雀のさえずりの声で俺は目を覚まして、ベッドの中でぐしぐしと目をこすった。  
まだ起きる気にはなれない。今日は日曜日だ。  
枕元の目覚まし時計に目をやると、もう少しで七時になるといったところだった。  
瞬時に二度寝を決めてのっそりと寝返りを打つと、狭いベッドの中、裸の胸に柔らかくて温かいモノがあたった。  
元々一人用のベッドで無理矢理二人で寝てるんだから、当たり前といえば当たり前なんだけど。  
 
この一ヶ月の間、ほとんど毎晩俺の隣で寝息をたてるソレは、ニアだ。  
もちろんニアのベッドは別に用意されているんだけど、ほとんど無用の長物と化しているのが現状。  
ニアが毎晩俺のベッドに潜り込んでくるから……って言い方はニアに失礼だな。ニアが来てくれなかったら俺がニアの部屋に行ってるんだから、同じことだ。  
 
下の階の父さんと母さんが寝静まった頃にニアが俺の部屋のドアを叩いて、ドア越しに少し恥ずかしそうに微笑んでちょこんと立ってる。  
俺はそれを待ってましたとばかりに迎え入れて。  
気づかれないように声を出すのを一生懸命我慢するニアが可愛くて、わざとニアに声を出させるように攻めたてたりしてさ。  
そんな生活がもう一ヶ月。ニアを抱いた後に、こうやって朝まで一緒に寝ていられるのはすごく嬉しい。  
 
 
くうくうと可愛い寝息をたてるニアは、無意識に俺に気を使っているのか縮こまるように身体をまるめている。  
ありがちな例え方だけど、なんだか子猫みたいで可愛い。  
十センチも離れていない至近距離からニアの寝顔を観察する。  
睫、すごく長い。ピンク色の唇は寝息に合わせて小さく形を変えて、思わず触りたくなる。……中指でなぞる様に触ってみた。なんか妙に照れるな。  
長い巻き毛は寝乱れて顔にかかっているけど、ちっとも見苦しくないのが不思議だった。むしろ、ニアの綺麗さを引き立ててるように見えるくらい。  
「美人は三日で飽きる」なんて絶対に嘘だよ。ニアだったら、三日どころか一生見てたって絶対に飽きなんかこないって、結構本気で思う。  
 
 
普段はニアのほうが先に目を覚ますから、寝顔ってあまりみたことがない。  
前にたまたま先に目が覚めたとき「寝顔が可愛かったよ」って褒めたら、すごく恥ずかしがってたっけ。  
俺は自分の寝顔なんか見れたもんじゃないと思ってるんだけど――きっと口は半開きだし、涎とか垂らしてるだろうし――ニアの寝顔は天使みたいだと思う。  
……これもありがちな例え方だな。まあ、口下手な俺の語彙なんてそんなもんだよ。  
 
 
そんな天使の寝顔から視線を下にずらすと、昨夜の所業の痕跡をまざまざと見せ付けられるようでちょっと恥ずかしい。  
パジャマのボタンはほとんど全開で、小さなへその辺りまで丸見えだ。  
はだけられた白い胸元には赤い跡がいくつも残されていて、自分の独占欲の強さを表してるようだった。  
眠るニアの身体を抱き枕のようにぐいと抱き寄せて、ふっくらとした唇にキスをする。  
手は自然に寝巻きの合わせに忍び込んで、丸い胸をふよふよと撫で回した。  
俺の手の中で柔らかく形を変える胸は、初めてニアを抱いた頃よりも、少しだけ大きくなったような気がする。……俺のせいかな、ひょっとして。  
最近ニアは胸の大きさについてちょっと気にしてるみたいで、「シモンはもっと大きいほうが好きですか?」なんて聞いてきた。  
胸の大きさなんかどうでもいいよ。ニアの胸であることが重要なんだよ。そんな風に言ったら、少し恥ずかしそうにしてたけど嬉しそうだった。  
 
「ん……」  
もう少しで目覚めるかな。指先で乳首をくりくりと押しつぶしながら、ニアの表情を窺う。  
眠ってる間にこういうことすると、ニアは結構怒る。  
突き放されるとやっぱりちょっと傷つくので、目覚める前に身体を押さえ込んでおこう。  
抱き寄せたニアの身体の上にのしかかって、覚醒を促すように舌を口内に押し入れる。  
「んぅ……っ? ――ん、や、シモン……っ」  
唇に食らいついたあたりでようやくニアは目覚めたけど、もう遅い。ニアの華奢な身体はがっちり俺に押さえつけられて、足を振り回すこともできない。  
できることといえば、精々俺の背中をぽかぽか叩くことくらい。  
「やっ、ねえ、やめっ……んぅぅっ」  
布団を頭から被って、暗闇の中でニアの白い肌を撫で回す。  
胸、腕、脇から腰までをゆっくり撫で下ろすとニアは段々おとなしくなって、俺の身体にきゅうっとしがみついた。  
「寝てるときにこういうことするのはやめてって、言ったのに……っ!」  
諦め気味の抗議の声も、ズボンと下着を下ろされたことで中断される。  
脱がした服をベッドの外に放って、ニアのあそこに指を這わせる。薄い恥毛の奥は、もうぐしゅぐしゅに濡れていた。  
「ニア、最近感じやすくなった?」  
「そうだとしたら、全部シモンのせいです――んっ、はぁ……ひぁっ…」  
くだらないことを訊ねながら、ニアの中にぐいぐいと押し入る。身体と同じように柔らかくて温かいニアの中は、絡みつくように俺を迎え入れてくれる。  
「あっ、あっ、やぁ、はっ、んぅんっ」  
身体をしならせて俺にしがみつくニアが愛しい。ニアに負けないように、俺も力いっぱいニアを抱きしめ返す。  
もっとニアのことを感じたい。ニアにも俺を感じて欲しい。唇を食んで、柔らかい乳房に自分の身体を押し付ける。  
狭い一人用ベッドもなかなかいいもんだよな、と思う。だって、いつでもひっついていられるしさ。  
 
 
 
俺とニアは違う人間だから、同じにはなれない。前にニアがそんなことを言ってた。  
でも絶対に一つになれないからこそ、人はこんなにも互いを求め合うんじゃないか、とも。  
その時の俺にはよくわからなかったけど、今なら少し分かる気がする。  
 
 
 
「ニア、あのさ」  
「なに?」  
腕の中、潤んだ瞳で俺を見上げるニアが可愛い。  
 
自分以外の、肉親でもない人をこんなに好きになって、その人からも同じように好きになってもらえる。  
それって実は結構すごいことなんじゃないか? そして、それを今実現できてるのが俺だ。  
 
愛しい。好きだ。ずっと傍にいてほしい。  
胸に浮かんだ言葉はどれも本心で、でも口にしたら途端に陳腐なものになってしまうような気がした。  
結局俺は言葉を続けることができなくなって、言おうとした言葉の変わりにニアの唇に唇を落とした。  
なるべく優しく。気持ちが伝わるように。  
唇が離れると、ニアは嬉しそうにくすっと笑ってくれた。俺もつられて、恥ずかしさを誤魔化すように笑った。  
 
 
「んっ、んぅ、ひぁ、あっ、や、シモ、ンっ……!」  
背に回されたニアの腕に力が入る。限界が近い。ニアの腰を掴んで、叩きつけるように動きを早める。  
結合部では先走りの汁と愛液がぐちゅぐちゅと混ざり合って、視覚的にも聴覚的にもいやらしいことこの上なかった。  
一年程前には女っ気のかけらもなかった俺の部屋には、今はニアの喘ぎ声と匂いが充満している。  
本当、人生どこで何が変わるかわからない。  
 
ニアの細い肢体を抱きしめて、俺は限界を迎える。  
「ニア、ニアっ……!」  
「シモンっ……!」  
 
 
心地よい脱力感に身を任せて、荒い呼吸を整える。  
我ながら爛れた日曜の朝だと思うけど、なんというか、まあ……すごく幸せ。うん。  
 
 
 
※  
 
 
「オメー、いっぺん死んでこい」  
「なんでだよ」  
 
うんざりしたように容赦ない言葉を俺にくれたのはキタンだ。  
ニアとの仲は最近どうなんだ、って聞いてきたのはそっちだろ。  
「彼女のオヤジ公認で同居ってなんなんだそりゃ。それで朝から晩までイチャイチャのエロエロとはいいご身分だな、オイ」  
「期間限定だよ、期間限定」  
 
そう、ニアとの生活は期間限定だ。……といっても、いつまでなのか具体的にはさっぱりわからないんだけどさ。  
ニアが我が家にやってきたのは、ロージェノム校長との一騎打ちが終わってまもなくの頃だった。  
俺とニアの仲を認めたら認めたで、今度は「花嫁修業は早いうちに」ということらしい。  
いくらなんでもうちにだって父さんと母さんがいるし無茶だろう――と思ったら、あっさりと二人はニアを受け入れた。  
先行して両親に話がついていたことを知ったのは、わりと最近のこと。  
校長がどんな手段で俺の親を説得したのかについては、あまり知りたいとは思わない。  
 
 
昼下がりの屋上は気持ちがいい。  
これで隣にいるのがキタンじゃなくて、ニアだったらなぁ……とは思うけど、それは無理な話だ。  
ニアは俺たちと違って、授業をサボるようなことはしない。  
 
「お前さ」  
「うん?」  
「そんなに若けーうちから、一人の女に縛られていいのかとか考えたことねえのか?」  
「ないよ」  
 
縛られる、って発想自体がよくわからないな。  
「例えばよ、お前のことが好きだって女がいたとしてだな」  
他に誰がいるわけでもないのに、キタンは小声になって俺に顔を近づける。  
「後腐れなくヤらせてくれるっつったら、お前どうする」  
「はあ?」  
俺は可哀想な人を見る目つきでキタンを見返す。  
 
「キタン、エロ漫画か何かの読みすぎなんじゃないか?」  
「馬鹿、違げーよ。なんというか、その、頼まれたというかだな……」  
「なんなんだよ」  
歯切れの悪い物言いが気持ち悪い。  
キタンはバリバリと頭をかいて言葉を続けた。  
「まあ、俺も気が進まねえんだよ。決めるのはお前だから、後は本人同士話し合って決めてくれ」  
「?」  
 
キタンはわけのわからないことを言い残すと、そのまま校舎に続く扉へ消えてしまった。  
そして、キタンと入れ替わりに屋上に入ってきたのは。  
「あ……」  
「……」  
 
入ってきたのは、ツインテールの女の子だった。反射的に身体に緊張が走る。  
小さい頃からの顔見知りだけど、友達じゃない。この子に関していい思い出なんて全然ない。  
仲のいいらしい他の二人の女の子と一緒に、いつも俺のことを影からくすくす嗤ってた。  
この学校に入学してからもそれは同じで、まともに話したことなんて一度もない。  
そして、それは今だってそうだ。話すことなんて、ない。  
無言でその場を立ち去ろうとした俺に、彼女は唐突に声をかけてきた。  
 
「最近さ、調子いいみたいじゃん」  
「……?」  
なんだ、それ。怪訝に思って彼女を見遣ると、どこかぎこちない笑顔を向けてくる。  
「別に、関係ないだろ」  
自分でもびっくりするくらい冷たい声だった。でも本心だ。俺の調子が良かろうが悪かろうが、この子には全然関係ない。  
俺の言葉に一瞬びくりとし、それでも彼女は妙に高いテンションで言葉を続けた。  
 
「あの校長とケンカして、ブチのめしちゃったんでしょ? 凄いよねー。いつの間にそんなに強くなっちゃったわけ?  
小さい頃のシモンからは想像もつかないっていうかさ」  
名前を呼ぶなよ。  
 
「まあ、あの頃は君らに陰口叩かれても何も言い返せなかったくらいだったしな」  
あれ、俺こんなふうに皮肉を言うことも出来たんだ。自分で自分に少しびっくりした。  
「やだな、昔の話じゃん、昔の話! 今は馬鹿になんかしてないってー」  
笑って誤魔化して、謝りもしないんだな。  
 
……はっきりとわかった。俺、この子が嫌いだ。  
 
キタンが消えたドアに向かおうとする俺の腕を、彼女が掴んだ。  
「あ、あのさ! あたし最近、あんたのこといいなーって思ってたっていうか」  
「は?」  
「キタンから、話聞いてない?」  
 
媚びるような笑みを浮かべる彼女の顔を見ながら、俺はキタンの先ほどの言葉を思い返した。  
 
『お前のことが好きだって女がいたとしてだな』  
『後腐れなくヤらせてくれるっつったら、お前どうする』  
 
 
――ふざけんな!  
俺は今度こそ腕を振り払うと、大股で扉へと突き進む。  
お前が俺の何を知ってるっていうんだよ。何を見て好きだなんて言えるんだよ。  
人を好きになるっていうのは、もっと純粋で、尊くって、大切なことで――ああ、上手く言えないけど、とにかく絶対に違う!  
後腐れなくやらせてくれるだと? 人を馬鹿にするにもほどがある。  
ツインテールにも腹が立ったけど、まずはキタンをぶん殴る!  
 
力任せにドアノブを捻ったところで、後ろから彼女が叫ぶ。  
「い、行っちゃったら、この写真あの子に見せるわよ!」  
 
 
振り向いた先、彼女が手にしていた写真をひったくる。  
そこには、七歳くらいの俺が映っていた。洟をたらして泣いている。……下半身丸出しで。  
「す、好きな女の子の前では、かっこつけたいもんでしょ?」  
 
ニアに見せるってことかよ。  
……最低だな。女を殴りたいと思ったのは、生まれて初めてだ。  
「見せたければ見せればいいだろ。ニアはこんな写真見たくらいで、俺のこと見損なったりしない」  
俺はひったくった写真を、破りもせずに彼女に突き返した。  
 
「しゃ、写真見せるだけじゃないわよ。あんたの昔のことについて、あることないこと吹き込んじゃうんだから」  
「好きにすればいいよ」  
今度こそ俺は扉を開けて、彼女を置き去りにして校舎に戻った。  
そうさ、好きにすればいい。昔の俺についてあの子が何を言おうと、どんな酷い嘘を吹き込もうと、ニアはそれを信じるような子じゃない。  
俺はニアを信じてるし、ニアは俺を信じてる。  
 
 
俺は足早に階段を駆け下りると、階段の下で罪悪感に頭を抱えていたのであろうキタンに、軽やかにとび蹴りを食らわせた。  
キタンも彼女に半ば無理矢理頼み込まれたみたいだし、報酬として渡されたらしい裏DVDのディスクを叩き割ることで、一応勘弁しておくことにしよう。  
 
 
 
※  
 
 
 
「……っていうことがあったんだ、今日」  
「まあ」  
 
その日の夜、俺は部屋でことのあらましをニアに報告した。  
ニアのことを信じてるんじゃなかったのか、とつっこむことなかれ。  
信じてはいるけど、二人の仲に余計な波風が立つのをみすみす受け入れるほど俺はお人よしじゃないぞ。  
 
「あのツインテールの子が変なこと言ってくるかもしれないけど、話半分で受け流してくれよ?」  
「はい、わかりました。でもそんなふうに心配しなくても、シモンが浮気したなんて言われても信じたりしません」  
「俺のこと、信頼してくれてるんだ」  
「それもありますけど、私、自分に自信があるんです」  
ニアの言う意味がわからなくて、彼女の顔を覗きこむ。  
 
 
「シモンは、私が一番いいでしょ?」  
ニアは少し恥ずかしそうに俺を見つめて言った。  
 
 
……あー。そういうことかぁ。  
自分が俺の中でナンバーワンだってこと、ちゃんとわかってるってことかぁ。なるほどねー。  
「うん。確かに」  
そこについては、ニアには本当に自信を持ってもらっていいよ。ニアは俺のナンバーワンで、オンリーワンです。  
 
 
 
「……でも、少しその子が羨ましいです」  
「え?」  
「だって、小さい頃のシモンのことを知ってるんでしょ? 私は今のシモンのことは沢山知ってるけど、昔のシモンのことを知ることはできないから」  
うーん、と俺は微妙な笑みを浮かべた。正直、昔の俺をニアに知ってもらいたいか……というと、答えはノーだ。  
ツインテールの子が言ってた「好きな女の子の前ではかっこつけたいもんだ」っていうのは、悔しいけど本当だ。  
泣き虫で弱虫だった俺も俺だけど、ニアに積極的に知ってもらいたいとは思わない。  
なんでもかんでもさらけ出すのが愛ってもんでもないだろ。好きな女の子の前でかっこつけるのもまた愛の形だ。きっと。  
だから俺は、目の前のニアに言う。  
 
「俺はさ、ニアには昔の俺のことよりも、これからの俺について考えてもらいたいな」  
「これからのシモン?」  
「そ。来年とか、三年先とか、十年後とか。そのとき俺とニアは一緒にいるかどうか、とか」  
うわ、これ結構ギリギリな言葉だよな。ほとんどプロポーズに近い。  
ドキドキしながらニアの返事を待つ。ニアはしばらく真剣に考え込んだあとで言った。  
「先のことは、だれにもわかりませんけど……でも」  
 
にこっと笑ったニアは、本当に綺麗だった。俺は多分、このときのニアの笑顔を一生忘れないと思う。  
「白髪のおばあちゃんになるまでシモンと一緒にいられたら、とっても素敵ね」  
 
 
 
 
喉の奥がごつごつして、何故だか俺はすごく泣きたくなった。  
ぐっと口に力を入れてこらえる。それでも目の端に少し涙が浮かぶのを止められなかった。  
プロポーズに近い言葉に、了承の返事を貰えたから――ではないと思う。  
よくわからないけど、ニアの言葉がとても尊かった。  
来年のことも十年後のこともすっ飛ばして、五十年六十年先の未来を夢見ることができるのが、とても幸せだと思ったんだ。  
 
「うん」  
油断すると涙声になりそうで、俺はゆっくりと言葉を口にする。  
「本当にそうなったら、すごくいいな」  
そうだよ。それこそ日曜日の朝、ニアの顔だったら一生見てたって飽きないって思ったばかりだ。  
ニアなら、おばあちゃんになってもきっと可愛くて綺麗だよ。  
 
 
ベッドに腰掛けて、俺を見つめて微笑むニアに笑い返してこっそり決意する。  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
学校卒業したら、プロポーズしよう。  
一生傍にいてくださいって、言おう。  
 
 
 
終  
 
 
 
 
おまけ  
 
「今日は、エッチしないんですか」  
「なんだか今日はそういう気分じゃなくてさ。……ニアのこと抱きしめて、ゆっくり眠りたいんだ」  
「そうですか……ちょっと残念です」  
「え?」  
「花嫁修業、今日で終わりですから」  
「……は?」  
「あら? 言ってませんでしたっけ?」  
「き、聞いてないよ!」  
「おかしいですね、シモンのお母様とお父様にはお話しておいたんですけど……」  
(あ、あの親共、俺に伝え忘れたな!?)  
「ちょ、ちょっと待って!? 今日で終わりってことは」  
「はい、シモンとこんな風に夜ゆっくり過ごせるのも最後です」  
「……ニア、前言撤回」  
「え?」  
「愛し合おう、朝まで」  
「そう言うと思いました」  
 

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