入ったばかりのヴィラルらしい。  
姿は見えないが、逃げ場のないコックピットで追い詰められているようだ。  
「……ロン、シモンが呼んでいるわよ。」  
あまりにヴィラルの必死な様に、ヨーコは見かねて助け舟を出す。  
「わかったわ、しばらく時間がかかるから休憩でもして待っててね。」  
ロンはチャオ、と別れの挨拶をしてクネクネと走り去った。  
 
その姿が見えなくなると、中の獣人が安堵のため息を漏らした。  
「アンタも大変ね。」  
グレンラガンから降りたヴィラルに水の入ったボトルを渡す。  
ボロボロのマントを纏った長身の獣人は一瞬戸惑ったが、礼を述べて水を飲んだ。  
時計を見ると既に正午を過ぎている。  
「お昼はまだなんでしょ?食堂に案内するわ。」  
「俺は別に食わなくても構わな……」  
「昨日からずっとグレンの中だと気が滅入るでしょ、気分転換よ。」  
反論の余地を与えずにヨーコは、獣の太く逞しい腕をぐいぐいと引っ張っていった。  
 
 
共に戦う同志に対しては、非常に寛容な態度で臨むのがグレン団という集団であるらしい。  
先程もガンメン乗り達が、よぉと軽く手を挙げて調子はどうだの頑張れよなどと声をかけてきた。  
(獣人の感覚としては)つい最近まで敵対関係だったのに、因縁だ仇だといったことを気にする気配もなく。  
ヴィラルは獣人にもかかわらず、ごく自然にグレン団の仲間として受け入れられた。  
 
「整備班は睡眠時間削って作業してくれているみたいなのよ。」  
案内された食堂は昼時なのにガラガラだった。  
「手伝ってあげたいんだけれどね……でも休んでろって逆に言われちゃってさ……」  
目の前の威勢のいい人間の女も例外ではない。  
先ほどからこちらが黙っていることなど気に留める様子もなく喋りかけてくる。  
トレーに食事を乗せて席につき、最後に食べたのは刑務所の飯だったか、などとヴィラルは考えをめぐらせる。  
食べようとしてトレーの上にフォークがないのに気付く。  
と同時に、すっと目の前にフォークが差し出された。  
「さっき取り忘れていたでしょ。これ、アンタの分。」  
「……。」  
このまま犬食いする訳にもいかず仕方なく受け取って、そのまま誤魔化すように食べる。  
そんな様子をヨーコは興味深そうに眺めていた。  
「ふぅん、意外と抜けているところもあるのね。」  
からかいなどではなく、ただ純粋に驚いている口調だった。  
ヴィラルは黙々と食事の手を進める。  
「そうそうさっきシモンがね、あんたのこと心強いって褒めていたわよ。」  
「……奴はどこに行った?」  
「ああ見えても会議とか引継ぎとかで昼間は忙しいのよ。」  
ヨーコはパンを口に運ぶ。  
「で、あんたの面倒見るように言われたの。」  
「……。」  
「なによその嫌そうな顔?」  
ヨーコはぐいっと身を乗り出して言う。  
「言っておきますけど、あたしはロンに代わってもらっても別にいいんですからね。」  
ヴィラル顔から血の気が引き、遠目から見てもわかるほどに全身の毛が逆立った。  
フォークを取り落とし、カシャーンという音が響く。  
「冗談よ。あたしがちゃんと面倒見るから、ほら元気出しなさい。」  
ヴィラルの絶望に近い動揺を見て、ヨーコはすぐさまフォローした。  
 
「着替え。」  
「は?」  
食後、ヨーコがどこから持ってきたのか袋を抱えてヴィラルに渡した。  
「レディの前でいつまでも同じ服着てんじゃないわよ。」  
ボロボロの埃っぽいマントを指差す。  
「それ、洗っておいてあげるから今のうちにシャワー浴びてきなさい。」  
はいこれも、とバスタオルも渡して何か文句を言いたげなヴィラルをシャワールームに押し込んだ。  
 
「意外と世話焼けるのね。」  
ふうとため息をつきヨーコは扉に背を向けて食堂に戻って、ライフルの整備を始めた。  
手際よく愛銃を解体し、埃を払って磨り減った部品を交換して、再び組み直す。  
布で銃身を磨き、最後にスコープを覗いて仕上がりを確認する。  
「そんなもの、アンチスパイラルとの戦いでは何の役にも立たんぞ。」  
ジーンズと麻のシャツに着替えたヴィラルはいつの間にか食堂に戻ってきていた。  
スコープから目を外し構えたライフルを降ろす。  
「ずいぶん長風呂だったじゃない。溺れているかと思ったわよ。」  
ヴィラルの視線はよく手入れされたライフルに向けられていた。  
「お守りみたいなものよ。メンテナンスは出撃前の習慣。」  
地上に出たときからずっとそうなの、と軽く掲げて見せた。  
「……俺が極東方面部隊を指揮していた頃、お前達がガンメンを奪う前の話だ。」  
少し間をおいてからヴィラルが口を開いた。  
「ガンメンに乗って出撃した兵がある日、身一つで帰還したことがあった。  
 人間の村に突っ込んだ後、突然ガンメンが止まったと言ってな。  
 その時は故障したんだろう、と誰も気に留めなかったが。」  
ヨーコは訝しげにヴィラルを見る。  
「しかしそれからというもの、出撃した先で故障するガンメンが続出した。  
 事前の検査で問題なかった機体ばかりだった。時には新品の機体も故障した。  
 それでこの現象は異常だという判断が下され、稼動しなくなったガンメンを持ち帰らせたんだ。」  
「それで?」  
「原因を探ってみたら、動力を全体に供給するケーブルが見事にぶち抜かれていたんだ。」  
それ以外の部品はほぼ無傷でな。メカニックは驚いていたよ。  
 装甲の僅かな隙間を狙い、ケーブルを一発の弾丸でぶち切るとはなんて器用な奴だとな。  
 兵を殺めず機械を壊す人間の話を聞いた俺の上官は、敵ながらあっぱれな奴だと笑っていたよ。」  
フッとヴィラルは笑った。  
「まさかこんな所でその犯人に会えるとはな。」  
 
ヨーコはほんの少し頬を赤らめ、ぷいっとヴィラルから視線を外した。  
「……褒めるならもっとマシな褒め方ないの?」  
 
(省略されました。)  
 

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