「すげ、濡れてる」  
「や、言わないでっ…!」  
 
思ったままをそのまま口にすると、羞恥かそれとも快楽か、顔を真赤に染め上げた  
ヨーコはぷいと顔をそらす。  
訴えを無視して下着のレースの上から秘裂をゆっくりとなぞる。  
 
「あ……ンぁ……は……、ひゃんっ!!」  
 
吐息に混ぜ込むように洩らしていた甘い声が一際高くなったのは、秘唇の上に隠れた  
肉芽を探り当てられたからだ。  
カミナがにやりと子供のように笑うのに気付き、慌てて口を閉じたがもう遅い。  
す、と指をはなされて安堵の溜息をこぼした直後、下着を一気に脱がされる。  
ぬかるんだ場所が外気にさらされてひやりと冷たい。  
恥ずかしさに腿をすり合わせたが、それよりはやくカミナの指が直接触れた。  
ささやかな茂みをかき分けて、無骨な指先が秘裂を撫でる。くち、と粘性のある音が  
聞こえ、それが何の音か気付いたヨーコは羞恥に顔を覆った。  
死にそうなくらい恥ずかしい。  
けれど先ほどからの悪寒のような快感に、じわじわと飲み込まれていくのはこの上なく  
甘美な味がした。  
柔らかい秘唇の上を往復していた指が、不意にぬるりと奥に侵入する。  
なかを掻き混ぜるように蠢く中指は敏感な粘壁をこすり、その動作のひとつひとつに  
ヨーコは甘く声を上げ身体をしならせる。時折、思い出したかのように親指が肉芽を  
こね、その不規則に与えられる快楽の波になすすべもない。  
自分が自分でなくなってしまいそうだった。  
声は勝手に口からこぼれ出るし、足も腰も勝手に反応を繰り返す。  
 
――気持ちいい、のかな。  
 
なにもかもよく分からない。ただ耳に入ってくる自分の声は自分のものと思えないほど  
甘く淫靡で、どうしようもなく心がかき乱された。  
いつの間にか指が二本に増やされている。  
比例するかのように音と声が水気を増している。  
思考がぼやけて霞がかっているというのに、皮膚はやたらと敏感で、胸の先端を舐める  
カミナの前髪がかすめる、そんな小さな刺激さえ増幅されてヨーコを苛む。  
こんなときだというのに、この上なく真剣な眼差しでカミナが自分を見つめている  
ということが不思議に思えた。  
 
「オイ」  
「……?」  
 
ぺちぺちと頬を叩かれ、半ば放心していたヨーコは顔を覆っていた両手をどかして  
目の前の男を見た。  
先ほどから息つく間もなく与えられ続けていた刺激がぴたりと止んでいた。  
嬌声を上げ続けた喉は渇いていて、頭もいつもの三割も働かない。文章を口にするのが  
億劫になったヨーコは視線だけで何、と問う。カミナは返事をせずに、ガチャガチャと  
急くように制服のベルトを外した。  
ああ、そっか。  
これからようやく『本番』が始まるのだ。  
思い当たったその答えを、恥かしがるでもなくヨーコは自然に受け入れた。  
入り口を確かめるように、カミナの先端がヨーコの秘部を探る。  
さんざんに弄りまわされたそこは、ひくひくと何かを期待するかのように浅ましく  
蠢いている。はじめてです、と顔に書いてあるような緊張したヨーコの表情とまるで  
かけ離れたその様子に、カミナは荒い息ごと生唾を飲み込んだ。  
 
「途中でイヤとかやめてとか言っても聞かねぇぞ。つうか、出来ねぇ」  
「のぞむところ、よ」  
 
潤んだ瞳でそう言われても説得力のかけらも無い。  
けれどもう、限界だった。  
あるいは生理的なものかもしれなかったが、涙を滲ませた目元に柔らかく口付ける  
と、いくぞ、とひとこと囁いてからカミナは腰を進めた。  
 
「っああ……!」  
 
覚悟していたような、鋭い痛みはやってこなかった。  
かわりに、すさまじい異物感と熱量と圧迫感と、すこし遅れて鈍く重い痛みが  
じわり、とヨーコを襲い、一瞬呼吸の仕方を忘れた。  
背中の下に敷かれている、カミナのブレザーの生地ごと手を握り締める。  
ぬぷ、と淫らな音をたててカミナを飲み込んだ秘唇は、初めての経験にすっかり  
萎縮してしまっていた。  
 
「くッ、力抜けよお前」  
「ど、どうやって…っ」  
 
さっき息を吸って吐くことを思い出したばかりなのに、これ以上、力を抜く方法なんて  
難しいことを思い出せるわけが無い。自分の身体なのに感覚だけが上滑りして、  
制御なんてとっくに出来なくなっている。  
のしかかっているカミナが苦しそうに眉根を寄せた。きつい、締め付けすぎ、まだ先っぽ  
だけ、などと勝手な言葉を器用なことに余裕の無い表情で飄々と喋る唇が近づいたかと  
思うと、再度目元に唇を落とされた。  
次に頬に。そして唇に。  
度重なる触れるだけの柔らかいキスにヨーコが安心し、緊張がほぐれたその隙を逃がさず、  
ぐ、とカミナは最奥まで挿入を果たした。  
 
「ゃぁあああっ!?」  
 
身体を真ん中からこじ開けられているような衝撃に、ヨーコは悲鳴を上げる。  
腰を密着させたカミナはそのまま動かずに、ヨーコの胸の頂や肉芽を刺激し、  
少しでも気を逸らそうとする。  
ヨーコのためでもあるが、なによりこの強すぎる締め付けに、他の事でもしていないと  
今にも達しそうだった。  
汗で肌に張り付いている髪を払ってやると、床に悩ましげに広がる。  
なんとか息を整えようとしているヨーコは、カミナが少しでも動くととたんに反応を示し、  
膣壁をからませてくる。  
その度に、ん、と鼻にかかったような声をこぼす。  
誘うように腰が揺れる。  
びくり、と触れ合った腿が動く。  
限界だった。  
 
「ワリ、もうムリ」  
 
唐突にカミナがそう言って、ヨーコの腰を掴むとグラインドを開始した。  
入り口近くまで抜き、そしてまた最奥まで押し込む。粘膜同士が触れ合い、ぬちぬちと  
卑猥な音を上げる。  
最初はゆっくりと気遣うようだったその動きは、徐々に速度を速めた容赦の無いもの  
へと変貌する。  
反応が遅れたヨーコは、激しさにただ翻弄されるだけだ。  
自分におおいかぶさり律動しているカミナの、着たままのシャツのボタンやネクタイが  
あらわにされた腹や胸をかすめ、不思議な悦楽を呼び起こした。  
ぱたりと滴るのはカミナの汗だ。じんわりと汗ばんだ自分の肌に雫はすぐに馴染んで  
いく。耳にうるさいほどに荒い息づかいがどちらのものなのか、ヨーコにはもう  
分からなくなっていた。  
カミナは爪が白くなるほどに握り締められたヨーコの指を、ブレザーの布地から  
ひきはがすと、それに自らの指をからませる。  
 
「や、ぁあ…はぁっ、あン」  
 
身体の最奥からなにかが近づいてくる。  
大波のようなその感覚に飲み込まれそうになり、ヨーコは繋いだカミナの手にすがり  
ついた。  
「カ、ミナ……なんかくる、…こわい…」  
「ああ、いっちまえ」  
未知の快感に恐怖を覚え、うわごとのように呟くヨーコに、カミナは噛み付くような  
キスで応える。  
駆け上るような、突き落とされるようなその感覚に、ぞくりと全身が震えた。  
痙攣するようにびくびくと、足先はリノリウムの床をかする。  
 
「あ、いやぁ、なんかくる、なんかくるッ、や……ぁぁああああ!」  
「……くッ」  
 
一際大きく痙攣させた身体が弓なりにしなり、そしてぐったりと弛緩する。  
わけもわからぬままにヨーコが初めての絶頂を迎え、その強すぎる締め付けに寸での  
ところでカミナは自身を引き抜き、ヨーコの上気した腿に欲望を解き放った。  
 
 
 
*  
 
 
 
「カミナ! 昼時過ぎにようやく登校とはいい度胸だがそれはまぁそれは後だ……  
ネクタイはどうした貴様ぁ!」  
「ハッ、あんな息苦しいモンつけられっかよ!」  
「勝負ごとで決めたことも守れんのか!」  
「あんなモン一ヶ月くらいの効力しかねぇだろうが!」  
「まだ三週間と二日しか経っとらんわ!」  
「つーか、無くした?」  
「なら即刻購買で買って来い!」  
「じゃあ金くれカネ。リボンでも買ってきてつけとくから」  
「なぜ俺が金を出さねばならんのだ、というかリボンってどういうことだ気持ち悪いわ!」  
 
中庭に響き渡る風紀委員と問題児の言い争いは、学園の日常風景としてしっかりと生徒に  
受け入れられている。  
鉈をふりかざして突撃をかけるヴィラルと紙一重でかわしながら逃げ回るカミナを  
教室の窓から眺め、やっぱ馬鹿だわアイツ、なんで私はあんな馬鹿が好きなんだろうと  
ヨーコはつらつら考える。  
 
「あ、ヨーコ。来てたんだ」  
「こんにちはヨーコさん」  
 
午前中いなかったから休みかと思ってた、と廊下から声をかけてきたシモンに、  
まぁね、と曖昧に返事をする。  
シモンの背後からひょこっと顔をのぞかせたニアにも手を振り、さぁお昼にでも  
しよう、と鞄から弁当をとりだした。  
その様子にシモンは一瞬不思議そうに思案顔を作る。なんだかよくわからないけど  
違和感を覚えたのだったが、その違和感の正体が分からない。  
ほぼ同時に、隣でニアが「あっ」と小さく声をあげた。  
ニアは違和感の正体に気が付いたらしい。上級生のクラスだというのに物怖じせず  
堂々とヨーコのそばまで歩み寄ると、ニアはまっすぐにヨーコを見て核心に触れた。  
 
「ヨーコさん、リボンじゃなくてネクタイしてます。なぜですか?」  
 
キラキラと花やら星やらを浮かべた純真無垢なニアの瞳に見つめられ、ヨーコは  
うっと息を飲む。  
 
「ちょっと、ね……どこぞの馬鹿にリボン壊されちゃったから」  
代用品よ、と視線を逸らしてぼそぼそ答えるヨーコの頬は、心なしか赤く染まっている。  
 
無理やり外そうとした指定制服のリボンは、ゴムの部分が伸びきっていたのと髪留め  
にからまったことですっかり使い物にならなくて、あのあと冷静な思考を取り戻した  
ヨーコが、どうしてくれんのよ、と照れ隠しにカミナに当たると、ならコレでもつけてろ、  
とカミナは自分のしていたネクタイを引き抜いてヨーコの衿にくるくると巻きつけ、  
なんか首輪みてぇだなそれとか笑われたから思わず拳を繰り出したら綺麗に決まって、  
数十秒カミナを行動不能にし、やってくれるじゃねぇかと再び床に押し倒され――  
 
昨日のあれやこれやがフラッシュバックして、うつむいてしまったヨーコにニアは  
さらなる追い討ちをかける。  
 
「じゃあ、今日はポニーテールじゃなくて髪下ろしてるのは、なぜですか?」  
 
質問にヨーコは素晴らしい速度で反応した。  
ほとんど脊髄反射のように右手を首筋にもっていき、赤い痕を隠す。  
その行動そのものが、今日に限って髪を下ろしている理由をばらしているも同然なのだが、  
パニックに陥っているヨーコは気付いていない。  
今日はこういう気分だったのよ、としどろもどろに言い訳するが、分かっているのか  
いないのか、ニアは相変わらず曇りのない笑顔で相槌を打っている。  
廊下までは会話の内容が聞こえていないらしく、慌てるヨーコを見てシモンがしきりに  
首をかしげているのが救いといえば救いだった。  
相変わらず中庭からはヴィラルとカミナの言い争いが続いている。  
 
「うるせぇなネクタイごときで。どうでもいいだろうが衣更えだよ衣更え!」  
「こんな中途半端な時期になにが衣更えだ! どこへやった!?」  
「ぁあ!? アイツにやったんだよ!」  
「は!?」  
 
喧々諤々とした不毛な応酬が途切れた。中庭に、いや学園に静寂が訪れる。  
力いっぱい堂々と、自分を指差してふてぶてしく笑うカミナ。  
学園中の視線が集まったような気がしたのは、錯覚ではないだろう。  
まぁ、とときめき全開の表情で胸の前で手を組んだニアの隣で、ヨーコは思い切り  
息を吐いて、思い切り吸った。  
そして、絶叫。  
 
「……何ばらしてんのよこのバカミナー!!」  
 
空は晴れ渡って雲ひとつない。  
今日も学園は平和そのものだった。  
 
 

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