今日もシモンは、面倒な政治の仕事をするために執務室へ向かっていた。  
執務室まであと少しというところで、通路で話しているギミーとダリーを見かけたシモンは、  
――ロシウには「グラパール隊の事で話してた」とかなんとか言い訳すればいいだろう。  
そう考えて、二人と少し話をしていくことにした。  
 
 
「おはよう。ギミー、ダリー」  
「シモンさん、おはようございます」  
「おはようございます」  
「ところで、何を話してたんだ? 最近二人と話をする機会がないからな。時間があれば少し話さないか?」  
ギミーとダリーもシモンと話したいと思っていたようで、三人は近くの会議室で無駄話に興じることにした。  
 
「最近、大グレン団の皆さんはどうしてますか? ジョーガンさんとバリンボーさん、お仕事頑張ってます?」  
「相変わらず苦労してるな。昨日もロシウに怒られてたよ」  
「あの二人は政治には向いてないよなぁ。グラパール隊の方がいいんじゃないのかな?」  
「こら、ギミー!」  
「まぁまぁ。心配しなくても、なんとかやっていけるさ」  
 
「ヨーコさんはどうしてるでしょうね?」  
「ダリーはヨーコさんと射撃の腕前を競いたいんだろ?」  
「ち、違うわよ」  
「はは、ダリーは射撃が上手くなったよな」  
 
「キヨウさんとダヤッカさんの赤ちゃん、もうすぐ生まれるんですよね」  
「あぁ、そうらしいな」  
「シモンさんとニアさんの子供はまだなんですか?」  
「俺たち、楽しみにしてるんですけど」  
それは意外な展開。  
シモンはしどろもどろになりながら適当に言い訳する。  
「え? いや、俺たちはまだそんな関係じゃ…プロポーズもしてないし…」  
その言葉に、ギミーとダリーは一瞬固まる。  
 
そして。  
「なぁ、もしかしてシモンさんって『まだ』なのか?」ヒソヒソ  
「知らないわよ、そんなこと」ヒソヒソ  
シモンから顔を背けてヒソヒソと耳打ちしあうギミーとダリー。  
だが。  
「いや、ヒソヒソ言っててもこの距離じゃ聞こえるんだけど…」  
しっかり聞こえていたらしく、シモンは困ったように頬をかく。  
そして、シモンの胸に沸き上がる疑問。  
「待てよギミー。その口ぶりだと、ギミーはその…経験済みってことか?」  
-―その歳で?俺が14で、まだジーハ村にいた頃は、女性とマトモに喋ることすらできなかったのに?  
混乱気味のシモンに、ギミーはすました顔で答える。  
「まぁ、当然ですよ」  
「と、当然…」ガックリ  
――じゃあ21にもなって、ニアと7年も一緒にいるのに『そういうこと』を全くしていない俺はなんなんだ。  
落ち込むシモンだったが、それよりも気になるのはダリーのことだ。  
「まさかとは思うがダリーも…か?」  
「……あの、えーと、はい」  
――な、なんだってー! あの大人しい子供だったダリーが…嘘でもまだと言って欲しかったぞ。  
「なに恥ずかしがってんだよ」  
「だって、大っぴらに言うことじゃないでしょ」  
ますます落ち込むシモンをよそに、二人は口げんかを始めている。  
それを聞いているうちに、シモンは再び疑問を持った。  
ギミーとダリーに、そんな深い仲になる相手が居るなんて話は聞いたことがない。  
確かに最近はあまり話もできなかったが、それにしても噂くらいは聞こえてもよさそうなものだ。  
相手は一体どんな人なんだ? グラパール隊のメンバーか?  
この二人、双子とは言え妙に仲がいいけど、まさか、まさかそんなことは…ないよな?  
「なぁ、ひとつ聞いていいか?」  
「「なんですか?」」  
口ケンカをやめてそろってこちらを向く双子。  
「ギミーはもうした…と。で、ダリーも…なんだろ?…で、あの、相手は?」  
シモンの支離滅裂な質問に、双子は顔を見合わせる。  
そしてギミーはちょっと目をそらして、ダリーは少し俯きながら、  
「ダリーだよ」  
「ギミーです」  
互いを指差した。  
 
 
(〜〜〜〜〜〜〜っ!!)  
――シモンは頭が真っ白になった。  
 
 
「あーあ、シモンさん固まっちゃったよ」  
「い、言わないほうがよかったかしら」  
「いいんじゃないの?21にもなってまだって方がおかしいんだし」  
「シモンさんが固まっちゃったのはそっちが原因じゃないと思うけど…」  
「まぁ、アダイ村でも兄妹でってのは珍しかったよな。それにしても、7年も一緒にいて何もしないなんて、  
 シモンさんも良く我慢できると言うか、ニアさんが可哀想と言うか…」  
「ちょっとギミー!あんまり失礼なこと言ってると怒るわよ!」  
「怒る、ねぇ…そんなこと言えなくしちゃおうか? 昨日みたいに足腰立たなくなるまで――」  
「ば、ばかっ。シモンさんの前でそんなこと言わないでよ…!」  
「……!!」  
「……!!」  
二人が何か言い合っているが、もはやシモンの耳は届いていなかった。  
 
 
 
1時間後。  
シモンはひとりで呆けているところをロシウに発見され、こっぴどく怒られることになったという。  
ギミーとダリーが…と言い訳するシモンに、ロシウはなぜか背中を向けて一言。  
「…夢でも見たのでしょう」  
そう言い放った。  
 
おわり  
 

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