「あー…ヨーコ、ちょっと来て貰える…かな?」  
「…え、何?」  
 
昼休み。昼食を終え一息ついていたヨーコの元にやって来たのは、苦笑いを浮かべた  
キヨウだった。  
 
「いいから。多分アナタじゃないと解決出来ないから」  
「???」  
 
疑問符だらけのヨーコを引き摺りながら、隣の教室へ。  
ほとんどのクラスがそうであるように、生徒の話し声と笑い声で実に賑やかである。  
…が、どうもある一角はそうではないようだ。  
 
「…何、この構図…」  
 
思わず顔が引き攣るヨーコの目の前に広がる光景。  
密かに想いを寄せている男、カミナ。  
天然100%美少女のお姫様、ニア。  
その二人に挟まれ、ダラダラと汗を滲ませているシモン。  
 
…これは何事だろうか。  
 
「おうおうおう!姫さんよ、悪いが今回ばかりはシモンを貸してもらうぜ!  
男の約束だぁ!こればっかりは譲れねぇなぁ」  
「でも、先にシモンと約束したのは私です。ですから、アニキさんにシモンは  
渡せません!」  
 
「…あ、アニキ…ニア…うぅ〜…」  
 
キッ、と睨みあう両者。  
二人の下で縮こまるシモン。  
ようやく全貌が見えてきた…気がするヨーコ。  
 
「えーと、つまり…」  
 
どちらとも選べないシモンが悪い、と。  
 
『シモン、今度の日曜、一緒にお買い物に行きませんか?』  
『え?あ…うん、俺で良ければ付き合うよニア』  
『よぉシモン!日曜空いてるな?空いてなければ空けろ!ちっとばかし付き合え!』  
『あ、アニキ?え、えーっと…別に良いんだけど…その…』  
『アニキさん、シモンとは私が…』  
『んん?何だお姫さんよ、シモンとは今この俺様が…』  
 
「シモン、あんた優柔不断過ぎ」  
「ぁぅ…スイマセン…」  
 
しょぼくれるシモンを尻目に、当の二人の睨み合いはヒートアップの一途を  
辿っていた。二人の目線の間に火花が見えるような気さえする。  
 
「はぁ…」  
 
特大の溜め息を吐きながら、二人の元に歩み寄るヨーコ。  
見守るシモンとキヨウの表情は、不安に包まれている。  
 
普段、まず衝突するような二人ではない。  
そんな火中に踏み込むのは、ちょっと勇気が要る行為に違いなかった。  
…はずなのだが。  
 
「チンピラ自重!」  
『ゴガンッ!!』  
「ぐらさんッ!?」  
 
…事は拳一つで幕を下ろす結果となった。  
ヨーコのげんこつがカミナの脳天に炸裂。カミナぐったり。ニアきょとん。  
見守っていた二人は、口をあんぐりさせて固まってしまう。  
 
そんな選択肢がございましたか、と。  
 
「空気を読め、空気を!男女のデートの邪魔するんじゃないの!」  
「…ぉ、俺が悪かったから…ほ、保健室に行かせてくれ…下さい…」  
 
ダラダラと真っ赤な液体を垂れ流すカミナを引き摺りながら、教室を後にするヨーコ。  
後に残された三人は、ただただ見送ることしか出来なかった。  
 
「…まあ、ヨーコに頼んで大正解だった、と」  
「…はは…だ、大丈夫かな、アニキ…」  
「シモン、チンピラって何ですか?」  
 
〜〜〜  
 
「で、アンタ一体何の用でシモンをニアと取り合ってたわけ?」  
「あら、なになに?修羅場?」  
 
カミナの頭に包帯を巻きながら、心底楽しげに瞳を輝かせるリーロン。  
こうなってしまったら、保健医というより治療の出来るただのオカマである。  
 
「うっせぇな!女には関係ねーんだよ!」  
「あたしはオカマだけど?」  
 
「………」  
 
ムスッとした態度を崩さないカミナ。  
ヨーコは呆れながらも、やれやれといった笑みを浮かべながら口を開いた。  
 
「…私で良ければ、付き合ってあげるわよ」  
 
〜〜〜  
 
「………で、何コレ」  
 
それこそシモンとニア以上に気合の入ったデートスタイルを整え、迎えた日曜日。  
カミナとの待ち合わせ、他愛無い会話を交わしながら辿り着いた先は…  
 
【ブタモグラステーキ・大食い挑戦者求ム!制限時間内にブタモグラ一頭分の  
ステーキを完食した方には、永久期間タダ食い券を進呈致します!】  
…の、張り紙が張られたステーキ屋前。  
 
食欲そそる香りとは裏腹に、引き攣りまくるヨーコの頬。  
笑えばいいのか泣けばいいのか。  
 
「すげぇだろ!永久タダ食い券だぞ?何が何でも手に入れてぇじゃねぇか!」  
 
腰に手を当て、グラサン越しに張り紙を見つめるカミナ。  
隣に居るヨーコは、小刻みにプルプルと震え始めていた。  
 
「本当はシモンと二人で挑戦したかったんだが、しょうがねぇ!  
こうなりゃお前で我慢してや…」  
「馬鹿ミナーッ!!」  
『ボグシャーッ!!』  
「らがんッ!?」  
 
実に見事な踵落としを放ち、カミナの意識が遠く多次元宇宙へと旅立っていくのを  
見届けたヨーコは、そのまま真っ直ぐ家路に着いたのであった。  
 
ステーキ屋の店主が気付き救急車を呼んだのは、それから五時間後のことだった。  
 
〜〜〜  
 
「シモン!今度はあっちを見てみましょう!」  
「に、ニア…まだ買うの?」  
 
包装紙に包まれた大きな箱が五つ、小さな箱が八つ、  
それらを何とか抱えるシモンだったが、既に前から顔が伺えない。  
女の子の買い物に付き合うことがどれだけ恐ろしい試練か…シモンはつくづく  
思い知るのだった。  
 
「シモン、早くー」  
「か、勘弁してぇ…あ、アニキィ〜…」  
 
 
 
…結局、どっちもどっちでした、というお話。  
 

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