「はぁ…寒いですね、シモン」
「そうだね…もうすっかり秋、って感じだね」
手に息を吐きながら、並んで下校する二人。
踏み締める道には、枯れた落ち葉が敷き詰められている。
季節は夏から秋へ。
そういえば、陽が落ちる時間も少しずつ早くなってきているようだ。
「シモン、手を」
「?」
何、と聞こうとした時には、すでにニアの手はシモンの手に重ねられていた。
すべすべとした小さな手は、気の毒なほど冷たい。
一瞬、ニアから手を繋がれた嬉しさやら驚きやらで慌てふためいたシモンだったが、
すぐに彼女の手の感触に我を取り戻した。
「あ…ニア、大丈夫?」
「はい。こうしてシモンと一緒に温め合えば、平気です」
「ぁ…うん…」
彼女はどうしていつもこう…こちらを赤面させる言葉ばかり発してくれるのか。
とても嬉しいことは間違いないのだが…。
「(…もしここにアニキが居たら…)」
『おうおう、おアツイねぇお二人さん。シモン、どうせなら全身使って温めて
やったらどうだ?何、俺のことなんざ気にするこたぁねぇ!そうだ、ちょうど
この先に良い感じのラブホがあってだな…』
「(………)」
あくまでシモンの予想でしかないが、リアル過ぎて既に生々しい。
あの男なら、本当にノリと勢いで二人をホテルにぶち込んでしまいそうだ。
今日に限って、カミナを拘束尋問(という名のお説教)をしている風紀委員と
チミルフ先生に感謝しておくことにするシモンであった。
「シモン?」
「あ、いや、何でもないよニア」
握った手に、ちょっと力が入ってしまったようだ。
少し力を抜こうとした時、きゅ、っと握り返してくれたのが、シモンは嬉しかった。
『シモンと一緒が良いです』
そういえば、こうして同じ道を帰るのも…
『シモンが好きです。一番』
こんな自分に、好きだと言ってくれたのも…
(あ…でも教室のド真ん中でいきなりだったから…ちょっと恥ずかし過ぎたな…)
思えば全部、彼女から貰ってばかりだった。
自分は彼女に、何かしてあげれているだろうか…?
「ニア」
「ん?」
歩を止め、視線を合わせる。
はらりと落ちる枯れ葉が一枚、二人の間を掠めていった。
「その…俺、ニアにあげられる程たくさんのものは無いけど、でも、少しでも
お返ししたいんだ」
「シモン…?」
「だから、何でもいい。ニアが欲しいものを言って欲しい」
「…」
きょとんとした表情のニア。
いつになく真剣な眼差しのシモン。
立ち止まって、見つめあったまま、どの位経ったろうか。
ゆっくりと、ニアが口を開いた。
その表情はとても穏やかで、優しいものだった。
「シモン。私はもう、シモンから沢山のものを貰ってるんですよ?」
「…え?」
「世間知らずな私に色々な事を教えてくれた。私に笑顔をくれた。こうして、
温もりをくれた。そして、人を好きになることを教えてくれた。ね、シモン。
私はもう、こんなに沢山のものをシモンから貰っているの」
「ニア…」
シモンの手を両手で包み込みながら、言葉を紡ぐ。
カサ、と、足元の落ち葉が鳴る。
「これ以上、シモンから貰ってしまったら…私、溢れちゃいます」
それは、シモンの大好きな笑顔だった。
ちょっと涙ぐんでいるのは、嬉しいからに違いなかった。
気付けば自分も、視界が揺れているようだ。
「ありがとう、シモン」
紅く染まり始めた空の下、二人は再び歩き始めた。
昨日よりもほんの少し、寄り添う距離を縮めながら。