放課後の教室。  
手にした数枚のテストの答案を、じいっと真剣な眼差しでニアは見つめた。  
シモンは机を挟んで、神妙な面持ちで彼女の言葉を待つ。  
不意にニアが顔を上げ、シモンを見る。  
「シモン」  
「う、うん」  
「これは……ひどいです。ひどすぎます!」  
ばしん、とニアが机に叩き付けたテスト用紙にはシモンの名が書かれている。  
赤、赤、赤。五教科もれなく赤点だ。  
「そ、そだよね〜」  
へら、と笑って返事を返すが、ニアの真剣な表情にシモンは気圧される。  
決して彼女は怒っているわけではない。怒っているわけではないが、この惨状を由々しき事態だと考えているのは間違いない。  
 
「どうしてこんなことになってしまったんでしょう……」  
はふぅ、と悩ましげにニアはため息をつく。  
その仕草は妙な色気を伴っていて、シモンは胸が高鳴るのを感じながら慌てて答えた。  
「しょ、しょうがないよ。俺バカだし。ニアが気にすることないって」  
「シモンはお馬鹿さんではありません。単に勉強をしていないだけです」  
「そ、そうかなぁ?」  
 
馬鹿ではないと言われたことを喜べばいいのか、勉強をしていないことを反省すればいいのか。  
ただ、ニアの言葉は的を射ている。以前は、シモンの成績はここまで酷いものではなかった。  
極めて中庸、中の中。得意科目で点を稼いで、苦手科目は赤点ギリギリで踏ん張るのが常だった。  
それが変わった原因は、彼にとって特別な存在である二人との出会いにあった。  
 
一人はカミナ。この学園の中で知らない者はいない、グレン団の鬼リーダー。文句なしの不良青年だ。  
ささいなきっかけで知り合った彼とシモンは、今では義兄弟と目されるまでに固い絆で結ばれている。  
しかし、破天荒な彼の無茶に付き合えば付き合うほど、「平凡な学生」としての時間が削られるのは紛れもない事実だ。  
(アニキの辞書に『テスト勉強』なんて言葉、載ってるわけないもんなぁ)  
豪快に笑うカミナの顔を思い出し、シモンはくすっと笑った。  
 
そしてもう一人の特別な存在が、今目の前にいるニアだ。彼女とはこの学園に入学してから知り合った。  
何者かの仕業によって体育館裏の物置に閉じ込められていた彼女を、シモンが自慢のドリルで救出したのがきっかけだ。  
埃っぽい物置から現れた、今まで見たこともない可憐な少女に一瞬でシモンは心を奪われた。  
(一目ぼれ、ってやつだったんだよな。今にして思えば)  
テスト用紙に再度目を落としているニアの可愛らしい顔を、シモンはちらりと見る。  
 
彼女がこの学園の頂点に君臨するロージェノム校長の娘であることを知ったのは、出会いからしばらく経ったあとのことだった。  
このことについてはシモンの小さな頭痛の種となっている。  
自分とカミナは、お世辞にも校長にいい印象を抱かれているとは言えない。  
(こないだだって、アニキが校長の盆栽をパチンコ弾で十六連射キメたばっかりだもんなぁ)  
ニアはこんな自分とよく付き合ってくれているよな、とシモンは思う。  
 
そう、ニアとシモンは付き合っている。  
休日ともなれば二人で手を繋いで仲良く街に繰り出し、時には親の目を盗んで彼女をシモンの部屋に招くこともある。  
 
親の目を、盗んで。  
 
先日のシモンの部屋でのデートを思い返すと、思わず口元がにやけそうになる。  
だんだんいい雰囲気になって、散々いちゃついて、そしてその後は。  
「シモン、何を考えてるんですか?」  
「な、なんでもっ!? なんでもないよっ?!」  
「……?」  
 
 
とにかく、シモンの時間はカミナとの男の友情の遂行とニアとの愛のひとときに大半を消費されるようになった。  
テスト勉強など後回しもいいところ。ゆえにこの結果だ。  
 
「追試、一週間後だって先生が言ってました」  
「あー、うん。そうだな。さすがに勉強しなくちゃまずいよなぁ」  
明らかに気乗りしない様子のシモンを見つめ、しばらく考えた後にニアはにっこり笑ってシモンに提案した。  
 
「シモン、今から私の家に来ませんか?」  
 
 
 
予想はしていたが、とにかく立派な外観の家だった。  
家人以外の侵入を断固として許さないと言わんばかりの堅固な門に、広い庭。  
テッペリン家の財力を表すかのように植木は美しく手入れされ、今も老人がせっせと箒で清掃に励んでいる。  
「ただいま、ココ爺」  
にこやかに老人に帰宅を告げるニアの奥から、シモンが遠慮がちに会釈すると、老人も丁寧に頭を下げた。  
(お手伝いさんがいるなんて、どれだけお嬢様なんだよ、ニアは)  
浮世離れした物腰から育ちがいいのであろうことは容易に察せたが、まさかここまでとは思いもしなかった。  
 
追試の内容は殆どがテストの類似問題か、むしろそれよりも若干易しいくらいだ。  
一緒に勉強すればわからないところは教えることができるし、自分の復習にもなるから一石二鳥だというのがニアの弁だった。  
そういう事情で、シモンは初めてニアの家、ニアの部屋へと足を踏み入れることとなったのだ。  
 
女の子らしい色彩でまとめられた綺麗な部屋。ニアのイメージにぴったりで、シモンは感動すら覚えてしまう。  
(そういえば、女の子の部屋に入ること自体生まれて初めてだよな、俺)  
そう思うと身体に妙な緊張が走る。  
 
視線を泳がせると、美しい細工が施された写真立てに目が留まった。  
「これ、家族の写真だよな、ニア………ぅえ゛?」  
写真の中央にいるのはロージェノム校長、傍らには甘えるように寄り添うニア……と、大勢の美しい女性たち。  
まるでクラスの集合写真のようであったが、明らかに一クラス分の人数よりも多い。  
女性たちは皆ニアよりも年上のようであった。  
「ニア、これって……」  
「はい、お姉様たちです」  
「こっ、これ全部ッ!!?」  
「ええ。私、末っ子なの。……話してませんでしたっけ?」  
1、2、3、4、5……写真に写る美しい姉たちの人数を数え始め……シモンは途中で断念した。  
勉強を始める前から頭痛を起こしそうになったからだ。  
 
 
「お父様はまだ帰ってきませんから、安心してください」  
「あ、ありがと」  
テーブルに教科書と赤だらけの答案を広げながら、シモンはニアに礼を言った。  
「今度からテスト勉強は、こういう風に一緒にすればいいんじゃないかしら」  
「いやあ、それどうだろ。アニキが絶対こう言うよ、『シモン、男ならぶっつけ本番だ! テストのことなんざ忘れろ忘れろォ!』って」  
「アニキさんらしいですね」  
ふふっ、と面白そうにニアが笑う。  
 
(ニアのこういうところが、いいんだよなぁ)  
シモンが好きなものを、理解しようとしてくれるところ。  
男同士の付き合いや連帯をわかってくれるところ。  
(普通だったらアニキと俺が仲良すぎるとか、文句の一つ言われてもおかしくないもんな)  
「でも、今はお勉強に集中しましょうね、シモン」  
「は〜い」  
天使のようなニアの笑顔に、シモンは素直に返事をした。  
 
 
―――――――――――――  
 
……できない。  
集中、できない。  
 
シャーペンを握る手にぐぎぎ、と力が入り、ぼきんと芯が折れた。ノートがぐしゃりとたわむ。  
視線はあくまでノートと教科書に注ぐ。注ぐ。固定するように努力する。  
 
……が、努力空しくシモンの視線は、テーブルを挟んで対面するニアの顔へと向かってしまう。  
ニアはシモンの視線には気づかずに、自分の宿題を進めている。  
勉強を始めてから三十分も経たないうちからこの体たらくなのだから、自分でも少し呆れてしまう。  
が、二人きりで黙りこくっているこの状況に緊張するなというほうが無理だ。  
しかも、場所は初めて入るニアの部屋。  
 
(……真剣に勉強してるニアも可愛いなぁ)  
いま一番勉強すべきなのは自分であることも忘れて、シモンはニアをぽうっと見つめる。  
顔を俯かせているせいか、長い睫がさらに強調され、柔らかそうな前髪がそれにかかっている。  
考え込むようにシャーペンが押し当てられた唇は薄いピンク色で、その感触を思い出してシモンはごくりと喉を鳴らした。  
視線をさらに下に向ければ、制服のプリーツスカートから健康的な白いふとももがちらちらと覗く。  
まるでシモンを誘っているかのように思えた。  
「ニ、ニア? ……あのさぁ」  
「? わからないところ、あったの?」  
ノートから顔をあげてシモンに笑いかけようとしたニアだが、次の瞬間その唇はシモンの唇によって塞がれていた。  
 
「んぅ!? ん、ふぅ……っ!」  
奇襲めいた口付けに、ニアの口から驚いたような声が上がる。  
それを無視して、シモンはテーブルを半ば乗り越えるようにニアの肩を抱いてそのまま床に強引に引き倒した。  
テーブルの上の教科書や筆記用具がばらばらと音をたててカーペットに落ちる。  
「やっ、シモン……!」  
「ご、ごめん、ニア。我慢しようと思ったんだけど……やっぱ無理だった」  
宣言するや否や、シモンは再びニアに口付ける。  
「んんぅ……!」  
シモンの舌が口内への侵入を請うようにニアの唇をなぞるが、その口は拒むように閉じられたままだ。  
「ね、ニア、口あけて」  
「やだ! ――ぅむっ?!」  
素直に返事をしたニアの隙をついて、シモンの舌は侵入を果たす。食らいつくようなキスだった。  
ニアの瞳が「シモン、ずるい!」と非難してくるが、シモンはそれを無視してニアの柔らかな舌を味わう。  
白い真珠のような歯を舐め、逃げ惑う舌を追いかける。ちゅう、と音をたてて唇を吸い、ニアの唾液を啜った。  
「ふぅっ、ぅうんっ……やぁ、ぁはぁっ……!」  
シモンの身体の下で、ニアは必死に彼の身体を押しのけようと腕を突っ張る。  
が、覆いかぶさるように彼女に圧し掛かるシモンは、四肢を動かすことすら許してくれない。  
「や、んっ……! シモン、やめ、て……!」  
「やだ」  
「もうっ! お勉強はどうするの?」  
ニアが少し怒ったような、厳しい声をあげる。さすがにバツの悪いシモンは、甘えるようにニアを見つめた。  
「こ、これが終わったらちゃんとするから。だから一回だけ! お願いっ!」  
縋るように頼み込む。少々情けないとは思うが、今更格好つけたところでどうなるというわけでもない。  
ならば、今の自分の素直な気持ちをニアにぶつけるのみだ。  
ニアとしたい。今すぐしたい。ニアの部屋でしたい。  
校長の目を盗んでニアの部屋に来るチャンスなんて、次にいつ巡ってくるのかわからないのだから。  
ぎらぎらと血走ったシモンの瞳に気圧されたのか、ニアは困惑したような表情を浮かべる。  
「だって……でも……」  
(よし、もう一押し!)  
確信したシモンは、止めの一言をニアに告げた。  
「ニア……俺のこと、嫌い?」  
もちろん上目遣いだ。  
 
「……そういうのずるいと思います、シモン」  
「あはは、そだよね〜」  
涙目で頬を膨らませる彼女に、シモンはへらりと笑ってみせる。  
が、組み敷いたニアの身体からしおしおと力が抜けたことで、勝利を確信した。  
(よっしゃ!)  
 
 
「あっ……や、ん……っ」  
ごわごわした制服の生地の上から優しく乳房をさすると、ニアの口から甘い声があがる。  
それが可愛くて、愛しくて、シモンはたまらず触れるだけの優しいキスを何度もニアに落とした。  
性急な手つきでニアの胸元のリボンを剥ぎ取り制服を乱すと、繊細なレース使いのブラが覗く。  
ニアが恥ずかしそうに身を縮める。その仕草がまた可愛らしい。  
「あんまりじっと見られると、恥ずかしい……」  
「これからもっと恥ずかしいことするよ?」  
「! ……シモン、今日は約束破りでずるい上に、なんだかいじわるです」  
「そ、そんなことないって」  
 
軽口を言いながらもシモンの手は欲望に忠実に動き、ニアのブラをずり上げる。  
外気に晒された刺激にびくりと震える小ぶりな乳房に、シモンはごくりと喉を鳴らす。  
ニアは羞恥に耐えるように顔を背けた。  
薄く色づいた頂点は、与えられた快感によってすでに尖って自己主張している。  
「くぅ……んっ…」  
両手で撫でるようにやわやわと指を這わせると、ニアの口から甘えるような吐息が漏れる。  
白く柔らかい乳房は手に吸い付くように瑞々しくて、シモンはその感触に夢中になる。  
硬くなった乳首をくりくりと撫でてやると、快感から逃げようとするかのようにシモンの腕の中でニアが悶えた。  
「ひぁっ、んぅん…っ」  
反応の一つ一つが嬉しくて、もっと刺激を与えてやりたくなる。  
ニアの唇や頬にキスを落としていたシモンの唇は乳房へと移り、可愛らしく勃起した先端を遠慮がちに舐め上げた。  
「ひゃっ……!」  
びくん、とニアの背がしなる。  
「ニア、気持ちいい?」  
「そんなっ…こと、きかないでくださっ…ひゃんっ」  
 
ニアの返答を待たずに、シモンはぢゅう、と乳首を吸い上げた。ちゅ、ちゅ、と音をたてて何度も繰り返し吸い、舌先で先端を転がすように嬲る。  
もう片方の先端には、指先で押しつぶすように、擦るように、容赦のない愛撫を与えてやる。  
「あっ、やぁ、シモン…ひぁっ!」  
ニアの胸はお世辞にも豊かとは言えないが、おそらくはそう上手くはないのであろうシモンの愛撫に十分すぎるほどの反応をしてくれる。  
(ニアのおっぱい、好き)  
口に出したら平手打ちが飛びかねないので、絶対に言葉には出さないが。  
胸だけじゃない。折れそうなほどに細い腰も、華奢な肩も、すらりと伸びた手足も、全部好きだ。  
乳房を苛めながら、右手をスカートの中に伸ばす。下着の上から秘裂を擦り上げると、そこはすでに熱っぽく潤っていた。  
「っ…くぅ、んっ…!」  
びくんとニアの身体が震え、シモンの右腕を制するように両足が閉じられたがすでに遅い。  
柔らかな太ももに右腕を挟まれたまま、シモンの手はニアの秘所を攻める。  
指先に力を入れて何度も往復させて陰核のあたりをぐりぐりと擦ってやると、ニアの口から悲鳴のような嬌声が上がった。  
濡れた唇から切ない吐息が漏れ、赤い小さな舌が誘うようにちろちろと蠢く。  
まるでシモンを誘っているかのようで、たまらず乳房から顔を離して再度ニアの唇に吸い付いた。  
「んっ、んん……ふぅ、ん……っ」  
最初のキスの時とは違い、今度はニアもたどたどしく舌を伸ばしシモンを求めてくれる。  
口内で舌が絡み合い、互いの唾液が混じる。  
ニアの白く優しい手が伸び、シモンの首筋から頬を優しく撫で上げた。繊細な指の感触に、ぞくりと快感を煽られる。  
 
(ニア、ニア、ニア……!)  
シモンの手はそろりとニアのショーツの中へと侵入を果たし、熱く濡れた泉をかき回した。  
「ひぅ…っ!」  
ニアが耐えるようにシモンの胸にしがみつく。身体の下、快楽に震えるニアが愛しい。  
溢れる愛液を膣口に擦り付けるように塗し、シモンはゆっくりと中指をニアの膣内へと沈めた。  
「ひあぁっ!」  
探るように、ゆっくりと。シモンの指はぐちゅぐちゅと音をたて、ニアの内をかき回す。  
ニアは喉を反らせて鳴き、シモンは乱れるニアの姿を目に焼き付ける。  
この上なくいやらしいのに、とても綺麗だ。快楽に潤んだ瞳、紅潮した頬、乱れる髪。  
全部自分だけしか見たことのないニアの姿なのだと思うと、シモンの胸に言いようのない優越感が湧き上がった。  
 
(もっと、もっとニアのいやらしい姿が見たい。どこがいい? どこが感じる?)  
熱く蕩けた膣に二本目の指を挿入し、襞を刺激する。  
熱く濡れそぼった膣内はきゅうきゅうと収縮し、ニアの限界が近いことを知らしめる。  
「あぁっ、あっ、や、シモ、ン……っ! ひぁ、ああああぁっ!」  
ぎゅう、とシモンに縋るニアの手に力が込められ、そのか細い身体が快感の絶頂に震えた。  
 
 
シモンの身体の下、絶頂の余韻に震えるニアから指をずるりと引き抜く。  
愛液に塗れててらてらと輝く指に、シモンの陰茎がびくりと反応した。すでに先ほどから、ズボンの中で痛いほど自己主張をしている。  
(早く挿れたい…!)  
シモンは乱暴な手つきでニアのショーツを剥ぎ取ると、がちゃがちゃと自分のベルトをはずした。  
ズボンを下ろし、猛る自身をニアにあてがうと、そのまま一気に腰を沈めた。  
「あああぁっ!」  
ニアの口から悲鳴があがる。一度絶頂を迎え、余韻冷めやらぬうちに再度の挿入。しかも、今度は容赦がない。  
「シモン、シモ、ン……っ! ああっ、あああんっ!」  
「ニア、ニア……ッ!」  
まるで力が入らない様子のニアの身体を抱きしめ、シモンは夢中で腰を動かす。  
すでに十分蕩けきっていたニアの内は、絡みつくようにシモン自身を呑みこんだ。ぐちゅぐちゅと淫猥な音があがる。  
「ニア、すごい、すごく気持ちいいよっ……!」  
結合部からもたらされる快楽がシモンの全身を支配する。  
(もっと、深くニアと繋がりたい……!)  
ぎゅう、と彼女の身体を抱きしめた、その時。  
「シモン!」  
ばっ、とニアの手がシモンの口を塞ぐ。  
(な、何事?)  
シモンがニアに問おうと口をもごもご動かしたとき――扉の向こう側から、とん、とん、とん、という軽い足音が響いてきた。  
「お姉様が、帰ってきました……」  
青ざめた顔でニアが囁く。  
「お、お姉さん?」  
「いつもはこんなに早く帰ってこないんですけど……」  
繋がったまま扉の向こうの気配を窺うと、廊下を挟んでニアの部屋の向かい側にある扉がぎぃ、と開き、そして閉まる音が聞こえた。  
シモンは安堵する。  
「部屋に入ったみたいだよ。じゃ、続き…」  
「だ、駄目! だって、またいつ外に出てくるかわからないし、声を聞かれたら……」  
「じゃ、じゃあ、どうするんだよ?」  
「……」  
ニアの瞳は「ここでストップするしかない」と訴えてくるようで。  
「そ、そんなぁ!」  
シモンは絶望したような声を上げた。  
 
(無理、無理、絶対無理だよ! こうしてる間にも、動きたくってたまんないんだぞ!)  
半ば涙目でニアに訴える。  
(それにニアだって、こんな中途半端な状態で終わったら絶対に辛いだろ? 何か、何かいい方法は……)  
意味もなく部屋に視線をめぐらせると、ニアの鞄の中のあるモノにシモンの目は止まった。  
可愛らしい花柄のハンドタオル。  
一瞬戸惑い――しかし次の瞬間にはシモンの欲望は良心と理性を蹴っ飛ばした。  
腕を伸ばしてハンドタオルを引っつかむ。  
「ニア、ごめんっ!」  
「――ひうッ?!」  
手にしたタオルを強引にニアの口に捻りこむと、有無を言わさずシモンは動きを再開した。  
あまりに予想外の出来事に、ニアの頭は真っ白になる。  
「ふぅ……、っ……ひぅ、むぅぅっ…!!」  
ニアが何事か叫んでいるようだったが、当然タオルに邪魔されて言葉にはならない。  
罪悪感を追い払うように腰を動かす。  
「ごめんっ、ごめんっ、ニアっ…! 気持ちよくしてあげるからっ…!」  
「ひぅ……っ! むーっ、うぅーっ!」  
その気になればタオルを吐き出すこともできるはずなのだが、それをすれば嬌声が丸聞こえになってしまう。  
それをわかっているのか、ニアはタオルを噛んだままシモンに抗議の声を上げる。  
しかし、それも次第に与えられる快楽に濡れたうめき声へと変わってしまう。  
「ふぅ、うぅっ、ひぅぅっ……!」  
荒い息遣いでニアを突きながら、シモンは腕の中のニアの痴態を見下ろす。  
くしゃくしゃに乱れた髪に、快楽に濡れた美しい瞳。白い肌は欲情して赤くなりなんとも色っぽい。  
中途半端に脱がされ、乱れた制服が背徳感を煽っている。  
そして何より。  
(タオルが、いいっ! すごくいい!)  
捻りこまれたタオルは猿轡を思わせ、乱れた制服と相まって危険な色香を演出していた。これはまさに予想外だ。  
明らかに怒ってこちらを睨んでくるニアの瞳もたまらない。  
この行為が終わったら、明らかに土下座で謝罪しなければならない、が。  
「なんか、犯してる感じで、すっごく興奮する……っ!」  
馬鹿正直にニアの耳元で告白し、そのまま耳を食む。  
「ひぅんっ…!」  
シモンの言葉にニアは一瞬身を縮め、羞恥に頬を染めて顔を背けた。  
(ぅあっ!?)  
きゅう、とニアの膣内が絡みつくように締まり、シモンをより深く呑みこもうとする。  
(ひょっとして、ニアも興奮してる?)  
清楚な彼女がこの状況に欲情している。そう思うとシモンの欲は一気に燃え上がった。  
夢中で腰を揺らし、乱れるニアの痴態を一瞬たりとも見逃すまいと見つめる。  
「ニア、ニア、ニア……っ!」  
「ふぅ、ひぅ、ぅううッ、―――っ!」  
全ての想いをぶつけるかのようにニアを突き、そしてシモンはニアの内に叩きつけるように精を放った。  
 
 
 
「シモンとは、もう絶対に一緒に勉強しません!」  
「……ごめんなさい」  
乱れた衣服を直しながら、ぷんすかと怒るニアにシモンは縮こまって謝罪する。  
シモンのために一緒に勉強しようとしてくれたニアに襲い掛かった挙句、口にタオルまで突っ込んで行為を続行した。  
我ながら最低だ。振られたって文句は言えない。  
「本当にごめん……でも、ニアのこと見てたらどうしても我慢できなくってさ……」  
しゅん、とうな垂れながらのシモンの言葉に、ニアの頬がかあ、と赤くなる。  
「……もういいわ、シモン。私だって……シモンに『したい』って言われて、ちょっと嬉しかったから」  
「ほんと!?」  
ばっ! と、先ほどまでの殊勝な態度が嘘のように、目を輝かせてシモンはニアを見つめる。  
「う、うん」  
「そ、それじゃあさ、二回目とか」  
「それは駄目」  
「ぅ……はい」  
さすがに勉強を再会しないとまずい。しょぼんとうな垂れるシモンの姿を見て、ニアは何事か思いついたらしい。  
いじけたように丸まったシモンの背をちょんちょんと突いた。  
「シモン、シモン」  
「なに?」  
「今度の追試、一回で無事クリアできたら……」  
ニアは頬を染めて、こしょこしょとシモンに耳打ちする。  
「……ね?」  
いじけていたシモンの目が、再びぱあぁ、と輝きを取り戻す。  
「ほ、本当にそんなことしてくれるの!?」  
「ええ。だからお勉強、がんばれますよね?」  
「もちろんだよ! ニア、俺がんばる! 絶対追試、一発でクリアする!」  
「応援するわ、シモン」  
 
 
 
こうして、ニアの見事な操縦術によってシモンは無事に追試をクリアすることができたのであった。  
 
 
完  
 
 

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