私は彼らに会う前の出来事をほとんど忘れてしまった。  
両親の顔を覚えていない。ただ父親は冷たく、私はそんな父親を怖がっていたのは覚えている。  
だから私は親の愛情というものを知らなかった。  
でも親の愛情は知らなくとも、家族の愛情なら十分過ぎる程に知ることができた。  
今でも忘れることのないあの記憶―  
 
-*-  
 
私は村人に厄介者扱いされていた。その頃は幼かったので理解できなかったが、  
向けられる悪意は確かに感じられた。もっとも地上から迷い込んできた男が置き去りにした  
子供に関わりたくないのは分からないでもない。  
後に聞いた話によると、彼らは村に呪いがかかると恐れていたらしい。  
バカバカしい。と一笑に伏すことができるのはその恐怖を乗り越えたからだろう。  
ともかく、幼い私は村人も、地上の呪いもどちらも恐ろしかった。眠る家も無く、隠れる場所を探してそこで眠った。  
 
その日も地震の為に数人が死んだらしかった。私は村の子供達に疫病神と責められ、石を投げつけられた。  
逃げることも出来ず、私はうずくまり恐怖に震えているしかなかった。  
泣きべそをかきながら、お願いやめて、と懇願していると、誰かが私と子供達の間に割り込んだ。  
「おいコラァッ!てめえら何してやがる!?」  
涙と鼻水でグシャグシャになった顔を恐る恐る上げると、目の前に髪が逆立った男の子が立っていた。  
私はそれまでその男の子を見たことはなかった。まあこの時点では村に来て日が浅いからおかしくはないのだけれど。  
「いいご身分だなオイ。 こんな小さな子を寄ってたかってイジめて楽しいかよ…? 少しは恥を知りやがれっ!!」  
その男の子と子供達は言い合いになり、取っ組み合っての大喧嘩になった。  
結果を言えば男の子が勝ってしまった。でも顔を青あざだらけにした彼の顔を見ると、私は申し訳なくなって泣き出してしまった。  
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっ」  
自分が悪いのだ。よくは分からないけど、きっとそうに違いないのだ。私はひたすらに泣きながら謝り続けた。  
「謝ることなんてねぇぜ。お前は全然悪くねぇんだからよ。…ホラ、もう泣くなって」  
「でもわたしのせいで…」  
「気にすんなって。あいつらと喧嘩したのはムカついたからだし、ケガをしたのも俺のせいなんだからさ」  
 
彼に頭をなでられ、ようやく私が泣き止むと、彼は私をある場所に連れて行った。  
そこは彼の家だった。中には2人の女の子がいた。なんでも彼とは兄妹らしい。  
みんな孤児で血は繋がってないけど心の絆で結び付いた真の兄妹なんだ、と彼は力説していた。  
2人の女の子は彼の暑苦しい演説にはいはいと相槌をうちつつ、私を風呂場へと連れて行き、  
体の汚れを落とすと、傷の手当をしてくれた。2人とも優しかった。  
彼らはここ数日、村の拡張工事のために出払っていて、私が村に来たことは知らなかったそうだ。  
私が事の顛末をたどたどしく説明すると、  
「なあ、行く場所が無いんなら俺達の家族にならねぇか? 3人が4人になったところで大して変わらねえしよ」  
と彼は言った。家族とはどのようなものなのかを質問すると、一緒にご飯を食べて、苦しい時には一緒に苦労して、  
楽しい時には一緒に笑うものだと答えが返ってきた。家族の暖かさを知らなかった私にとって、  
それはとても幸せな世界だと思えた。ほんとうにいいの?とおずおずと尋ねると、  
「こっちが誘ってるんだ。家族になるのもならないのもお前の自由だぜ。  
まあ俺としては家族になって欲しいけどな。当然お前らもそう思うだろ?」  
と彼は笑いながら答え、彼女達からは、「当たり前でしょ」「私末っ子だから妹が出来るのは嬉しいかな」  
という答えが返ってきた。私が、かぞくになりたい、と小さい声で言うと、彼は破顔し、  
そりゃあ良かった。こちらこそよろしくな、と私の頭をワシワシと撫でてくれた。  
 
そこで彼は私に名前を聞いてないことに気付いたようで、  
「そういやまだ名前を聞いてなかったな。なんて名前なんだ?俺はキタン、そっちの金髪がキヨウでメガネのがキノンだ」  
と自己紹介も交えて尋ねてきた。しかし答えようにも私は名前を持っていなかった。これまで名付けられたことは無かったのだ。  
名無しであることを伝えると、彼は怒りを顕にした。彼女達も一緒になって、ひどい、と怒っていた。  
「となると、お前の名前を決めなきゃなんねぇな…」  
彼はウーン、と頭を捻っているうちに思いついたらしく、ポンと手を打った。  
「キヤルってのはどうだ?キタン、キヨウ、キノンに続いてキヤル、やっぱキ繋がりの名前がしっくりくると思うんだがよ  
…どうだ? ダメか?」  
「…ううん、そんなことない。…キヤル…わたしはキヤル…わたしのなまえ…」  
キヤルという名前が気に入った私の姿を見て、彼は嬉しくなったようで、  
「よっしゃ! 新しい家族が出来たことだし、今日の晩飯はちょっと贅沢するか!」  
と大きな声で宣言していた。  
晩御飯は確かに贅沢だった。もっともそれまでまともな食事をしたことが無かったので、  
どの程度が贅沢なのかは分からなかったのだけど。  
暖かいご飯の味と、彼らの優しさを受けて、私はまた泣き出してしまった。  
夜は4人並んで寝た。外で隠れていた時とは違って、とても暖かく安心して眠れた。  
その日から私は黒の兄妹の末っ子キヤルになった。  
 
-*-  
 
それからは楽しい記憶がたくさん出来た。苦労したこともあったけど、家族がいたから怖くなかった。  
私は粗野だけれども優しい兄が大好きだったから、だから彼の真似をするようになった。  
姉達からは、そんな言葉を使っちゃダメ!と言われたけど、これだけは譲れなかった。  
ちなみに兄は、そんな言葉とは何だコノヤロ!とプンプン怒りながら拗ねていた。  
 
私が黒の兄妹の一員になってから7年ほど経ったある日、私たちの住んでいたバチカ村は巨大な怪物に壊滅させられた。  
私たち兄妹は命からがら逃げ切れたが、他の村人も逃げ切れたかどうかは確証は無かった。  
初めて出た地上での狩は大変だった。でもやっぱり家族がいたから怖くなかった。  
しばらくすると、上半身裸で刺青だらけの変な男カミナと、キヨウ姉に劣らず露出が激しい女ヨーコと、気の弱そうな男の子シモンに会った。  
なんでも巨大な怪物、ガンメンを捕獲して使っているらしい。これには少しばかり驚いた。  
カミナは私たちに、グレン団に入れてやる!と言っていたが、そんな怪しげな団体に入りたくは無かった。  
彼らとはすぐに別れたが、不本意にもそれほど間を置かず再会することとなった。  
私たちもガンメンを手に入れ、グレン団とやらと行動を共にすることとなっても、私たちは彼らを相手にすることは無かった。  
戦い方も知らないシロウトと行動するのはそれだけで気が滅入るのだから。  
そんな無謀な戦いを繰り返すカミナを眺める日が続いたある日、カミナは敵の超巨大ガンメン、通称ダイガンを奪ってしまおう、  
というこれまた飛び切りに無謀な提案をした。まあ現状ではいずれジリ貧になるのは目に見えていたのだけれど。  
そういう意味ではこの作戦は有効かもしれない。  
 
カミナが明日は決戦だ!と叫んでいたその日、兄は昼食を食べながら私たちにポツリと言葉を漏らした。  
内容は驚いたことに、あのグレン団に入るか、というものだった。  
私たちが、なんでまた急にそんなことを言い出すのか、そもそも黒の兄妹はどうするのかと問い詰めると兄は答えた。  
「何も黒の兄妹を解散させる訳じゃねぇ。…ただなんてーのか、アイツのバカさ加減を見てると少しぐらい手を貸してやってもいいか、と思っただけだ」  
一応は家族の長である兄がそういうのだからと私たちは不承不承同意した。まあカミナが悪い奴ではないというのは私たちも気付いていた。  
…ただとんでもなくバカではあるが。それでも兄も物好きだなと溜息をつかざるを得なかった。  
敵ダイガン強奪作戦にあたり、参加人数がかなり多くなったため、グレン団は大グレン団と改名された。  
 
結果を先に言うと、強奪作戦は成功した。しかし焚き付け役であったカミナが戦死してしまった。  
拠点を手に入れたにも拘らず、艦内はお通夜ムードでどんよりとしていた。  
あの騒がしい男がいなくなっただけで、ここまで静かになるとは。何だかんだ言って、カミナはムードメーカーだった。  
兄は悲しそうだったし、私たちも何となく気分が沈んでいた。とりあえず奪ったダイガンはヨーコの意向でダイグレンと名付けられた。  
カミナを失ったことでやさぐれてしまったシモンがラガンの暴走ついでに何故か女の子を連れて帰ってきた。  
しかもその女の子の正体は、私たちの敵である獣人の首領ロージェノムの娘だった。何か事情があって捨てられたらしい。  
その後、立ち直ったシモンが大グレン団新リーダーになり、私たちは敵の本拠地テッペリンを目指すこととなった。  
数ヶ月間の道中で敵幹部を倒しながら、ついにテッペリンへと辿り着いた。そしてテッペリン攻略戦が始まった。  
 
攻略戦は激しかった。それは正に人類対獣人の生残りを掛けた総力戦だった。  
私たち同様に敵ダイガンを強奪し、援軍に駆けつけた仲間の多くが死んだ。  
なんとテッペリンは超々巨大ガンメンだったのである。  
兄とキヨウ姉と私も出撃したけど、死なずに済んだのは全くもって幸運だった。  
シモンが首領ロージェノムを倒したため、敵ガンメンは全て活動を停止した。  
もう少し戦闘が長引けば、私たちも負けていたかもしれない。それほどギリギリの戦いだったのだ。  
私たちの家として愛着が涌いていたダイグレンもまた大破してしまった。  
こうしてテッペリン攻略戦は人間の勝利で幕を下ろした。  
 
-*-  
 
その後もカミナシティ建設、同時に政府設立で慌しかった。シモンは独立戦争の英雄として若くして総司令官の地位に付き、  
ロシウが補佐官となった。兄はというと法務局長官というどう考えても似合わない役職を押し付けられていた。  
カミナシティ政府が発足して間もないため、人手があまりに足りず、政府要職の多くは大グレン団メンバーだった。  
キノン姉も同じように政府に就職した。ギミーとダリーは政府運営のエリート養成機関に入り、次世代メンバーとして期待されている。  
キヨウ姉は食料局局長に就任したダヤッカの補佐をしている。そして気が付けば恋人になっていた。  
私はというと、兄の手伝いをしていた。法律に関しての知識なんて欠片も持っていないので、もっぱら雑用係である。  
兄は法律を覚えるのに加え、仕事も山のようにあるので毎日クタクタになっていた。  
そのせいか、時々この仕事は俺には向いていない、と私に泣き言をこぼしていた。  
 
家族の時間は少なくなってしまったけど、兄と一緒に仕事をしていたせいか寂しくなかった。  
この頃から私は兄と2人きりでいたいと思うようになった。昼休み、弁当を食べながら兄と談笑してる時に訪問者が  
やってきたり、通信が入ったりすると少し腹が立った。女の人と話しているのを見掛けると、  
何だか無性にイライラした。兄にそれとなく、誰か好きな人はいるの?と尋ね、緊張しながら答えを待っていると、  
まだ当分はそんな暇は無いな、と溜息混じりの答えが返ってきた。その答えに私はホッと胸を撫で下ろした。  
さすがにここまで来て自分の気持ちに気付かないほど私は鈍感じゃなかった。  
自分は兄に恋愛感情を抱いている。そう自覚するとそれまで以上に好きになってしまった。  
粗野で大雑把だけど優しいところや、自分の責任には誠実な所など、あばたもえくぼ状態になっていた。  
思い返せば、出会ったときからずっと兄に恋をしていた気がする。ただ幼かったために自覚していなかっただけだ。  
 
ただ正直に自分の気持ちを兄に伝えることは出来なかった。兄は私を妹としか見ていないだろうし、  
今まで妹だと思っていた人間から告白されれば、あの優しい兄のことだ、きっと傷つけまいと1日中悩むだろう。  
ただでさえ忙しいのに、そんな迷惑を掛けたくなかった。だからしばらくは自分の胸にしまっておこうと決意した。  
5年ほど経つと、カミナシティは以前とは比較にならないほど大きくなっていた。  
キヨウ姉とダヤッカは結婚して、見ている方が恥ずかしくなるバカップル夫婦になった。  
キノン姉はロシウの補佐になったらしく、最近家に帰ってくるのが遅い。性格もずいぶんと冷たくなった気がする。  
兄は相変わらず忙しそうだった。でも法務局長官も板についてきて、肩書き負けはしなくなった。  
更に2年経つと、キヨウ姉が妊娠した。ダヤッカと二人で大喜びしていた。キノン姉は顔も見せなかった。  
キヨウ姉が身重になってきたので、私は兄にキヨウ姉の世話をするからしばらく仕事を手伝えない、と伝えた。  
兄は、構わねぇよ。キヨウの力になってやれ、頼りにしてるぜキヤル。と答えた。  
未だに私は告白していない。告白して今までの関係が崩れるのならこのままでもいい、と思っていた。  
 
-*-  
 
その日、私たちを取り巻く世界は一変した。全く新種の敵が出現してシティを攻撃し始めたのだ。  
TVにはニアとシモンが映し出され、画面の中でニアは人類に対して戦線を布告していた。  
おまけに3週間後には私たちが天に頂くあの月が落下すると言うのだ。  
そして再び敵が出現し、シモンによって撃退されたが、その戦い方により市民に極度の不安を  
与えたとして逮捕、ロシウを裁判長とする裁判で超弩級戦犯として死刑が決定された。  
当然兄は激怒し、何とか死刑を撤回するよう訴えた。ダヤッカはその時既に食料局長官を辞任しており、  
発言権は無かった。ロシウの補佐であるキノンはこちらの通信には一切出ず、  
兄の言うことにも全く耳を貸さなかったらしい。もうキノンはあのキノン姉ではなくなった。  
そう思わないとやっていられなかった。  
 
シティ地下より発見されたダイガン、アークグレンに非難する時、兄が私たちを逃がすために1人身一つで敵に  
向かっていったのには肝が冷えた。兄が無事であることを知ると腰が砕けてしまった。  
兄はレイテさんがこっそり整備していたキングキタンに乗って戦っていた。とても生き生きとしていて、  
やはり兄は法務局長官よりガンメンに乗って戦う方がむいているのだ、と再認識した。  
アークグレンは兄やシモンを置き去りにして発進した。このダイガンを逃がすために闘っているのに  
置き去りにするなんてあんまりだと、私はアークグレンを降りようとしたがキヨウ姉に止められた。  
兄ならきっと大丈夫だ。あのしぶとい兄がどうにかなるはずがない、と諭された。  
 
宇宙に上がっても敵の攻撃は激しく、もうダメかもしれない、と思っていたら、グレンラガンやキングキタン、  
ほかのガンメン達が駆けつけてくれた。結局本当の危機を救ってくれるのはいつも大グレン団なのだ。  
兄達が敵を蹴散らすも多勢に無勢、徐々にジリ貧となり押しつぶされそうになったその時、  
驚いたことにグレンラガンがアークグレンと合体してしまった。  
そのアークグレンラガンの力は凄まじく、いとも簡単に敵を倒してしまった。  
落下していた月は実はとんでもなく巨大な戦艦で、シモンが制御を取り戻すとあっけなく元の場所に戻った。  
 
地球に帰ると、ロシウはシモンの死刑を撤回、総司令官の地位を返却した。  
今回の事件で責任を感じたロシウは自殺しようとしたらしいが、危うい所でシモンとキノンの静止が間に合ったようだ。  
事件が解決しても、キノンを完全に信用出来なかった。兄に対し酷く当ったのは私としては絶対に許せなかったのである。  
で、兄はと言うと、超銀河ダイグレンと名付けられた月戦艦に乗って私たちの敵、アンチスパイラルを倒しに行くと息巻いていた。  
今度こそ兄は死んでしまうかもしれない、その未来に恐怖を抱いた私は兄と一緒に行くと申し出た。  
でもにべも無く却下されてしまった。私は年甲斐も無く泣き出してしまった。  
「何で俺を連れてってくれないんだよ!? 何で兄ちゃんは俺を置いてこうとするんだ!? 俺だって闘えるんだぜ?  
兄ちゃんの背中ぐらい守れるんだ!! もういやだ!兄ちゃんが敵に撃たれた時、俺がどれだけ心配したと…!」  
「キヤル、お前はキヨウを守れ。俺はお前達を守る。…なぁに心配すんなって!絶対帰ってくるからよ!  
…だから笑顔で見送ってくんねぇか?」  
 
結局兄は私たちを置いて行ってしまった。ちゃっかりダヤッカまで付いていった。  
私は兄が帰ってきたら告白しようと思った。あの殺しても死なない兄のことだ、絶対に帰ってくる。  
大グレン団はそうやって今まで困難を乗り越えてきたのだ。今回も上手くいくに決まっている。  
だから兄が帰ってくる場所を守るのだ。そしてこの想いを伝えよう。  
上空に地球より大きな敵と戦うグレンラガンの姿を見たとき、兄も戦っているんだ、と思った。  
ついに敵の親玉まで辿りついたのだ。私たちはグレンラガンが絶対に勝つと信じていた。  
そして絶対に帰ってくると。期待に背かずグレンラガンは最後の敵を倒した。  
地球全体が熱狂に沸き、超銀河ダイグレンの帰還を地球総出で褒め称えた。  
 
しかし、その中に兄の姿は無かった。探しても探しても見つけることは出来なかった。  
兄は戦死した。そう伝えられた時、私は目の前が真っ暗になった。  
約束したのに。生きて帰ってくると約束したのに。もう想いを伝えることも出来ない。  
私も一緒に行けばこうはならなかったかもしれない。際限なく落ち込んでいく。  
死にたい、そう思うようになった。自殺なんてしたら兄はきっと怒るだろう。  
バカヤロウ!なんで自殺なんてしやがったんだ!と。でもそれでもいいかもしれない。  
怒られるという事はもう一度会えるということだから。  
 
その日、私は睡眠薬を大量に飲んだ。これで兄の所に行ける。  
ふと机に目をやると、シモンとニアの結婚式案内が置かれていた。  
他人の結婚式などどうでも良かった。もう私にはその希望すらないのだから。  
徐々に瞼が重くなってきた。私は兄に会えますように、と願いながらベッドにもぐった。  
おやすみ、兄ちゃん…  
 
-*-  
 
翌日、自室のベッドにてキタンの写真を抱き、静かに息を引き取っているキヤルを、起こしに来たキヨウが発見した。  
枕元には遺書と思しき手紙が置かれていた。  
 
『キヨウ姉ちゃん、勝手にこんなことをしてゴメン。でも兄ちゃんがいない世界なんて嫌だったんだ。  
俺は兄ちゃんに拾われてから人間になれた。兄ちゃんがいたからここまで来れたんだ。  
もちろん姉ちゃん達にも感謝してる。俺は皆と家族だったことを誇りに思ってる。  
それでも俺にとっては兄ちゃんが全てなんだ。昔からずっと好きだったんだ。でも妹だから告白できなかった。  
んで兄ちゃんは死んじまった。だから俺も向こうに言って今度こそ告白するんだ。  
だからゴメン。姉ちゃん達とはここでお別れ。キノンにも謝っといてくれると嬉しいかな。  
色々ひどいこと言ってこめんなさい。キノンも大好きだったよ。  
 
さようなら。皆の幸せを願っています。』  
 

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