七年もかかって、ようやく互いの気持ちを確認できた。  
それに至る経緯は、もう思い出したくもない。縄とか、縄とか、縄とかもうしばらく目に  
したくない。ある意味、男として二アの料理以上に深い傷を刻み込まれた。  
 
けれど、それだけ彼女が自分を想ってくれていたことは、何より嬉しかった。  
彼女が傍にいるだけで、幸せな気持ちになれる。  
言葉を交わしたり、隣に座ったり、何もかもが新鮮で些細なことが嬉しくて――多分、最近  
仕事のスピードが遅くなってきたのはその影響なのだと思う。  
 
しかし、だ。  
両思いになったからといって、この現状に甘んじているわけにもいかない。  
何故ならキノンの突然の強襲を受けて早二ヶ月、そう、もう二ヶ月も経過しているのだ。  
 
二ヶ月、何も起こらない。  
起こらない、というか起こせないといったほうが正しいのだが、ともかくも次のアクションに  
二の足を踏んでいる。  
つまるところ、一度行為に及んだきり、体を重ねていない。  
それだけならいいが(いやそれだけでも充分ふがいないのだが)、キスすらしていない。  
前回は、何というかなしくずしの結果で、普通の恋人同士ならあれはない。  
そう、普通なら男のほうから積極的に行くべきなのだろうが、それがなかなか難しい。  
ここぞというタイミングが分からないのである。  
このまま進展できず更に一年、二年……そしてまた七年か? それだけは避けたい。  
 
まずどこで行為に及ぶべきなのかが分からない。  
まさかまた仮眠室というわけにもいかないし、そもそも仕事場でなど、低俗下品極まりない。  
互いの自宅……もないと思う。  
どういう過程を経たらキノンの家に行けるのか、いくら考えても思いつかなかった。  
 
恐らくシモンが今ここにいたら、『男ならやれ!』だの『無理を通して道理を以下略』うんぬん  
簡単に言ってくれるのだろう。  
『ニアとこの間ラブホで〜』とか何とかのろけていたのを記憶の片隅に覚えている。  
コスプレがどうとか体位がどうとかいう話もどこかで聞いた。  
下品だとは思うが、正直こういう類の話に関しては彼の螺旋力に脱帽せざるを得ない。  
当時は右から左へ聞き流して『仕事をしてください』と言っていたが、今は切実に思う。  
 
ちゃんと聞いておけばよかった。  
 
無理を通したくない。道理を蹴っ飛ばしたくない。大事にしたいと思っている。  
しかし大事にしすぎて次のステップにやっぱり何年もかかっていたら世話はない。  
結局答えの出ない思考の堂々巡りに、ロシウは一人溜め息をついた。  
 
 
仕事の息抜きに執務室を出たところで、ふとキノンの後ろ姿を見つける。  
話しかける前に、彼女の姿はオペレータールームに消えた。  
追いかけて、彼女が見慣れた短髪のオペレーターと話しこんでいるのに気づいて立ち止まる。  
「どうだった? ギンブレーさん」  
「それが、やっぱり色々大変だったみたいで……」  
ギンブレー? 大変? 何の話だ?  
立ち聞きなど趣味ではないが、キノンのこととなれば話は別だ。  
こっそりと耳をそばだてる。  
「二人きりで一日中話したんだけど、結局結論は出なかった」  
「先週の日曜日だったっけ? まあ男女の関係なんてそんなものよね」  
一日中、話した。先週の日曜日に。ギンブレーとキノンが二人きりで。  
大変だったけど、男女関係なんてそんなもの。  
彼女たちの会話から語句を拾い集め、つなぎ合わせて世にも恐ろしい文章ができあがって  
しまった。  
これは、真偽のほどを確かめなくてはならない。  
ロシウはキノンがオペレータールームを立ち去ったのを確認して、シベラの傍に駆け寄った。  
シベラの背後に立ち、ごほん、軽く咳払いをする。  
「あ、総司令。何かご用ですか?」  
「ん……その、今の話……」  
視線を泳がせながら、小声で呟く。  
「ああ、キノンさんがギンブレーさんを家に呼んだって話ですか?」  
「は!?」  
ロシウは目を剥いて、素っ頓狂な声を出した。その反応にシベラが更に驚く。  
「だから、ギンブレーさんがキノンさんの自宅に遊びに行ったって話じゃ……違うんですか?」  
「あ、あああ遊び? プレイ? キノンが、遊ぼうと、誘ったと?」  
眩暈がする。まさか、いや、ただの同僚で、純粋に遊びに行っただけで。  
でも、自分はまだ一度も呼ばれたことがない。  
いや、友人なら自宅に呼んでもおかしくない。  
しかし、自分はまだ一度も行ったことがないのに。  
ロシウはぐるぐる頭を回る不安な仮説を打ち消そうと必死に努めた。  
 
「妹さんのことで丸一日ギンブレーさんの相談に乗ったとか……ってあれ? 総司令?」  
シベラがそれを口にしたとき、すでに隣に総司令官の姿はなかった。  
 
 
――彼女を独占したいと思ってしまうのは、おかしいことなのだろうか。  
暗雲が次第に空を覆うように、腹の奥でどす黒い感情が湧いてくる。  
今やギンブレーはもとより、彼女がギミーと話しているときでさえ、苛立つようになっていた。  
自分がこれほど嫉妬深いとは思わなかったのだが、やはり一度体を重ねたせいだろうか。  
 
(キノンは僕を好きだと言ってくれて、僕も好きなわけで)  
だから一応自分は、多分、恐らく、キノンの恋人だ。  
もちろん大事にしたいけれど、もっと触れたいとも思っている。  
いつどこでキスしようと、それ以上のことをしようとそれは普通のことなはずなのだ。  
なのに、やはり一歩踏み出せない。  
へたなことをして傷つけてしまうのが怖い。  
どういう経緯でその状況に持って行けばいいのか分からない。  
 
こうしている間に、キノンが自分の元を去ってしまうのではないだろうか。  
もし、もしギンブレーに多少なりともキノンへの慕情があったら……  
そこまで思い浮かべて、ロシウは自分の頬を叩いた。  
「何を考えてるんだ、僕は!」  
「総司令?」  
背後からその女性の声が聞こえて、ロシウは弾かれたように顔を上げた。  
 
「キノン」  
ひどい顔をしていたのだろうか。振り向くロシウを、キノンは驚いた表情で見つめた。  
「その……ギンブレーが君の自宅に行ったという話を耳にしたのだが、本当なのだろうか?」  
恐る恐る問うと、キノンはきょとんとして目を瞬いた。  
「え……? ええ、本当です」  
愕然とした。  
そうか、開いた口が塞がらないとはまさにこういうことか。  
あれこれ悩んでいる間に、まさか部下に先を越されるとは。  
「そ、そ、そうか。それで、い、一体何を」  
普段どおりに冷静な表情を繕うが、自然と声が上ずる。  
キノンは首を傾げて、うーん、と唸った。  
「お茶を飲んで、えっと食事して、色々お話をしました」  
「食事、というのは、君がつくったの、か?」  
「? えぇ、一応。それで聞いて下さい。キヤルったらギンブレーさんに…………」  
キノンの手料理――――――!?  
自分もまだ口にしたことのない、未知の味を、あのキノコ頭は咀嚼したと言うのか。  
エリンギ、しいたけ、まいたけ、しめじ……これから先、きっと自分はきのこを食べる際に  
軽く殺意を覚える。それだけは確信した。  
ロシウはわななく拳を握り締めた。  
キノンが続ける話はもはや耳に入ってはこなかった。  
 
ふと、キノンが何かに気づいて軽く手を振った。  
後ろを振り向くと、数人の女性局員が黄色い声を上げながら通り過ぎていくのが見えた。  
「キノーン、今夜だからね、忘れないでねー」  
きゃっ、きゃっ、と騒々しい話し声の合間に、一人がキノンに大きく手を振りながら言った。  
「うん、分かった」  
「今夜?」  
訝しげに眉をしかめると、キノンは少しだけ苦笑した。  
「その、合コン……に誘われて」  
「合コ……」  
正式名称合同コンパ。  
実はロシウも過去に一度だけ(人数合わせで)誘われたことがある。そのときは断ったが、  
それがどんなものなのかは知識として知っている。  
見知らぬ男女が入り乱れて酒を飲んだり、服を脱いだり(野球拳)キスを強要したり(王様ゲーム)  
ああ想像するだけで品格の知れる破廉恥なイベントだ。  
「断ったんですけど、頼むから、ってすごい頭下げられちゃったんです」  
キノンは申し訳なさそうに肩をすぼめた。  
しかしロシウは、そんな少女の仕草など目に入らないくらい憔悴しきっていた。  
 
人がこんなに悩んでいるというのに  
他の男を家に呼ぶのか。  
人がこんなに我慢しているというのに  
他の男に会いに行くのか。  
 
ぷちん。  
多分、今彼の脳内にスピーカーがあったらこんな音が出ていたことだろう。  
ロシウの中で何かが切れた。  
 
「でも、顔だけ出してすぐ帰るつもり……ロシウ総司令?」  
外は快晴。  
けれど、彼の胸のうちは、雷鳴とどろく大荒れ模様になっていた。  
 
「あの、総司令……? ロシウさん?」  
急に黙りこんでしまったロシウに、一抹の不安を感じて問いかけるも返事はない。  
キノンは首を傾げて躊躇いがちにロシウの腕に触れた。と、その瞬間、逆に腕をつかまれ  
強い力で引き寄せられる。  
「痛っ」  
どん、という鈍い音とともに、背中を壁に押しつけられた。  
突然の衝撃に閉じた目を開くと、次の瞬間、ロシウの顔がすぐ目前に迫り  
「んっ!?」  
息をつく間もなく唇を塞がれた。  
「んん……ぅう……ん……!!」  
侵入する舌は、キノンが声を出すことも許さないように、きつく口腔内を犯していく。  
「んー……、ん……ー!」  
あまりに強く押さえこまれ、息が苦しかった。どんどん彼の胸板を叩いたが、そんなもので  
男の体が動じるわけもなく、ロシウはひたすら少女の唇を貪った。  
「……は、はあ、はあ、そ、そうしれ……どうして」  
あまりに長いキスの後、ようやく解放されたキノンは少年の衣服にしがみついて荒い呼吸を  
繰り返した。  
突然のことで、キノンは何が何だか分からなかった。  
自宅やプライベートな空間ならともかく、ここは政府の中核で、仕事場なのだ。  
極めつけに今いる場所は廊下――誰に見咎められるとも分からない。  
キノンには信じられなかった。  
普段ならば、公私を混同させるような行為や、人前での破廉恥な行為は真っ先に断罪する人の  
はずなのだ。それは七年も一緒にいた自分が一番よく知っている。  
そのロシウがまさか、こんなことをするなんて――  
 
ロシウはキノンの愕然とした表情に気づいたのか、自嘲するように笑った。  
骨ばった男の手が、キノンの胸元をまさぐり、スカートの裾を捲り上げる。  
「いや……!」  
反射的に、キノンは体を揺すって抵抗した。  
別人のように見えたからかもしれない。いつもは温かい彼の笑みが、何だか恐ろしいものに  
感じられて怖かった。  
まるで、月落下の宣告を受けたときのような、追いつめられて非情にならざるを得なかった  
あの頃の顔。  
「嫌?」  
「…………」  
しばらく考えて、キノンはふるふると首を横に振った。  
本当は、ずっと待っていた。彼に求められるのは嬉しい。嬉しいけれど……  
「でも、こんなところ……で。誰か来たら……」  
不安なことはそれだけではないが、とりあえずそう言えば、ロシウならやめてくれると思った。  
何より、仕事中にこんなことをするべきではないと、彼なら分かってくれるだろう。  
「じゃあ、移動しようか」  
しかし少年は、キノンの意に反して冷たく耳元に囁いた。  
 
キノンは、ロシウが本当に別人になってしまったのではないかとさえ思った。  
総司令の執務室に淫猥な水音が間断なく響く。  
キノンは今、デスクの下に潜り、椅子に腰掛けた少年の怒張を咥えこんでいる。  
それを強要したのは、もちろんロシウだ。  
「ぅむ……んう……んっ」  
先端から滲む液体にキノンの唾液が絡み合い、口を離すと肉棒がてらてらと光った。  
「うまいじゃないか。一体今までどれだけの男を咥えこんできたんだ?」  
ロシウの笑い声が上方から響き、キノンは涙目になって首を横に振った。  
「違、こんなことロシウ以外にしな……んぐっ」  
すぐに彼の両手が容赦なくその頭を押さえこむ。  
無理矢理捻じ込まれて、キノンは吐き出しそうになるのを必死に堪えた。  
「集中するんだ」  
 
電子音が鳴った。  
キノンは知っている。これは、総司令室の開扉パスワードを入力している音――つまり、誰かが  
入室しようとしている。こんな状況の執務室に。  
「失礼します」  
扉の開いた音。すぐに、足音が近づいてきた。  
「ギンブレー」  
咄嗟に口を離そうとしたが、頭を押さえこまれてしまった。  
「構わず続けて」  
小声が頭上から降ってきた。  
「……!?」  
この人は、何を言っているのだろう。  
キノンは混乱していた。  
いつもの彼なら、こんなことは有り得ないはずなのだ。  
オフィスで淫行に及ぶなど有り得ない。こんな行為は彼が最も嫌うシチュエーションのはず……なのだ。  
「頼まれていた書類、持ってきました」  
ギンブレーも、まさかデスクの下に秘書がいるとは思わないだろう。  
それどころか男性のものを咥えているなど、見られたら恥ずかしくて死んでしまう。  
早く、早く行って欲しい。気づかないで、そのまま行って――  
「あぁ、そこに置いておいてくれ」  
ばさり、紙の束が落ちる音。そしてギンブレーは何も気づかず去って行った。  
 
やっと行った。行ってくれた。  
ロシウは足の間で放心しているキノンの頭を優しく撫でた。  
「どうして、こんなの……ロシウらしくない……」  
「僕らしくない、か」  
ぐっ、と頭をつかむ手に力が入る。  
「……む……んぅ、んー……!」  
喉の奥まで一気に突き入れられ、キノンはむせそうになった。  
「んん、ん、っ」  
苦しい。息ができない。  
しかしロシウはキノンの苦渋の表情などまるで気にもとめず、自分勝手に彼女の頭を激しく  
前後に揺さぶった。  
「……出すよ、キノン……全部飲んで」  
「!? うぅ……んぅぅ!」  
頭をがっちりとつかまれ、引き剥がすことはできなかった。  
勢いよく発射された液体が、口腔内を満たしていく。喉の奥にねっとりと絡み、キノンは息苦しさと  
独特の粘りつく感触に、顔をしかめた。  
「うぐっ……ぅう……っ、う!」  
気持ち悪くて、とても苦かったが、こくこくと喉を鳴らして必死に飲みこもうと努める。  
飲みきれなかった粘液が、口の端からどろりと溢れた。  
「いい子だ……」  
長い射精の後、ロシウのものは口からずるりと抜け落ち、ようやく頭を解放された。  
「げほっ、げほ……っ……」  
キノンが終わったのか、と思う間もなく、ロシウは彼女の体を引き上げ、己の膝の上に乗せた。  
形のいい乳房を衣服の上から、痛いくらいにつかまれる。  
「ひ……っ」  
小さく悲鳴を上げると、ロシウはスカートを捲り上げ、背後から抱きかかえて足を広げて見せた。  
ちょうど子どもに小用を足させるような格好である。  
「い、いやあっ」  
あられもない格好にされ、これにはさすがのキノンも真っ赤になって顔を歪めた。  
 
ストッキングと下着の上から、男の指が秘裂をゆっくりなぞる。  
「あ、ぁっ」  
状況が状況だからか。布を二枚隔てているというのに、キノンは艶かしい声を出した。  
強く擦り、入り口の突起物を軽くつままれ、キノンの体が弓なりにしなる。  
何度も同じ動きを繰り返され、次第に蕩けていく思考に、ただ身を任せることしかできなかった。  
「ひぅ……っ! あ、あ……ひぁああ!」  
瞬間、心臓がそこに移動したかのように、秘部がどくどくと脈打つ。  
「あぁ……ぁ……」  
切ない声を漏らして、キノンは全身をがくがくと震わせた。  
達したのだ。下着の上から触れられただけで、達してしまった。  
ロシウは口元に小さく笑みを浮かべると、聖域を覆う無粋な布を一気に引きずり落とした。  
あらわになったキノンの秘部は、赤く充血し、とろとろと多量の蜜を溢れさせていた。  
絶頂の余韻もそのままにぱっくりと口をあけ、淫らにひくひくと息づいている。  
「いつも執務中にこんなに濡らしているんですか?」  
追い討ちをかけるように、ロシウは意地悪く耳元に囁いた。  
「ち、違っ……ぁ……も、やぁ……」  
今度は直接彼の指が触れ、蜜壷をかき回される。  
「じゃあ、僕のを咥えて濡らしたのか。どちらにせよいやらしい女性だな、君は」  
卑猥な水音が室内に響き、キノンは涙目になりながらひたすら言葉の陵辱に耐えた。  
「も、もうやめて下さ……おねが……」  
「君のここは、そうは思ってないみたいだけど?」  
「ひ……っ、あ……」  
奥まで指を挿入され、ゆっくり抜き差しされる。  
遠くから近づいてくる足音にキノンが気づいたのは、ちょうどそのときだった。  
 
「ああ、また誰か来みたいだな」  
「嘘、嘘……いやぁ……っ!」  
自分の姿が見えない先ほどの状況ならまだしも、今は全身を扉に向けて曝け出している状態だ。  
それも、こんなにはしたなく足を広げて、男の指を受け入れた秘所を濡らしている。  
「いや、いやです……はなしてぇ」  
体に力が入らない。彼の腕から逃れられない。  
ロシウはこの状況がさしたる問題でもないというように、キノンの髪にそっと口づけた。  
「君のはしたない姿を見てもらおうか。どう思うかな、同僚たちは」  
「んん……! やぁ……い、や……あ」  
電子音が鳴った。先ほどとは異なる。一回、二回――通信だ。  
ポーン、という軽快な音が響く。回線が外と繋がったのだ。  
「どうした?」  
「アンドロメダ銀河系の小惑星から通信が入っています」  
局員の声が拡張されて室内に響き渡る。それはつまり、こちらの音も外に洩れているという  
ことなのだ。だがしかし、ロシウは動きを止めてはくれない。  
(駄目、もう、声が出ちゃう……)  
必死に口元を押さえこむも、勝手に嬌声が洩れてくるものだから堪らない。  
ロシウの指が耐えているキノンを更に追い打つ。最も敏感なしこりを強くつままれ、全身が震えた。  
「……っ!? ひゃ……あ……ぁあ!?」  
「? 総司令、どうかしたんですか?」  
汗が額を伝って落ちる。  
気づかれた、気づかれたのだろうか?  
「いや、少し気分が悪くて休んでいたんだ。申し訳ないが、今日は出られないと伝えてくれ」  
「そうですか、それは失礼いたしました。その旨お伝えしておきます」  
プツン、回線が切れた。誰かが入室してくる気配はない。  
遠ざかる足音が、ぼんやり耳を通過する。  
 
「ふぁ……」  
キノンが脱力して涙声を出すのに反し、ロシウは意地悪くくすくすと笑った。  
「冗談ですよ……本気で僕が、君の卑猥な姿を他人に見せるとでも?」  
卑猥、と言われてキノンは真っ赤になった。  
腰のあたりに熱くて固いものが当たっている。  
それが彼自身の主張だと気づき、キノンは更に真っ赤になって俯いた。  
「……ぁ……あ……」  
股間を背後からぐいぐい押しつけられ、思わず甘い吐息が洩れる。  
彼が求めてくれている。そう思うだけで身体の芯が熱くなり、また達してしまいそうだ。  
だがロシウは、それ以上何もせず、次の瞬間固く抱きしめていた腕をするりと緩め、キノンの  
体を離してしまった。  
「あ……」  
急に身体の自由が戻り、困惑すると同時に、もどかしさを感じる。  
「ロ、シウ……」  
振り返り、眉根を寄せて彼の名を呼ぶ。  
当の本人は腰掛けたまま、どこか蔑むような目で少女を見下ろしていた。  
「嫌なんだろう? やめてほしかったんだろう?」  
違うのか、とその目が問うている。  
ぎゅっ、とスカートの裾を握る手に力がこもる。  
「くだ……さい」  
震える唇がわずかに動く。キノンは蚊の鳴くような声で呟いた。  
「聞こえないな」  
「いれて、ください……」  
次の瞬間、ロシウは口の端を上げて卑屈な笑みを浮かべた。  
 
「机に登って膝をついて、腰をこちらに向けなさい」  
「え……」  
冷淡な口調でそれだけを告げられ、キノンは喉を詰まらせた。  
「できない?」  
「い、いえ……」  
慌てて首を横に振るも、内心は恥ずかしくて堪らなかった。  
けれど、彼が望むのなら、言うとおりにしてあげたい。  
震える手をかけデスクによじのぼる様を、ロシウはじっと見ている。  
視姦するように、舐めるように見ている。  
それだけで、熱いものが中心から溢れ出てくるのが分かる。反射的に太ももをぎゅっ、と  
閉じたけれど、膝をつけて四つん這いになると、湿ったいやらしい音が響いた。  
「もっと腰を上げて。……ほら、そんなじゃ挿れるところが分からないだろう?」  
四つん這いになっただけでも恥ずかしくて堪らないというのに、更にそんな条件を付加されて、  
キノンは泣きそうになった。  
「うぅ……」  
震える下半身を持ち上げ、身を屈める。見られているという恥辱にひたすら耐えたが、そのままの  
状態が思った以上に長く続き、ロシウが行動を起こしてこないことに不安を感じた。  
「ロシウ……?」  
恐る恐る後ろを振り返る。と同時に、腰を鷲づかまれた。  
「きゃあ!」  
何の前置きもなく、ロシウはキノンの中に侵入してきた。  
「あぁ、あっ」  
いきなり奥まで突かれ、軽く達する。  
激しく腰を揺さぶられると、頭の中が真っ白になった。  
 
「ひぁっ、あっ、も、ゆるし……てぇ……」  
泣きながら懇願するも、彼は止まらない。  
背後から聞こえるロシウの息遣いが段々と荒くなってきた。  
奥まで埋めたものを入口まで引き抜かれ、また一気に奥まで侵入され、次第に動きを加速して、  
前後に揺すりたてられる。  
「待っ、やぁ……あっ、あああっ!」  
登りつめる一歩手前でもてあそばれたキノンの膣は、本能のままにロシウ自身に絡みつき、  
きゅうきゅう締め上げた。  
身体の奥底からなにかが背中を駆け上り、また一気に駆け下った。  
「あ、あ、……」  
柔らかな肉壁が収縮を繰り返し、熱い塊がびくびく、と胎内で震える。  
ゆっくり、名残惜しく中をさまよい、引き抜かれる。  
とぷ、とぬめった音が耳に届いた。膣内に出されたのだ。  
ロシウはデスクにうずくまったまま動かないキノンを抱き起こし、抜いたばかりのものを  
彼女の口元に押しつけた。  
「キノン……」  
「ぁ……」  
彼が言わんとしていることを悟り、キノンはまだ熱を帯びている肉棒にそっと手を添えた。  
「ぅ……んむ……ぅ……」  
全身に舌を這わせ、尿道にわずかに残る精液を吸いこむように舐め上げた。口をすぼめると、  
ロシウが少しだけ低い呻き声を上げた。  
「ん……もう、いい」  
ぐい、と頭を押しやられる。それは、すでに鎌首をもたげはじめてきていた。  
 
 
気がついたら、自宅のベッドの上だった。  
あの後のことは、あまりよく思い出せなかった。  
多分力が入らなかったから、ロシウに服を着せてもらって、早退したのだと思う。  
ぼんやりそこまで考えて、キノンは目を閉じ、深いまどろみの中に意識を沈めた。  
 
 
 
その日を境に、幾度とない情交を重ねた。  
オフィスでの行為という背徳感も、今やほとんど抵抗感がない。  
キノンが何を強要しても受け入れてくれるからだろうか。だがその一方で、こんな風にしか  
抱けない自分を叱咤し、蔑んでくれればいいのにとも思う。  
欲望のままに彼女を犯した。今更優しく愛の言葉を囁いて、抱きしめることはできないと思う。  
一度切れた糸は、どうやっても元に戻らないだろう。  
自分が彼女につけた傷跡も、きっと元には戻らない。  
多分、もう、戻らない。  
 
「ぁ……んっ、あ……」  
か細い喘ぎが間断なく洩れる。  
性器がこすれあう卑猥な音が室内に響き、吐息と混じり合って沈んだ。  
声を押し殺すように、唇を重ねる。  
「ん、ふ、ぅう……」  
強く体を密着させると、キノンの足が、もどかしく絡みついてくる。  
ロシウはいつものように、ただ湧き上がる激情にまかせ、荒々しく彼女を突き上げた。  
「ろ、しうぅ……」  
震える腕が、男の首元に弱々しくしがみつく。キノンはとろんとした瞳で、呂律の回らない  
舌を必死に動かし、その名を呼んだ。  
 
「ロシウ……ろしう、すき……」  
 
はっとする。  
一瞬、時間が止まったように思えた。  
胸に杭を打たれたような衝撃が走る。  
「すき……」  
その時、初めて組み敷いている少女に気づいたように、彼女の顔を直視した。  
頬を紅潮させて、涙ぐんだ瞳で、じっとこちらを見つめている。  
その唇から発せられた言葉は頭の中をぐるぐる回って、どこに落ち着くこともなく反芻された。  
 
「馬鹿じゃ、ないのか……」  
こんなことをする自分を  
ただ欲情にまかせて体だけを求める自分を  
「君は、……」  
まだ、好きなんて言うのか?  
「すき……」  
馬鹿なのは、どっちだ――  
 
 
ロシウは無言で挿入していたものを引き抜くと、キノンの体を解放した。  
「ロシウ……?」  
後ろを向いたまま、うずくまってしまったロシウに、キノンがそっと近寄る。  
「自分が心底嫌になりました」  
ロシウは俯いたまま、眉根を寄せて自嘲した。渇いた笑い声が狭い室内に響いて落ちる。  
「私、は、嫌じゃなかった。いいと思います……ロシウのしたいようにしてくれて、私は  
全然構わないから……」  
「あんなの、女なら誰でもいいと言っているのと同じだ。僕は結局、愛情じゃなくて、本能で  
君を抱いたんだ」  
口にすれば、次第に気持ちが重く沈んでいく。もうこのまま消え去りたい。  
キノンが他の男を家に呼んだからといって、他の男に会いに行くからといって、それが彼女を  
犯していい理由にはならない。  
大事にしたいと思っていたのに、そんな簡単なことすらできなかった。  
「…………」  
「僕は、君に最低なことをした」  
小さく呟いて、体を丸める。見えるもの聞くものすべてを遮断してしまいたかった。  
「……ロシウは、何でも深く考えすぎだと思うの」  
ロシウははっとして顔を上げた。キノンが頭を抱えこむようにして抱きついてきたのだ。  
「!?」  
柔らかい胸に顔が埋まり、ロシウは逡巡した。そんな気持ちを読み取ったかのように、  
キノンは優しく微笑んだ。  
「最近のロシウ……ちょっと怖かったけど、私は嬉しかったんだよ?」  
「でも、あんなやり方……」  
視線を合わせようとせず、うじうじ泣き言のように繰り返すロシウに、キノンは嘆息した。  
「じゃあロシウ、歯を食いしばって、目を閉じて」  
「そ、それはシモンさんのセリフ……」  
「いいから」  
当時の頬骨が折れるかと思った惨憺たる状況を思い出し、ロシウは一瞬蒼ざめる。  
しかしキノンの怒りを受け止めようと、来るべき衝撃を覚悟してきつく目を閉じると――  
柔らかな唇が、己のそれを塞いだ。  
「ん、ん……っ!? ぅ……っ」  
小さな舌が積極的に絡み、口を離すと唾液が細い糸を引いた。  
「ふ……はぁ、き、キノン……!?」  
状況に思考が追いつかず、ぽかんとしていると、キノンはロシウの体躯を押し倒した。  
 
「今日は私に任せてください」  
「ちょっ、待……っ!?」  
いつぞやのように馬乗りになると、キノンは躊躇わずにロシウの股間をまさぐり、それを握った。  
「き、のん……」  
背筋が震え、思わず呻き声が洩れる。  
キノンの手の中で、己がひくりと震えて頭をもたげ始めた。  
「ぅう……」  
撫でるように、さするようにキノンの指はなまめかしく動いた。口技といい、毎度思うが  
一体どこでこんなことを覚えてくるのだろう。これだけはいくら考えても謎だ。  
「気持ちいいですか?」  
「あ、あぁ……気持ちいい、よ」  
キノンは硬く膨張したそれから手を離すと、上体を起こし彼の中心を見定めた。  
「あ、あの、キノン……」  
「黙って」  
キノンは低く囁くと、ロシウの体を跨いでひくつく先端を己のそこへ導いた。  
「ん、ん……」  
ゆっくり、彼女の腰が沈んでいく。  
「ん、ぁ、はあ……ぁんっ」  
根元まで咥えこみ、キノンは嬉しそうに嬌声を上げた。  
「それじゃ、がんばりますね」  
言うや否や、キノンは上下に動き始めた。初めはもどかしいくらいにゆっくり、次第に速く。  
「はあ……キノン……っ」  
「ロシウ、好き、だから。私、ロシウが一番、一番……」  
その言葉を合図にしたかのように、キノンの最奥でロシウの雄がぐぅっと膨れ上がり、はじけた。  
 
 
「まだ落ち込んでるんですか?」  
「僕はどうかしてたんです。仕事場で部下に無理矢理関係を迫るなんて……それもあんな、  
あんな……」  
ロシウは肩をがっくり落とし、ひたすら自己嫌悪のループに陥っていた。  
彼の周囲によどんだ空気が流れてきたのを感じ取ったのか、キノンがひと際明るく振舞う。  
「確かに少しロシウの性癖を疑ったけど、むっつりすけべなのかなって思ったけど、  
私は嫌じゃなかったんだから、無理矢理ではないです」  
悪意のない無邪気な感想が胸にぐさり、と突き刺さる。  
更に沈んだロシウを慰めようとして、キノンはそうだ、と明るく手を叩いた。  
「そういうプレイだったと思えばいいんですよ! 『オフィスで陵辱ごっこ・鬼畜編』みたいな。  
お兄ちゃんが隠してたDVDの中にそういうタイトルのがありました」  
「そうだろうか……」  
そんなものと一緒にされるのも結構ショックなのだが。  
「そうですよ。だって私は全然嫌じゃなかったもの」  
キノンは優しくロシウの耳元に囁いた。  
 
「キノ…………ンン!?」  
キノンは唐突に抱きついたと思いきや、唇を、胸を、太ももを押しつけてきた。  
「がんばりますから、任せてください」  
「が、頑張らなくてもいい。僕が……ってうわああ!」  
彼女をそっと抱き寄せ愛撫しようとした途端、すぐさま押し倒され、攻守逆転。  
「ちょっと待て、キノン、ちょ、うわ、やめ」  
「おとなしくして下さい」  
「うわぁああああっ」  
 
 
そのとき、たまたま総司令とその秘書の淫行を目撃してしまったグレンラガンパイロットの  
Gさん(当時十代前半)は、『大統領夫人の螺旋力は大統領を上回っていました』と後に語る。  
 
 
 

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