テッペリン家のリビングに、ただならぬ空気が満ち溢れていた。
通常であれば家族が最もくつろげるであろうその場所は、今や空気そのものが火薬でも孕んでいるかのようだ。
第三者が裸足で逃げ出したくなるような空間で、テーブルを挟んで睨みあっているのはこの家の父と娘――ロージェノムとニアだった。
ニアは目の前の父親を睨みあげる。断じて屈するわけにはいかなかった。
眼前の父はさながら仁王像の如き憤怒の形相だ。比喩ではなく真面目に頭から火を噴いているが、そんなものは怖くない。
「お父様、シモンを責めるのはおやめください!」
「ニア、お前をそんな娘に育てた覚えはないッ!!」
「お父様の考え方は時代錯誤すぎます! だいたい男女交際の第一歩が交換日記からスタートって何なんですか!
十年前のカップルだってそんなことしません!」
「ひ、開き直りおったな!」
「開き直ってなんかいません、私は私の意志を述べているだけです!」
父娘の言い争いの原因は、つまりは娘の恋人にあった。
学園一の問題児、グレン団の鬼リーダーであるカミナ……の弟分であるシモン。彼こそがニアの恋人だ。
父がこんなにも彼との交際に難色を示すのは、校長である彼の立場を思えば理解できなくはない。
ニアはそう考えているが、実際のところ事情は少し異なっていた。
ロージェノムとしてみれば、シモンという少年は娘の恋の相手としては決して頭から否定してかかる存在ではなかった。
確かにグレン団の引き起こす騒動は学園を混乱の渦に巻き込むことも多々あるが、ロージェノムからしてみれば大した問題ではない。
いざというときは強権を以って叩き潰すことができるという自信が彼にはあるからだ。
娘の口から少年の名が初めて出たときのことをロージェノムは覚えている。
『今日、体育館裏の物置から出られなくなってしまって、すごく困ってたところを助けてもらったんです。
同じ学年のシモンという男の子に。とっても優しい人でした』
その後しばしばその少年と共にいるニアの姿を校内で見かけた。
楽しそうな娘の表情に、恋をしていることは一目で見て取れた。
父親として複雑な心境になりもしたが、邪魔をするのも大人気ないと思い今日まで何も言わずにいた。
何より、ロージェノムは娘を信頼していた。ニアは清楚で、上品で、『わきまえている』娘であると。
どんなに少年と親しくなろうとも、まさか、まさか婚前交渉などに至るわけがないと。
信じていたのだ。今までは。
「お父様、自分の娘に夢を見すぎです」
バッサリである。一刀両断である。
娘と少年がデートをすることを知った瞬間、いやな予感が胸をよぎったのは父親の勘か。
風紀委員の青年を使い跡をつけさせた結果は、あまりにもロージェノムにとって残酷なものだった。
ワシのニアが。可愛いニアが。
「大きくなったらお父様のお嫁さんになるの」と言っていたニアが。
ラブホテルで!
ナースプレイ!
くんずほぐれつのズッコンバッコンだと!!?
風紀委員ヴィラルの報告を思い返し、ロージェノムは怒髪天をついた。
「許さん! 断じて許さん!! 欲望を満たすための変態的行為にワシの娘を引きずり込むなどと! 血祭りにあげてくれるわ!」
猛る父を前に、たまりかねたようにニアは叫んだ。
「おやめください! だって、私のほうから誘ったんですっ!!」
ロージェノムの中の美しい思い出――無邪気に『お父様のお嫁さんになる』と言うニアの笑顔が、今度こそピシリと音をたてて割れた。
「今日もギリギリだよ、アニキ!」
「小せえこたぁ気にすんな、シモン! ヴィラルとチミルフのケダモノコンビをぶっ倒しちまえば五分や十分遅刻しようと関係ねえ!」
「でもヨーコに殴られるよ!?」
「……気張るぞシモォン!!」
「そっちの方が怖いんだーーーーーっ!?」
カミナの背にしがみつき、爆風に髪を煽られながらシモンは叫んだ。
カミナと一緒に彼の愛車「ラガン」に二人乗りし、遅刻ギリギリで校門に飛び込みヴィラルとチミルフをなぎ倒すのが日常の光景だ。
迎え撃つ二人も慣れたもので、生身であるにも関わらず最近は怪我らしき怪我を負うこともなくなった。
以前カミナの父親ジョーが操るデコトラ「ダイグレン」で校門に突っ込んだときは、さすがにその限りではなかったが。
(そういえばアニキの親父さん、今何処にいるんだろ。しばらく前にマグロ漁船から葉書が届いたとかアニキが言ってたけど)
ぼんやりとカミナの父の姿を思い返したその瞬間。
平和な住宅街にはおよそ似つかわしくない炸裂音が、静かな朝をぶち壊した。
「何だァ!?]
ギャギャギャ、とアスファルトとタイヤを激しく摩擦させグレンは止まった。
たった今自分たちが走行していた後ろを振り返る。
「なんか今聞こえたよな……」
「うん、銃声? みたいな音」
バイクから降り、きょろきょろとシモンは周囲を見渡す。
何もおかしな様子はない――と思ったその瞬間、彼の目はブロック塀に釘付けになった。
「アニキ……あれ」
「……弾痕?」
シモンが指差した先にあるのは、紛れもなく弾痕だった。
厚い塀の表面に、地獄にまで続いているかのような暗黒の風穴が刻まれている。
つい先ほどまで二人が走行していた場所だ。かすりもせずに避けられたのは運が良かったとしか言いようがない。
「まさか」
「何か心当たりあるの、アニキ?」
「ヨーコの奴がとうとう本気で俺たちを殺りにかかってんじゃねえだろうな」
真剣に青ざめて呟くカミナに、シモンは小さくため息をつく。
「なんでヨーコが銃なんか撃つんだよ。そんな物騒なもの十代の女の子が扱えるわけないだろ」
「そうかァ? なんかこう、アイツすっげえ狙撃とか上手そうな気がするんだよな。特にライフルあたり」
「弓道部だからって発想が飛躍しすぎだよアニキ……。ほら行こ、遅刻だよ」
ぐいぐいとカミナの背を押してグレンへと向かわせる。
「ヨーコじゃないとすれば、ヤーさんの抗争の果ての流れ弾か?」
「だからヨーコはないってば」
「……シモンお前、近くで銃撃戦があったかもしれねえっつーのに意外と冷静だな」
「俺が冷静にならなくて、誰が冷静になるんだよ」
まだ弾痕に興味を示すカミナを無理矢理バイクに乗らせしばらく走ると、やがて校門が姿を見せた。
目指す校門はみるみる近づいてくる。門の向こう側にはヴィラルとチミルフ。
「行くぜ、シモン!」
カミナの言葉に無言で頷く。正面を見据え、臨戦態勢に入る。
いつもどおりの平穏な日常の光景である。
平穏な日常は、教室に入ってすぐに音をたてて崩れた。
ヴィラルとチミルフの猛追を振り切り、ホームルームを終えた教室に転がり込んだシモンはすぐに違和感を覚えた。
「あれ? ニアは?」
きょろきょろとシモンは教室を見回した。そこにいるはずのニアがいない。
「まだ来てないのよ、ニア。先生にも休みの連絡はきてないって」
心配そうな顔で近づいてきたのはヨーコだった。
普段であれば上の階に駆けていくカミナをひっ捕まえて回し蹴りとお説教を食らわす彼女が、今日待ち伏せをしていなかったのはそれが理由だった。
ヨーコの言葉に、シモンはすぐに携帯電話を取り出した。……メールは来ていない。
「先生に連絡してなくてもあんたになら……って思ったんだけど。――あっ、ちょっと、シモン!?」
次の瞬間には、シモンは教室を飛び出していた。
学校に連絡も入れずに彼女が休むなんてことはあり得ない。ニアは校長の娘なのだから尚更だ。
ならば、彼女の身に何かあったのだ。おそらく、歓迎し難い異変が。
今更になって先ほどの弾痕が脳裡をちらつく。カミナが口にした物騒な言葉が頭の中に鳴り響く。
銃撃戦。ヤーさんの抗争。
まさか、危険に巻き込まれて。
考えすぎだ、と必死に考えを打ち消す。
一時限目の開始を告げるウェストミンスターベルの音が鳴り響く。それを無視してシモンが飛び込んだのは校長室だった。
まずは校長に、ニアが本当に休みでないのかを確認しなければ始まらない。
しかし校長室の中に、彼の巨体は見当たらなかった。
「校長……?」
「ご不在です」
「うわっ!?」
シモンの呟きに答えたのは、どこに控えていたのかわからない六人の秘書たちだった。
「あなたにこれを渡すようにと」
そういって秘書の一人が差し出したのは、一枚の手紙だった。
わけのわからぬまま書面に目を通し――そしてシモンは、とうとうこの時が来たのだと覚悟を決めた。
「決闘!?」
「ああ」
ヨーコのあげた声にシモンは答える。
そう、校長が秘書に託した手紙は決闘状だった。――ニアを賭けての。
いずれ訪れるであろう対峙の時が、今まさにやってきたのだ。
思えば、互いに顔も名前も知っており、同じ学校という空間で一日を過ごしているにもかかわらず、校長とニアの件で話をしたことは一度もなかった。
互いにその話題を避けていたのは、校長とシモンが教育者と生徒という立場にあったことも関係しているのかもしれない。
だが、今日でその関係も終わりだ。
(教師と学生じゃない。ただの男と男として、決着をつける!)
手紙には、今日の放課後に校庭で待っているとの旨のみが書かれていた。
ニアは校長と一緒にいるに違いないとシモンは確信する。
「俺行くよ、アニキ」
「ああ! 行ってこい!」
「ちょっ……」
カミナと短く言葉を交わしその場を後にするシモンの背と、傍らのカミナの顔をヨーコは交互に見やる。
「カミナ、止めなくていいの? このままじゃシモンが」
「心配すんな、あいつは一人でも大丈夫だ」
「え?」
「守りてえ奴がいるから踏ん張れるんだ。惚れた女を救うのに、俺が手なんか貸してみろ。あいつの面目丸潰れじゃねえか」
その言葉は絶対的な信頼に満ち満ちていて、ヨーコはそれ以上何も言うことができなかった。
「シモンはやるさ。校長をぶっ倒して、あのお姫さんを助け出す。あいつはそれができる男だ!」
ヨーコはカミナの顔を見つめた。シモンの背を見送るその目は揺ぎがない。その瞳を見ているだけで、ヨーコの心配も和らぐような気がした。
同時に、カミナとシモンの信頼関係にほんの少しばかりの嫉妬を抱かずにはいられなかった。
(ずるいわよ、いつもいつも二人だけで分かり合っちゃって。あたしの入り込む余地、少しくらい残しておいてくれたっていいじゃない)
「カミナ」
「あん?」
「もし……もしもだよ? あたしがニアみたいに校長に捕まったら……」
「?」
「――う、ううんっ! やっぱなんでもないっ!」
「なんだァ? 変な奴だな」
顔を赤くしてヨーコは黙り込む。ちょっとは察してよ、と心の中でこっそり呟いた。
気持ちよく晴れていたはずの空は、いつの間にか薄気味悪い曇天へと変わり果てていた。生暖かい風が髪を嬲る。
人気のない校庭のど真ん中に校長は立っていた。傍らにニアをつれて。
遠目からでも怒りのオーラがびりびりと伝わってくるかのようだった。
「シモン!」
ニアが名を呼ぶ。不安げな彼女に大丈夫だよ、と小さく笑顔を向けると、シモンは立ちはだかる男を見据えた。
「よく来たな。螺旋の男よ」
先に口を開いたのは校長――ロージェノムだった。
「あんたとは、いつか決着をつけるときがくると思ってた。……今朝の銃撃もあんたなんだろ?」
シモンの問いに動じるでもなく、ロージェノムは可笑しそうに笑う。
「お前の顔を見て、弾丸が命中しなくてよかったと思ったよ。やはりこのワシの拳で血の海に沈むのが相応しい」
「お父様、シモンに何をしたんですか!?」
「黙れ、ニア!」
娘を制すと、ロージェノムの巨体はさらにその大きさを増すかのようにシモンに迫る。
「かかってこい! 跡形もなく粉砕してくれるわーーーーッ!!」
「望むところだ、ロージェノムッ!!」
――かくて、熱き戦いの火蓋は切って落とされた。
「お義父さん、娘さんとのお付き合いを許してください」などと、形式ばった挨拶から始める必要などなかった。
男は殴りあうことで分かり合えるとはカミナの談だったが、シモンとロージェノムの場合もそれに近い。
ただし、二人は分かり合うために殴りあっているわけではない。
絶対に譲れないもの――ニアを、絶対に譲れないということを証明するために。その覚悟を示すために、相手を本気で潰しにかかる。
目の前で自分の男と自分の父が殴りあう様を見せ付けられるニアのことを思うと心が痛んだが、男にはそれでも通さなければならない意地があるのだ。
「ごめん、ニア! これが俺のお前への愛の形だーーーーッ!!」
叫びと共に、シモンの必殺の拳がロージェノムの腹を抉った。
「がはぁっ!!」
ロージェノムが初めて一歩後ずさり、攻撃の手を止めた。
はあはあと肩で息をするシモンに、ニアが駆け寄り支える。
(終わり、か……?)
シモンがそう思った瞬間、ロージェノムの肩が小刻みに震え――そして、狂ったように彼は笑い出した。
「愛! 愛だと!?」
ひとしきり笑うと、阿修羅の顔でロージェノムは叫ぶ。
「ワシの娘に何をしたーーーッ!! 言ってみろォォォォ!!!!」
ロージェノムのその言葉でシモンは確信した。彼は、自分とニアが深い仲であることを知ってしまったのだ。
そして、そのことが今回の対峙の最終的な引き金になったのだと。
しかし、もう引くことはできない。事実は事実だ。後ろめたいことなど、何もないではないか。
「あんたに恥じるようなことは何もしていないッ!! 俺は……俺は、ニアと純粋に愛し合っただけだ!」
そうだ、恥じることなどありはしない。愛し合う二人が求め合うのは、自然の摂理なのだから。
しかし、シモンの言葉を聞くとロージェノムの瞳は鈍く光った。
その不穏さに、シモンの胸にいいようのない不安が湧き上がる。
「恥じるようなことは何もしていない、だと……ならば……ならば」
そして、ロージェノムはどこからか取り出した「それ」をシモンに突きつけた。
「ならばこれは何だーーーーッ!!!」
「……あ゛」
「ごめんなさいシモン、見つかっちゃいました」
ロージェノムが手にしたそれは、先日の何とも官能的な逢瀬の思い出の品――有り体に言えば、ナース服だった。
ぎぎぎ、とシモンは首を動かして、ニアを見遣る。
「あれ、レンタルとかじゃなかったんだ……?」
「買っちゃいました」
「捨てなかったんだ……?」
「思い出の品ですから」
無邪気に答えるニアに、捨てないのなら再活用しようよとお願いしたくなったが今はそれどころではない。
……再活用の話は、この戦いが終わった後だ。
さすがにシモンもしくじった、という思いを禁じえない。シモン自身とて、先日まではコスプレなど邪道だと思っていたのだから。
こうなったら―――――開き直るしかない!!
「これが……これが貴様の愛だというのかッ!! ワシの娘を使って人形のような着せ替え遊びをすることが、貴様の愛かッ!!」
「あんたにだけはその台詞は言われたくないっ! 俺はニアを人形扱いしたことなんか一度もないぞ!!」
「どの口がそれを言うか! それだけじゃない、保健室、放課後の教室、体育館倉庫!!
場所も時間も構わずいちゃつきおって、少しは自重せんかこの宇宙一のドエロ小僧!」
「腐るほど子供作ってるあんたが何言ってる! あんたこそ少しは自重しろ、意味もなく六人も秘書はべらしやがって! 人件費の無駄だ!」
「生徒が人件費のことなど気にせんでいい!」
「高い金払って学校通ってるのはこっちだろ! ……ちょっと待て、なんでアンタ保健室や教室のこと知ってるんだよ!」
シモンは知る由もないが、ラブホテルでの一件以降継続して二人の動向を監視し続けていたのは風紀委員ヴィラルである。
「保健室で……愛し合っていました」
「放課後の教室で……いちゃついていました」
「体育館倉庫で……営んでいました」
日に日にやつれて報告に来るヴィラルに校長もちらりと同情しないでもなかったが、愛する娘を性欲のままに蹂躙する男への怒りの前に、その感情は消し飛んだ。
ともあれ、今日この日を以ってヴィラルの辛い公務はめでたく終わりを迎えたのである。
ちなみにヴィラルはこの時それを知る由もなく、常連となった保健室で保健委員の少女の看護を受けている最中であった。
罵りあいながら、再度取っ組み合いの殴り合いを始めた二人を見つめてニアは思った。
(お父様とシモンって、ひょっとしたらすごーく似てるのかも?)
殴り合いは続いているものの、もはや子供のケンカレベルの舌戦のほうが中心だ。
(さっきから「お前にだけは言われたくない」って、お互いに言い合ってるもの)
夕日がその姿を消そうとする頃、とうとう決着はついた。
地面にその身を沈めたのはロージェノムだった。
「くくく……まさかこのワシを倒すとはな。いいだろう、娘の一人や二人くれてやる」
「校長……」
シモンの呟きににやりと笑みを見せると、意外にも彼はすぐに身を起こした。
そして、そのまま娘を任せるとばかりに背を向けて去り――そして言う。
「校長ではない」
振り向き様にポッと頬を赤らめて、彼は言った。
「お義父さんと呼べ」
「……へ?」
ぽかん、とあけた口から間の抜けた声が漏れた。
「ふふふ、まさかワシを倒すほどの男を末の娘が見出すとはな……お前のような義理の息子ができたとあれば心強い」
「えっと、あのー」
さすがに話が早すぎやしませんか俺たちまだ十代なんですけど、と伝えようとしたが、もはやロージェノムの耳には届かないようであった。
(ひょっとして今日って、俺の人生の分岐点だったりしたのか?)
ずんずんとその場を去っていく校長の背を見送りながら、シモンはぼんやりと未来予想図を思い描いた。
花びらが舞い散る中、美しく成長したニアが頬を染めて、自分の下へしずしずと歩いてくる。
それを迎えるのは、やはり凛々しく成長した自分。色男だ。星型のサングラスとか似合いそう。
友人たちが見守る中、生涯変わらぬ愛を誓うキスを優しく交わす。
「愛してるわ、シモン」
「俺もだ、愛してる」
ふふ、と嬉しそうにニアは微笑み、宇宙一幸せな花嫁となった彼女の笑顔がきらきらと輝きながら宙に消え――――……
…………ねえよ。なんで消えるんだよ。イリュージョンかよ。
(なんか変なビジョンが一瞬映ったけど、そういう未来もいいかもしれないなぁ)
傍らに優しく寄り添うニアを見つめ、ぽやんと頬を緩める。
そして口を引き締め、決意する。
(ニアとの未来のためにも、そして将来の亭主関白を目指すためにも)
まずは、ナース服の再活用の件からニアと話をしよう。
――――
ちなみに後日。
どこから噂が広まったのか、シモンが校長と一対一での殴りあいの末に勝利した事実は校内中に知れ渡っていた。
カミナの陰に隠れがちであまり目立たなかった彼が、周囲からちょっとした畏敬と尊崇の目で見られるようになったのは、この時からである。
終
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