皆が寝静まった夜、わたしは気まぐれでテッペリンの頂上に向かった。  
まだわたしが小さかった頃に始まったテッペリン攻略戦は、三年の歳月をかけてようやく成った。  
しかしそれでも、人々は地上を我が物にした喜びに打ち震えながらも、地上奪還の英雄に不信感を募らせ、ついに政府中核である大グレン団においてクーデターが起こった。  
ロシウを始めとするクーデター派は突如として総司令閣下の自宅を襲撃。  
あわや政権交替とまでなったが、総司令閣下の元に突如飛来した小型人型ガンメン「ラガン」が上空より飛来。  
直下しながらロシウを貫き、政権交替は失敗に終わり、ロシウは総司令閣下の刀の錆となった。  
そうして、総司令閣下は大グレン団内においてさらに孤立した。  
人は彼を、むしろ皮肉をこめてこう呼んだ。  
地上奪還の英雄・シモン。  
 
 
 
実際、私もシモンの事が判らなくなっていた。  
ヨーコをどこかの島に送ってしまい、螺旋王の子供を幽閉し、ロシウを殺した。  
すくなくとも、今のシモンに近づくものはブタモグラのブータだけだろう。  
ギミーはロシウを殺したシモンを心の底から憎み、シモンもまたギミーに対しては人一倍辛く当たっている。  
事実上、彼は一人ぼっちだった。  
なぜこうなってしまったかといえば、それはカミナが死んだことが全ての原因だろう。  
あれ以来シモンは幽鬼のような表情をして獣人を虐殺し、命乞いをする獣人や背中を向けて逃げ出す獣人さえも容赦なく殺した。  
そして一年前、このテッペリンを舞台として、最後の戦いが始まった。  
人々はシモンを先駆けとして我先にとテッペリンを蹂躙した。  
そして、数時間にわたる戦いの後、突如として獣人のガンメンは活動を停止。  
占領を試みてテッペリンの頂上に昇った私たちを待ち受けていたのは、刀と自分を血まみれにして泣きじゃくるシモンだった。  
その光景があまりにも美しかったからだろうか。  
わたしはそれが忘れられなくて、時折こうやってテッペリンの頂上に上っている。  
夜の不気味な廊下を抜けて、いつも半開きになっているシャッターをくぐれば、もう外である。  
わたしは身をかがめて滑り込むように頂上に出た。  
 
そこには、シモンがいた。  
星の光を浴びて、黒ずんだ血がべっとりとついた刀が、彼の象徴とも言えるコアドリルが輝いている。  
寝ているのだろうか、彼は空を見上げるように頭をもたげてラガンに腰掛けていた。  
わたしは、なんとなくあの夜の事を思い出してシモンに近寄っていった。  
彼はまるでこうもりのように黒いコートに身体をくるんで寝ていた。  
その様子がなんだか子供っぽくって、わたしはなんとなくシモンの手を握ってみた。  
急に、懐かしさがこみ上げてきた。  
アダイ村から出てきたとき、初めて火山を見たときも、こうしてシモンの手を握っていた。  
わたしはシモンのコートに包まり、彼に身を寄せた。  
すると、彼が小声で何かを呟いているのが聞こえた。  
わたしはコートを這いずってシモンの顔の辺りまで寄って、彼の寝言を聞こうとした。  
「す……ない」  
よく聞き取れなかったが、もう少し近寄れば聞こえる。  
わたしは彼の顔と自分の顔がくっつきそうなほど顔を寄せて、彼の寝言を聞いた。  
「……すまない、みんな」  
聞かなければ良かった。と、わたしは思った。  
彼は続ける。  
「もう誰にも死んでほしくないんだ……。  
ヨーコのこと、嫌いになったんじゃない。ロシウのこと、殺したいなんて思わなかった。すまない……」  
それだけ呟くと、彼の目に涙が浮かんだ。  
コートを握る手のひらに力が入り、わたしの事を強く抱きしめた。  
わたしは彼の首を優しく抱きしめ、ぺろりと涙をなめた。  
きっと彼は、誰もかも大好きなんだ。  
それだけなんだ。と、呟いて、わたしは彼のことをいっそう強く抱きしめた。  
 
あれから三年たって、わたしたちは宇宙に出た。  
始めの三ヶ月はアンチスパイラルとの戦争が続き、それからは終わりの無い殲滅戦が続いている。  
わたしは――。  
「なんで、シモンなんだよ!」  
「なにがいけないの!」  
割り当てられた部屋に、双子の怒号が飛び交う。  
「だって、シモンはロシウを殺したじゃないか! なんだってそんなやつを!」  
「ギミーは、シモンさんのこと何もわかってない!」  
わたしは思わずギミーの頬を平手で叩き、早足で部屋から出て行った。  
叩いた右手が痛い。  
こんなことばっかりでイヤになるけど、それでもわたしは彼のことが好きだった。  
早歩きで自分の部屋に向かい、わたしはベッドに倒れこんだ。  
別に、ギミーのことが嫌いになったわけじゃないし、ロシウのことを忘れたわけじゃない。  
――ただ、それ以上にシモンさんが好きなだけ。  
「シモン……さん」  
自然と、右手が胸を触っていた。  
ゆっくりと触ると、ほんの少しの寒気とともに自分の胸が大きくなってきていることに気付いた。  
「シモンさん……好きぃ」  
中心にわずかに感じるしこりをやさしく押すと、心地よい痛みを伴った快感が体中に走った。  
そこを執拗にねぶると、徐々に体中が痺れ思考回路が麻痺してぼんやりと彼のことだけを考えた。  
かつて無い快感だった。  
自分にもう二本腕があって、体中を優しく愛撫するような、信じられない快楽。  
「はぁ……シモン、さぁん」  
正体不明の二本の腕は、じきに下腹部を撫でるように動き始めた。  
鳥肌が立つような恍惚感が脳内を犯して、わたしはなす術も無くその腕にほんのりと湿った下半身をさらけだした。  
指はゆっくりと往復するようにわたしの秘部をなぞり、ゆっくりと中指がわたしの中に侵入した。  
「ひゃぁ……ん」  
もう何も考えられなくなって、腕の為すがままだった。  
しかし――。  
「ん! んんぅ」  
突如、わたしの唇が何かで塞がれた。  
その瞬間わたしは夢から覚め、目を大きく見開いた。  
ぼやけた焦点が徐々にあうと、真紅の大グレン団のマークが目に映った。  
どう考えても、シモンさんのコートである。  
ようやく唇を解放されたわたしは、大きく息を吸い込んだ。  
「な、なんで……シモン、さん」  
「なんでもどうしても、ここは俺の部屋だぜ? ダリー」  
「え……」  
そういえば、そうである。  
普段ベッドの上に大切においてあるぬいぐるみが無い、適当にぶら下げてあるパイロットスーツが無い。  
何故だ――!  
「まぁ、かまわねぇ。俺の部屋であんなことしてたんだ、そういうことだろ?」  
そう呟いて軽く笑うシモンさんに顔を覗き込まれて、わたしはうなじまで赤くなるのを感じた。  
すると、もう一度シモンさんがわたしを覗き込んで、唇に吸い付いた。  
「ん、はぁ……」  
そのままベッドの上に押し倒されて、彼はわたしの足を大きく開かせた。  
「し、シモンさん……やです、恥ずかしいです」  
すると彼は、わたしのおでこに自分の額を当てて、「俺の名前を呼びながら自慰をするのは、恥ずかしくないのにな」と、笑い混じりに呟いた。  
今度は、首の根元まで真っ赤になったかもしれない。  
彼は顔を抑えてもだえるわたしを抱きしめながら、ソレをわたしの秘部にあてがい、ゆっくりと差し込んだ。  
 
 
――それから二日間、乗組員全員には休暇が言い渡され、ダリーに謝ろうと考えたギミーは丁度二日後に疲れきったダリーを艦長室で発見した。  
 

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