これは、学園祭の歴史に風穴を開けるべく無茶を通して道理を蹴っ飛ばした、一人の男の物語。
大グレン団放課後定例会議にて学園祭でゲリラライブを敢行することを満を持して発表したカミナだったが、
哀しいことに最初の敵は非協力的な身内であった。
「ラ、ライブ?そんなのアニキ一人で出たら良いだろ、俺嫌だよ!」
「ちょっとカミナ、あんた只でさえ風紀に目ぇ付けられてるんだから、少しは大人しくしてなさいよ!」
「手前はまた一人で目立とうってハラかよ!ボーカルは俺だ!それ以外じゃ協力しねえ!」
大切な弟分に、可愛いカノジョに、そしてその他子分にすげなくあしらわれるカミナ。
しかし、この男がその程度で終わるわけも無かった。
「泣く子も黙る大グレン団、不倒不屈の鬼リーダー、カミナ様を舐めんじゃねえぞ!!」
学園祭まで、あと1週間。
男の逆襲が始まった。
「アニキ〜、本当にコレ付けてたら俺だってバレないの?」
「バレねえバレねえ。ホラ見ろ、顔の半分は隠れるじゃねえか」
自分に音楽の才能はあまり無いと自称するシモンはなかなかステージに立とうとしなかったが、
カミナの熱意と、自分の正体を伏せることを条件にようやく首を振った。
彼を動かすために一番効果的な方法を、カミナが心得ていないわけが無かったのだ。
「シモン。コレ、良く分からないけれど赤くてトゲトゲしていてアニキさんとお揃いで、とっても格好良いと思います!
だから頑張って!」
「ニ、ニアがそういうなら…」
そう、カミナは早々に奥の手を持ち出してきたのだ。シモンの憧れの君、ニア・テッペリン。
彼の誘いと、彼女の期待と。
元々、シモンは多少自己犠牲のきらいがある。両者をきりすてることなど、出来よう筈も無かった。
「けれど、この衣装はどうでしょうか。上着の下が裸だなんて、シモンが風邪を引いてしまいます」
「おおっと、この俺様がそんなことに気がつかないとでも思ったか?さあシモン、下にコレを付けるんだよ!」
「まあ、そうやってお腹に巻いておけばきっと寒くありませんね!良かったわ、シモン」
「ニ……ニアがそういうなら………」
哀れなシモンは知らない。
どんなに己を捨てて奇抜な格好をしようとも、「あの」カミナが共にステージに立たせる男は彼以外に有り得ないのだから。
バレバレである。
学園祭までそう時間も無い。
仲睦まじい二人を置いて、次のターゲットの元へ向かうカミナであった。